#43 影を撃て
右半身を前にして歩く玖劾。あまり脚を動かしていないようで、滑っているように見える。彼の後ろを一定の距離を保って他の分隊員たちが続いた。彼らはそのまま通路を進むのではなく、左右の実験機器の陰に素早く身を隠しつつ、玖劾から決して目を離さず進んでいる。
『あの歩き方……例のヤツを始める気だな?』
右側を進んでいたモラン――その直ぐ後ろには自動制御状態のレイラー機が続いている――彼の呟きだ。
『そうだな、半身に構えて重心を移動させていく歩法……確か〈走り懸かり〉とか言ったか、居合術など日本の古流武術に見られる歩法だ』
ハサンが応えた。すると彼の直ぐ背後にいたベルジェンニコフが口を開く。2人はモランたちと通路を挟んで反対側の実験機器の間に身を隠している。
『ほう、君たちは日本の古流武術に詳しいんだね?』
ハサンが首を振った。
『いえ、そういうわけではありません。ただ玖劾が見せる近接格闘戦の技が不思議でして、気になって調べたら古流武術に辿り着いたってだけです』
『なるほど、確かに歩き方1つだけでも不思議なものに見えるね』
殆ど脚を動かしていないさまは、スケートをしているような感じだ。だがここは氷上ではない、摩擦係数がそれなりにある屋内施設の通路上だ。だが玖劾の歩みは、滑っているようなものに見える。
『あれ、エアジェットスラスターを噴かせているわけじゃねぇんだよな。脚の動きだけで、あの動きを実現しているんだ。不思議なものだ』
エアジェットスラスターとは主にブーストラン時に作動させる高機動運動制御装置のことだ。強化外骨格装甲服本体に内蔵された装備だ。高圧縮エアを噴射し、足裏に高圧の空気層を形成させて僅かに浮遊、ブーストランの加速の補助を担う。足裏以外にも脇や腰部からも噴射口はあり、機動運動時の高精細な姿勢制御に役立てる。これはブースターを噴射させなくても機動運動が可能なだけの出力はある。だからブースターユニットを外した状態でも使用は可能である。
『しかし今の奴はスラスターを使っていない。そんな反応は出ていない。奴自身の身体制御だけであの動きを実現している』
彼らの装甲服のセンサーは気流の動きも探知できる。エアジェットスラスターが作動しているのなら玖劾の周囲には高圧縮空気の層が現れ、激しく動いているのが分かるはずだ。だが現在の彼の周囲は静かなもので、殆ど空気の流れが見られない。
『殆ど見られないってのも不思議だ。歩いているんだから、それだけでも気流は生じると思うんだがな』
モランは心底不思議そうに言っている。ベルジェンニコフが言葉を繋いだ。
『正中線を完璧に維持して歩く――ということは、こういうものかもしれないね』
ハサンが『それは?』と訊いた。
『姿勢を全く乱していない。あれは正中線が維持されている証拠だ。格闘戦では必須の体勢だね。そしてそれは周囲の大気をも乱さないものなんだろうね』
彼らの会話の間も玖劾は歩みを止めなかった。ゆっくりとだったが、確実に扉に近づいている。
『しかし大したものだ。まだ若いのにしっかりと歩法を身に着けているぞ。彼は柔術なり居合術なりの師範にでも技を習っていたのかな?』
ベルジェンニコフは2人に問うた。
『いや、格闘教官の中にそのジャンルのマスターはいませんでした。典型的な軍隊式格闘術しか学んでいないと思いますが……自分らの知らないところで誰かに学んだ可能性はあるかもしれませんが、それは分かりませんね』
軍隊式格闘術の中には古流武術的なスキルもあったはずだ。だからハサンの言葉は正確ではない
玖劾の見せるスキルは単なる軍隊式格闘術の範囲を超えた、より洗練・突出した技の精度を感じさせ、本格的な古流武術の所作に思える。それは軍の教官の指導の範囲に収まらない成果を感じさせた。
ベルジェンニコフは思う。
――歩き方を見ただけだが分かる。あれは達人レベルだ……
『まだ15、6歳程度の少年があれ程のスキルを見せるとは……幼少時より修行を積んだというのなら有り得るが、どうなのだろう?』
第4小隊長就任時に部下の経歴は全て確認している。玖劾は10歳頃に自衛軍に入隊してるが、それ以前は難民だった。富士山麓の難民キャンプに収容される以前の記憶は無くしていると記されていた。心理検査の結果も本物の記憶喪失と診断されている。もしかしたら記憶を無くす前、どこかで武術の指南を受けていたのかもしれないが、今のところ確認のしようがない。
『いずれにせよ、判断できる材料はないか……』
――あの所作は単に実戦経験を積んだだけで身に付くものとも思えない。やはりどこかで? 身に付いた身体記憶は記憶喪失でも消えないのだったかな?
思考は続いていたが、それも中断。玖劾の位置が扉にかなり近づいているのが分かったからだ。敵は目前のはず、ここまで何の反応もなかったが、間もなくコンタクトの時が来るに違いない――彼らは緊迫の度を高めた。
『くそう、まだ何も見えねぇぞ。ホントにあそこにいるのかよ?』
モランの言葉には苛立ちが表れている。未だ何も見えないからだ。だが――――
『モランくん、本当に何も見えないのかね? 扉の前、何か妙な歪みのようなものが見えるのではないかな?』
言われて彼は扉の方に意識を集中させた。玖劾を中心として周囲を隈なく見渡す。装甲服のセンサーも総動員させて走査させたが――――
『いや、やっぱ何も見えねぇ。電磁輻射全周波数帯も音響も一切――』
モランの言葉は途切れた。その目は大きく見開かれ、何かに憑かれたようになっていた。
『見えたんだね? 視えた、と言うべきかな』
ベルジェンニコフは頷いている。
『三佐、その……私の目にも何か映っているのですが……あれのことを言っているのですか?』
ハサンの声は震えていた。何か信じられないものを目撃したかのようで、恐怖の色すら表れている。
『その通り、君たちと同じものを私も視ている、黒いものを――な。見え方はそれぞれ多少違っているかもしれないが、そこに何かが在るのは確実だ』
彼女は残っている方の手を上げ、前方を指した。その先、玖劾の向こう、直ぐ近く。そこに在るものを。
ユラリと揺れる黒い染みのようなもの、影と言うべきか。或いは陽炎か――揺れ動くものが扉の前に現れている。
『う……目がおかしくなってんじゃねぇだろうな? それともセンサーの故障とか?』
モランは目を盛んに瞬かせ、首を振っている。映るものが信じられないのだ。ハサンが言葉を継いだ。
『いや、俺も見ている。今センサー群も緊急診断したがどこも異常なしと出た。故障でもない』
となると、あれは――?
『敵だよ。その“気配”を君たちの“感覚”が捉えたんだ』
“感覚”――強調した言い方はあるものを想起させた。
『何だよ、まるでセンシティブみたいじゃねぇか……』
モランの声は震えていた。怯えているようにも見える。
『そうだよ、そのセンシティブ。君たちにはその能力が芽生えている』
モランとハサンは瞬間、応えられなかった。ベルジェンニコフが何を言っているのか分からなかったからだ。
『三佐、何を言っているのです? 我々も能力者だと?』
そうだ――と頷くベルジェンニコフ、彼女は言葉を続ける。
『ゆっくりと話している暇はないから簡単に言う。そもそも人間は誰もが能力を持つのだよ。環境によってそれが顕在化するか否かの違いに過ぎない』
モランとハサンは互いを見やった。そして同時に思う――この人は何を言っているのか?
『スーパホットプルームと氷河期、そして絶え間ない戦乱の世。この環境は人類に多大なストレスを与えてきた。その中で能力を顕在化させる者が目に見えて増えてきたのだ。前世紀の末から多数報告されているらしい。そしてFMMだ――』
FMM――融合機械化有人機動兵器……それがいったい何だと言うのか? モランとハサンにはまだ分からなかった。
『特にフェイズ2FMMは超自我領域という深層意識の奥深くにまで神経接続させるサイバネティクスだ。これは接続者の精神を強く刺激する』
それが能力の発現に繋がった――ベルジェンニコフの言葉は2人には信じられなかった。
『待って下さい。となると、接続制御者は皆能力者になると言うのですか? それはいくら何でも――』
『玖劾くんみたいに目に見えて能力を発現させる者は確かに少ない。だが考えてもみたまえ、自分たちはどうだったか? 異様に勘が働いて危機を回避したという経験はないのかな?』
言われて2人は応えられなかった。確かに思い当たるフシはあるからだ。それでも――と、ハサンは問いかける。
『それは経験に裏打ちされる判断の結果では? 我々は何年も最前線に立ち続け、戦場・戦闘の何たるかが染みついています。経験が的確な判断をもたらしているのだと思いますが?』
『それもある。区別つきにくいし、自分では分からないだろうけど、中にはかなり超常的な直感が働いていたはずなんだよ』
そうなのか――2人は判断がつかなかった。だが今現在、目に映るものはベルジェンニコフの言葉を裏打ちするとは言えないか?
『知らん間に薬でも打たれて変なモノ見てるんじゃなきゃあな』
モランは何故かやけっぱちな言い方をしていた。
『どうしても信じられないかね?』
いや――と、首を振るモラン。
『思考が追い付かないだけで、直感的には……それもあるかな、と思えるよ』
ハサンも同意した。
『頭はハッキリしていると確信できる。となるとやはりあの影は実在するもの――』
影と評したが、今はより明確な輪郭を見せているのに気付いた。
『人型だ。明らかに何かいるぞ』
それが玖劾の言う敵。熱電磁光学ステルス状態で、更に音響ステルスも完備してセンサーからは完全に透明化している存在。それを超常的感覚で捉えていることになるのか。
『見たままを信じろ。こう言えばいいかな――』
ベルジェンニコフは一度言葉を切って直ぐに続けた。
『〈考えるな、感じろ!〉――てね』
『何ですか、それは?』
『大昔の大衆娯楽作品に出てきた名言だよ。この任務が終わったら教えてあげよう』
任務が終わったら? それは生き延びてここを出られたらの話――と、話を続けようとしたがここまでだった。玖劾の動きが変わったのに皆が気づいたからだ。
『始まるぞ!』
ベルジェンニコフが叫ぶと同時、玖劾が上体を沈め、これまでより大きく足を踏み出し、素早く移動したのだ。その時、彼の直ぐ背後の床上に激しい火花が弾けた。
『撃ってきた、射撃だ! もう1人の敵だ!』
銃声は聞こえなかった、消音器を装備していたのか。だが皆の装甲服は即座に射線を計測、角度から射撃地点を割り出した。センサーには映らないが、玖劾は回避している。敵の銃撃を予見したのか?
『玖劾くんより右上後方、37°、距離11.01mのメンテナンス通路上! モランくん、君の位置ならば直接撃てる!』
位置及び環境データは既にFCS(火器管制機構)に自動的に入力されている。だがモランはそれに頼ろうとはしなかった。視界には何も映らない、いや装甲服のセンサーに捉えられていないと言うべきだ――この敵もステルス状態にある――だがモランの“目”はその影を捉えていた。
『視えるぞ! はっきりとした人影が!』
黒い人型はもう揺らいでいない。確固たる存在として彼の視界の中央に現れていた。
『撃――!』
思考指令を送る――位置を確認後コンマ1秒にも満たない刹那の間――直後、影の右端に激しい閃光が瞬いた。閃光は尾を曳き、実験機器の間へと消えて行った。
『当てた、だが浅い! 野郎っ、俺が撃つ直前に回避動作に入ってやがったぞ?』
その意味するものを皆は直観した。だが詳しく精査する暇はなかった。扉前で戦闘音が響いてきたからだ。玖劾が戦っている。
皆は意識を向けるが、同時に機器の向こうへと消えたもう1人の敵に対する警戒も怠らなかった。モランがその敵に対する追撃を申し出た。
『俺が行く、とどめを刺してやるぜ。レイラー機は三佐のところ――』
だがベルジェンニコフは制した。
『いや動くな、現在位置に留まれ』
『何故だ? 確実にダメージは与えているぞ! 今なら決められる、この機を逃す手はねぇだろ!』
ベルジェンニコフは首を振った。
『自分のバイタルに気づかないのか? もう君はまともに立ってられない状態なんだぞ!』
『むっ――』
言われてようやく自覚した。呼吸や脈拍がかなり乱れていて、悪寒や吐き気も酷い。ここまでは装甲服からの薬剤投与や意識の集中で何とか持ちこたえていたが、もう限界なのは明白だった。
『だが、今なら決められる……』
悔しさが滲んでいるのが分かる。
『気持ちは分かる。だがこらえろ。これ以上動くと君は一気に意識を失うぞ!』
後は呻き声が聞こえるだけだった。
『しかし三佐、となるとあの敵は――』
『モランくんの銃撃によってそれなりのダメージは負っているはずだ。容易に動けやしないだろう。動けたとしても時間がかかる』
だからここで待機せよ。残り少ない体力と気力を温存し、迫るかもしれない敵に備えよ――と、指示した。
『しかし三佐、玖劾は大丈夫なのですか? 奴も中性子線を浴びているはずですが』
扉の前では蒼白の閃光が頻繁に瞬いていた。
空間に突然現れ鋭い筋を描いて玖劾に襲いかかっている。敵はステルス状態のままで格闘戦に入っているらしい、その結果としての光景だ。玖劾は今のところ動きに乱れはなく、中性子線の影響は表れていないように見える。戦闘に支障は出ていないようだが……
戦闘は続く。
閃光が舞うように動き、玖劾に纏わりつくように現れては消えを繰り返していた。
妙なものだとベルジェンニコフは思った。閃光自体が生き物のように見え、玖劾を獲物として狙っているかのように見えたのだ。敵はプラズマを起動させ短槍を振っている。槍にはステルス機能はないから映るのであり、プラズマを発生させるとなるとよりはっきりと分かる。ただ敵本体の姿までは浮かび上がらないらしく、何もない空間にプラズマだけが浮かび、それが玖劾に襲い掛かっているのだ。
――いや、何もないのではない。黒い影が在るではないか。
槍を振るう敵は、影としてしっかりと見えていた。但し、時に完全に消えてしまうこともあった。“感覚”を超える何かの現れなのか?
――玖劾くん、君には更にはっきりと見えているのだろう?
影は頻繁に位置を変えていた。玖劾を中心に円を描くように動き、時に接近、時に離れ、様々な角度から槍を突き入れ、或いは薙いでいた。だが玖劾はその全てを捌いていた。それは最小の動きだった。僅かに身を動かすのみで場合によっては殆ど動かず敵の攻撃を回避していた。玖劾からは今のところ大して反撃していない、防御に徹しているようだ。
――まるで〈見切り〉だな。いよいよ達人めいてきた……
するとここで状況に変化が現れた。玖劾が大きく体勢を崩したのだ。まるで倒れ込むかのような動作であり、もしかしたらやられたのか――と皆は緊迫した。
しかし――――
玖劾が左腕を伸ばす。だがそれは直前に槍の閃光が現れた位置とは反対側だった。その拳が突如として光った。
『〈閃衝拳〉! だが敵に触れてもいない離れた位置で? しかもあさっての方向じゃねぇか!』
稲妻の如き電光が空間に拡がった。拳から放射された高圧電流だ。これが〈閃衝拳〉とモランが呼んだもの、自衛軍の強化外骨格装甲服が装備する近接格闘戦兵装の1つ。敵に落雷レベルの高圧電流を撃ち込んでダメージを与えるものだ。この時代の装甲服は大半が耐電仕様になっているので仕留めるのは困難だが、瞬間的に装甲表面に発生する閃光と電磁嵐はセンサーへの影響を避けられず、隙を作ることを可能とする。よって使い出はある。だがこれは触れなくては意味がない。玖劾は明らかに触れず、何もない空間に放っていたのだ。それが空間に描かれた稲妻になる。
だが、それには意味があったのだ。
『人……人の姿?』
何もないはずの位置に人の姿が浮かび上がっていた。これは超感覚が捉えた“影”などではない。明らかに物理的な存在の姿、輪郭線に沿って火花が散るような発光が続いている。よりはっきりと、正確に敵の位置が捉えられる。玖劾はこの位置に敵が移動することを直前に察知して閃衝拳を放ったというわけか? 電撃を浴びせて、より正確な位置を把握するために。
『そうか閃衝拳の電撃がステルスフィールドに干渉したんだ。それが火花の原因か』
玖劾が踏み込む、一撃を入れんと右腕を振るった。その先に延びる超振動ブレードが火花の中心へと斬り込まれた。だが敵も座して待ちやしない、回避に入らんと時計回りに動いた。それはかなり速い。ブレードが届かないかに見えた。
再び瞬く閃光、だがそれはプラズマ槍のものでも閃衝拳のものでもなかった。玖劾のブレードが確かに敵に届いたのだ。
空間に鋭い輪郭の光の筋が出現した。それは下弦の三日月を思わせる蒼白く光る傷のようなもので、一点に固定されている。極めて超常的な光景に見え、この世ならざる何かが現れるのかとも錯覚させた。だが現れたのは紛れもなく現世のものだった。
「いやぁ参った。悉くこっちの動きを読み切って、最後は完全に予測を超えてくれたとはな」
日本語? いきなり聞こえてきた言葉は肉声のものだった。随分と流暢な日本語であり、ネイティブなものに思える。元々日本語が使えたのか、或いは言語ソフトを脳内極微電脳にインストールしていて、ラーニングしていたといったところか。日本での任務に臨むに当たり、会話の機会があるかもと想定して用意していた可能性はある。
『うぬっ? 三日月から声が聞こえてきたぞ』
ますます持って超常的な光景だった。だが、やはりこれは現世のもの。
“三日月”はやがて薄れ、そして皮でも剥がすように“中”から人型が現れた。ステルスが解けたのだ。
『ハインライン』
空豆のような上体の装甲服、アメリカ帝国陸軍主力強化外骨格装甲服・RA-30ハインラインだ。その上体には大きく傷が刻まれている。左腰の辺りから右肩にかけて、焼かれたような傷跡がある。玖劾のブレードが確かにこの敵に届いたのだ。その結果、ステルスが機能しなくなったのだろう(或いは敵が自ら解いたのか?)。
「全く凄いぜ。完全に俺の読みを超えてくれるとはな。どうやらお前さんも〈クスパ―〉みたいだな」
声はそのハインライン兵から聞こえてきている。外部拡声器を機能させているようだ。玖劾に話しかけたものだが、彼は声には応えず、ゆっくりと姿勢を変え、右半身の体勢となった。戦闘を続ける構えだ。
「待った、待った! 俺はもう戦う気はないぜ」
そう言ってホールドアップの姿勢、同時に装甲服上体の一部を跳ね上げた。
『何のつもりだアイツ?』
装甲服前部の胸部から頭部が完全に跳ね上げられている。よって内部の着用者の姿が露わとなった。玖劾は攻撃には入らなかったが構えたまま。警戒は解いていない。
「やあ陸自の強化装甲兵諸君、お初にお目にかかる。俺はアメリカ合衆国連邦――アメリカ帝国と言った方が通りがいいかな――統合情報軍・特殊任務群・強襲工作班班長、ザイン・モナドという者だ。階級は、いちおうだが大佐になる」
短く刈り上げられた銀髪の男。顔は細長く、頬はこけ、浅黒い肌のせいか些か病的に見える。ハサンに少し似ているが民族は違うらしい。
「統合情報軍……DIA(アメリカ国防情報局)の流れを汲む諜報機関か」
ベルジェンニコフも応えるように肉声で言った。男――ザイン・モナドと名乗った米帝軍人は彼女に視線を送り、口を開いた。
「ヴラン・ベルジェンニコフ三佐、アンタとは一度話してみたかった」




