第六話 帰還ですわ!
近づいてくる足音は徐々に近くなっていき、にゃあ吉は警戒したのか身構える。
「リア様ー!」
「えっこの声?」
この声は間違いなくアリアだ。
まさかこんなに速く見つけてくれるなんて思っても見なかった。
「知り合いか?」
「うん。うちのメイドさん、アリアっていうねん」
「メイドって‥ほんとに貴族か何かなのか‥その性格で」
「どういう意味やねん」
崖の上からアリアの姿が見えた。
「リア様どこですかー!」
「アリアー!ここ、ここ!」
崖の上から所かしこに、私の名前を呼び続けるアリアに、私は返事をしながら、大きく手を振る。
「こんなにすぐに見つけてもらえるとはな、偶然この付近を探していたのか、もしくはずっと探し回っていたのか‥」
アリアは私に気付き、大きく手を振り返す。
「やっと見つけましたリア様!‥皆様方!お嬢様はこちらです!見つかりましたー!」
アリアが後ろを振り向きながら、そう呼びかけると、複数人がこちらに向かってくる音が聞こえ始めた。
すると使用人や執事がこちらに集まってきた。
崖の上から身を乗り出しながら、私に大声で声をかける。
「リア様無事ですか!」
「やっと見つけましたお嬢様!」
「心配しましたよお嬢様!」
みんな口々に大声で話すものだからあまり聞き取れない。
「私は大丈夫ー!やけど、ここ登られへんから助けて〜!」
私は大きな声で無事を報告し、ここから登る手助けを頼んだ。
すると「こういうこともあろうかと」と言いながら執事が、ロープを下ろしてくれた。
「こういうことって、あの方は何を想定していたんだ」
にゃあ吉は唖然だった。
「まぁお嬢様なら必要になるかもしれませんしね」
「リア‥君は一体どんな行いをしてきたんだ」
にゃあ吉は呆れていた。
「まぁ何はともあれ、よし!何とかなったなにゃあ吉!それじゃあ、行こっか。私の家へ」
「‥あー」
私はにゃあ吉を頭に乗せて、ロープを使い、崖の上まで登っていく。
少し苦労したが、ロープさえあれば案外登る事はできた。
それに対してにゃあ吉は「なぜ登れるんだ」と不思議そうな顔を浮かべていた。
登り切るなり直ぐにアリアが飛びついてきた。
「心配しましたお嬢様!森で逸れた時はどうしようかと」
「ごめんアリア心配かけて」
アリアは涙を流しながら、息苦しくなるほど私を抱きしめる
「ほんとですよお嬢様。森で迷子になられたと聞いた時は肝を冷やしました。もう今後この様なことはない様にお願いしますよ」
執事長はそう言いながら、肩をすくめていた。
執事長もアリアと同じく昔から私の面倒を見てくれていて、アリアと同様に実の家族の様に私は慕っている。
まる眼鏡をかけ、白い髭をのばし、髪はきちんと整えられている。
顔つきは、爽やか目なイケてるおじさん?って感じだろうか。
とにかく前世での私の執事のイメージとぴったりな容姿だ。
彼は自分の本名を教えてくれなかったため、私は勝手にメエさんと読んでいる。
ちなみに由来は羊の鳴き声だ。
しつじやからひつじで‥まぁいい。
「それからアリア様。先程からお伺いしようと思っていたのですがその‥」
アリアは泣き止んだ後、私の頭の上を見ながら言いにくそうに口を開く。
「その頭に乗っている動物は‥」
アリアはにゃあ吉を指差した。
「あー!紹介するな。この猫はにゃあ吉。私の友達!」
「友達ですか?」
「そうやねん。洞窟で出会ってんよ。なぁーにゃあ吉」
「にゃあー」
にゃあ吉は先程とは打って変わって本来の猫の様な仕草をしている。
「にゃあーってにゃあ吉。普通にしゃべればいいやんっていたい痛い」
にゃあ吉は私に軽く爪を押し当てる。
「ここにいる方たちには私が喋れる事は伏せといてくれないか。私は本来自分が喋れることは隠しながら生活していたんだ」
「そうやったんや‥わかったわ」
するとアリアが少し曇った表情で口を開く。
「リア様‥その動物はですね‥」
「まぁいいじゃないですかアリアさん。どうやら既に契約魔法を結んでいる様ですし、なによりお嬢様はその様な事はきっとお気になさりませんよ」
話始めようとしたアリアを遮り、メエさんがアリアを説得する。
「ん?何のこと?メエさん」
「んー‥そうですね。」
躊躇うメイさんに私は隠さないで話してほしいといった目を向ける。
すると、「わかりました」といって話してくれた。
「不要な心配と思いますが、一応知識としてお聞きください。本来黒猫とは不幸の象徴でございます。歴史にも多く不幸の象徴として描かれながら登場しており、黒猫を見ただけで逃げ出す方も少なくありません」
「へーそうやったんやな。にゃあ吉。よしよし」
「ですのでお嬢様。今後黒猫と契約を交わしたお嬢様をよく思わない方、もしくは差別する方がいらっしゃるかもしれません」
「ふーん。まぁ私がどう思われようとどうでもええよ。ただにゃあ吉が言われのないことを言われたら嫌やけどな」
「お嬢様ならそうおっしゃると思いました。不要なことを申し上げてしまい申し訳ございません」
「謝らんといてや私が言わせたみたいなもんやねんから、アリアも気遣ってくれてありがと」
私たちは家へ向かって歩き出す。
その道中にゃあ吉が少し落ち込みながら話しかけてくる。
「お前は知らなかったんだな。黒猫という存在を。いや、その扱いを」
「うん。知らんかっな。この世界ではそういうふうに言われてるんやな」
「よかったのか本当に。今なら別に‥契約を解除しても」
「いや!」
頭に乗せてたにゃあ吉を下ろして、抱きしめる。
「あんなにゃあ吉。別に契約を解除しても友達のままやけどな。これがきっかけでまだこうやってにゃあ吉と話せてるんやから、私たちにとってこの契約は友達の証みたいなもんやろ」
そう言って私は手に描かれた模様を見せそれをにゃあ吉の顔に押し当てる。
「それを簡単に消してもいいみたいなこと言わんといて、周りになんか言われるのが辛いなら私が威嚇してそいつら追い払うから」
「威嚇って‥お前は動物か‥全く」
にゃあ吉は静かに笑う。
そして何処か吹っ切れた様な顔を浮かべながら、話を続けた。
「じゃあリア。よければ君が側にいてもいいと言ってくれる限りは共にいさせてくれ」
「じゃあずっとやな。これからもよろしくにゃあ吉」
この日にゃあ吉はこの世界で初めてできた私の友達になった。