夏のノスタルジー
―― チリン チリ~ン ――
風の来訪を告げる音色と共に蘇る
確かにあった 遠い記憶
季節は夏 教室の外には、濃い緑の木々
うっすら下着が透ける半袖の制服
それを見越してのタンクトップ
カワイイものにする? シンプルなもの?
思春期の苦悩 果てしなき
膝下丈 少なめのプリーツ
生地が薄めの軽い夏服のスカート
パンツルックの男子には分かるまい
時々、舞い込む風の 心地良さ
教室にエアコン……は、無かった。確実に。
温暖化、そんな言葉も無かった。そんな時代の
何故か心に残る 一学期の期末テスト
その一幕
と言いつつ……その時の教科は、忘却の彼方
国語、数学、理科、社会、英語……どれやったかな?
美術、体育、音楽、家庭科、技術……ではなかった。と思う。
今、思うと、色々 教わっていた
当時は気付かなかった 貴重な経験
難しいことがいっぱい ちんぷんかんぷん
こんなことが わかるって 凄いなぁ〜
思うように動かない体 諸々 音痴なんどす
こんなことが できるって 凄いわぁ〜
強引に 興味の無いものまで 色々 教わり体験し
自分にはデキないと
知る機会を設けてくれた 楽しくも厳しい学校
おかげで、世の中 尊敬する人だらけになってしまいました
前の席から回ってくる数枚の紙
ただの紙 されど紙
紙幣とは 別の価値を持つ 恐ろしい紙
取り急ぎ 1枚取って 後ろへと回す
「始め!」 小気味いい スタートの合図
カリカリ カリカリ シャーペンを走らせる
でも、競うのは速さではない 記憶と正確さなり
でも、急いで走らせる
テスト前 さっき覚えたての ほやほやの答えを書きたくて
……忘れる前に 急げーーー!
これは、わかる! これは、こうやった!……と思う
一夜漬けの浅い知識 悪あがきしながら
恣意的に空けられた、意地悪な穴を埋めていく
これ、あのページに載ってた!
そこまでは、覚えてんのに、
肝心な答えが思い出せへん!
私が問題を作るとしたら……と
頭ではなく さして深くない人生経験により 導き出す答え
だが、その方法は、恩師の求めるモノではない
今日、この日までに
一所懸命 教えたんやから そこから導き出さんかい!
って、思ったはった。と、思う。
そうして 水面下で繰り広げられる 孤独な戦い
いつもの教室のハズなのに
緊張感が 異空間へと変貌させる
あっちで、カリカリ こっちで、カリカリ
クラスメートが戦っている音が 静かな空間に鳴り響く
そんな中、手が止まってしまった私の耳に届いた
異質な音
―― チリン チリ〜ン ――
エアコンは無いが 風鈴はあった 教室
誘われるかのように フッ……と、顔を上げると
頭を下げて 一所懸命 手を動かす
そんなクラスメートたちの髪を撫でた 心地良い風が
サァーっと、優しく私の頬を撫でたかと思うと
身体から暑さを 精神から熱さを
しれっと奪って あっと言う間に去って行った
あの時の 風を独り占めしたような その瞬間の
何とも言えない 高揚感
耳をくすぐる澄んだ音色と共に 抱かれるように
全身で感じた 清涼感
今も鮮明に思い出す あの 一瞬のノスタルジー
毎年 夏になると 風が奏でる 涼やかな音色
毎年 蘇る ちょっと色褪せてきた気がする 私の夏の記憶