第十六話 逃走失敗ですわ!
「またあんたらか」
椅子に座る私を見下すようにしながら、絡んできた彼女らに、そう返した。
何故ここにいるのがわかったのかを考えた。
彼女とは確か同じクラスではなかった筈だけど、後ろにいる取り巻きの一人には見覚えがあった。
一緒のクラスだった筈だ。
おそらく彼女がこの、私より悪役令嬢な人に、私が庭に行ったことを報告したのだろう。
けれど一体何の用事があるというのだろうか。
(さっきのことで、文句でも言いにきたんかな)
「あら、相変わらず下品な喋り方。品性のカケラもございませんね」
周りにいる取り巻きたちが、高らかに笑う。
「で、何のようなん?わざわざそんなこと言いにここまできたん?暇なん?」
「こらリアあまり刺激するな。向こうは5人もいるんだぞ」
にゃあ吉は相手に聞こえぬように、小声で注意してくる。
それに対して私は「だってー」と子供のような返事をする。
「全く‥ほんとに失礼な方ですね‥」
彼女は拳を強く握り、笑顔を保つのもやっとなほど、怒りを露わにしている。
「皆様!あれを」
彼女はグッと怒りを飲み込んで、平然とした態度を取り戻し、周りにいる取り巻きたちを集めて、何かを持って来させる。
取り巻きの一人が彼女に差し出したのは、一枚の金貨だった。
「あなたでもこれくらいは見たことがあるでしょう?」
そう言って金貨を掴み、私に見せびらかすようにして、こちらに向けてくる。
知っているも何も私は貴族、しかも公爵だ。
自分で言うのも恥ずかしいが、かなりのお金持ちなのだが。
(あれ?もしかして私が貴族ってこと知られてない?)
「リア‥言動や素振りのせいで貴族だと気付かれていないようだぞ‥」
私は露骨に落ち込んだ。
確かにこの学園へは、あらゆる国、地方から皆が通っている。
町であったことのように、私が貴族だと知らない人がいても何らおかしな事ではないのだ。
(けどまさか、こんなにも今日は綺麗にお化粧してもらって、身だしなみも整えて来たのに、態度と言動で貴族に見られへんなんて‥ここまでしてくれたアリアに申し訳がたたへん)
「差し上げますわ」
落ち込んでいる私に彼女はそう言った。
慰めてくれているのかと思ったが、そんな訳がない。
彼女は、金貨を掴んだ腕を後ろに振り上げて、勢いよく振り翳し、こちらにそれを投げつけてきたのだ。
驚いたのはその行動にではなく、その威力だ。
私の真横を掠った金貨の速度は、私では到底目で追えない程の速さで、髪が靡いた。
私が呆気に取られていると、彼女たちは馬鹿にするように甲高い声を上げて笑い出す。
「エリ様の魔法技術は、実技入試でトップ10に入ったほどの実力なのよ!」
「エリ様の身体強化は聖騎士を超えるほどのものとまで言われているのよ!」
「そんなお方に、喧嘩を売るなんて随分と頭が弱いお方」
口々に皆は彼女の凄さと私の愚かさを馬鹿にしていた。
「これってやばい?にゃあ吉」
「そうだな‥私がリアの魔力を使えば何とかなるが、入学して早々私の存在がバレるのは少し困るな」
「ならそうやな‥‥逃げるか!」
私は立ち上がり、彼女たちがいる逆方向に向かって全速力で走り出す。
頭にいるにゃあ吉を抑えながら、スカートを靡かせてひたすらに走る。
取り巻きたちは私が走り出したことに驚いていたが、我に戻るとすぐに私を追いかけてきた。
「待ちなさい!」
「エリ様に無礼な態度を取っておいて逃げれるとでも思っているの!」
皆が口々に罵倒を飛ばしているが、ただそれだけだ気にはしない。
その声はどんどん遠くに離れていく。
「これなら逃げれそうやな!」
「全く入学そうそう何をしてるんだ‥」
順調に逃げていた私だったが、突如足元に痛みを覚えた。
その瞬間勢いよく倒れ込む。
「いた‥にゃあ吉大丈夫?」
「あー私は大丈夫だが、リア何が‥‥ッ!」
私は痛みを感じた場所を見てみると、ふくらはぎに大きな傷ができており、酷く出血していた。
「リアッ!早く止血を!」
「捕まえた!」
そう言って、取り巻きが私の服を乱暴に引っ張ってくる。
「シャャャー!」
彼女達ににゃあ吉が威嚇して見せると、取り巻き達は怯んだ様子を見せたが、彼女が辿り着くと怯えた顔は一瞬にして、安心したような顔に変わる。
「エリ様!捕まえました!」
「よく捕まえてくれたわ。ありがとう」
私を捕まえた事に対して、皆に笑顔で感謝を向けながら、私の髪を掴み引っ張り上げてくる。
「痛いって!」
頭に、足に、こけて擦りむいたところに、何だかもう全身が痛い。
「逃げるあなたが悪いのよ。何安心して、後で傷は治してあげる。こんなの見つかったら即退学ですもの」
すると彼女は再び私の髪を引っ張り上げて、私の顔を自身の顔へと近づけた。
「その代わり謝罪なさい。頭を地面に擦り付けて、これまでの非礼を詫びるの」
にゃあ吉は悩んだ様子を見せていた。
私と目を合わせるたびに、人間の姿へと変身してもいいかをうったいかけていた。
私は首を横に張っていたが、彼女が次動いたら、いよいよ変身しかねないと言ったそぶりを見せていた。
「何してるんですか!」
すると声をあげて、先程いた庭の方から誰かがこちらに向かってきた。
私含め、その場にいる全員がその声の主の方に振り向く。
「あらもう一人の新入生代表さんじゃない」
彼女は相手を確認するなり、そう言った。
そこに立っていたのは、主人公ラスト・ライトだったのだ。




