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アラフォー女子、異世界転移で賢者になる。

「在りか ~私の居場所と異世界について~」の外伝です。

「え?賢者?」


 目の前に浮かぶ半透明の画面には大きく賢者の文字。

 種族はエルフ。


「エルフ」


 ついに人間を止めたか私。

 年齢=彼氏いない歴で既にアラフォーではあったが、真っ当に生きてきたつもりだったのに何の因果か見知らぬ土地でエルフに。あ、耳尖ってるわ。


「……これ、エロフってやつでは?」


 耳から手を下にやって気付く。そこそこに豊満なボディーは貫頭衣の様な布切れ一枚かぶっただけのあられもない姿である。丈も短いし、襟ぐりが開き過ぎではないだろうか。


「取り敢えず奴隷の首輪はない、か……」


 小説の様に死んだ記憶もなければ神に会った覚えもない。


『いつまで私を無視するのよ。会ったでしょ私と』


 頭の中に声が響くけど、幻聴かな。頭がおかしくなったのは確かだろうけど。


『現実逃避はそれくらいにして、いい加減私の言う事を聞かないと今度こそ本当に死ぬわよ?』

「…………何」


 ふふん、と神が笑った気がした。

 理不尽にも順風満帆だった私の人生を終わらせ、此方の世界へ呼んだ神の名は「青」。


「私に何をさせたいの?」


 アラフォーともなれば、縦社会の厳しさはそこそこ理解しているつもりである。長いものに適度に巻かれないと潰される。ましてや相手は神、などとのたまう頭のおかしなものなのだ。


『全部聞こえてるの分かって言ってるのよね?』

「何も言ってないわ」

『屁理屈を……まぁ良いわ。白が寝ている間がチャンスなのよ。ここを面白くかき回せるのは』


---精々私を楽しませて---


 結局何をするのか告げぬまま神の声は薄れて消えて行った。


「さて、どうしようかな」


 新たな世界をそこそこすんなり受け入れられたのは、きっと私がオタクでライトノベルを読み込んでいたおかげに違いない。

 まずはここが剣と魔法の世界で、中世ヨーロッパかどうか確かめてから身の振り方を考えよう。


「後はエルフの立ち位置ね。取り敢えず人里を探すか」


 流石に森の中にこの格好で身一つ、では生きていけまい。

 心配なのは40歳前後のエルフに需要があるかという点だ。やらしい意味ではなく、長寿種の40歳は子供というのが定番だ。働けるのだろうか。

 選ばなければあるのだろうが、銀行員としてクーラーのきいた清潔なオフィスで働いてそれなりのお給料をもらっていた自分に、中世ヨーロッパの衛生環境でどぶさらいなんて絶対に遠慮したい。臭いがきつい汚い職場とか絶対無理。

 見習いという役職くらいは甘んじて受けるけれども、奴隷とかもちょっと。だからそれなりの仕事にありつけないと死ぬ。

 よし、頑張れ私。

 意気込んで歩き始めたが、少し歩いただけで森は途切れ道に突き当たった。


「なんだ。意外と簡単に見つかるんじゃん」


 私の決意を返せ。そんな思い決意もしてないけど。

 道は舗装されておらず、轍の後がある。中性ヨーロッパ色濃厚である。

 遠くに巨大な門が見える。城塞都市だろうか、高い塀に囲まれていて門の前には人の姿も見える。やばい。


「この格好で入れるの?」


 どうにかしてあの検問を突破しなければ。衛兵につかまって売り払われでもしたら一大事では済まない。


「あ、そっか。私賢者なんだった」


 40歳まで処女でいたおかげだろうか。賢者と言えば魔法使い系上級職のことだろう。


「何だって出来る筈」


 ほら思い通り。なんとなく暖かい何かに包まれたとおもったら、何処から現れたのか分からないがあっという間に町娘風に。髪もゆるく結われた。等価交換じゃなくて良かった。後はいざとなったら色仕掛けを……。


「出来る訳ないか」


 やったことがないから賢者になれたのだ。多分。

 私は深呼吸をして気持ちを整え、門に向かって歩き出した。いい働き口が見つかるよう願いながら。

 そしてそこそこ人の列に近づいた時、私は気が付いた。


「まずいなぁ。人間以外いない気がする」


 そっと耳に手を当てる。人に見えなくなるように祈りながら。残念ながら自分で効果のほどを確かめる術はないが、何となく隠蔽には成功しているという感覚がある。


「次!」


 門の傍の甲冑の兵士の声が響く。列に並んで順番を待つ。前に並んだ人が準備して持っていた身分証を覗き見て、私もこっそり似たものを作ってみた。


「次!君は……一人?身分証はあるかな」


 さっきまでとは違う、子供に対する優しい声に安堵する。


「ありがとう。行って良いよ」


 私もお礼を言って門を通る。緊張したが問題は全くなかった。この世界は子供の一人旅も許容範囲なのだろう。


「治安がいいって事?」


 私の独り言を拾う者はいない。門の中は活気のある都市だった。人で溢れている。見たところ人間以外の種族はいない。私の隠蔽も成功しているのだろう。

 身分証を見る。


 氏名:アカリ・アリサカ

 年齢:13歳

 所属:デルファーニア国ネネキディッハカーフ


「さて、宿に泊めてもらえるのか」


 人間に直すと13歳。エルフの寿命は300年弱と言ったところだろうか、などと当たりを付け、私は町へ入った。

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