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第百話 寝たふりですわ!

「それじゃあまずは、この2つの液体を混ぜていきましょ」

「うん‥それはいいんやけどな‥何でこんなくっついてるん?」


 私は片手に一つずつ液体の入った試験管を持っているのだが、ネストさんは私の後ろに立ち、抱きしめるかの様に密着しながら、私の手を掴んでいる。


「試験管はこの2本しかないんですし、こうするしかないじゃないですか。我慢して下さい」

「じゃあネストさんが実験していいで、私はそれ見とくだけでいいから」


 そう言って、私はネストさんから離れようとしたが、ネストさんは私の手を握る力を強くて、逃がそうとはしない。


「ダメですよクリスタロスさん。サボる様な真似したら」

「いやあの‥譲ろうと思って‥」


 私の後ろに立つネストさんの圧が急に強くなった気がした。


「それじゃあ今度こそ始めましょうか」


 そう言って、ネストさんが私の手を握ったまま実験は始まった。


 液体を混ぜる為に、片方の試験管に入った液体ををもう片方の試験管に移し替える。


 その際もネストさんは、私の手を掴んだままだ。


 まるで一心同体かの様に作業を進める。


(どんな状況やねん)


「ネストさん。一応言っとくけど、私はこんな密着されても別にドキドキとかせえへんで」

「そうなんですか?大抵の方ならこれでイチコロなのですが」


 やはりそう言った作戦だったのかと、私はため息を吐いた。


 確かにネストさんほど綺麗な人に、こんなに密着されれば男女問わず、ドキドキする人は多いだろう。


(でも私は大丈夫や!にゃあ吉のお姫様抱っこを何度も体験してるからな。密着にはなれてる!)


 けれどネストさんの髪の匂いや、耳元での息遣いには少しばかり動揺してしまっている自分がいる。


「あれ?やっぱり動揺してます?」

「‥してへんわ」


 何故こんな少しの動揺にも気がついたのかと思ったが、きっとネストさんは相手の考えをある程度察せる力を持っているのだろう。


 それを使って、相手の好みに合った行動をし、あらゆる人を自身の虜にしている。


(ネストさんの前では無心が一番良さそうやな)


 考えてることがバレて、それを利用されることだけは避けたい。




 その後、混ぜ終わった液体に水を1滴入れ、無事に結晶体は出来上がり実験は成功した。


(簡単な実験のはずやのに、なんかめっちゃ疲れたわ)

 

「はぁー残念です。あまり手応えを感じませんでした」


 ネストさんはとても落ち込んだ様子を見せる。


 これに懲りて、もう何も仕掛けてこなくなればいいのだが。



 


 授業も終わり、帰宅時間となった。


「それじゃあ帰ろかにゃあ吉」


 そう言って私は頭ににゃあ吉を乗せて、早速校門へと向かう。

 

 門に着くと、私はその付近で邪魔にならない様にしながら立ち止まる。

 ララと一緒に帰る約束をしているので、分かりやすいこの場所で待つことにしたのだ。


「クリスタロスさーん!」


 すると私を呼ぶ声が聞こえてきた。

 ララが来たのかとも思ったが、ララは私のことをリアと呼んでいる。だからこの声の主はララではない。

 となると私を呼ぶ人物なんて限られてくるわけで、大体の察しがついた。


「一緒に帰りませんか?クリスタロスさん」


 やはりそこに現れたのはネストさんだった。


「せっかくやけど、もう既に別の人と約束しちゃってるから、またの機会に‥」

「ならその方も一緒でいいので、一緒に帰りましょ」


 (どないしよ‥)


 ララなら快くネストさんの事も受け入れてくれるとは思うのだが。


 もしかしたら、クラスの人たちの様に、ララまでネストさんの魅力に取り憑かれてしまうかもしれない。


(そうなったら、ララまでしもべまっしぐらや!)


 そう思った私は、やはりまたの別の日にと言おうとした。

 けれどそれより先に、私を呼ぶ声が聞こえてきたのだ。


「リア様ー!」


 今度こそ、そこに現れたのはララだった。

 ララはネストさんを見て、一体どなただろうと不思議そうにしながら、軽く礼をする。


「リア様?」


 ララのリア様呼びに、何やらネストさんが反応を示す。

 

「クリスタロスさん。この方が約束していたと言う方ですか?」

 

「うんそうやで。ララっていうねん」

「ララというお名前なのですか?」

 

「いえ、『ラスト・ライト』といいます。始めまして」


 ララはそう言って、改めて礼をした。


「ラスト・ライト‥だからララなのですね。あだ名ですか‥」


 次はあだ名呼びに、反応を示した。

 そして、ネストさんはいつもの笑顔に戻って、ララに挨拶をする。


「始めましてライトさん。本日転校してきました『ラリヤ・ネスト』といいます。クリスタロスさんの友達同志仲良くしましょ」


「もうリア様とお友達なんですね!はい。こちらこそよろしくお願いします」


 いつのまにかネストさんとは友達になっていたみたいだ。


(まぁ友達って言ってもらえるんわ嬉しいけど‥あっでも私をしもべにする為に近づいてるんか‥複雑や)


「それでですねラストさん。少しお話ししてもよろしいですか?」


 そう言って、ネストさんはララを連れて少し離れたところに向かった。


 バレない様に小声で話しているみたいだが、ギリギリこちらにも会話が聞こえている。


「どうやってクリスタロスさんと仲良くなったんですか?」

「どうやってと言われましても‥」


 ララは少し困った顔を見せる。

 

「単刀直入にいいます。ネストはリア様と友達になりたいんです。いや、友達なんかじゃ収まらない、もっと親密な関係に、ネストしか考えられない様にしたいんです」


(なんかとんでもないこと言ってる‥逃げよかな)


 自分に振り向かなかった人が今まで本当にいなかったのだろう。

 ネストさんは少しやけになり始めているみたいだ。


「‥そう言う事なら協力したくありません」


 やはり今の発言でララはネストさんを警戒したみたいだ。

 ララはネストさんから離れて、こちらに近づいてくる。


「待って下さいラストさん!ネストは今日転校してきたばかりで、リア様と関係を深めなければ一人ぼっちになってしまいます。ですから協力して下さい!お願いします!」


 ネストさんは涙を流しながらそう言った。

 膝をついて、下から見上げる様にララと目を合わせる。

 その上目遣いはあまりにも可愛いもので、この距離からでもキュンとしてしまう。


(まずい!ララがおとされる!)


 そう思ったが、ララは「ごめんなさい」と言ってこちらにやってきた。


「どうして協力してくれないんですか?」


 涙を浮かべながら、そう言うネストさんにララは答える。


「理由はですね。リア様は皆んなのものだからです!それはつまり私のものでもあるということ!独り占めはさせません!」


 ララは大きな声でそう言った。


「えっ?ちょっとララ?」


 何やら嫌な流れの予感がする。


「ふーん。協力してくれないんですね。もういいよ」


 一瞬にして涙を止めて、ネストさんは立ち上がりこちらにやってくる。


 そしてネストさんとララは睨み合いを始めた。


(まずい事になってきた。助けてにゃあ吉!)


 にゃあ吉は寝たふりをしていた。

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