第十話 ピンチですわ!
「お前公爵令嬢のリア・クリスタロスだろ?」
「何で私のこと知ってんねん‥ですわ」
「そりゃお前公爵っていったら超お偉い様だろ?有名に決まってんだろ」
「まさか自分からこんな路地裏に来てくれるなんて、思ってもいなかったですね」
「全くだ。俺たちに捕まりたいんじゃないかとすら思ってしまう」
男たちはどうやら私の身分を知っていて、このような犯行を実行しているみたいだ。
私を攫って身代金でも取る気だろうか。
この時代にそんなことができるのかわからないが、とにかくこの状況を打破しないとまずいことは確かだ。
私は男達に囲まれてしまっており、逃げ場を失っている。
今だに腕は掴まれており、振り払おうとしてもそう易々と離してはくれない。
「痛いねん!話してや!」
私は大きな声をあげる。
「おい。大きな声を出すんじゃねぇよ。お前らも早くこいつ縛り上げろ」
大男は私を囲む3人に指示を出した。
すると囲んだ男の1人がバッグからロープを取り出して、私の元へ近づいてくる。
(拘束されたらいよいよまずいな‥どないしよ)
次の一手を考えていた矢先にゃあ吉が動いた。
「私が動いた瞬間前の男を避けて走れ。直ぐに追いつく」
にゃあ吉は私に小声でそう伝えて直ぐに、大男の腕に飛びついた。
鋭く尖った歯で、私の腕を握っている男の腕を噛みちぎるほどの力で強く噛みつく。
男は声を上げて悶えながら、私から手を離し、噛みついたにゃあ吉を振り払う。
腕からは、チューブから水が出る様な血の噴き出し方をしており、男は倒れ込む。
私を囲む3人の男たちも同様している。
絶好のチャンスだ。
「行くぞリア!」
振り払われたにゃあ吉は上手く地面に着地しており、私に合図をおくる。
私は颯爽と走りだす。
にゃあ吉は私と並走するからちで進んで行く。
「何をしてる!俺のことよりあの女を早く捕えろ!」
男たち3人もこちらに向かって走ってくる。
もう直ぐで裏路地を抜ける。
鼓動が高鳴り、息が切れる。
後少しで、後少しで、路地を抜けた先の光を目指して走りつづける。
けれど後一歩のところで取り巻きの男たちに取り押さえられてしまう。
私は地面に顔と両腕を抑えつけられてしまい完全に身動きが取れなくなってしまった。
ジタバタと抵抗をするが何の意味もありはしない。
にゃあ吉は必死に男達に対して威嚇する様に鳴いている。
「お前らよくやった」
後ろから大男が腕を押さえながらゆっくりとこちらに向かってくる。
「全く、やってくれやがったなクソ猫が。これじゃあ直ぐに足が着いちまうかもしれねぇじゃねぇか」
にゃあ吉は男に向かって威嚇する。
「気色の悪い見た目の上に腹の立つ奴だな‥」
男は眉間に皺を寄せながら、にゃあ吉を蹴り上げた。
それは壁まで吹っ飛んでしまうほどの威力で、にゃあ吉は蹲ってしまい、か細い声をあげる。
「にゃあ吉!」
私はにゃあ吉のところに向かおうとするが、いまだに男たちの手から免れることができない。
「にゃ、にゃあ」
にゃあ吉はこちらを心配そうに見てくる。
私の心配をしている場合じゃないほど弱っているのにだ。
「おい早くここを離れるぞ。その女袋に詰め込め」
私は縄で腕と足を縛られる。
口を布で塞がれそうになった時に、最後の抵抗をして、にゃあ吉に声をかける。
「にゃあ吉!アリアを探して!そしたら手当てしてもらえるはずやから!にゃあ吉だけでも逃げて!」
「大声を出すなと言っているだろうが!」
私は叫んだ後直ぐに口を塞がれて、大きな袋に入れられてしまう。
視界すら無くなってしまい、もうどうすることもできない。
布越しで呼吸をするのは大変困難で、その上こんな袋の中に入れられているのだから呼吸がままならない。
この後どうなってしまうのかという不安で鼓動は破裂しそうなほど高鳴っており、ずっと冷や汗が止まらない。
(もしかしたら殺されるんじゃないか)
よくない想像ばかりが膨らんでしまう。
せっかく転生したのに、親友との再会も果たせず、10歳という若さでこの世を去ってしまう。
何より友達になったばかりのにゃあ吉ともお別れになってしまう。
(そんなの嫌や!)
私は袋の中で必死に暴れようとするが、押さえ込まれてしまう。
「じゃあ行くぞお前ら暴れない様に押さえながら運べよ」
私は担がれて、とうとう男たちは動き始める。
(誰か‥助けて)
声を出さない私は心の中でそう願った。
するとその瞬間だった。
「全くにゃあ吉だけでも逃げてとか、、そう言ったセリフは帰って逃げにくくなる言葉だということを知らないのかリア」
外からにゃあ吉の声が聞こえる。
「あ?誰だ?どこから声が聞こえる」
男たちは声の主がにゃあ吉だと言うことに気付けていない。
まさか猫が喋るとは思っていないのだろう。
「リアもう少しの辛抱だ。少し疲れるかもしれないが我慢してくれ」
にゃあ吉がそう言うと袋の中にいるにも関わらず外で何かが起きているのがわかった。
禍々しい何かが蠢いている。
「なんだ?いったい?」
「猫ですよ猫!猫が光って‥いや光を吸い込んでいる?」
途端に男たちの声が聞こえなくなった。
けれどもそれと引き換えに聞こえてくるのは複数人の鼓動の高鳴り、そして汗の滴る音。
「おっお前ら逃げるぞ!」
「この女はどうするんですかっ!?」
「そんなのは、そんなのはどうでもいい早く逃げるんだ!」
私は落とされてしまい地面に転がる。
男たちは何に怯えていたのだろう。
逃げていく足音だけが聞こえてくる。
けれどそれも直ぐになくなってしまう。
私は事態が飲み込めずにいた。
(何が起きてるんや)
男たちから解放されたとは言え不安のままだ。
あの人たちは何に怯えてたのか。
にゃあ吉はどうなったのか。
そんな不安に駆られていると袋の中に光が入る。
その瞬間腕や足を縛っていたロープが解けて、口を塞いでいた布も同時に取れる。
私は腕を引っ張られて、誰かに抱き抱えられる。
これは私がにゃあ吉を抱く時にするやり方。
「お姫様だっこ?」
「いつもと逆だな。リア」
私を抱き抱えているのは、しなやかに乱れた真っ黒なショートヘアーにスーツ姿をした美少年だった。
そして私はこの人の目を知っている。
まるで夜空の様な綺麗な瞳。
「にゃあ吉?」
「あーそうだとも。今は猫ではないがね」




