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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
第三章 勇王国進軍の章

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77.勇王国カツラギ騎士団総長

あらすじ


治療所の戦いから撤退した黒牙は、私からの情報をもとに手薄となった指揮所を狙う。

数こそ少ないがそこは騎士たちの要。

それを殲滅できれば、一気にこちらへ戦況は傾く。

だが、事はそううまくは運ばない。

二人減ったとはいえ、彼らの実力は本物だった。

三人で連携し、見事に黒牙の動きを抑えたのだ。

私は治療所を守るリッシュバルトたちの動きに注意しつつ、その戦いの行方を見守る。



 最初はゆっくりと。

 次第に速度を増して、黒牙が三人の周囲を走り回る。

 しかし、黒牙の視線の先にはいつも、巨大な盾が存在していた。


 大盾を構えた騎士団副総長バルガスは、騎士団総長デュランダルと精鋭騎士ウェイスをその背後にしっかりと守っている。

 かなり巨大な盾だ。それはバルガスの身体を、黒牙の視界からすっぽりと覆い隠している。

 あれではあちらの視界も通らないだろうに、バルガスの大盾は常に動き回る黒牙へと向けられていた。恐らく『気配察知』で居場所を察して、その方向に大盾を向け続けているのだろう。

 黒牙は暫く三人の周囲を回って隙を探っていたが、どうやら隙は見つからなかったようだ。やがて身体に魔力を巡らすと、バルガスに向かって突っ込んでいった。そしてバルガスの構える大盾の直前まで来ると、そこで急激に方向転換し、バルガスを背後から襲い掛かる。

 しかし、大盾の動きは素早く、全力で走る黒牙の動きについていき、ギリギリの所でその攻撃を受け止めた。とはいえ、黒牙の速度へ追いつくために、少し無理をしたのだろう。大盾を構えたバルガスの身体が少々よろける。さすがに無理な体制で黒牙の攻撃を受け止めるのは厳しかったようだ。

 その隙をつき、黒牙がバルガスの身体へ追撃を仕掛けた。一対一であったなら、或いはその追撃でバルガスの防御を打ち破ることも出来たのかもしれないが、ここにはまだ二人の敵が残っている。

 よろけたバルガスに追撃を仕掛けようとした黒牙に対して、大盾の後ろからデュランダルの突きが放たれた。そしてそれを避けた黒牙に対して、続けて飛び出したウェイスが双剣を振るってくる。

 一つ一つの斬撃を慎重に避けていく黒牙だが、ウェイスの攻撃は止まらない。高速で放たれる連撃には、欠片ほどの間隔も無かった。

 純粋な速度ではウェイスより、黒牙の方が上だ。黒牙が冷静に対処すれば、ウェイスの攻撃を避け続けることに問題は無い。

 だが、そこにある差は圧倒的と言う訳でも無かった。追いすがるウェイスはギリギリの所で、黒牙に肉薄している。それはまるで、反撃は許さないと言うように。

 黒牙は暫くウェイスの双剣による連撃を回避し続けていたが、あえて刃を一つ身体に受けると、そのまま無理やりウェイスへと攻撃を仕掛けた。

 ウェイスの刃が黒牙の身体を切り裂いたが、黒牙もウェイスの首筋を狙って跳びかかっている。ウェイスは咄嗟の動きに、対応が一瞬遅れていた。これは決まる。

 そう思った次の瞬間、黒牙の身体があらぬ方向へと跳ね飛んでいた。



 何が起こったのか理解が追いつかない。全体を知覚していたはずなのに、私はそれを認識できていなかった。だからこそ、『加速思考』を強く意識して、記憶を一から解析していく。

 その結果、分かったのは、どうやら黒牙は自身の意思で、その場から離れたということだ。


 黒牙がウェイスを狙ったその瞬間、ウェイスと黒牙の間にデュランダルの姿があった。デュランダルはそこで、剣を振り下ろしていたのだ。丁度、黒牙がそこを通過する瞬間を狙って。

 刃が真上へ迫った所でそれに気が付いた黒牙は、己の尻尾を動かして刃の側面を叩き、自らの身体を無理やり方向転換させたのだ。

 あんな細い尻尾でよくあの速度で進む身体の進行方向を変えられたものだ。

 そうして黒牙は、ギリギリのところでデュランダルの攻撃を避けることに成功した。

 それにしても、デュランダルの動きは一体どういうことなのだろうか。


 私があの場所へ満ちた魔力からその性質を読み取った限り、あの光の領域の効果はあそこにいる全ての者へ平等に影響を与えているようだった。それ故に、あの中で隠れ潜むことは誰であっても不可能に等しい。それはある意味、ガルセコルトの使った真闇とは真逆の性質。あの光の領域の中では、全てが白日の下にさらされるのだ。

 だというのに、デュランダルの接近に黒牙は直前まで気が付いていなかった。私自身、記憶には存在するというのに、それをその瞬間に自覚することは出来ていない。

 黒牙があの場で油断していたということは無いだろう。黒牙は攻撃の瞬間まで、『気配察知』で三人の位置を常に確認していたはずだ。

 それでも黒牙はあの瞬間、デュランダルの位置を見失っていた。

 私もまた、同じだ。

 思えば最初に黒牙が仕掛けた際も、黒牙はデュランダルが攻撃してくる瞬間まで気が付いていなかった。直前で気が付き、方向転換して難を逃れたのだ。

 寸前で刃を止めたにも関わらず、その先の大地にまで傷を刻む一撃の威力と、黒牙の動きを先読みして仕掛けてくる攻撃、そしてあの光の領域の中で一瞬でも姿を見失わせる技能。

 あの三人の中で、デュランダルという存在は特に危険だ。さすがは勇王国カツラギの騎士団総長といったところか。

 これからデュランダルの動向には、殊更に注意を向けていかなければならないだろう。


 吹き飛んだ先で黒牙は即座に体勢を立て直したが、それよりも一瞬早く体勢を立て直していたウェイスの連撃が、再び黒牙を襲う。黒牙はまた、それを確実に避けていく。

 デュランダルの位置を確認すると、バルガスの近くにいた。そこでガルセコルトと戦う騎士たちの指揮を行っている。随分と余裕な様子だ。

 黒牙はウェイスの連撃を大きく避けてデュランダルの側へ降り立つと、そのままデュランダルに向けて跳びかかった。デュランダルはガルセコルト側で戦う騎士たちの指揮に集中しており、黒牙の接近に反応出来ていない。

 しかし、黒牙の攻撃はデュランダルへ届く前に、バルガスの大盾で防がれてしまった。バルガスの側はあの大盾の守備範囲内のようだ。

 なるほど。あれは攻撃に反応できなかったのではなく、反応する必要が無かったのか。

 黒牙の突撃を防いだバルガスは、そのまま大盾を押し出して黒牙の身体を宙に浮かせる。その隙をつき、ウェイスが双剣で襲い掛かった。

 それに対して黒牙は、魔力を身体に巡らせつつ、その身体を小さく丸める。それは、黒牙の防御体勢だったのだろう。ウェイスの刃が黒牙を斬るが、黒牙の身体は毬のように跳ね飛んで、受ける傷を最少に抑えた。

 そうして跳ね飛んだ黒牙は地面に着地すると、ウェイスへ向けて跳びかかる。

 しかし、黒牙は寸前のところで、また進む方向を変えた。先ほどと同じだ。

 また、デュランダルの攻撃が来たのかとデュランダルの位置を探るが、まだデュランダルはバルガスの側にいる。

 あれ、何だったんだろう?


 それからも黒牙は、幾度もウェイスへ攻撃を仕掛ける直前で進む方向を変えた。他を狙う訳でもなく、ただ反撃のフリをする。

 勿論だが、ウェイスもまた黒牙を狙い、攻撃を続けていた。

 黒牙はそんな攻撃の合間を縫って、反撃をするでもなくそんな行動を行っているのだ。

 ウェイスの連撃は、なおも隙間なく黒牙を襲う。そこを縫って反撃を加えようとするには、黒牙もそれなりの犠牲を払っていた。

 黒牙の身体に浅くない傷が無数に増えていく。

 それでも黒牙はその動きを止めない。執拗に、何かを探るようにして。


 幾度も幾度も黒牙が同じような行動を繰り返していると、次第に黒牙の反撃の隙を狙い、デュランダルが黒牙へ攻撃を仕掛けてくるようになった。

 どうやら黒牙の反撃へデュランダルが仕掛けてくる状況には、何かしらの法則性があるようだ。その証拠に、黒牙の反撃が繰り返されるたび、デュランダルが攻撃を仕掛けてくる確率が上がっていく。

 黒牙は無意味にも思える行動を幾度も繰り返すことで、その法則の糸口をつかんだのだ。

 そうして黒牙がウェイスへ反撃を行おうとすると、必ずデュランダルが動き出すようになった。たとえその攻撃を毎回黒牙がギリギリのところで避け続けているとしても。


 その光景だけであれば、黒牙が常にウェイスを倒そうと、その機会を伺っているように思える。そうしてウェイスの隙をつき反撃を行い、デュランダルの攻撃に邪魔をされて、それを避けることで、仕方なく反撃できずに終わってしまう。その繰り返し。

 ただしそれは、これまでの黒牙の行動を、勘定に入れなければの話だ。

 黒牙は何かを待っている。

 何をだ?

『並列思考』により分けられた副思考が集めた戦場の情報を探れば、それはすぐに分かった。デュランダルが黒牙に意識を向けることで、ガルセコルト側で戦う騎士たちの指揮が不完全になっている。

 ガルセコルトと戦う騎士たちの動きは、一瞬の隙すら命取りとなる精密なものだ。誰か一人でも足並みを乱せば、その隙をガルセコルトは見逃さない。その結果、既に数名の騎士が命を失う事となっていた。

 だからこそ、デュランダルは黒牙という敵を前にしても出来る限り騎士たちの指揮を続けていたのだ。

 黒牙はデュランダルを戦いの場へ引きずり出すことで、その指揮を乱している。

 黒牙は困難な状況の中で、見事に私の命令を遂行していたのだ。


 ガルセコルト側の戦闘は、現在ガルセコルトの優勢に傾き始めている。

 このまま時間を稼ぎ続ければ、もう少しでガルセコルトがあの場から撤退できそうだ。

 そう、あとは時間を稼げばいい。

 その程度であれば、私にも出来ることはある。

 ガルセコルト側の戦闘が激しさを増したことで、治療所を守っていたリッシュバルトたちが指揮所で起こった異変に気付き始めた。このままだと、彼らが黒牙の戦いに参戦してくる。


 私は『伝心』を使い、ダンジョン内に待機させていた名付け用のケーブラットたちに、治療所へ向かうよう命じた。

 ダンジョンに待機させているケーブラットはそこまで多くは無い。それに戦闘力は皆無と言ってよいだろう。あの騎士たちが相手となれば、尚更に。

 しかし、彼らもまた歴とした魔鼠である。そう、騎士たちが殲滅を望んでいる魔鼠だ。

 その上彼らは、散々魔鼠の黒牙に奇襲を喰らって、警戒心を高めている。

 使い方によっては、暫く時間を稼ぐ程度のことは出来るだろう。

 もしそれでも足りなければ、病魔の森に散っている魔鼠情報網の一部を呼び戻して使う予定だ。あまりにも遠い場所からだと、ケーブラットの足では時間が掛かりすぎるだろうが、近場に散っているケーブラットもそれなりにいる。

 そうこうしている間にも、ケーブラットたちが治療所付近の藪の中へ辿り着いた。

 私はその中から数匹に、治療所へ襲撃を仕掛けるよう命令を飛ばす。こうして小分けに治療所へ向かわせて、今しばらくの間、リッシュバルトたちを治療所に留めるのだ。


 向かわせたケーブラットたちは騎士たちに近づいた所で瞬殺されてしまった。しかし、『読心』で探る限り、彼らをあの場に留まらせる理由にはなったようだ。

 私は続けて周辺の森の中からケーブラットたちを集めつつ、やってきたケーブラットたちを少しずつ消費していく。


 彼らと繋がる僅かな絆を通して、死の感覚がチリチリと心を焦がす。だが、私のスキル『精神的苦痛耐性』が仕事をしてくれるお陰か、それによる心の痛みは今のところ無い。

 死は私が最も忌避すべき、絶望の象徴。ダンジョン内にいる複製体や、私から離れた位置で死んでいくケーブラットたちに比べると、私の命令を受けて死んでいくケーブラットたちから流れてくる死の感覚は、少し煩わしい。

 しかし、まだ許容範囲内だ。



 黒牙の活躍とケーブラットたちによる決死の足止めが功を奏し、とうとうガルセコルト側の戦場に明確な変化が起きた。

 ガルセコルトがついに、騎士たちの包囲の一部を打ち破ったのだ。

 これでガルセコルトの退路は確保できた。あとはガルセコルトが光の領域の外へ向かうだけだ。

 一瞬、ガルセコルトがそのまま暴れ続ける可能性も考えたけれど、ガルセコルトは大人しく破った包囲の穴を抜けて、光の領域から離脱した。

 それを確認した私は、黒牙に即時撤退の命令を下す。

 黒牙は私の命令を受けた瞬間、躊躇うことなくその場から逃げ出した。それなりの傷は負ってしまったようだが、即座に動いたことで、何とか離脱することに成功したようだ。

 あのまま戦い続けていたら、ガルセコルトと戦っていた騎士や高ランク冒険者たちが合流して、逃げるに逃げられなくなっていた可能性もあるし、傷ならダンジョンまで帰ってこれば、回復の泉ですぐに回復させることが出来る。


 こうしてガルセコルトは、光の領域からの撤退に成功した。

 さて、黒牙を案内役にして、ガルセコルトにも回復の泉を使ってもらうとしようか。



 ガルセコルトと黒牙が人間たちの野営地から撤退した後も、光の領域は展開されたままだ。魔力の流れは安定しているし、あれは少なくとも夜明けまであのままだろう。

 人間たちの警戒も高いままで、光の領域の中心近くへ集まっている。

 あれではもう一度、即座に夜襲を仕掛けると言う訳にもいかない。

 だが、人間側にも少なくない被害が出ている。ならば、さすがにあちらがすぐ動くということも無いだろう。


 今夜の動きは、一先ずこれで終了か。

 事態が動くとしたら、夜明けのあと。

 それまでに、手に入れた情報の整理や、戦力の再確認、そして同盟者たちとの対話など、色々とやっておかなければ。







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― 新着の感想 ―
[一言] 今思ったんですけど、惨劇の跡地があるなら、スケルトンラット?は名前的に死霊系みたいですので、召喚して黒牙みたいに育てたらダンジョンのバフもかかって強くなりますのでダンジョン守りやすくなるんじ…
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