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第二百二十九話 問題ですわ!

時が止まってしまったのかと錯覚する程に、辺りは静まり返り、皆はただ立ち止まっていた。


 それ程の衝撃が、相手によって繰り出されたのだ。


 頬から僅かに痛みを感じる。


 紙で切ってしまった程度の、声を上げるほどでもない痛みをじわじわと感じながら、冷たい血液がゆっくりと頬をつたっていくのがわかった。


 私は急いで大きく一歩下がり、頬についた血を袖で拭う。


「何でそんなん持ってんねん‥ズルやろ!!」


 そう叫びながら、相手が右手に持っているものを勢いよく指差した。


「ズルだなんてとんでもない。戦いにおいて、武器を使用するのは当然のことです」


 相手は拳銃を所持していたのだ。

 そして私の頭を目掛けて、弾丸を放った。


 何とか咄嗟の判断で避ける事が出来た為、軽い傷を負う程度済んだものの、もしあのまま撃たれてしまっていれば、その時点で私の人生は終わりを迎えていただろう。

 

 サイカが学園襲撃の際にも所持していた事があるので、この世界にも拳銃が存在している事は知っていた。


 けれど、それから一度として見ることがなかったので、拳銃というものを相手が所持しているかもしれないと言った警戒心を、疎かにしていた。


「うーん‥いや!やっぱりズルいわ!この世界は魔法が主軸の世界やろ!真剣勝負やねんから魔法で戦ってや!」


「貴方は武器ですらない書物で私に攻撃を加えようとしたではありませんか。貴方が私に指摘する権利なんてありません」


「ぐぅ‥!」


 私は言い返したいが、言い返す言葉が見つからずに地団駄を踏んだ。


 私とラリヤは魔法を使用する事が出来ず、相手も戦闘系の魔法は、はなから使用する事ができない。


 本来この場にいる3人は似たような条件で戦うことになる筈なのだが、相手が拳銃を所持していることでパワーバランスが大きく崩れてしまっている。


 いくら二体一だからと言っても、このままでは私たちに勝ち目はないだろう。


 先程からラリヤも作戦を考えてくれているみたいだが、渋い顔を浮かべていることから、恐らくいい案は思いついていない事がわかる。


「はぁ‥もうわかったわ、拳銃のことはええわ。ただ、さっきの答え合わせだけしてや」


「答え合わせですか?」


「そうや、さっきも言ったやろ?「魔法が使えないのは貴方が原因やろ!」って‥。まぁでも多分、禁書の魔法なんやろうけど‥」


 自分で口にしていて何だが、いまだに理解が出来ない。

 相手の魔法を封じる魔法など、あまりにもチートすぎる。


 私は最初、この部屋の何処かに、何らかの仕掛けがあるのだと思っていた。


「まぁ‥隠しているつもりはありませんでしたが、その通りです。私の禁書魔法は他者の魔法を禁ずる魔法。あまりの強さに、ボスですら私を警戒しています」


 相手はその事を、鼻が高そうに自慢をした。

 その有頂天な態度に少し苛立ちを覚えたが、そんな事はどうでもいい、答えを聞けた事は大きな一歩だ。


 あまりに強い魔法だが、いくら強くても魔法は魔法なのだ。

 魔法という事は魔力を消費しているはず、それが切れさえすれば私とラリヤは魔法を使えるようになる筈だ。


(よし!ラリヤにこの事伝えにいこっと)


 再び大きな音が空間に響き渡る。

 私の足元には、小さな穴が空いており、じんわりと淡い煙が吹いている。


 どうやら足元を撃ち抜かれたみたいだ。


「作戦会議などをされると困りますので、お互い近づかないでいただけますか?」


 相手の魔力が切れれば私たちにも勝機は見えるだろう。けれどそれまで、私たちが生きていられるかが問題のようだ。

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