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プロローグ 『楽は永遠じゃない』

「そこ!そこ!そしてこう・・・。よっしゃあ~!ついにこの時が・・・!」


女神クレアは長い時間をかけてようやく魔王を倒した。リアルではなくゲームの世界で。


「もう少し静かにしてちょうだい!」


1階からクレアの母が注意した。

クレアはゲームのラスボス戦である魔王戦でずっと大声を上げながらプレイしていた。

知らない人からすれば、かなり心配になるほどの声だ。

しかしこれがこの家の日常である。


クレアに母親の注意は届いていない。

彼女の頭の中にあるのは今クリアしたゲームのことだけだ。


「このゲームも神ゲーだったなぁ。次は何のゲームをしようかな」


クレアは神界の学校を卒業した後、部屋に引きこもってかれこれ300年ほどだ。

別に就職に失敗したわけでも、人生が嫌になったわけでもない。

とある世界のとある惑星の"ゲーム"というものにはまってしまったのだ。


300年は神からしたら長くはないが短い年数というわけでもない。

クレアの親は初めはもちろん反対していたものの、今となってはクレアが働きだすことを、あきらめ始めている。


しばらくゲームの余韻に浸った後、クレアはようやく自分がお腹を空かしていることに気づいた。


「母さん!今日のご飯まだ?」

「はいはいもうできましたよ。」


クレアとクレアの両親は食卓についいた。

今日のご飯は母の手作りカレーだ。


「そうだ、クレア。お前宛に郵便が届いていたぞ。」


そう言ってクレアの父は一通の郵便をクレアに渡した。


「私宛に郵便なんてなんだろう?また同窓会かな?」


ずっとニートをしているクレア宛てに郵便が届くのは、学校の同窓会のお知らせ以来、200年ぶりだ。


「いや役所からのようだぞ。内容は俺もわからん」


神界の役所は神々を取りまとめている。

名声のない神々は役所の言うことに従わなければならない。

クレアは少し不安に思いながら、郵便の封を切った。


中にはこう書かれていた。


「女神クレア、あなたは神としてP-2562第5世界の惑星アロンマティスを魔王から救う任務を命ぜられました。

 なおこの任務を受けなかった場合、あなたは神界から追放されます」


このあと食べたクレアの大好物である母のカレーは、全く味がしなかった。




郵便を受け取った次の日、クレアは役所へ向かった。




「あの・・・、昨日P-2562で仕事をするように言われたクレアですけど・・・」




クレアは役所の受け付けの女の人に話しかけた。




「クレアさんですね。お待ちしておりました。時間がないので早速向かいましょう」




受付のお姉さんはそう言うと、指指をパチンと慣らした。


次の瞬間2人は見知らぬ部屋にいた。


受付の人が”能力”を使ったのだ。


その部屋にはデカいモニターとベッドや冷蔵庫などの家具が置かれていた。




「ここは・・・?」




「これからクレアさんに過ごしてもらう部屋です。冷蔵庫の中には常に十分な量の水と食料が入れられています。どうぞお好きなようにお使いください」




「あのモニターは・・・?」




「そちらのモニターから、クレアさんが管理される惑星の状況を見ることができます」




そう言うと、受付のお姉さんはリモコンを手に取り、モニターをつけた。




「これがクレアさんが勇者を転生させてサポートし、勇者に倒してもらう魔王です」




モニターにはいかにも強くて凶悪そうな魔王が祭壇に置かれている剣に手を伸ばしていた。




「どうやら今、魔王はこの大陸一の魔剣を手にしてしまったようですね」




受付のお姉さんはさらっととんでもない発言をした。




「それってかなりまずいんじゃ・・・」




「めちゃくちゃまずいですね」




「・・・」




部屋に気まずい空気が流れる。


クレアは泣きそうになる。




「ど、どうするんですか~。魔王めちゃくちゃ強そうですし、その上めっちゃ強い武器も手に入れちゃったんでしょ?こんなの私の力じゃどうしようもないですって」




「私のそう思います」




受付のお姉さんはきっぱりそう言った。




「本来ならそもそも魔王が生まれる前に勇者を転生させるはずでした。しかし神界は長い間圧倒的な人手不足にありまして、この世界は見過ごされていたのです。今回クレアさんに仕事をしてもらうのもこの人手不足によるものです。」




クレアは自分にこの仕事が来た理由を知った。




「あの、もし失敗したら・・・」




「もしこの世界の人類が滅亡するようなことがあれば、クレアさんは神界から追放されます。」




「そんなあ・・・」




「そもそも300年引きこもっている時点で、神界から追放されてもおかしくないんですよ?」




そう言われるとクレアに帰す言葉はなかった。




「ではさっそく勇者を転生させましょう」




「・・・はい」




クレアは小さな声で返事をした。


受付のお姉さんはクレアの返事を聞くと、リモコンを使ってモニターを切り替えた。


そこには薄暗く何もない空間が広がっていた。




「向こうにも同じようにモニターが設置されています。ここに転生する勇者がやってきます。勇者にしっかり事情を説明して、神の特典をあたえて異世界へ転生させてください」




「モニター越しに会話するんですか?」




「はい。今は不要の接触は避ける時代ですので」




「そうなんですね」




「冗談です。さあもうすぐ勇者が来ますよ」




クレアは何が冗談なのかわからなかったが、とりあえず愛想笑いをした。


そして受付のお姉さんはクレアにいくつか注意点を言った後、マニュアルを渡して帰ってしまった。

クレアはベッドに寝ころび、マニュアルを読みながら勇者が来るのを待った。


しばらくして鐘の音が鳴る。

勇者がやってきたのだ――――。











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