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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
第三章 勇王国進軍の章

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84.黒牙の戦場

あらすじ


Aランク冒険者パーティー魔獣狩りがガルセコルトを受け持つことで、残る三つの高ランク冒険者パーティーは第二階層の中部屋を抜け出すことに成功した。

彼らは第二階層の守護者も易々と突破して下を目指し進んでいる。

彼らが黒牙の待つ第四階層に辿り着くのは時間の問題と言ってよいだろう。

一方で魔獣狩りとの戦いを始めたガルセコルトは、私の予想に反して、防戦一方となっていた。

魔獣狩りはその戦果に裏打ちされた魔獣に対する知識を武器として、ガルセコルトの行動を予測し、常に戦いを有利に進めている。

それに加えて、魔獣狩りは昨夜以上の手数で攻撃を続けていた。

もしガルセコルトが破れてしまえば、黒牙の受け持つ負担はさらに重くなる。

私は戦況に不安を感じながらも、敵の迫る第四階層に意識を移すのだった。




 副思考の集めた記憶を確認している間も、私は副思考の一つで常に黒牙の下へ向かう三つのBランク冒険者パーティーを捉え続けていた。そうして集めた情報はステータスも含めて全て、同時進行による『伝心』にて黒牙へと送り続けている。

 全ては黒牙の戦いを少しでも有利な状況とするために。


 第三階層までやってきた侵入者たちは、物理攻撃の効かないレイスの複製体に襲われたことで、その役割を変化させていた。

 今まで戦闘を受け持ってきた物理攻撃主体の神姫の槍は牽制へと回り、代わりに今まで戦闘へ参加することを避けてきた魔術攻撃主体の殲滅の理が率先して戦っている。深淵の探索者も、ここでは戦いに参加することなく、先導と罠の発見のみに集中していた。


 殲滅の理に所属する魔術師たちはその物々しい名に反する最小限の魔力で構築した魔術により、集まってきたレイスに何もさせることなく倒していく。その手際は、さすがのBランク冒険者だ。

『魔力感知』で感じる彼らの宿す魔力から考えて、今のままの戦い方で第三階層に配置した複製体のレイスを全て倒させたとしても、削れる魔力は全魔力の数パーセント程度だろう。

 だが、使わせているのが最小限の魔力であったとしても、今まで使わずに残していた魔力を消費しているという事実に変わりはない。

 黒牙の戦いには、私の命が懸かっているのだ。どれだけ無意味に思える事であろうとも、出来ることがあるのであれば、全て行っておく必要がある。

 私は今以上に魔術師たちが魔力を消耗させるべく、バラバラの方角から一体ずつ冒険者たちを襲うように、複製体のレイスたちへと命令を送った。

 これで少しでも侵入者たちの消耗を増やすことが出来れば良いのだが。



 侵入者たちは四方八方からひっきりなしに襲い来る複製体のレイスたちを全て倒しきると、短い通路を通って第四階層へと降りる階段のある部屋までやってきた。第三階層にはまだ、守護者を設置していない。侵入者たちはそのまま階段を降りて、ついに第四階層へと辿り着く。


 この第四階層にある部屋は三つ。そのうちの二つは、上下の階に繋がる階段のある小部屋であり、その二つの小部屋と二つの通路で繋がる中央の部屋にて、ダンジョンからの魔力供給により、万全の状態となった黒牙が、一匹で待っている。

 そこは以前、私の好奇心により生み出された中途半端な大きさの部屋だった。中部屋よりも少しだけ小さいその部屋は、八つの小部屋と九つの通路を材料に出来ている。

 思えばこの部屋こそが、一連の闘争の始まりとなった因縁の部屋だった。

 思い出すと後悔が湧いてきそうになるけれど、今はそれに構っている暇はない。

 いよいよ、最も大切な戦いが始まるのだから。


 私は最後の確認として、自身のステータスに意識を向ける。

 色々と人間たちを迎え撃つ準備の為に使ってしまったが、強力な侵入者たちが道中で複製体を倒し続けてくれたお蔭もあり、現在残るDPは315,748DP。

 私は黒牙の合図を待って、残る全てのDPを黒牙へのDPブーストに注ぎ込む予定だ。

 あとのことは考えない。ただ、この瞬間を乗り切ることだけに集中する。


 第四階層まで辿り着いた侵入者は、総勢十六人。

 もし、乱戦にでもなってしまえば、黒牙でも止められない者たちが一人二人出てくる可能性は十分にありうる。

 こちらは一人でも先に行かれてしまえば、それでお終いなのだ。

 本当は万が一を考えて、黒牙の取りこぼしを狩る戦力を配置しておきたいところなのだが、高ランク冒険者とまともに戦える配下が黒牙以外にいない以上、どうしようもない。

 侵入者たちの第一の狙いは正体不明の魔王だが、だからと言って見つけたダンジョンコアを破壊しないなどと言うことは無いだろう。何せ魔鼠の巣食うダンジョンの破壊もまた、人間たちの目的の一つなのだから。


 死が、すぐ傍まで近づいている。

 そんな感覚があった。


『精神的苦痛耐性』の効果で痛みはない。しかし、圧迫感は常にある。


 ――黒牙……頼むぞ


 黒牙に何かを伝えようとして『伝心』を使ったのだが、出てきた言葉はそれだけだった。

 それでも『伝心』に乗ったイメージは、とても複雑なものになったように思う。

 果たして私の心は、黒牙にどれだけ伝わったのだろうか。



 第四階層に降りてきた侵入者たちは、そこで黒牙の強い気配を察知したのだろう。部屋に踏み入る直前で立ち止まると、ダンジョンに入ってから二度目となる準備を整えた後、気合を入れて部屋の中へと踏み込んでいく。


 黒牙はというと、第五階層へと続く階段のある部屋に繋がる通路を背にして、静かに佇んでいた。

 荒々しい敵意や殺意をまき散らすわけでも無く、さりとて闇に紛れて気配を消すような事も無く、泰然自若として侵入者たちを待ち構えている。

 その先へは、一人も通す気が無いというように。

 私にはその姿が、非常に頼もしく思えた。


 部屋の中に踏み込んできた侵入者たちは、パーティーごとに分かれて少し距離を取った場所でそれぞれに陣形を組む。黒牙から見て右側で神姫の槍が槍を構え、左側にて深淵の探索者が注意深く部屋の中を見回し、中央奥にて殲滅の理が魔術の準備を始めていた。

 その姿は黒牙を相手に戦おうとしているようにも思えるが、『読心』で侵入者たちの会話を探ると、どうやらガルセコルトの時のように、戦いの隙をついて何れかのパーティーを先へ進ませようとしているようだ。

 今のところその有力候補はダンジョンの探索を得意とする冒険者パーティー、深淵の探索者。侵入者たちは、ダンジョンがこの先も続いていると予想しているのだろう。まさかここが最下層一歩手前で、この先にはもう何の仕掛けも戦力も用意されていないなどとは、想像していないようである。

 だが、戦いの状況によっては、その時に行けるパーティーが先へと進む気のようだ。あちらもなりふり構っていないということだろう。

 侵入者たちが選んだのは、私にとって最悪の選択。

 だが同時に、想定内の選択でもある。

 一応、黒牙にも『伝心』で侵入者たちの作戦を伝えておいた。

 その上でもう一度、誰も通さぬようにと、念を押す。

『読心』を通じて黒牙から、大丈夫、というイメージが返ってきた。

 そこに込められた強い自信が、私を安心させてくれる。



 殲滅の理が準備していた魔術を黒牙に向けて解き放つ。

 火の魔力が二つ。魔法陣からして、ファイアーボール。それはダンジョンの外で勇王国の魔導士団が放っていたファイアーボールと遜色のない威力だ。二つのファイアーボールは左右から弧を描くように黒牙へ向けて飛んでいくと、二つの魔力がぶつかり合い、盛大に火の魔力を周囲へまき散らした。

 その直後に、さらなる魔術が殲滅の理から放たれる。放たれた魔力は三つ。こちらの魔法陣は知らないものだ。風の魔力がまるで鋭い刃のような形状を造り、黒牙へ向けて三方から襲い掛かる。

 爆炎と風刃の魔術による連続攻撃を受けた黒牙は、されど無傷。寸前に闇をその身へ何重にも纏い、殲滅の理による魔術を防ぎ切っていた。

 大層な名をつけたパーティーの割に、一つ一つの魔術はそこまで強くない?

 まあ咄嗟に私が比べたのは、Aランク冒険者イグニスの放った爆炎だ。ランク的にも、順当な威力なのかもしれない。


 黒牙が殲滅の理による魔術攻撃を防いだ直後、左右から神姫の槍と深淵の探索者の冒険者たちが、黒牙へと走り寄る。いや、正確に言えば黒牙の背後にある通路へ、か。

 勿論のこと、隙があれば黒牙に攻撃も出来るよう武器は構えたままである。


 黒牙に向かった冒険者の数は十人。

 私は『加速思考』のスキルを最大限に機能させて、黒牙の合図を待つ。合図が来れば、即座にDPブーストを発動させられるように。

 だが、黒牙からの合図はまだ来ない。だからといって焦りは無かった。

 きっと黒牙には、何かしらの考えがあるのだろう。

 DPブーストは発動中、その強化の度合いに応じて、相応のDPを消費し続ける。それ故、残るDPに限りがある以上は、出来る限り必要な時にだけ発動させるようにしたい。

 だからこそ当事者であり、戦いをよく知る黒牙に発動の合図を任せたのだ。

 黒牙からの合図は来ない。けれど、黒牙の身には変化があった。

 黒牙の身体を魔力が駆け巡っている。

 これは黒牙の『身体強化』だ。

 いや、それだけじゃない。

 闇の魔力が大きく黒牙を覆っている。

 これは、なんだ?


 次の瞬間、黒牙は近づいてきた冒険者たちを、後方へと吹き飛ばしていた。


 黒牙の身体を大きな闇の魔力が覆っている。

 否、黒牙は大きな闇の魔力を纏っていた。

 それはさながら、騎士の纏う鎧のように。

 闇の魔力が形作るのは、最近では馴染みのある形。

 闇の大狼。それはガルセコルトを彷彿とさせる巨大な闇の狼だった。

 恐らくガルセコルトの姿から着想を得た姿なのだろう。

 黒牙の纏う闇の魔力は圧縮され、凝固し、ただ強固にその形を維持していた。

 黒牙の『魔力操作』は今、闇の魔力を圧縮し、あの形を維持することにのみ使用されている。

 つまり、あの闇の身体を操っているのは、『闇魔法』では無いということだ。

 とすると……なるほど。

 黒牙は身体能力のみで、あれを動かしているのか。

 つまり、あれは紛うことなき闇の鎧という訳だ。


 中心にある魔鼠としては、大き目の黒牙の身体。

 しかしそれは、身に纏う闇の魔力に比べれば、驚くほど小さい。

 当然だ。あれの元となったガルセコルトの身体は、魔狼の中でも特別に大きい。魔狼たちの身体の半分もない黒牙の身体では、まるで子猫の身体で等身大の獅子の着ぐるみを着ているかのようだ。

 だというのに、黒牙はその巨大な闇の鎧を着て、十人からなる冒険者たちを一瞬にして吹き飛ばした。

 あれが、フィアーナイトラットへ進化したことで黒牙が得た力か。

 うむ、何という脳筋だ。


 その時、ついに黒牙から合図が来た。

 DPブーストを発動する合図だ。

『加速思考』で思考能力を加速させていた私は、それに気が付いた瞬間、即座に黒牙へと繋がる絆へ意識を集中させると、黒牙への応援の気持ちと共に、DPを流し込む。

 DPは絆を通して黒牙の下へと流れ込んでいくと、その力を増幅させていく。


 いよいよ、反撃開始だ。



 〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『記憶』のレベルが6から7へ上がりました〉

 〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『並列思考』のレベルが5から6へ上がりました〉









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