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第四話 友達ですわ!

「何で鳴き声と声違うん?」

 

「そんなこと、今はどうでもいいと思うがね」


 猫は何を言っているんだと言った顔を私に向ける。

 

「‥確かにそうやな!それで‥どうしてほしい?どうやったら君を助けれる?」


 私は必死に問いかける。何をすればいいのかわからなかった私だが、この子自身に今してほしい事を聞くことが出来れば、どうにかなるかもしれない。

 

 「だからもう良いと言っているのだ。人間」


 私の必死さに対して、猫は諦めともとれる冷めた態度で、私に言葉を返す。

 

 喋り初めての第一声が、助けてではなく「もう良い」と言った諦めの言葉。

 猫は既に自分の死を受け入れているかのようだった。

 

 それが私はどうしても納得出来なかった。

 

「何が良いん!君死ぬかも知らへんねんで!何も良いことなんかあらへんやろ!」

 

 声を荒げて怒る私に、猫は動揺していた。

 

「ふん。何をそこまで向きになる。今さっきあったばかりのお前に何の関係がある」

 

「関係あるから助けるとか、関係無いから助けないとかそういう話やないやろ!」

 

 私はそっと猫を抱えて走り出す。

 猫の生暖かい血液の温度が、私の服に染み込みながら伝わってくる。

 

「何をしている?!」

 

「君を私の屋敷まで連れて行く!そうしたら屋敷の人たちが何とかしてくれるはずやから」


 本人が助かろうとする意思がないのなら、こちら側が勝手に動くしかない。

 そう思った私は前の見えない洞窟の中を必死に走り続ける。

 

 猫の鳴き声を聞いてからここに来るまで、まだ時間が経っていないため、体力も無くなってきているのだが、火事場の馬鹿力のようなものだろうか。息もきれて、何度も壁にぶつかっているが、猫だけはぶつけないよう抱えながら走れる冷静さがあった。

 

 するとようやく先の方から光が見えてくる。出口だ。

 私はその光に向かって突き進む。一直線に出口へ走り続ける。けれど洞窟を出る目前で足がオボつき、ついに倒れ込んでしまう。


 幸い猫を庇う様な形で倒れ込んでいたため、猫に支障はなさそうだが、私の体力は限界に近かった。

 少し休めば楽になるかもしれないが、そんな事をしている余裕は残されていない。

 

「はぁはぁ猫大丈夫か。まだ息してるか」


 か細い声で息を切らしながら、私は猫に問いかける。

 

「あー私はまだ大丈夫だ‥それよりお前こそ大丈夫なのか?あんなに早く洞窟内で走ってたんだ。何度も壁に当たりもう体中ボロボロじゃないか。体力ももう限界なはずだろ」

 

「私は体力と頑丈さだけは自信あるから、任せとき。それより猫は自分の心配しとき」

 

 そう言いながら私はグッと足に力を入れ、ゆっくりと起き上がる。

 

 そこで私はようやっと思い出す。

 

 自分が迷い込んでこの洞窟に来ていたことを。


 私は動揺しながら猫にその事実を伝える。

 

「ごめん‥猫。帰り道が分からへん」

 

 私の顔はみるみる青ざめていった。

 最悪な未来を考えてしまったからだ。

 このままじゃ猫は助からないかもしれない。

 

 洞窟を抜けるとひとまず崖を登らないと行けないが、一人でも登れなかったんだ。猫を1匹抱えて登るのはなおさら無理な話だ。


 それに外は激しい豪雨が続いていた。

 仮に崖を上り切れたとしても、どちらに進めばいいかわからないどころか、前も後ろもわからなくなるだろう。


 今すぐに家に帰るという事は叶いそうにない。

 

「ごめん。ごめんな猫。ほんまごめん」

 

 私は何度も猫に謝り続ける。

 もう猫を助けてあげる事は叶わないと思ったからだ。

 

 自分にもう少し知識があれば、猫の手当てが出来たかも知れない。

 しっかりと道を把握していれば直ぐに家に帰れる方法はあったかも知れない。

 他にも猫を助ける手段はあったかも知れない。


 あらゆる可能性が私の頭の中を埋め尽くす。

 

 けれど私はその様なあったかも知れないことが浮かぶばかりで、肝心な解決策が何一つとして思いつかない。

 こう言った時ばかりは自分が嫌になる。

 なぜ私はこうなのかと。

 

 何度も謝罪をする私に猫は優しく話しかける。

 

「何度も言っているだろ。もう十分だ。今さっき会ったばかりの私に、ここまでしてくれる人間がいるとは思わなかった。最後にこうして‥誰かの胸の中で眠れるのなら何一つとして悔いはない」

 

 猫は私に笑みを向ける。

 その笑顔は決して私に気を遣ったものではなく、本当に自分はもう満足していると言っているかのようだった。

 

 私は猫をそっと抱きしめる。


 猫から溢れ出る血液が頬に触れ、流れ出る涙と混ざり合う。

 

「最後に名前を教えてくれないか、人間」

 

「‥私の名前はリア。リア・クリスタロス。君の名前は?」

 

「私の名前はそうだな‥ミッドナイトキャット‥と呼ばれていたな‥」

 

「‥何で顔赤いん?」


「恥ずかしい呼ばれ方をしていたなと思ってな‥何とも思春期くさい呼ばれ方だ」


「恥ずかしいかはわからんけど、うーんでも呼びにくくはあるな‥。友達は君のことなんて読んでたん?」

 

「友はいない。長いと思うなら好きに呼ぶがいい」

 

「じゃあにゃあ吉」

 

「にゃあ吉‥奇天烈な名前だな」

 

「かわええやろにゃあ吉。友達としてそう呼ばしてもらうわ」

 

「友としてか‥なら認めよう。そのような名で呼ぶことを許可しよう」

 

「うん!なら今日から君はにゃあ吉や!」

 

 そう言って私はにゃあ吉を先程よりかほんの少し、強く抱きしめた。


 にゃあ吉も弱った腕で私を抱きしめる。


 にゃあ吉が私を抱きしめる力がみるみる弱くなっていく。せっかく友達になれたのにこれでお別れかと、そう思った瞬間涙が溢れ出し、声が漏れた。


「まだお別れしたくないな‥」

 

 そう口にした途端、私たちの周りに魔法陣が形成され始める。

 

 洞窟の中から暗闇が消えるほどの光を放ち、金色に輝きながら、その光は何処か温もりを感じさせ、私たちを包みこんだ。

 

「何これ」

 

 私が動揺しているのと同様ににゃあ吉も動揺している様子だった。

 

 魔法陣から発する光はますますまばゆいものとなっていく中で、ふと右手に痛みを感じた。


 確認してみると手の甲に何かの模様が刻み込まれていく。


 何かの紋章だろうか。

 

 じわじわ模様が完成し始め、やがてそのマークが見覚えのあるものだと気づく。

 

「これって契約魔法の‥」


 やがてその模様はにゃあ吉の胸もとにも刻み込まれていく。

 

 模様が刻み込まれると同時に、にゃあ吉の顔や体、手や足にもあった複数の深い傷がみるみるうちに消えていく。

 

 そしてにゃあ吉にも私と同様の模様が首元に刻み込まれたのち、魔法陣から発する光は弱くなっていき、にゃあ吉の傷が完全に癒えてたと同時に魔法陣は消えていった。


 少しの間が空いたのち、最初に口を開いたのは私だった。


「やったー!」


 私はにゃあ吉を抱き抱えて飛び跳ねながら、はしゃぎまわる。


「何で契約魔法が発動したかわからへんけど、とりあえずにゃあ吉の傷が治った!やったー!」


 私はにゃあ吉に頬擦りする。

 

「リア‥君は契約魔法の使い手だったんだな」


 にゃあ吉は驚いた様子で、私に頬擦りされながらそう問いかける。

 

「うん。そうやねん。けどなんで今それが発動したんやろ」


 私は首を傾げる。

 

「なるほど意図してそうしたわけでは無いようだな。そうだろうと思っていたが」

 

 私はまだ理解しきれておらず、首を再び傾ける。

 

「今起きたことを説明するなら、まず傷が癒えたのはリアと私が契約したからだ。契約により、瀕死の私の元にリアの魔力が送られてきた。そして私の自己治癒能力が働き、傷が回復したんだ」

 

 自己治癒能力といえば私も知っている。

 

 それはゲームにも出てきたもので、けれどそれは強すぎるが故に主人公が取得する事は出来なかった魔法だ。

 

 (もしかしてにゃあ吉ってすごいんかな。猫やのに)


「でも、何で契約魔法が発動したん?」

 

「理由としては君が私に名前を授けたからだ。そして私はそれを了承し、リアの友となる事を望んだ。これらが契約魔法の作法と一緒なんだ。だから契約が成立した」

 

「そういうことやったんや。大体わかったわ。そうか、じゃあ勝手に契約結んじゃったんか‥ごめん‥」

 

 私は罪悪感から縮み込んでしまう。

 

「はは。君は本来そのように謝ってばかりの性格ではないだろう。別に気にする事はない。それにこうして傷も治ったんだ。むしろ感謝しなくてはならない。リアは私の命の恩人だ」

 

 そう言いながらにゃあ吉は八重歯をちらつかせながら笑顔を向ける。

 

 「それに簡単に名前を受け入れた私にも非はある。まぁ私は誰の下にも着く気はなかったのだが、仕方ない。君が上に立つのなら悪くない」

 

「ん?なんで今上とか下の話がでてくるん?」

 

 にゃあ吉は何を言っているんだ?と言わんばかりの表情を向けている。

 

「それはそうだろう。契約してしまった以上リアが主人で私が従僕だ」

 

「それは違う!」

 

「何が違うんだ?」


 私はじっとにゃあ吉を見つめる。

 

「私たちはともだち!やろ?契約してもその関係は変わらへん」

 

 少し間を空けたのち、にゃあ吉は高らかに笑う。

 

「そうだったな。そうだった。私たちは友達だからな」

 

「そうやで!」


 二人して声をあげて笑い合う。

 

 「はぁ本当にリアは面白いな。‥それでは改めて、よろしく頼む。我が友よ」

 

「うん!これからもよろしく!」

 

 私とにゃあ吉は握手を交わす。


 

 

 その後数分間握り続けていた。

 

「長くないか‥」

 

「肉球やわらかぁ」

 

「‥早く離せ」

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