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第二十五話 運命回避



 まさかこんな展開になるとはね。


「面白いじゃないか。この生意気なやつを、みんなの前で打ちのめしてさらし者にしてやれ」


 という狭間の言葉に、一条は首を横に振った。


「そんなのは俺のやりたいことじゃない。観客は制限して、闘技場でやろう。それぞれが立会人を指定するんだ。こっちは、この三人を指定するよ」


 風間、狭間、ロン毛ね。


「闘技場かよ。甘すぎるぜ」


 そう言ったのはロン毛である。

 まさか命をかけて決闘しろとでもいうのか。

 自分でやるわけでもないくせに、よくそんな無責任なことが言える。


「じゃあ俺は伊藤と佐藤と、他にはいないな」


「佐藤殿は休みでござる」


 まあ一人いれば十分だろうと思っていたら、いつの間にか近くで話しを聞いていた花ケ崎が言った。


「私が行くわ」


 話が決まったところで、それまで静かだった奴が話に入り込んできた。


「ねえ、ちょっとそれはやり過ぎじゃないの。そんなことをして何になるのよ」


 話の急展開についていけないのか、神宮寺はオロオロするばかりだ。

 しかし、まさかこれで勝ってしまったら主人公が学園を去るなんてことにはならないよな。

 そうなるとストーリーがどう進むのか想像もできなくなる。

 ゲームでは負けても多少ヒロインの好感度が下がるだけだったはずだ。


 俺たちは授業も放りだして、訓練場に併設された闘技場までやってきた。

 幸い誰もいなかったので、誰かに邪魔をされることもない。

 闘技場内では気絶中に攻撃を受けてもHPが1以下にはならずに場外に弾き飛ばされるので、ここは決闘によく使われる。

 一対一であれば気絶状態になった時点で場外に飛ばされるはずだ。


「ふむ、おかしなことに拙者は高杉殿が負けるビジョンが見えませんぞ」


「闘技場ならもしものことはないわ。それでもやり過ぎてしまっては駄目よ。もし、あなたになにかあったら、私が保健室まで運ぶから安心なさい」


 二人の言葉ももう耳には入らない。

 さすがに正宗を見せるのはやり過ぎだから、虎徹を使おうか。

 だけど往々にして、こういう時の悪役ってアイテムも使わないのに、主人公の側だけは自由自在に使ってくるんだよな。

 そんな条件で戦わされたらどうしようかと不安になる。


「対等な条件で設定してくれよ」


「わかってるさ」


 風間は闘技場のパネルをいじりながら言った。

 闘技場に入ると、設定を終えた風間からいつでも始められるとの声がかかった。

 とりあえず接戦に見えるように強靭も瞬身も使わずに、ツバメ返しも封印しようか。

 武器は虎徹しかないが、まあそのくらいは仕方がない。

 そんなことを考えていたら、闘技場のブザーが鳴った。


「やっぱり、やめないか。君の初期ステータスを見たことがあるけど、俺と君とでは最初からスタートラインが違いすぎる。人間には埋めがたい、才能の差というものがあるんだよ。隠してたけど、俺にはオリジナルの魔法まであるんだ。その差は、どんなにレベルをあげたって埋められるようなものじゃない」


 初期ステータスやユニーク魔法を才能と呼んでいいのなら、別に俺が攻略本を才能と呼んでも非難はされまい。

 ならばどんな才能だろうと勝手に使えばいい。


「そういうのは勝ってからにしないと、馬鹿に見えるぞ」


 やはり手加減はやめよう。

 一条には自分の立ち位置を理解してもらう必要がある。

 頑張っているように見えても、もっとリスクを取らなければゲームをクリアするだけの力は得られない。


「強情だな。才能も実力のうちなんだ。やるからには全力でいかせてもらうよ」


 その言葉と同時に、一条の体が白く輝き始める。

 あれは一条が最初から持っている身体強化魔法で、強靭と瞬身を合わせたような効果を持ち、それに加えて防御力と魔法耐性も上がる。

 その効果はどれも中途半端で、初見プレイ時に適当な覇紋を選んでもクリアできるように与えられた救済措置のようなものでしかない。


 一条がまずフレアバーストの魔法を放ってくるが、HPが70減っただけだった。

 それで表情も変えずにいたら、一条が俺に向かって駆けてくる。

 俺の目の前で上に飛びあがるが、その動きをとらえていた俺はツバメ返しを発動する。

 攻撃が当たる瞬間に、いきなり一条の姿が見えなくなり、俺はとっさに周囲を確認した。


 しかし一条の姿はどこにも見当たらずに、試合終了を告げるブザーが鳴っただけだった。

 はあ、まさか主人公パワーでも発揮して、なにか奥の手でも使われたのかと思ったら、ただHPが無くなっただけか。

 手加減とは何だったのかというくらいの結果に終わってしまった。

 やはりトニー師匠の掲げる目標は高すぎるのだ。


 俺はなにも言わずに闘技場から降りると、内臓がこぼれそうなほどに腹が開いて気を失っている一条にヒールだけかけてから教室に戻った。

 勝った俺に掛けてやれる言葉はない。

 風間たちも呆然とするだけで何も言わなかった。


 授業の途中で教室に入り、勉強するふりをしながら、これからのシナリオを予習する。

 もはやかなりの改変が入ってしまったような予感がするが、観察してみないとわからない。

 授業が終わる前には、一条も教室に戻ってきたのでとりあえずの心配はなさそうだ。

 はた目に見ても落ち込んでいるのがわかる。


 しかし、それは学年最下位に負けたからというのが理由の大半な時点で、同情する気にもなれない。




「いったいどんな手を使ったの。最下位のあんたが一条に勝てるわけないでしょ」


 大股開きで、腰に手を当てて、目を吊り上げている神宮寺が言った。

 放課後になって、着替えようと更衣室に向かっていたら、神宮寺と花ケ崎の待ち伏せに出くわしたのだ。


「もと最下位だ」


 その位置はモヒカン君に譲ってから久しい。


「貴志は弱くないって、ずっと言ってたのだけれどね。綾乃がどうしても信じてくれないのよ」


 花ケ崎はお手上げという仕草で立場を示した。

 どうやら暴走しそうな神宮寺を止めるためについてきたらしい。


「玲華ちゃんは、こいつに弱味でも握られてるわけ。ずるい手を使ったに決まってるわ」


「たとえどんな手を使ったとしても、勝ちは勝ちだぞ」


 どうしてそんな力があるのだと問い詰められる方が俺としては辛い。

 神宮寺が俺の力を認めたくないというならば、そっちの方がありがたいのだ。

 だからそんな言葉で俺は話を濁した。


「やっぱりね!」


 俺の言葉に、神宮寺は顔に喜色を浮かべながら叫んだ。

 しかし、花ケ崎が冷静な意見を述べる。


「ちゃんと普通に戦ってたわよ。特殊なクラスに就いてたとしても、それを明かさないのは私たちも同じでしょう。同じ条件で戦って勝ったのよ。貴志を責めるのはおかしいわ」


「玲華ちゃんまで、コイツの方が強いっていうの!?」


「ええ。だから何度も、そう言っているわ。結果を見れば明らかよ」


「そんなことわからないよ。偶然に奇跡が起きることだってあるかもしれないじゃん」


「そんな次元ではなかったわね。綾乃は最初の二回のダンジョンダイブしか知らないのでしょうけど、貴志はあのあとも同じ速さで成長していたのよ」


「最強になる男だと言ったろ」


 適当に誤魔化すようなことを言う。

 こんなことになってもまだ、俺はシナリオを変えたくないという保身が捨てられなかった。


「冗談だと思ってた。でも、本当になるかもしれないわね」


「み、認められないわ」


「納得いかないなら、闘技場で戦ってみるか」


「ふざけないで。どうしてそうなるのよ。そんなの絶対に許さないわ」


 なぜ花ケ崎の方が怒るのかわからない。

 神宮寺の様子もおかしい。


「なな、なに言ってんのよ」


 神宮寺は動揺して飛び上がるほど驚いている。

 その反応がちょっと気になって、俺は神宮寺のページを開いた。



神宮寺じんぐうじ 綾乃あやの

 そこそこ人気なヒロインのうちの一人。

 槍しか使わないため、デバフに特化させるのがおすすめ。

 最初に負けた男の嫁になるという家訓と、自分より強い男の命令は絶対であるという家訓を持つチョロイン。

 性格は好戦的なように見えて、勝負事には臆病。



 どうりで俺に負けたなんて認めないわけだ。

 でも、これなら戦わなければいいだけだから問題は起こりえない。

 そんなことが理由でムキになっているというなら放っておけばいい。

 これ以上シナリオに影響のある行動をとってしまえば、攻略本の優位を活かせなくなってしまう。


「あなたは、なにかというとその本を開くわね。いったいなんの意味があるというのかしら」


「やっぱり戦うのはやめよう。お前らの相手をしてるほど暇じゃないから俺はもう行くぞ」




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― 新着の感想 ―
[一言] ゲーム主人公ならともかく、24時間ある主人公が神宮寺の設定読んでないのはちょっと無理がある。
[良い点] こんな世界なんだし如何にも怪しい本を目立つ様に人前で使う行為は避けるべきなのではないだろうか、モブくんよ 慎重なようでスルー力のなさと迂闊なのは物語を回すための仕様なのかな ゲームならわ…
[一言] 一条が挑発してきたから手加減やめるって言ってるじゃん ちゃんと読みなさい
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