第八十話 涙ですわ!
庭園に着いた私たちは、ナギアを横にしたまま、庭園の真ん中に置かれているベンチに移動させた。
「ナギア。まだ息してる?」
「もっと良い言い方くらいあるだろ。‥まぁかろうじてだが、まだ息はしている」
ナギアは苦しそうにしながらそう応える。
私はそれを見て慌てそうになったが、何とかそれをおさえる。
ひとまず今私がすべきことは、ナギアを助ける最善の手を考えることだと思い、頭を回した。
「にゃあ吉。前からよく自分の傷を治す時、魔法使ってたけど、それってナギアにかけられへん?」
結局にゃあ吉頼りにはなるが、今思い浮かんだ中で一番早く行動を起こせるのはこれだと思った。
にゃあ吉は何度も自身の傷を治している。
それなら今こうして、負傷しているナギアの傷も直せるのではないかと思ったのだ。
「‥すまないがそれは出来ない」
私はそれを聞いて残念そうな顔を浮かべたが、ナギアは至って冷静な態度を見せていた。
「実は先程からナギアには魔法を使っているのだ。けれどそれは傷を回復する魔法ではなく、あくまで止血程度の魔法、私は自己修復は出来ても、他者を回復する力は持っていない」
にゃあ吉はその様に説明をしてくれた。
「そっか‥ごめんにゃあ吉無理言って‥。えっと、じゃあ‥ナギア。このお城にお医者さんとかおらへん?いるんやったら私、呼びに行ってくるわ」
そう言った私に対して、ナギアは首を横にふった。
「‥残念ながら今、この城に医者はいないんだ。戦闘の前に、巻き込まれないよう、皆には自宅で待機するよう命じている」
「そうやったんや‥えーと、じゃあ‥ノットさんを呼びに!って言ってもアカンか」
何故ならノットさんも回復魔法を授かっていないからだ。
私とにゃあ吉にノットさんは回復魔法を授かっていない。
私たちの中で回復魔法を使えるのは、魔力の無くなってしまっているナギアのみだ。
けれど私はここで、ある事を思いついた。
「そうや!リング使えば良いやん!」
ここで私は、名案を思いついたと言わんばかりに、そう伝えたが、にゃあ吉は残念そうな顔を浮かべながら答えた。
「‥リアそれも無理なんだ」
私はそれがどうしてなのか尋ねる。
「魔力というのは本来、共有できるものではないのだ。私とリアは契約を結んでいるから特別に出来ているだけ、リングにリアの魔力を流しても、それをナギアは使うことができない」
私はそれを知って、露骨に元気を無くしてしまう。
けれどこれで諦める訳ではなく、私はそれを聞いてより考えを巡らせた。
街中まで行ってお医者さんを連れてくるのはどうだろうか。
けれどそんなことをしたところで、そもそもこんな怪我を治せるのだろうか。
なら回復系統の魔法を授かっている相手を探すのはどうだろうか。
そんな時間はないし、協力してくれるとも限らない。
(どうしよう。どうしよう。どうしよう)
いくら考えを巡らせても、ナギアを救える方法が思い浮かばない。
「つまりは詰みだ。モンスター」
ナギアは諦めたかの様に、軽くそう口にした。
「‥何でそんなことを簡単に‥まだ諦めたら‥」
私はそう言いながら涙を流した。
ナギアの言う通りだ思ったからだ。
助かる術はもう、何も無いと思ったからだ。
「実は最後の一撃をあいつに喰らわせてやった段階で、助からないことはわかっていた‥すまないな。それなのにこんなところまで運んでもらって」
そう言いながら王様は、体を起こして椅子に座る。
「最後を迎えるならここが良かったんだ。‥実は僕様もここはお気に入りの場所でな。モンスターがここを気にいったと言っていたのが、本当は嬉しかったりしたんだ」
いつも卑屈なことばかり口にするナギアが、今はそうではなく、素直に思いを告げている。
そのらしくなさはより一層、最後に迫っていることを伝えているようで、私は何とも言えない気持ちになる。
「まぁ僕様が話せるうちに、別れの挨拶でもしておこうか。意識が遠のいてきてしまったしな‥」
ナギアはそう言いながら私たちに顔を向ける。
「2人とも、一緒に組織と戦ってくれたこと、協力してくれたこと、国王として、ナギアと言う一個人の人間として、感謝する」
そう言いながらゆっくりと頭を下げる。
「ありがとう。キャット。そしてリア」
その時のナギアの笑顔は柄にもなく、とても美しかった。
ナギアはそう言った後、ゆっくりと目を瞑っていく。
「何死のうとしてんねん!!!」
私はそんなことを大声で叫びながら、ナギアの手をとった。
「何を?!」
ナギアは慌てた様子を見せる。
「そんな綺麗な終わり方、ナギアらしく無い」
「本当にお前は、最後まで失礼な‥」
「最後やない!!」
私はナギアの目を見て、そう叫ぶ。
そして握った手を再びギュッと握り直しながら、こう言った。
「ナギア!私と契約を結んで!」




