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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
第三章 勇王国進軍の章

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81.魔狼たちの戦場

あらすじ


ダンジョンに侵入してきた四つの高ランク冒険者パーティー。

深淵の探索者、殲滅の理、魔獣狩り、神姫の槍。

彼らは深淵の探索者の持つスキルの力で、迷うことなく大迷宮となった第一階層を最短経路で進んでいた。

私が差し向けた複製体のゴブリンたちも一瞬で倒していく。

幾度も差し向けた甲斐があり彼らの戦闘スタイルは朧気ながら分かってきた。

その中でもやはり特筆すべきは、唯一のAランク冒険者パーティー魔獣狩り。

夜襲でメンバーの一人が討たれても、ガルセコルトに重傷を負わせたその実力は未だ健在のようだった。

本当に厄介な侵入者たちだ。




 侵入者たちは第二階層へと下る階段を守る守護者も早々に突破して、第二階層へと辿り着いた。

 この侵入者たちにしてみれば、道中で襲わせた複製体のゴブリンやゴブリンファイターと、第二階層へと続く階段を守る守護者として配置したゴブリンリーダー率いる鍛え抜かれたゴブリンとゴブリンファイターの集団に、そう大した違いは無かったようだ。

 守護者のゴブリンリーダーは、策を巡らす時間すら与えられずに倒されてしまった。

 守護者の配置というダンジョンコアの機能で強化されていたとはいえ、ゴブリンリーダーはEランクの魔物だ。

 さすがにここまで数と実力を揃えた敵が相手では、どうしようもない。


 第二階層にやってきた侵入者たちは、ここでも第一階層と同じように最短経路を進んでいく。時折襲い来る複製体のファングウルフたちを蹴散らしながら、第三階層へと続く階段のある部屋を目指して一直線に。

 一応、第二階層も第一階層と同じく、ダンジョンの拡張には着手していた。けれど、まだ第二階層には第一階層ほどの広さは無い。第二階層の拡張が完了する前に、人間たちが攻めてきたからだ。そのため、第二階層を第一階層と同じような最短経路で進まれては、すぐにでも第三階層へと続く階段のある部屋に辿り着いてしまう。

 まあそれは、何の障害も無いという前提での話だが。


 第二階層も順調に進んでいた侵入者たちだったが、彼らはある部屋の前まで来ると、ダンジョンに入ってから初めて、その足を完全に止めた。

 侵入者たちが足を止めたのは、以前までゴブリンの部隊を待機させる部屋として使っていた中部屋の前だ。そこで侵入者たちは、暫く話し合った後に、改めて戦闘の準備を始めた。

 どうやら部屋の中にいるモノの気配を感じ取り、他の道が無いかを話し合っていたようだ。

 だが、それは不可能である。

 私は昨夜のうちに第二階層の構造を弄って、この中部屋を通らない限りは先へ進めないようにした。侵入者たちが、この中部屋を避けることが出来ないように。

 第二階層にある中部屋は、このダンジョンの中で一番広い部屋だ。

 だからこそ私はここが良いと判断した。ここならば、あの巨体でも十分に戦えると。


 侵入者たちは戦闘の準備を終えると、暫くの後、意を決して中部屋へと足を踏み入れる。

 そんな侵入者たちを部屋の中央にて迎えたのは、闇属性の魔力を身に纏うBランク特殊個体の魔狼ガルセコルト。

 人間たちが恐怖を込めて、夜襲の黒狼と呼ぶ魔狼だ。



『読心』スキルでの情報収集により、私は昨夜の内から人間たちが何としてもダンジョンへ高ランク冒険者たちを送り込もうとしているのを知っていた。

 それ故に私は、昨夜のうちから黒牙をダンジョン内へ呼び戻している。黒牙にダンジョンの中へ侵入してきた者たちを、返り討ちにしてもらうために。

 だが、人間たちから得た情報の通りならば、侵入してくる者たちはいずれも高ランクの冒険者パーティーだ。

 いざとなれば私には、DPを使った配下の瞬間的な強化、DPブーストという奥の手もあるけれど、それを加味しても、あの数の侵入者を黒牙一匹に任すのは厳しいだろう。

 昨夜の戦いぶりを知れば、その思いはさらに強くなる。


 そこで私は、ガルセコルトを含む魔狼たちにある提案をした。

 人間たちは明日、確実にダンジョンへ攻めてくる。

 その時、魔狼たちはダンジョン内で人間たちを迎え撃ってもらえないか、と。

 この提案には当然のことながら、ダンジョン内に高ランク冒険者たちの相手が出来るような戦力を増やしたいという私自身の望みが含まれている。しかし、それだけではない。

 これは魔狼たち側にも、しっかりと利点のある話なのだ。

 その一つが、戦場となる環境である。


 人間たちが攻めてくるとなれば、戦いの場は必然的にダンジョン手前に造られた広場になるだろう。しかしそこは、魔鹿たちがダンジョン近くに縄張りを移動させた頃から、クリスタルホーンディアーの『岩石魔法』による地形改変によって、ゴツゴツとした岩場へと変化していた。



 元々、魔鹿たちは病魔の森の中において、狩られる側の存在だったという。

 だが、そんな魔鹿たちの中に異質な進化を遂げた魔鹿が現れたことにより、状況は一変する。それこそが、クリスタルホーンディアーという魔鹿の存在だ。

 クリスタルホーンディアーは『岩石魔法』により縄張り内をゴツゴツとした岩場に変化させると、魔鹿たちをその環境に慣れさせた。足場の悪い岩場でも問題無く動けるように。

 恐らく、元々適正はあったのだろう。

 この試みは、縄張りの中での魔鹿たちの生存率を大幅に上昇させた。さらに一部の魔鹿の中には縄張りへ迷い込んできた魔物を狩って、新たなBランク魔鹿への進化を果たす個体も出現する。

 その結果、この魔鹿の群れは病魔の森の中で、一つの勢力として拡大していったという。

 そういう由来もあって、魔鹿たちは簡易な縄張りであり、尚且つ壁が破られた時に戦場となる可能性が高いダンジョン手前の環境を、予めゴツゴツとした岩場へと改変していたのだ。自分たちが戦いやすいように。

 しかし、これは魔鹿と魔狼の諍いの原因の一つにもなっていた。岩場という環境は魔鹿たちの有利には働くが、魔狼たちにとっては動きにくいことこの上ない。

 さすがにこのような場所で戦うのは、森という環境に慣れた魔狼たちには辛かろう。

 それに比べて、ダンジョンの中はどうだろうか。

 ダンジョンもまた森の中とは違う環境ではあるが、岩場ほど戦いにくい場所ではない。外よりか少し薄暗くはあるけれど、夜の森でも狩りを行っていた魔狼たちならば、それも問題にはならないだろう。

 これは魔狼たちにとって、大きな利点となりうる。


 それに、前生では敵の敵は味方なんて言葉があったけれど、魔狼たちと魔鹿たちの仲の悪さは、敵を同じくした程度で改善されるとは思えない。さすがに戦いの最中で同士討ちが始まるとは思わないけれど、協力して戦うという可能性は皆無であろう。さらに、戦いが長引けば互いを邪魔と考えても不思議ではない。

 それならば、最初から別の場所で戦う方が戦いやすいのではないか。

 地形の問題と合わせれば、魔狼側が別の場所へ移動した方が問題はあっさりと解決する。


 そうなると後の問題は、魔狼たちが魔鹿たちに対して戦場を譲ることをどう思うかという所なのだが。

 それについては、とくに魔狼たちから言及されることも無く、私の提案は受け入れられた。

 魔狼たち曰く、今よりも戦いやすい場所があるというのであれば、狩場を移るのは別に構わないとのこと。


 その時、私はもう一つ、ガルセコルトだけにある提案をしていた。

 それは、ダンジョン内での魔狼たちの戦い方についてである。

 私はガルセコルトに、魔狼たちを直接戦わせるのではなく、第二階層の複製体であるファングウルフの指揮権を渡すことで、間接的に戦いへ参加させる方法を提案したのだ。

 作戦会議の結果からしてダンジョンに侵入してくるのは、十中八九高ランクの冒険者たちである。あれらが相手となれば、きっと魔狼たちはあっさりと殺されてしまうだろう。

 それでも魔狼たちは、絶対に戦いから逃げたりはしない。

 今度こそ、仲間として戦うガルセコルトの役に立つため。

 だが、それはきっと、ガルセコルトにとって避けたいであろう事だ。


 前々から、ガルセコルトと魔狼たちの考え方の違いには気が付いていた。

 どちらも同じ群れの仲間の事を考えてはいる。そこまでは同じ。

 違うのは魔狼たちが群れで問題の解決に当たろうとするのに対して、ガルセコルトは常にその力に任せて単身で問題を解決しようとしている所である。

 そこには恐らく、色々な理由があった。

 ガルセコルトと魔狼の間にある戦力の違い。特殊個体であるガルセコルトという種族の性質。置かれた立場の違い、など。

 どちらにも言い分はあるのだろう。

 だが、そもそもガルセコルトがこの群れに留まっているのは、人間という魔狼の群れを滅ぼしかねない脅威に対抗するためだ。

 だからこそ、これまでガルセコルトは魔狼たちを出来る限り強い相手と戦わせないようにしていた。

 しかし、それも限界に近づいている。

 魔狼たちはもう、ただ守られているだけの状況には耐えられなくなっているのだ。

 それは昨夜の戦いで、ガルセコルトが厳しい状況へ追い込まれた際、今にも飛び出していこうとしていた魔狼たちの事を思えば、察することが出来るだろう。

 あのままガルセコルトが撤退を吞まなければ、魔狼たちは確実にあの戦場へ挑んでいた。

 だからこそ、今回は最初から魔狼たちに役目を与えておくのだ。

 魔狼たちには背後から、複製体のファングウルフを操って人間たちを襲ってもらう。そうすることで、魔狼たちも間接的に戦いへ参加出来るし、危険は直接人間たちを襲うより少なくなるはずだ。

 勿論、直接戦いたい魔狼たちはこの提案に不満を持つだろう。それでも、ただ守られているだけの立場よりかは、納得しやすいはず。

 ガルセコルトは私の予想通りこの提案に賛同し、魔狼たちにもこの提案を了承させた。

 ようやく人間たちと再戦できるチャンスが巡ってきたというのに、直接戦うことを禁止された魔狼たちの中には案の定、多少の不満もあったようだ。

 しかし、ガルセコルトに逆らってまでその不満を押し通そうとするものは出てこなかった。


 結果として、第二階層にて複製体のファングウルフを操って人間を襲う事は、魔狼たちにとって多少のうっぷん晴らしにはなっているようだ。複製体のファングウルフたちに命令を下す魔狼たちは今までよりも生き生きとしているように感じた。

 先を急ぐ侵入者たちも複製体のファングウルフを裏で操る魔狼たちまで、わざわざ狙おうとはして来ないし、魔狼たちに対する被害は最小限に収められそうだ。


 これでガルセコルトも、魔狼たちのことを気にすることなく、戦いに集中できるだろう。



 ダンジョンの中部屋、その中心で闇の魔力を纏ったガルセコルトが、部屋に踏み込んできた侵入者たちに向けて『威圧』を放つ。

 騎士たちの身体をすくませ、その動きを止めたガルセコルトの強烈な『威圧』だ。けれどこの侵入者たちは、真正面から来たその『威圧』を耐えて見せた。さすがは高ランクの冒険者たち。その立ち姿は誰もが、堂々としていた。

 ガルセコルトを前にして、侵入者たちが武器を手に取り、臨戦態勢へと変わっていく。

 その時、その中からいち早く一歩進み出てくるパーティーがあった。

 Aランク冒険者パーティー、魔獣狩りだ。

 魔獣狩りは他の侵入者たちを背にすると、彼らに向けて覚悟を帯びた言葉を発した。


「お前たちは先に行け。こいつは俺たちが引き受ける」

「……いいのか?」


 それに対する返事は、困惑と疑心が入り混じったもの。そこに込められた感情の詳細までは分からないが、どうやら他の侵入者たちは、魔獣狩りの真意がつかめていないようだ。

 つまりこれは、事前の作戦にあった事では無いということ。


「魔王討伐の栄誉も悪くは無いが、夜襲の黒狼が相手となれば、俺たちが出ないわけにはいくまい」

「こいつは魔王にも匹敵すると言われる力を持った魔物だ。ここでこいつを狩ることが出来れば、そいつは魔王討伐にも比肩する大金星よ」

「それにな、魔獣という時点で、こいつは俺たち魔獣狩りの獲物。あの首は、誰にも奪わせはしない」


 魔獣狩りのメンバーが、それぞれにその理由を口にする。

 人間たちの事情を知らぬ私には、分かるような分からぬような理由だが、そう言えば昨夜の戦いで、ガルセコルトと戦う騎士たちの間へ最初に割り込んでいったのも、この魔獣狩りだった。

 なんにせよ、他の侵入者たちが武器を収めたということからも、その理由には相応の価値があったのだろう。

 私としても侵入者たちの最大戦力であるAランク冒険者パーティーがここで止まってくれるのは有難い事だ。まあ欲を言うなら、侵入者全員にここで立ち止まっていて欲しかったところだけれど。ここには守護者部屋のように、条件が満たされるまで先へ続く道を閉ざすような仕掛けは無い。それに加えて同盟者でしかないガルセコルトへの命令も出来ない以上は、絶対に通さないでくれなどと告げた所で意味は無いだろう。


 魔獣狩りがガルセコルトに戦いを挑むと、その合間を縫って他の三パーティーが先へ続く通路へと抜けていく。

 ガルセコルトは彼らを見逃したのか、はたまた見逃さざる負えなかったのか。

 どちらにせよ、魔獣狩りを欠いた侵入者たちは、無傷のまま道の先へと進んだ。


 道中にはまだ、魔狼たちに指揮された複製体のファングウルフが多く待ち構えているけれど、この侵入者たちの実力であれば大した問題にはならぬだろう。

 程なくして侵入者たちは第三階層にやってくる。

 第三階層は然程拡張もしていないし、配置しているのは複製体のレイスだけ。レイスは物理攻撃が効かないというFランクの魔物にしては強力な特性を持つけれど、魔術を使われれば相応に脆い。多くの魔術師を擁する殲滅の理がいる限り、ここで冒険者たちが苦戦する可能性も無いだろう。

 そうなれば、侵入者たちが第三階層を突破して第四階層にやってくるのもすぐだ。


 これで第四階層にて侵入者たちを待つ黒牙には、三つのBランク冒険者パーティーを同時に相手取ってもらうことになった。

 しかも、奥の手があるとはいえ、誰一人として先へは通さぬという縛り付きで。

 何せ、第四階層を抜けられてしまえば、その先にはもう私の弱点であるダンジョンコアの置かれた部屋があるだけ。たった一人でもそこに辿り着かれてしまえば、私はお終いだ。

 だからこそ、黒牙はこのダンジョンの最終防衛線なのである。


 黒牙には何としてでも、勝ってもらわねば。



 〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『並列思考』のレベルが3から4へ上がりました〉









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