適当バツ
「若菜先生は魔王討伐に旅立たないのですか?」
俺は素直に質問した。
若菜先生は4回目の転移だ。スキルは
【聖女】【想像魔法】【結界師】【音響士】
音響士のイメージがいまいちだけど聖女〜結界師までで十分チートキャラだと思うのだが…
なるほど…
若菜先生が言うには聖女は民を導く者だと言う。
魔王が復活した今。この国に聖女がいる事が民の不安を取り除く効果があるそうだ。
しかも既に王都全域に結界魔法を展開しているらしい。
唯一の欠点は先生が自らの結界の外に出てしまうと、
結界自体が消えてしまうそうだ。
想像魔法もあまり細かいものは難しいらしい。教室を再現できるだけで十分チートだと思うけど。
それから俺達は城内の訓練所に案内された。
くっ…女騎士と思ったのだが城の騎士達はある事の調査で総出で出払っているそうだ。
じゃあ城の守備は?と言ったら先生は自分を指差した。
さすがチート先生だ。頼もしい。
「か、軽いです〜」
木田さんは自分の身長を超える鉄製の盾を振り回している…これが【盾使い】の能力なのだろうか?
あんな重そうな盾を普通は振り回せないだろう。
「ん〜俺も自衛用に剣くらい欲しいな…」
剣を求めた結果………ショック以外は何もなかった。
おそらく騎士達の訓練用の剣だろう。刃が潰れていた。
(いやいや…振り回せないのは納得できるけど、剣が持ち上がらないのは納得出来ないぞ!)
地面に置かれた剣を俺は持ち上げられなかった。勿論、両手を使ったし足腰にも力は込めた。
でも、持ち上がらない!
「それ適正バツです〜」
木田さんが盾を振り回しながら俺に言ってきた。
「ハルト君は…その〜ローキックさんですから剣は装備できません!常識です〜」
木田さん…知らないからその常識。あと…ローキックにさん付けはやめて!悲しくなる。
「先生!本当に装備出来ないんですか?」
「うん。無理ね!適正無いもの。」
先生は剣、槍、短剣、杖の装備に適正が有るそうだ。
木田さんは杖と盾らしい。
そして俺は…靴(脛当て込み)らしい。
やっぱり納得できないな。メイン武器が靴だなんて。
そもそも、魔王討伐なんて俺には無理だし転移ド新人の俺からフォローが必要なクラスメイトなんていないだろう。何か…異世界でも引きこもりそうな感じがする。
その日の夜。
城を出て行ったクラスメイト達のうちの数人がお城に戻ってきた。
しかし、凄いな。城の中に俺達の宿泊施設が完備されているなんて、それほど期待値も高いと言うことなのだろうか?
……絶対チートだ!
あまりに当たり前のようにあるから一瞬気がつくのが遅れたが、異世界の城の中に24hコンビニはおかしいだろ!
犯人は勿論、若菜先生だ。
うわ~出かけていた騎士達がレジ前で行列だよ。たぶんイライラしている騎士もいるだろう。
兜を買い物カゴ代わりにしている騎士もいるし入口付近で塞ぐようにたむろする騎士達もいる。
たぶんヤンキー騎士と呼ばれいるかもしれない程の塞ぎ具合だ。
そう言えば金髪君達は戻ってないだろうか?
「あ!若菜先生」
コンビニからおでんをパックにつめて出てきた先生を見かけた俺は思わず声をかけた。
「ハルトか…悪いが私の生徒でも、このおでんはあげないよ!」
いやいらない。
(この世界におでんあるんだ…)
「ハンペンだけでも駄目だ!」
いやハンペンもいらない。
(この世界にハンペンあるんだ…)
俺は、若菜先生に金髪君達の事を訪ねてみた。
先生は俺を中庭のテラスに誘い夜空を見上げて語りだした。
「補習よ!」
はい?
「彼等はね、補習の時に転移されたのよ…」
要するに初めてのクラス転移は数ヶ月前の補習中に起こったそうだ。
先生はその時に担当していたから一緒に転移されたらしい。初めてだらけで補習組は苦戦に苦戦。でも勇者スキルを授かったカズマが先頭にたって何とか魔王を打ち倒したそうだ。
カズマ?
挨拶の時に最初に目に入った金髪君だろう。
転移直後にビンタもされていたから印象は強い。
それから1ヶ月くらいしてね。2度目の転移があったのあの時は授業中で皆一斉にね。
でも1回目と違ってカズマ君達「補習組」が皆を纏めてくれた…
だから犠牲は少なかったんだと思う。
そしてまた夏休み前に転移されて…
今回で4回目。まだ続くのかしらね?
先生は夜空を見上げながら手元にあるおでんの具を、おそらく魔力的なもので、浮かせながら自分の口に運んでいた。
「大根は、勿論あげません!」
いらないって!
ハルトは自分だけ皆より弱いと思っていた。しかし先生の話しを聞いて最初は皆、同じ何だと思った。
(明日から少し頑張ろうかな?引きこもるのはそれからでも遅くないだろ…)
「ハルトはさぁ…食べ終わったスジ肉の串を蓋にさすのありタイプかな?」
うるさいよおでんバカ!
つづく