第三十五話 幻覚ですわ!
先程のことを考えると、この数の攻撃を一斉に喰らわされてしまったら、唯ではすまないだろう。
それなのに対して、にゃあ吉は腕で頭を守るようにはしているものの、一向に避けようとはしていなかった。
時期に相手の拳はにゃあ吉に辿り着き、相手の攻撃が一斉に、にゃあ吉に降り注いだ。
鈍い音を鳴らし、少し離れた場所にいる私の髪が大きく靡くほどの風が起こった。
「にゃあ吉!!」
私はにゃあ吉の方へ駆け寄ろうと、飛び出した。
「大丈夫だリア。そこで待っていろ」
私が動いてすぐに、にゃあ吉がそう声をかけた。
私は立ち止まり、砂埃が舞うにゃあ吉のいた場所を見つめる。
するとにゃあ吉は先程の攻撃を喰らってにも関わらず、その場所に立っていたのだ。
「先程の攻撃と比べて威力が落ちているな」
にゃあ吉は冷静にそう口にすると、周りに数体いるちゃぷるのことを殴るや蹴るなどをし、弾き飛ばした。
その際ちゃぷるは血を吐くなどしており、ダメージを負っているのは一目見てわかった。
「先程よりも脆くなっている‥なるほどやはりそのようだな」
にゃあ吉は何かの確信を得たかのように、ニヤついて見せた。
「あぁ。もうバレちゃったみたいぃ。残念」
そう言って先程廊下に飛ばされたちゃぷるが立ち上がった。
「どういうことにゃあ吉?」
自体が飲み込めない私はにゃあ吉に問いかける。
「つまりは先程複数体現れたものは偽物で、その偽物はオリジナルと比べて攻撃と防御の力が弱いということだ」
「それがわかってつまりはなんになんの?」
「オリジナルを倒さない限りは戦い続けなければならないからな。偽物ばかりを狙ってもしょうがないだろ」
「そうしてもらうぅつもりだったんだけどねぇ。君の体力が無くなった時にぃ私が止めを誘うとぉ思ってたのにぃ。気づくの早いっつーのぉ」
そう言いながら不機嫌そうに、自信の頬を揉みながらこちらに近づいてくる。
「それで?気づかれたらもう偽物は作らないのか?」
「当たり前じゃんかぁ。偽物を作ったところでぇ、オリジナルのうちはぁもうさっき吹き飛ばされたんでぇこんなに汚れてるしぃ。バレバレじゃんかぁ」
そう言いながらちゃぷるは着実に、にゃあ吉の方へと近づいてくる。
「もうこうなったらぁ、直接殴り合うしかないじゃんかぁ」
不満そうにしながらにゃあ吉の前に立つ。
「あぁそうだな。女を殴るのは嫌いだからな、なるべく早く終わらせてやる」
「いろんなうちをぉ殴っといてぇ今更何をぉいってんのぉ!」
そう言ってちゃぷるから攻撃を仕掛けた。
振り翳した拳は、体に似つかない早さでにゃあ吉の頭へと辿り着こうとする。
にゃあ吉はそれを腕で防ぎ、相手の腹を狙い、風を切るかのような音を立てながら蹴りを入れた。
けれどそれは、ちゃぷるが手で掴み防いだ。
けれどにゃあ吉はもう一つの足を使い、相手の腕に蹴りを入れた。
ちゃぷるは顔を歪ませて、掴んでいた足を離した。
にゃあ吉は体制を立て直し、地面を踏み込んで大きく振りかぶり、ちゃぷるの腹に拳をぶつける。
「ッッウ!」
破裂音と同時にちゃぷるは鈍い声をあげて一歩後ろに下がる。
「おぉぇえぇいぃー」
ちゃぷるは真っ赤な液体を吐き出した。
「最悪だぁ。来る前に食べたぁミィートスパゲティがぁ全部でたぁ」
ちゃぷるは涙を浮かべながらそんなことを言っている。
血を吹き出したのではないかと思い動揺したが、そうじゃないようで、敵ではあるものの私は安心した。
「もう許さないからぁ。一応ぉ私も女の子なのにぃ。こんなことされてぇ‥許さない‥てぇあれぇ?」
涙を拭いながら立ち上がったちゃぷるだったが、目の前ににゃあ吉がいないことに動揺していた。
にゃあ吉は瞬時にちゃぷるの背後へと移っていたのだ。
そしてにゃあ吉は大きく振りかぶり、手刀で相手のうなじを叩いた。
ちゃぷるは意識を失い、勢いよく倒れようとするが、にゃあ吉が地面に着く前に支えてあげ、ゆっくりと地面に仰向け寝かしてあげた。
「にゃあ吉大丈夫やった?」
私はにゃあ吉に駆け寄りそのように声をかけた。
「大した攻撃は受けていないからな。安心しろリア」
そう言ってにゃあ吉は私の頭を撫でた。
(労いの言葉をかけたかったんわ。私やねんけどな)
そう思ったのち、私はちゃぷるに近づいた。
「結局この人の魔法はなんやったんやろ」
「おそらく相手に幻覚を見せる魔法だったのだろう」
「幻覚?でも実際ににゃあ吉を攻撃できてたやろ?」
ちゃぷるの偽物は、にゃあ吉どころか辺りのものまで破壊していた。
幻覚ならそのような事は出来ないはずだが。
「それは薬の効果だろうな。幻覚を実態に変えるほどの力がその薬にはあるのだろう」
そう思うと相手が所持している薬が、如何に危険か再認識させられる。
「‥なぁにゃあ吉。この人どうなるんやろ?あんなことしたけどさぁ悪い目にはあってほしくないな」
私はそんなことを口にした。
私はあんなことをした彼女のことを、根はいい人ではないかと、本来はあのようなことをする人物ではないと思っているのだ。
「私もリアと同じ気持ちだ。彼女は元々誰かに危害を加えてはいなかったようだしな。唆したやつをどうにかして、出来れば彼女の体質も直してあげれば、あんな事はしない礼儀正しい女の子になるだろう」
そう言ってにゃあ吉は彼女を見つめる。
まるで同情しているかのように。
「彼女が魔法に手を出したのも恐らく自信の体質が原因なのだろう。幻覚魔法の名はDREAM。自信の悩みを解消できるのではとでも思ったのだろう」
確かに彼女はよっぽど眠りを望んでいたのだろう。
今気絶しているのにも関わらず、とても幸せそうな顔をしているのだから。




