第百七十八話 可能性ですわ!
「自分の状況を理解したか?悪い事は言わない、諦めるんだ」
「‥さっきも言ったけどさ‥私にも事情があるんだ。諦めろと言われて、はいわかりましたとは言えないんだよ」
そう言いながら改めて拳を握る。
「そうか‥わかった。怪我をしても、文句はいうなよ」
「それはお互い様だね」
2人がいよいよ戦闘を始めようとする中、私はある事を考えていた。
「‥ノットさんが、こんな事しなくちゃいけなくなった理由はなんやろ‥」
ノットさんはこんな事をする人ではない。
自分で先程言っていた通り、何か事情があるのだろう。
けれどその事情とは一体何なのだろうか。
仲間を裏切らなければいけないほどの理由、私はノットさんの環境を思い出し、手がかりを掴もうとする。
「ノットさんは図書館の先生で、物凄い魔法の才能があって、いつも笑顔で、そして‥組織を憎んでた‥」
それは王都でのこと、組織とやり合う事になった私とにゃあ吉の前に、ノットさんが現れたのだ。
そしてノットさんは率先して、自身も組織とやり合う事を伝えてきた。
理由は何だったのか、私はそれを思い出した。
その途端、点と点が全て繋がっていくのを感じた。
「そっか‥エマさんや!」
私はそう叫びながら、外へと向かう準備を始める。
きっとノットさんが組織側についたのは、エマさんを人質にされているからだ。
元々王都での戦闘の際、カースを追い詰めていたのはノットさんだ。
自分の組織の頭を追い詰めた人物など、警戒するに決まっている。
それに対抗する為に組織は、ノットさんが愛してやまない妹さん『エマさん』が暮らしているこの街に来たのだろう。
「でも組織の好きにはさせへんで!私がエマさんを解放すれば、またノットさんは皆んなと一緒に戦ってくれる筈や!!」
けれどここでまた一つの疑問が浮かび上がる。
エマさんは一体今、どこに居るのだろうかと。
いつも通りなら、図書館にいるはずだ。
けれどノットさんがあそこまで追い詰められているという事は、既にエマさんは組織のアジト内に捉えられているかも知れない。
「いや‥それはない筈や」
組織はここ数日の間、この街に身を潜めていたのだ。
街を支配するではなく、わざわざ人気の少ない場所をアジトにする様な選択をしたのだ。
そんな人たちが、人攫いなどという目立つ行いは、していない筈だ。
もしそれをしていたとすれば、既にその事は街に知れ渡り、私の耳にも届いている筈だが、そんな話は聞いていない。
「という事は、考えられる可能性は‥」
恐らく組織の人間が、エマさんの周りについており、いつでも手を下せるようにしている事から、ノットさんは従うしかなくなったのだろう。
「それを何とかすればいいんや!幸いにも私には最終兵器があるし、何とかなるはず!」
私はそう言いながらそれを手に持ち、そして鏡を手にして部屋を駆け出した。
「待っててや皆んな!エマさんは私が何とかするでぇ!!」
自分にもできる事が見つかり、私は物凄いやる気でそう叫んだ。




