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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ミステリ系

モニーク






 その朝、シモンズのおかみさんが隣家の庭に目を遣ったのは、別に意図的なことではなかった。たまたま、彼女は目覚めてすぐに、前日掃除した屋根裏部屋の窓を閉めそびれた気がして、こわくなってそこまで行ったのだ。

 窓は閉まっていたが、這入りこんだ誰かがそうしたのかもしれないという疑いは消えなかった。だからシモンズのおかみさんは、屋根裏部屋をひととおりたしかめ、その下の階に降りて、そこの部屋も一から十まで全部点検したという訳だ。

 彼女は誰かに家に侵入されるかもしれないという(見るからに田舎の一軒家、金目のものなどありそうもしない未耕作地に隣接した素朴な家にしては、少々自意識過剰的な、或いは偏執的な)恐怖にとりつかれているので、いちいち窓を確認し、誰かが這入った形跡はないかと目を皿のようにしてさがした。平和な田舎町ではそんなことは起こりそうにないが、けれど新聞でもTVでも、最近夫がつかうようになったインターネットでも、どこかの町で誰かが死んだと毎日のように騒いでいる。

 それに、夫によれば、こういう平和な田舎町が、実は悪魔崇拝者の巣窟だったというおそろしい事件があったらしい。具体的な場所も時代も夫は教えてくれなかったけれど、シモンズのおかみさんは夫のいうことを信じた。なにしろ彼女の夫はきちんと大学を出ていたし、一時期は政府の機関に勤めていたのだから、夫の言葉を疑う理由はない。彼女は夫を尊敬しているし、愛しているので、夫のいうことはまず信じたし、あとからでも信じた。

 悪魔崇拝者が暗躍しているという考えを頭のなかで自由にさせていた彼女は、客室の窓をたしかめようとカーテンを開いた時、それに気付いた。


 その部屋は、隣家の庭を見下ろすように見ることができた。隣家の庭に、その家の長女のモニークが居て、ブランコに危なっかしく座り、両手に顔を埋めている。どうやら泣いているらしい。

 傍に、次男と三男が居た。モニークの背中を撫でたり、なにかしきりにいっている。両手を顔から外したモニークが、なにか訴えたが、兄ふたりは頭を振った。モニークは両手を上下させて、尚も訴えた。

 シモンズのおかみさんは、その時、音は聴こえなかったけれど、彼女がなにをいったのかはわかった。わかったと、あとで夫に話した時にいった。

 「わたしはこの子をうみたくない」。

 それで、シモンズのおかみさんは、窓をたしかめるのをやめ、すぐに寝室へ戻っていった。あらいやだわ、といいながら。夫にはやく伝えなくちゃ、と思いながら。




 シモンズのおかみさんが全部悪いということはできない。彼女はこわがりで、一般的な程度には力強く話す人間に魅力を感じる性質(たち)で、パートタイムのベジタリアンで、すべて読んでいる訳ではないけれどきちんとベッドサイドテーブルに聖書を置いていないと寝られないくらいの信仰心があった。

 それに、ちょっとした偏見を持っていたのが、彼女の悪いところといえば悪いところだったのかもしれない。

 隣家の家族は、白人と黒人の夫婦と、その子ども五人、という構成だった。何代遡っても「純粋な」白人であるシモンズのおかみさんにとって、それは大変冒涜的なことのように思えた。

 それも致し方のないことだ。彼女の両親は、黒人と口をきくのさえいやがる差別主義者だった。シモンズのおかみさんは、さいわいそういう両親の態度は差別的で、あまり誉められたものではない、自由の国らしくないと思うくらいの頭はあったけれど、とはいえ育った環境というものはある。黒人でも白人でもそれ以外でも、人種の違うカップルというものに対する嫌悪感は、彼女の骨身にしみてしまっていた。


 隣家の家族は、それに、ずっとこの町に暮らしているという訳でもなかった。彼らは三年程前に越してきたのだ。末っ子の次女の病気療養の為だそうで、その次女は、シモンズのおかみさんは見たことがなかった。病院に居るからだ。

 敬虔なカトリックで、日曜にはかならず教会に来るけれど、その度に人種違いの夫婦と、その息子三人、娘ひとりを目にするのは、正直気持ちのいいことではない。この町には、白人だけの家族、黒人だけの家族は居ても、そのミックスされた家族は居なかった。

 彼女は「よそもの」に対する忌避感を持っていたし、それに関しては差別だとか不当な偏見だとかいうふうに思うことはなかった。その時の彼女に、よそものを排除しようとするのは人権侵害ではないかと訊いたら、こんな返答があっただろう。だって当然じゃない、わたし達が先にここに暮らしているのだから、あとから来た人間が大きな顔をするものじゃないわ。わたし達にだって人権があるのよ……と。


 シモンズのおかみさんは人種差別主義者とまではいえないが、人種違いのカップルに対する差別は(彼女にその自覚がまったくないとしても)たしかに持っていたし、それによって誕生した隣家の五人兄弟、まだ見ぬ末っ子を含んだ五人全員に嫌悪感を抱いていたのは、間違いない。

 なかでも、十九歳で、ウォルマートでレジをやっているモニークが、シモンズのおかみさんにとっては一番不快だった。一番目にするし、欠点らしい欠点のないモニークに、なんとなく鼻につくものを感じていた。モニークが自分の姪と親しくしているらしいのも不快だった。女の子達を集めてなにかしているのが、気色悪かったのだ。シモンズのおかみさんが邪推していただけで、モニークとその女友達数人は、単に彼女の家に集まって、お喋りや料理をしていたにすぎないのだけれど。

 そのモニークが、子どものことを口にした。彼女は結婚していないのに。






 シモンズのおかみさんは、夫に話しただけだ。もしかしたら、お隣のモニークが妊娠しているかもしれない。そんなようなことをいっていた。中絶したいというようなことを。彼女の兄ふたりでそれを説得していた。

 シモンズのおかみさんは、あまり口が軽いほうではないし、ひと付き合いもさほど得意ではない。だから、夫に話して、それで終わった。息子にはなにもいわなかった。母親からそういった話を聴くのを、息子がいやがるだろうと思ったからだ。

 夫は彼女と違って、どちらかというと口さがないタイプだった。シモンズのおかみさんが見かけた、「モニークが、子どもをうみたくないといったかもしれない」光景は、夫によって町に拡散された。「モニークが妊娠した」と。「相手が誰かは知らない」と、夫はそういったのだが、どこかでかわった。「相手のわからない子どもを妊娠したそうだ」というふうに。











 シモンズのおかみさんはちょっとしたこわがり、それからもしかしたら、きちんとした医療機関を受診すれば、少々偏執病の傾向にあると診断されたかもしれないくらいの、それでも良識のある人間ではあった。

 だが、町のなかには、ややこしいことをいいだす人間が居た。

 なかには、朗らかで明るいモニークを疎ましく思っていた人間も居るだろう。

 彼女に恋愛を邪魔されたと思い込んだ女性も居ただろうし、彼女に袖にされて恨みに思っていた男性も居ただろう。

 土地柄、人種のまざった人間に対して嫌悪感を覚えている人間も居たし、よそものをきらっている人間も居た。周囲にいわないだけで、強烈な白人至上主義者、黒人と結婚する白人を殺すことを本当らしく仲間と相談して酒をのむような人間も居ただろうし、反対に黒人至上主義、白人と結婚した黒人に鉄槌を下そうという人間も当然居たに違いない。

 極端な思想を持つことは、憲法で保障されている。極端な思想を持っている人間が常に、自分と違う思想の持ち主を攻撃する訳ではない。究極的にいえば、子どもが強姦されて殺されるような、ほぼ100%のひとが眉をひそめるような内容の想像を楽しんでいても、それを実行しなければ彼も彼女も罰せられることはないのである。そして、大概の人間には良識というものがあって、それが密やかな想像を実行させない。

 だが、誰もがその良識を持っている訳ではない。

 一番厄介なのは、良識はないが決して悪意もないという部分だ。






 数日して、シモンズのおかみさんはこわくなってきた。

 モニークのことは好きではないが、だからといって彼女に危害を加えるつもりはない。けれど、モニークはレジ係をくびになった。

 シモンズのおかみさんは、ひと付き合いは苦手だけれど、夫の友人だとか、息子の高校時代の同級生の母親だとかとは、なんとか付き合いをしていた。そのひと達から、モニークがいかに悪い娘であるかを聴かされ、そのうちのひとりが彼女の勤め先に抗議したといっていて、もしかしたら自分が目撃したことの為に、それを夫に喋ったが為にモニークが職を失ったのではと、こわくなったのだ。

 シモンズのおかみさんは夫にそのことをいった。夫は言葉を濁し、でも身に覚えがないのならモニークは抵抗した筈さ、素直に辞めたんならなにか身に覚えがあったんだろう、といった。シモンズのおかみさんは、それで一度は納得した。




 けれど、情況は悪化していくばかりに思えた。

 モニークは家に閉じこもっていて、日曜日に教会へ来ることもなくなった。彼女の兄達、それに両親は来ていたが、次第に間遠になった。シモンズのおかみさんは知らないことだが、モニークは兄の誰かと子どもをつくったと噂になっていて、一家はいたたまれなさを感じ、地域の付き合いから距離をとったのだ。

 噂のおおもとは、どこかのおかみさんだった。彼女はひとの立場に立ってものを考えることの苦手な人間で、黒人と白人のミックスであるモニークをどうこうしようと考える「まともな男」は居ないと思っていた。ついでに、どうも裕福らしいモニーク一家に対して、少々嫉妬もあった。彼女と同じようにミックスされている兄達なら、モニークになにかしようとしても不思議じゃない、ミックス同士だから。そんな程度のことを、なにかの会話の折に誰かに喋り、それがいつの間にか、モニークのおなかの子どもの父親は、三人の兄の誰からしい、という話になった。


 シモンズのおかみさんの耳にはいる頃には、モニークの一家は悪魔崇拝者で、モニークはもう何人もの子どもをうんでは殺していて、姿を見せない次女は悪魔崇拝者の教団に居るのだという話になっていた。




 シモンズのおかみさんは、本質的には善良な人間だった。

 日が経つにつれ、モニークのおなかが大きくなっていって、シモンズのおかみさんはたまらない不安に苛まれるようになった。モニークの家には、近所の子ども達がいたずらで石を投げ込んだり、どこかのばかが車やバイクで庭にのりこんだりしていた。モニークの一家は大人しい羊みたいな性格で、それを警察に訴えていないらしかった。

 シモンズのおかみさんはその時知らなかったが、モニークの一家はきちんと警察に訴えていたのだ。けれど、相手にしてもらえなかったので、段々と通報しなくなった。

 シモンズのおかみさんは、モニークを好きではない。けれど、妊婦の大変さはわかっているし、モニークがまだたった十九歳の子どもだということもわかっていた。彼女が子どもをうみたくないのにどうやら一家が中絶をさせなかったらしいと思うと、どうしようもなく心配になる。


 シモンズのおかみさんは、夫に相談した。けれど夫は、その時ばかりは頼りにならなかった。お隣だって、迷惑してるんならひっこすなりすればいいじゃないか。第一お隣のことなんだから、僕達が口を出す話でもないよ。そういう夫にも、多少は罪悪感があった。彼が友人に、モニークのことをもらしたのが、そもそものきっかけだからだ。

 シモンズのおかみさんは、それから絶え間なくびくつくようになった。モニークを襲いに来る人間が居るかもしれない。そうしたら、隣のこの家だってどうなるかわからない。











 シモンズのおかみさんは、毎日、窓からモニークを見ていた。

 モニークのおなかはどんどん大きくなった。彼女はブランコにのっているのが好きなのか、そこが兄や両親から逃れられるからなのか、よく庭に居たのだ。シモンズのおかみさんは、あの客室の窓から彼女を見ていた。モニークは泣いていたり、真剣な顔で本を読んでいたり、誰かと電話していたり、時には親しくしているらしい女友達がふたりくらい、彼女をなぐさめていたりした。そのなかには、シモンズのおかみさんの姪も居た。

 毎日見ていると、モニークは好きにはなれないけれど、とりたててきらいになるような要素がある訳でもない、と思うようになった。シモンズのおかみさんは、自分がモニークを苦手に思っているのは、八割九割は彼女が人種のミックスであることに理由があると気付いた。




 更に時間が経って、シモンズのおかみさんは、もっともっとこわくなった。

 彼女はひと付き合いを苦手としているが、町の空気、雰囲気は、ひしひしと肌で感じていた。モニークに危害を加えようとしている人間、モニークの家族を町から追い出そうと話している人間が居ることは、知っていた。

 モニークは今だって好きではない。けれど、妊婦に危害を加えようなんて、まともな人間なら冗談でも口にしない。

 彼女は噂話と、それを信じてろくでもないことを口にする人間と、自分が実際見たモニークとを、比べてみた。どう考えても、モニークがまともなように思えた。モニークと、その家族が。

 誰しもが、シモンズのおかみさん程度の冷静さでも持ち合わせていたら、その後に起こったような出来事は、なかったのだろう。





















 深夜、シモンズのおかみさんは、大声に目を覚ました。


 隣家から声がする。内容が聴きとれる程だった。モニークが危害を加えられようとしている。

 シモンズのおかみさんの判断は間違っていなかった。その時、隣家には、血の気の多い連中がおしかけていた。彼ら(九割九分が男性だった)は、モニークと、その家族を、排除しようとしていた。一家を悪魔崇拝者だと信じていたのだ。モニークが兄達の子どもを大勢うんでいると信じている人間も居た。噂話をする人間によって数は変動したが、一番多くてモニークはこれまでに30人の子どもをうんでいることになっていた。

 十九歳の彼女がそれだけの子どもをうむ為には、双子や三つ子や四つ子や五つ子が何組か必要になる訳だが、悪魔崇拝という言葉がすべてをねじまげ、納得させた。悪魔の力で一度に大勢の子どもをうめば、それくらいはすぐに可能になる。悪魔崇拝者なら、小さい頃でも妊娠できるかもしれない。ばからしい話だが、少なくない人数がそんなふうに思った。実際に。


 シモンズのおかみさんは、モニークの悲鳴を聴いたと思った。実際にはそれは、モニークの母親の悲鳴だったのだが、どちらの悲鳴であったとしてもその後起こったことにたいした違いはなかっただろうから、シモンズのおかみさんの小さな勘違いは、大局には影響しなかった。

 その夜、シモンズのおかみさんは、家にひとりだった。夫は以前勤めていた政府の機関の同僚達と会いに、別の郡へ行ってしまっていたし、息子は同じ町にだがひとり暮らししている。姪の一家は車で三十分のところに住んでいた。

 シモンズのおかみさんは、モニークを苦手にしていたが、それはその段階ではどうでもいいことになっていた。

 十九歳の、ちっぽけな娘が、妊娠した。

 それだけの話だと、シモンズのおかみさんは考えた。

 それが、悪魔崇拝の団体の思惑でも、なにか不道徳な行為の結果でも、宇宙人やら影の政府やら黒人至上主義者白人至上主義者謎の宗教団体やらの仕業でも、それはもうどうでもいい。


 問題なのは、たった十九歳で、妊娠で不安になっているだろう娘を、大の大人がよってたかっていじめていることだ。


 シモンズのおかみさんは、化粧着を羽織って、ベッドの傍に置いてあったものを掴み、きちんと施錠しておいたフランス窓を開けて、裸足で外へ出た。ちいさな、抵抗することも知らないような相手に、大人数でかかっていくなんて、人間のすることではない。どうにかして停めなくてはならない。

 空に信じられないくらい大きな月が出ていて、だから灯は必要なかった。






 モニークはその時のことを、今でもはっきりと覚えている。

 白人の男達がやってきて、彼女と彼女の一家に文句をつけはじめた。モニークはそろそろ臨月で、不安で眠れず、起きていたので、不幸にも彼女が一番最初に対応することになった。男達の大声に兄三人が飛び起きて、両親もやってきて、おそろしいいいあらそいがはじまった。

 もともと、モニークは気が優しく、弱々しい性格をしていた。だから、レジ係をくびにされそうになってもいいかえせなずに、そのまま仕事を辞めた。中絶は(しゅ)への反逆だと家族にいわれて、カトリック家庭で育った彼女はそれに逆らうことができなくなった。

 家のポーチで兄達が男に殴られはじめ、母が悲鳴をあげ、モニークは玄関ドアに背中をつけて震えていた。モニークの家には銃がない。男達は銃で武装していた。


 突然、男達のひとりが、倒れた。


 隣家との間にある茂みから、隣家の、シモンズのおかみさんが出てきた。だらりとしたワンピースに、継ぎを当てた化粧着を羽織って。背中に満月を背負って。

 シモンズのおかみさんは偏屈で、ひと付き合いをほとんどしないかわりものだ。だが、シモンズのおかみさんの姪と親しいモニークは、その姪から、いろいろと話を聴いていた。

 シモンズのおかみさんは、子どもの頃に強盗にはいられ、()()()()()()思いをしたので、それからなんにでも怯えるような性格になってしまった。今でも、家に誰かが這入ってこないかをこわがっていて、頻繁に窓やドアの錠を確認する。でも、根はいいひとで、特に女の子には優しい。親戚の女の子が困っていたら、どうにかして助けてくれるから、厄介にまきこまれたらみんな、シモンズのおかみさんに相談するの。自分がしでかしたことで困っていても、泣きつけばシモンズのおかみさんがかたをつけてくれるから、と。

 シモンズのおかみさんは、成程、かたをつけようとしたらしかった。彼女は両手でしっかりと猟銃をかまえ、モニークの家におしかけた連中を何人か撃った。モニークはそれで驚いて、気絶した。











 シモンズのおかみさんは、通報をうけてかけつけた警官に捕まった。捕まった時彼女は、モニークの母親と、騒ぎをききつけてやってきた姪と一緒に、気を失ったモニークを介抱していた。猟銃はモニークの父親に預けていた。

 モニークの家におしかけた連中も、もれなく逮捕された。おかみさんに撃たれて怪我をしていた数人は、モニークの妹が入院している病院へ担ぎ込まれ、死ぬことはなかった。モニークの妹は、難しい脳の病気で、そこに転院してやっと手術をうけられたのだ。まだ数度、手術をする予定で、ずっとそこに入院していた。

 連中は、幾つかの罪で、それぞれ服役するか、罰金を払うことになった。モニークの一家は、謝罪した人間はゆるした。正しきキリスト者らしく。

 モニークはショックで早産したが、さいわい母子ともに無事だった。赤ん坊はしかるべく団体に預けられ、養子に出された。今頃どこかの家庭で、大切に育てられているだろう。






 「本当に不思議な話だけれど」と、モニークの長兄はいう。

 彼は数十時間にも及ぶわたしの取材に、いやな顔ひとつせずに応じてくれた人間のひとりだ。シモンズのおかみさんや、その夫、息子と姪、モニーク、モニークの家族も、わたしのしつこい取材に、冷静に答えてくれた。モニークの家族は、ようやくとすべての手術が終わった末っ子のリハビリが大変な時期だというのに、実に根気強く相手をしてくれた。

「シモンズのおかみさんがまっさきに撃ったのは、先頭に立って俺達に文句をいってきた男でも、銃をかまえて威嚇していた男でもなかった。仲間にいわれて参加した、集団のまんなか辺りで黙っていた男だ。俺達が悪魔崇拝者だとは考えていたみたいだが、ただ立ってただけだよ。でもそいつが、モニークをレイプした男だったんだ。やっぱり天罰というのはあるんだなって俺は思ったよ」











 夫や息子や親戚の女性達や、モニークの一家が尽力したけれど、シモンズのおかみさんは結局、刑務所にはいった。よそから誰かが勝手に這入ってくるかもしれないという心配をしなくていいから気が楽なのと、彼女は朗らかに語った。






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[良い点] 人類あるある展開なあかん流れ…あかんあかん…こらあかん…思うてたら、そっちに行くーーー!?とぶったまげました。 一見、奇妙な行動に見えても、その人にとってはめちゃくちゃ整合性があったりする…
[良い点] また凄いものを書かれましたね……。息をつめて一気に読んでしまいました。 [一言] また同じことを書いてしまうけれども 「これ推理ジャンルじゃないんですか!?」と言いたいです。
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