表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
第三章 勇王国進軍の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/204

82.魔鹿たちの戦場

あらすじ


第一階層をあっさりと突破した侵入者たちは、第二階層の中部屋前で初めて立ち止まった。

その先には、私の提案を受けたガルセコルトが待ち構えている。

他の魔狼たちには複製体のファングウルフの指揮を任せることで安全を確保した。

ガルセコルトが気兼ねなく戦えるように。

ガルセコルトを相手に選んだのはAランク冒険者パーティー魔獣狩り。

その他の三パーティーは彼らを残して、先を目指す。

彼らの相手は第四階層で待つこのダンジョンの最終防衛線、黒牙だ。



 ダンジョン外での戦闘の知覚を任せていた『並列思考』により分けた副思考の一つが、外での戦いに起きた変化を感じ取った。

 本命はダンジョン内での戦いだろうが、外での戦いに決着が付けば、それはダンジョン内の戦いにも影響を与える。

 集めた情報を調べる限りでは、ダンジョンの外に残った騎士団や宮廷魔導士団では、ダンジョンの探索は難しいだろう。だが、ここに攻めてきた冒険者は何も高ランクの冒険者たちばかりではない。Cランク程度の冒険者であっても、黒牙やガルセコルト以外であれば十分に対処できる。そうして騎士団が先を進む高ランク冒険者たちの為に補給路を構築してしまえば、非常に厄介なことになるだろう。

 魔鹿たちが勝利してくれれば問題は無い。だがもしも、人間たちが勝利してダンジョンへ踏み込んできた場合、早急にダンジョン内での戦闘を終わらせなければならなくなる。

 外の戦いの最善は、魔鹿たちの勝利。次善は、戦いが長引くこと。

 私にはもう、ダンジョン外の戦いへ介入する手立ては残されていないが、戦いの動向を知っていれば、心構えくらいは出来るだろう。それに中部屋を抜けた三つの高ランク冒険者パーティーが、黒牙の待つ第四階層に辿り着くまでには、まだもう少しだけ時間がある。

 今のうちに、副思考が記憶した魔鹿たちの戦いの状況を整理しておこうか。



 私が最後に主思考で確認した時、外の戦いは魔鹿たちの優勢であったように思う。

 騎士たちの間で暴れまわる二匹の魔鹿と、そんな二匹を後方から『岩石魔法』により援護するクリスタルホーンディアー。

 三匹の連携は単純なものなれど、だからこそ一匹一匹の持ち味が存分に引き出され、ちょっとやそっとでは壊されぬような柔軟さがあった。

 それに加えて、戦場となっている地面はクリスタルホーンディアーの『岩石魔法』により、荒れた岩場へと作り変えられているため、騎士たちにはまともに立つことから難しい。

 昨夜はガルセコルトを相手に、指揮官たちによる高度な指揮と傷付いた騎士たちを即座に入れ替える人海戦術を駆使して何とか抑え込んでいた騎士団だったが、さすがに今回は大分苦戦していたようだった。


 私が副思考の知覚した記憶を思い出すと、やはり魔鹿が有利に戦いを進めていた。特にその戦いの要となっているのは、ジャイアントディアーのようだ。

 言ってしまえばジャイアントディアーというのは、ただの巨大な魔鹿である。その大きさを抜きにすれば、ジャイアントディアーと他の魔鹿たちにそれほどの違いはない。

 だが、騎士団を相手にするのであれば、それだけで十分だった。

 その巨体は動くだけで騎士たちの包囲を崩し、その体当たりは数十人の騎士たちが束になっても止めることは出来ない。それが戦場の中心で、常に暴れ続けるのだ。

 当然、無茶な突進を繰り返すジャイアントディアーは、あちこちに傷を負っているようだが、その巨体からすれば、それらはまだかすり傷といっても差し支えない。

 騎士たちがこの巨躯の魔鹿を完全に止めるためには、ジャイアントディアー一匹の対処に集中する必要があるだろう。

 だが、騎士たちがジャイアントディアー一匹に集中することは出来ない。この戦場にはもう一匹、恐ろしく鋭利な角を持った魔鹿ブラッディーホーンディアーがいるのだから。



 ジャイアントディアーは確かに戦いの中心にいた。騎士たちはジャイアントディアーが動く度に陣形を乱されて、昨夜のようにうまく戦えていない。しかし、ジャイアントディアーの攻撃はその派手さに反して、然程騎士たちの命を奪ってはいなかった。

 ジャイアントディアーが動けば騎士たちはそれを止めることが出来ず、体当たりを喰らえば騎士たちは烈風を受けた木の葉のように吹き飛んでいく。

 だが、騎士たちは全員が頑丈な鎧を身に纏い、的確に防ぎ、避け、受け身を取ることでジャイアントディアーによる攻撃の傷を最小限に抑えていた。

 ジャイアントディアーの攻撃はよく言えば豪快だが、悪く言うと大雑把なのだ。動くだけで騎士たちに傷を与えるが、逆に言えば動くことしか出来ていないとも言える。

 そんなジャイアントディアーの欠点をカバーするのが、ブラッディーホーンディアーだった。その鋭い角は騎士たちの頑丈な鎧を容易く貫き、そのまま持ち上げられた騎士たちの身体は、自重と角の鋭利さにより空中でバラバラに切り裂かれる。

 まさに一撃必殺。尋常ならざるその威力は、まるで全てを切り裂く妖刀のようだ。

 しかし、ブラッディーホーンディアーの攻撃はその性質上、あまり多くを相手取ることが出来ない。だからブラッディーホーンディアーはジャイアントディアーの攻撃によって陣形を崩した騎士たちを狙い、一人一人確実にその命を刈り取っていた。

 それに加えて、彼らの後方にはまだクリスタルホーンディアーまで控えている。二匹の魔鹿と違い、直接的な戦闘こそ苦手なようだが、『岩石魔法』による援護は魔導士団の魔術による攻撃を完全に防いでいた。

 このまま行けば先に後がなくなるのは、確実に騎士たちの方だろう。


 だからこそ、先に状況を変えようとしたのは騎士たちの方だった。



 前線で暴れる二匹の魔鹿たち。

 それに対抗するため、騎士団の指揮官たちが精鋭騎士を率いて、前線へと出てきた。

 昨夜の戦いでは黒牙を相手に、手こずっていた印象のある指揮官たちだが、あれはガルセコルトという脅威への対処と、手薄となった指揮所への奇襲という二つの要因があればこその結果だ。それに比べて今回は、自らの意思で指揮官たちが前線に出てきた。

 周りには手勢となる騎士と精鋭と呼ばれる騎士たちもいる。つまりはここからが、彼らの本領発揮と言えるだろう。


 前線に出てきた指揮官たちの中から、さらに戦場となっている最前線へ、二人の指揮官が踏み込んでいく。

 大盾を構えた騎士団副総長のバルガスと、斧槍を手にした第二騎士団団長のリッシュバルトだ。

 バルガスは突進を繰り返すジャイアントディアーの線路上に進み出ると、全身に力を巡らせた状態で大盾を構えた。それに構わず、突進を続けるジャイアントディアー。

 バルガスも人間たちの中では大柄な方だが、ジャイアントディアーからすれば大した違いは無いのだろう。それは例えて言うなら、大型トラックに立ち向かう人間のよう。とてもじゃないが、止められるはずがない。そう思っていたのだが……。

 現実は全く違う結果を生み出したようだ。


 ジャイアントディアーの突進は、バルガスの大盾にぶち当たった所で止められた。

 さらにその隣では、ジャイアントディアーを助けようとバルガスに狙いを定めたブラッディーホーンディアーの鋭い角を、リッシュバルトが斧槍で弾き飛ばす。

 数多くの騎士たちが苦戦した相手を、たった二人の騎士が覆してしまったのだ。

 その間に騎士たちは、騎士団総長デュランダルの指揮に従い。再度その包囲を狭めていく。

 二匹の魔鹿の不利を察したクリスタルホーンディアーが、騎士たちに向けて『岩石魔法』により生み出した無数の岩塊を放ったが、それらは魔導士団の魔術師たちが放った魔術によって相殺されてしまう。


 クリスタルホーンディアーの魔法は、一発一発が強力であり、しかも連発が可能だ。それに比べて魔導士団の魔術師たちが放つ魔術は一発の威力が低く、連発も出来ない。単純に考えれば、魔法と魔術の打ち合いはクリスタルホーンディアーの圧勝だったであろう。

 だが、魔導士団の魔術師たちには数の理がある。

 それに宮廷魔導士団副長シュトラフィカの指示が加わることで、威力の差や手数の違いをうまく補っていた。

 複数の魔術を束ねることで威力を補い、的確に狙いを配分することで手数に対処しているのだ。


 二人の指揮官たちが参戦してきてから、戦況は次第に人間側へと傾きつつあった。

 バルガスの大盾により止められたジャイアントディアーは騎士たちに包囲されることで、さらにその動きを制限され、そうして止まったジャイアントディアーの身体を精鋭騎士たちが攻撃し、その体力を少しずつ削っている。

 ブラッディーホーンディアーはリッシュバルトを突き刺そうと幾度も角を繰り出し続けるが、その全てを斧槍に弾かれ、身体をよろめかせたところを精鋭騎士たちに狙われていた。


 だいぶ嫌な流れだ。

 クリスタルホーンディアーもそれを感じ取ったのだろう。先ほどまでよりも純度の高い魔力がクリスタルホーンディアーへと集中していく。

 これは、何かを仕掛ける気だ。

 クリスタルホーンディアーが両前足を強く地面へと叩きつける。その動作と同時に、クリスタルホーンディアーに集中していた魔力が、一気に大地の中へと流れ込んでいく。

 そうしてそれは次の瞬間、解き放たれた。


 大地に立つ全てが、激しく揺れている。

 恐らくこれは大地そのものが揺れているのだ。

 局所的な地震。それがクリスタルホーンディアーの魔法が引き起こした現象だった。

 突然の揺れに、ただでさえ荒れた岩場という足場の悪い地面で戦う騎士たちは立っていることも出来ず、その場に倒れ込んだ。それは指揮官たちも、魔導士団の魔術師たちも同様に。

 だが、同じ群れの仲間である二匹の魔鹿は、そんな唐突な地震にもうまく対応してみせた。

 クリスタルホーンディアーから事前に何かしらの合図でも出ていたのか、それとも深い絆の成せる業か、地震が起こる瞬間に大地を深く踏みしめると、その揺れに耐えて見せたのだ。

 さらに二匹は間を置かず動き出すと、体勢を崩した指揮官たちへ向かって襲い掛かった。

 ジャイアントディアーは先ほどと同じように、バルガスへ向けて突進する。

 だが、先ほどと違い、今はバルガスの体勢が崩れていた。辛うじてジャイアントディアーへ向けて大盾を構えたバルガスだったが、ジャイアントディアーの突進を喰らったバルガスの身体は大盾と共に大きく跳ね飛ばされる。

 時を同じくしてブラッディーホーンディアーもまた、体勢を崩したリッシュバルトに向けてその鋭い角を突き出していた。リッシュバルトはその場で転がりブラッディーホーンディアーの角による突きを躱すが、ブラッディーホーンディアーが首を大きく真横に振るった事で同じく真横から襲い来る角の斬撃までは避け切れず、片腕を深く切り裂かれる。

 そのまま追撃を仕掛けようとする二匹だったが、それは騎士たちの後方から襲い来る無数の火の玉によって遮られた。魔導士団の魔術師たちによるファイアーボールだ。

 これまで魔導士団の魔術師たちによる魔術を相殺していたクリスタルホーンディアーは、先ほどの大きな魔法を放った影響から暫し動けないでいる。

 二匹の魔鹿は襲い来る火の玉を避けることこそ出来たが、その隙に二人の指揮官は立ち上がり、体勢を立て直してしまった。騎士たちも立ち上がり、魔鹿たちの包囲へと戻っていく。


 クリスタルホーンディアーの大技は一時的に戦況を逆転させたかに思えたが、人間側に与えられた損害らしい損害はリッシュバルトの片腕に与えた傷一つ。傷により少し動きは鈍っているようだが、それでもまだリッシュバルトは未だブラッディーホーンディアーと渡り合っている。ジャイアントディアーに吹き飛ばされたバルガスなど、その動きに微塵も変化は見られない。体勢を崩した状態であれほど激しく吹き飛ばされたというのに、大盾での防御を抜きにしてもかなり頑丈な肉体だ。

 対して魔鹿側はというと、クリスタルホーンディアーは大きな魔法を放った影響で内在する魔力が大きく減っているし、ブラッディーホーンディアーとジャイアントディアーは騎士たちの攻撃を受けて少しずつ傷が増えていっている。

 しかも相手側にはまだ、騎士団総長デュランダルが控えていた。今は騎士たちの指揮に注力しているが、あれの強さは昨夜の戦いで十分に知っている。

 騎士たちへの指揮が無くなれば、その分騎士たちの動きは鈍るだろうが、それを差し引いてもデュランダルの力は脅威だろう。

 今はまだ魔鹿たちも耐えているが、このままいけば程なくして騎士たちに敗北する可能性は高い。

 そうなればダンジョン手前の土地は騎士たちに制圧され、ダンジョンを進む高ランク冒険者たちは後方からの強力な援護を得るだろう。

 私に今、出来ることはただ一つ。

 魔鹿たちが耐えている間に、ダンジョン内での戦いを終わらせることだ。


 魔鹿たちよ、もう少しだけ耐えてくれ。

 せめて、ダンジョンの中に侵入した者たちとの戦いが始まるまで。



 〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『並列思考』のレベルが4から5へ上がりました〉







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ