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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
第三章 勇王国進軍の章

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85.恐怖を纏う騎士鼠

あらすじ


第三階層で襲い来る複製体のレイスに対して、三つの高ランク冒険者パーティーは戦術を変えて応戦してきた。

主力を神姫の槍から殲滅の理へ。

物理攻撃から、魔術による攻撃へ。

極小の魔力で効率的にレイスを撃退しつつ、彼らはついに第四階層に辿り着く。

そうして黒牙と相対する高ランク冒険者たち。

あわよくば、黒牙の横をすり抜けて先を目指そうとする冒険者たちに対して、黒牙はその身に闇の鎧を纏い、巨大な魔狼の姿となって応戦する。

そして、私の元へDPブーストの発動を望む黒牙の合図が来た。




 DPブーストによって、黒牙の力が飛躍的に上昇していく。

 DPブーストを受けて強化された今の黒牙からは、ガルセコルトと比べても遜色がない強さを感じる。大きな魔狼を模した闇を纏うその姿も相まって、今の黒牙はもう一匹のガルセコルトと呼んでも差し支えないだろう。

 力の上昇によって急激に変化した黒牙の気配や魔力を感じてか、冒険者たちにさらなる動揺が走る。

 それはそうだろう。元の黒牙の強さは、Bランク。

 だが、今の黒牙から感じる強さは、Aランク相当。

 それは即ち、魔王と呼ばれる者たちと同等の力を持つということだ。

 その強さはこの世界において、一つの到達点と言えるだろう。

 夜のガルセコルトを感じた時にも思ったことだが、Aランクの魔物が持つ力というのは、何処までも恐ろしい。

 人間たちが魔王を恐れる理由も分かろうというものだ。

 それが今、私の完全なる味方としてここにある。

 とてつもない安心感が、そこにはあった。


 しかし、この力にはタイムリミットがある。


 強化する配下の強さが増せば増すほどに、時間と共に消費するDPも増加していく。意識の端で確認した残りDPはすごい勢いで減り続けている。その減り方は、Cランクの頃の黒牙を強化した時とは比べ物にならない。速く減るだろうとは思っていたけれど、まさかここまでの速さとは。

 時間が無い。だからこそ、ここからは黒牙に全力で殲滅してもらう。



 凝縮された大きな闇の魔力に包まれた黒牙の姿が一瞬にして消えた。

 私が『加速思考』を最大限に使い、『気配察知』や『魔力感知』を総動員しても、黒牙の姿を追うことは出来ない。あまりにも速すぎる。

 深淵の探索者、神姫の槍、殲滅の理。離れて立つ三つのパーティーが、同時に後方の壁へと吹き飛んでいく。それは黒牙が消えた直後のことだった。

 同時に侵入者たちの中から、六人分の気配が途絶える。

 深淵の探索者から一人、神姫の槍から一人、そして殲滅の理からは四人。

 一瞬にして、それらの命が消えた。


 殲滅の理に被害が多いのは、消えたのが後衛を務める者たちばかりだったからだろう。

 危険な場所へと向かう以上、冒険者たちは皆、それなりの装備を身につけている。だが、前衛で魔物と直接戦う戦士などは、より防御能力の高い防具を身につける為、後衛で守られる者たちとの間で装備の質に差が出ているように感じた。

 それが原因だろうか。

 いや、同じく前衛で戦う者たちの中には避けることに特化した身軽さを売りにしているような者たちもいた。彼らもまた、他の前衛と同じように黒牙の一撃を受けて、生き残っている。そうした身軽な前衛の装備と後衛の装備は大して違っているように思えない。

 ならばあと考えられるのは、スキルの違いか、はたまた職業の違いだろうか。『記憶』を思い出してみると、確かにこれまでの冒険者たちも職業によって、身体能力に差異があったように思う。

 人間たちのステータスにのみ存在する、職業という概念。あれにも何かしらの恩恵があるのだろうか。なかなかに興味深い。

 職業についての情報は名称以外、ダンジョンコアの機能で確認できるステータスには表示されないので、その辺りの情報はどうしても経験からの感覚的な予想になってしまう。

 まあ人間の職業については状況が落ち着いた時でも、また調べてみることにしよう。

 とはいえ、人間たちの情報は地脈からも何故かあまり引き出すことが出来ないので、私が少しずつ検証していくことになりそうだが。

 そんな副思考の一つの思惑はともかくとして。



 闇の魔力を身体に纏うことで巨大な体躯を手に入れた黒牙は、DPブーストでその力を強化されたことにより、尋常ではない強さを発揮していた。

 壁まで吹き飛ばされた侵入者たちは、しかし、即座に体勢を立て直すと武器を構えて黒牙の下へ向かう。しかし、そんな侵入者たちに対して、黒牙は逆に正面から跳びかかっていき、纏った闇により巨大化した爪や、鋭く伸びる歯によって、その装備ごと侵入者たちを切り裂き、噛み砕いていく。

 意識の端で確認していたDPの減り具合からしても、それは瞬く間の出来事だったことだろう。


 その時、部屋の端で急激に魔力が高まっていくのを感じた。

 先ほどの黒牙の攻撃を生き延びた唯一の魔術師、殲滅の理の生き残りだ。それが、何かしらの魔術を行使しようとしている。

 魔法陣を描く極端に膨れ上がった魔力は、明らかにその人間が持つ魔力の量を越えていた。魔法陣により魔力が増幅されているとしても、その魔力の量は異常だ。

 その異常さは、魔術を行使する魔術師自身にも現れている。勢いよく魔法陣へと魔力を注ぎ込んだ魔術師は、その身体から魔力の殆どが消え去った後も、まだ何かしらの力を魔法陣へと吸い取られ続けていたのだ。まるで魔法陣が意思を持ったかのように。

 吸い込まれ続けているあの力に似たものを、私は感じたことがある。あれは回復の泉が放つ魔力に似た性質の何か。むしろ、どちらかと言えばダンジョンの側の木に実るビルタの実が持つ力と似ていた。

 それが何であるかについては、魔術師の状態を知覚すれば、よりはっきりと察せられる。

 薄れていく気配と、萎んでいく肉体。

 恐らくあれは、生命力。

 あの魔術師は意識してか、無意識か、己の命を対価として、あの魔術を完成させようとしているのだ。そのような異常な状態であっても尚、未だ魔法陣は維持し続けられていた。維持しているのは、あの魔術師だ。だとすれば、生命力を使っているのは故意なのか。まさに捨て身の一撃である。

 そこに込められた力は、ダンジョンの外で魔導士団の魔術師たちが放った巨大な魔術には届かないまでも、以前同じこの部屋でAランク冒険者イグニスが放った部屋を炎で埋め尽くした魔術、イラドラコニスにも迫るような魔力だ。

 まさに殲滅の理というパーティー名を体現したかのような威力。

 だが、そんな魔術をここで放ったら、確実に仲間の冒険者たちも巻き添えになるだろうに。それとも事前に何かしらの対策を用意しているのだろうか。


 あれは今の黒牙であっても、重傷を負いかねない威力を持っている。

 以前より強化されているとはいえ、イグニスの魔術を受けた時の黒牙にもDPブーストがかかっていた。それでも黒牙には致命傷となっていたのだ。さすがに以前のような致命傷とまではいかなくとも、重傷にはなるだろう。

 あれの直撃を受けた上で、無傷の冒険者たちを相手にするとなれば、黒牙でも少し厳しいかもしれない。


 そんなことを考えつつも、私は冷静だった。

 何故ならその思考は『加速思考』によりごく短時間の内に行われたものであり、その加速した時間の中においても尚、黒牙の動きは捉えられないほどに速いのだ。そんな黒牙が大人しく魔術の発動を待つはずが無いだろう。

 次の瞬間にはもう、魔術師の身体は上下に引き裂かれており、維持する存在を失った魔法陣は、そこに集まった魔力を虚空へと拡散させ、形を消失させていった。

 やはり、あの魔術師が魔法陣を維持していたのだ。

 そのまま黒牙は次の標的に向かって跳びかかっていく。

 意識の端で確認したDPの消費量から考えても、それらは一瞬のうちに起こったことだ。

 そうしてあっという間に冒険者たちの数は減っていき、私が思うよりもあっさりと先を目指した侵入者たちは全滅した。



 黒牙は冒険者たちを全滅させた後、そのままガルセコルトのいる上層の部屋に向かおうとしている。DPブーストを受けた今の黒牙であれば、最速で第二階層まで辿り着けるだろう。

 だが、私はそんな黒牙へ送っていたDPを止めた。

 一瞬のうちに終わったとはいえ、黒牙へのDPブーストはかなりのDPを消費している。

 残りDPは既に、半分以下だ。このまま強者と戦うのは、少し厳しいだろう。

 けれど、黒牙へのDPブーストを止めた理由は、それだけではない。


 実は第二階層での戦いを知覚していた副思考の記憶から、私はガルセコルトとAランク冒険者パーティー魔獣狩りの戦闘が終わったことを、既に知っていたのだ。

 ならば、DPを消費してまで急ぐ必要は無い。

 黒牙にはゆっくりと上層へ向かうよう伝えると、私は副思考が『記憶』した第二階層での戦いを、今一度しっかりと思い出してみることにした。



 第二階層の中部屋、ガルセコルトとAランク冒険者パーティー魔獣狩りの戦い。

 私が最後に確認した『記憶』に記されていたのは、魔獣狩りに動きを読まれ、苦戦しているガルセコルトの姿だった。

 新たに思い出した『記憶』によれば、その後も暫くの間はガルセコルトにとって厳しい状況が続いていたようだ。

 副思考の知覚していた『記憶』には、防戦一方で傷を増やし続けるガルセコルトの様子が克明に記憶されていた。だがそれは、唐突に終わりを告げる。

 その切っ掛けとなったのは、魔獣狩りの前衛二人だった。大剣の戦士と大槍の戦士の二人はガルセコルトの動きを読んで常に攻撃を続けていたのだが、その動きが次第に鈍り始めてきたのだ。

 ガルセコルトはそんな魔獣狩りに起きた異変を見逃さなかった。より動きを鈍らせていた大槍の戦士の隙を狙い、闇を使った必殺の一撃で大槍の戦士に致命傷を与えたのだ。


 彼らの動きが鈍った原因は恐らく、昨夜の戦いで欠けた魔獣狩りに属するもう一人のメンバー。どうやらそのメンバーは、前衛を担っていたようだ。

 つまり本来の魔獣狩りというパーティーは、三人の前衛で魔獣の動きを抑えていたのである。それが二人に減ったため、一人一人の負担が大きくなり、強敵との長期戦でこうして形に現れてしまったようだ。まあ実際のところ魔獣狩りには、もう少し複雑な役割分担が存在していたようだが、大雑把にはそう変わらない。

 それに加えてガルセコルトもまた、魔獣狩りの欠点を早くから見抜き、わざと体力を削らせるために、防戦一方を演じて攻撃を続けさせていたようだ。それは昨夜の戦いの後、回復の泉で傷を完全に癒していたからこそ出来た芸当である。それもまた、魔獣狩りの計算を狂わせた要因の一つだったのかもしれない。

 こうした事態が重なった結果、魔獣狩りは重要な役割を持つ前衛一人を失う状況を作ってしまったのだ。


 前衛が倒れた直後、すぐに後衛を守っていたメイスと大盾で武装した神官が前衛へと出てきた。恐らく倒れた大槍の戦士の代わりを務めようとしたのだろうが、そううまくはいかない。

 確かに魔獣狩りの神官は、他の冒険者パーティーに所属する戦士と比べても遜色ない動きが出来ていた。けれど、それでも魔獣狩りの戦士たちに比べれば、所々に粗が目立つ。

 一瞬であれば問題無くとも、前衛として常に向かい合うことになれば、その粗は致命傷だ。

 それ故に、そこからはもう、完全にガルセコルトの独壇場となっていた。

 ガルセコルトは一人、また一人と魔獣狩りの冒険者たちを倒していき、黒牙の戦いが始まった頃、最後の魔術師を殺すことでその戦いに終止符を打ったのだ。


 結果から言えば、魔獣狩りは全滅し、ガルセコルトが勝利した。

 けれど、ガルセコルトはその勝利の為に、かなりの重傷を負っている。

 恐らく一つ一つの傷の重さは、昨夜受けた傷以上に深いものだろう。

 もしも魔獣狩りが昨夜の戦いで、メンバーの一人を欠くことが無かったら、結果は逆だったかもしれない。前衛を務める者たちが疲労に動きを鈍らせるより先に、攻撃を受け続けたガルセコルトが致命傷を負う方が先になった可能性も十分にあった。

 そう思えるほどに激しい戦いがあったようだ。



 …………もしかしたら、ガルセコルトを倒すのなら、今が好機かもしれない。


 重傷を負ったガルセコルトの姿を知覚した私が、まず考えたのはそれだった。

 それはもしかしたら、黒牙とガルセコルトの勝利により、形勢がこちらへ傾き始めていたからこその発想だったのかもしれない。

 今は対人間という理由で魔狼や魔鹿たちと同盟を組んでいるが、それも永遠に続くという訳では無いだろう。

 今までは勇王国カツラギが率先して、この病魔の森を開拓するべく冒険者たちを送り込み続けていたようだが、今回の件で勇王国に甚大な被害を与えることが出来れば、少なくとも勇王国の戦力が回復するまでは、これ程頻繁に襲ってくることは無くなるだろう、と思われる。

 今回、ダンジョンに侵入してきた高ランク冒険者たちは、恐らくこれまで病魔の森で縄張りを持つ高位の魔物を相手に暴れていた冒険者たちの筆頭だろう。

 だがそれは、ガルセコルトと黒牙によって葬られた。

 それで病魔の森にやってくる冒険者がいなくなるという訳では無いだろうが、少なくとも魔狼たちの群れや魔鹿たちの群れが苦戦するような冒険者は減るのではないか。

 そうなれば、対人間の同盟が解消されるのも時間の問題だろう。

 同盟の中でも、ガルセコルトは最強格の戦力だった。味方でいる内は、安心できる。

 だがもし、敵になるとしたら、非常に危険だ。


 ガルセコルトはまず間違いなく、私の配下には加わらない。

 ガルセコルトが認めているのは、ホーンウルフを決闘で打ち破り、その力を群れに認めさせた黒牙だけだ。ガルセコルトが私と交渉してくれるのは、あくまで黒牙が私を立ててくれているからに過ぎないのである。

 それに、ガルセコルトたち魔狼は、黒牙の力こそ認めているが、黒牙を群れの仲間としたわけでは無い。

 そもそも魔鼠である黒牙が、彼らと戦わずにいられるのは、私が黒牙と共に送り出した伝令役のファングウルフ、今はフォレストウルフとなった魔狼の存在があったからだ。

 そのフォレストウルフだって、正式な群れの仲間という訳では無い。

 魔狼たちの群れの力の序列で言えば、伝令役のフォレストウルフはあまり高い位置ではない為、私と群れの意見が合わなくなれば、魔狼たちは速攻で私ごと伝令役のフォレストウルフを斬り捨てるだろう。

 つまり、魔狼たちと私の間にある関係というのは、意外とあっさり切れてしまうようなものでしかない。

 同じ病魔の森に住まう以上、戦いの火種は数多くなる。

 私たちはいつだって縄張りを奪い合う敵となりうるし、魔狼たちの中から魔王を目指そうというものが表れでもしたら、それこそ否が応でも私は自身の命を守るために戦わなくてはならない。

 この先、味方となる可能性は限りなく低く且つ、敵となる可能性がある以上、出来る時に手を打っておくというのは大切なことだ。

 あのガルセコルトを倒せるのは、今しかない。

 今の激しい戦いで重傷を負ったガルセコルトならば、残り少ないDPのDPブーストをかけた黒牙でも何とかなるだろう。

 ダンジョン内からは侵入者が一掃され、ダンジョンの外ではまだ魔鹿たちが騎士団に抵抗している。その騎士団も、ガルセコルトを倒したことによる黒牙のレベルアップと、ガルセコルトの亡骸を吸収することで増えたDPを使ったDPブーストを活用すれば、倒すことも不可能では……。


 ゆっくりと第二階層へと向かう黒牙と、第二階層の中部屋で傷を癒すため横たわったガルセコルトを意識の内に収めつつ、そんな風に思考を進めていた私は、そこでダンジョンの外を確認していた副思考から、焦燥の感情が流れ込んできていることに気が付いた。


 どうやら、ダンジョンの外で、何か予想外のことが起こったようだ。






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