はじまりの勇者、勇者のはじまり
―――転生の間に勇者がやってきた。
名前は前田コウタ、年齢は17歳。
ごく普通の高校生だったが高校への通学中、居眠り運転で暴走したトラックにひかれて死亡。
死後まもなくして転生の間に来る。
地球のゲームをよくやっていたクレアは地球人のコウタに運命的なものを感じたが、おそらく神界の役所がクレアの情報を知っていて配慮してくれたのだろうと思った。
「ここは・・・」
コウタが口を開く。
クレアは神としての威厳を保てるよう胸を張り、口を開いた。
「はじめまして、勇者コウタ。ここは転生の間じぇすっ。」
「・・・」
女神クレアは思いっきり噛んだ。
もともと彼女は人見知りで、なおかつ長い間引きこもっていたのだ。
クレアは少しパニックになる。
「あのっ、残念なんですけどあなたはトラックにひかれて死んでしまいまして、そのままの体で異世界で勇者になって、強くなって、魔王を倒してほしいんです。あと申し遅れました私は女神クレアです!」
「―――わかりました女神クレア様。僕は異世界に行って、魔王を倒せばいいんですね?」
慌てているクレアを馬鹿にせず、冷静に聞いてくれるコウタにクレアは感動した。
そしてクレアのコウタに対する緊張が解かれた。
「ごめんね、あわててしまって。そうそう、そうなの。―――あの、あんまり驚いたりしないんだね。いきなり『死んだ』とか『異世界』とか言われたらふつう驚くと思うけど?」
「トラックにひかれてこの薄暗い空間に来た時、死んだんだなって思いましたから。それに異世界転生なんてけっこうあるあるですし」
「えぇっ、異世界転生ってあるあるだと思われてるの?」
異世界転生があることは、魔王などの圧倒的脅威がある世界の一部の人間しか知らないはずだった。
「たくさんラノベが出ていますし。でも僕は勇者に転生なんですか」
クレアには『ラノベ』が何を指しているかわからなかったが、地球の異世界設定のゲームをしたことがあったのでそれに近い物だろうと思った。
「? 勇者にしか転生できないよ。というか転生した人をその世界の勇者と呼ぶんだけど」
「―――そうなんですね。僕の世界では最近、勇者への転生物は少なくて、村人とか魔物とか別のやつに転生する系が多いんですけど」
クレアにはコウタが何を言っているのかちょっとわからなかった。
村人に転生したところで魔王は倒せないだろう。ましてや魔物だなんて人間の敵ではないか。
「なるほど。時間がたって間違った解釈がされちゃったんだね」
と、クレアは少し間違った結論を出した。
「でもコウタには魔王に勝つための特典を与えたうえで、しっかり強い勇者になってもらうから安心してね」
「おぉー、やっぱりそういうのがあるんですね。特典って何がもらえるんですか」
クレアが言った特典にコウタが飛びついた。
「それは実際に異世界に行かないとわからないかな。でも特別な力なはずだよ」
「なるほど。王道の異世界転生ってことですね。ワクワクしてきました」
「フフフ、よかった。じゃあさっそく行ってもらうよ。準備はいいかな?」
「はい。いつでも大丈夫です!」
コウタの言葉を聞いて、クレアは魔方陣をコウタの足元に出現させる。
異世界への勇者の送り方は神なら全員が知っていることだ。
魔方陣が強く輝き次の瞬間、コウタは異世界の草原にいた。
異世界転生が行われたのである。
ここから勇者コウタと女神クレアの物語が始まっていくのだ。
―――そして2か月後、勇者コウタは村に現れたオーガによって殺されることになる。