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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
第三章 勇王国進軍の章

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76.次なる標的

あらすじ


リッシュバルトは他の騎士たちと一線を画す力を持っていた。

しかし黒牙はそれを往なしてさらに高ランク冒険者を一人討ち取る。

だが、順調だったのはここまでだ。

多くの仲間を屠った黒牙に怒りを爆発させたリッシュバルトは、次の瞬間、冷静な思考でこちらの意図を読み取ると、騎士たちと共に、治療所を守ることに集中しだした。

さらに各所へ伝令を送り、増援の要請も行う。

騎士たちの防御陣形は突破できず、時間を掛ければ増援が駆けつけてくる。

それを察した私は、黒牙へとその状況を説明したうえで、継戦か、撤退か、黒牙自身に判断してもらうこととした。




 私は黒牙に向けて、『伝心』を送る。


 ――黒牙、そちらに増援が向かっている。厳しそうなら一度、こちらへ戻ってこい。


 これで、あとは黒牙のタイミングで逃げてくれるはず。あの慎重な黒牙ならば、引き際を間違えるという事も無いだろう。

 幸か不幸か、リッシュバルトたちは完全に治療中の者たちを守ることに集中している。今の状況であれば、攻めるのは難しくとも退くのは簡単だ。

 治療所があるのは丁度、光の領域の外縁近く。少しでも外れれば、すぐに夜の森の中だ。そのまま闇に紛れてしまえば、あとはどうとでもなる。

 万が一、それでもまだ何らかの手段を使って黒牙の後を追ってきたのならば、こちらとしてはむしろその方が有難い。

 壁の近くまで彼らが黒牙を追ってきたら、その時こそ準備していたゴブリンシャーマンたちによる魔法攻撃の雨をお見舞いしよう。一応黒牙には、そのことも伝えておく。

 そもそも彼らは魔鼠の討伐をするためにやってきたのだ。黒牙を取り逃がさぬよう追いかけてくる可能性はゼロではない。まあ、騎士たちを指揮するリッシュバルトの様子を見る限りは、あまり高くない可能性だと思うけど。



 それから少しの間、リッシュバルトたちとの攻防を繰り返した黒牙は、彼らから逃げるようにして闇の中へと跳び込んだ。そうして光の領域のすぐ側にある茂みへ潜むと、じっとリッシュバルトたちの様子を窺う。

 リッシュバルトたちは黒牙が闇の中へ消えた後も、その場から数歩下がった以外は動くことなく、じっと黒牙の消えた闇へと盾を構え続けていた。

 彼らに黒牙を追おうという様子は無い。

 やはり、今のリッシュバルトは大分慎重になっているようだ。


 リッシュバルトたちが全く追ってこないというのであれば、色々と話は変わってくる。

 黒牙の襲撃に対処するため、各所から増援が割かれた結果、次第に治療所の警戒は高まっていった。だが、それは同時に他の地点にあった戦力が減ったことを意味する。

 今ならば、他の地点が狙いやすいのではないだろうか。

 襲撃候補だったあと二つの地点。

 指揮所と、魔導士団のいる地点。

 狙うとしたら指揮所だろうか。

 指揮所からは、リッシュバルトと護衛の騎士一人が治療所の防衛に向かっている。元々人数が少なかったこともあり、残りは指揮官が二人と護衛の騎士が一人。強さを感じた指揮官のみの単純計算で言えば、今の戦力は元の三分の二だ。

 とはいえ、実戦を経験していない私には、正確なところは分からない。

 このまま治療所の突破を目指すか、それとも指揮官のいる地点を狙うかは、黒牙に判断して貰う方が良いだろう。先ほどだって、結果的にそれでうまくいったのだから。

 私に出来るのは、実際に戦う黒牙へ、その情報を伝えることだけだ。


 私から情報を受け取った黒牙だったが、すぐに指揮官のいる地点へ向かうことは無かった。黒牙は暫く同じ場所に隠れ続け、リッシュバルトたちの様子を観察し続けたのだ。

 そうしてたまに、闇の中から光の領域の中へと踏み入ると、騎士たちへ攻撃を加え、闇の中へと戻っていくのを繰り返す。

 隠れてから次に現れるまでの時間はバラバラで、すぐに向かうこともあれば時間を置くこともある。攻撃を加えた時、隙があれば突破を目指すこともあったが、そちらは完全に防がれてしまっていた。しかし、それで諦めることなく、黒牙は攻撃と撤退を繰り返す。

 やってきた増援が闇の中から飛び出してくる黒牙を狙って攻撃を加えようとも、黒牙はその全てを避けるか、あるいは防ぐことで対処した。騎士の武器も、魔導士団の魔術も、走り続ける黒牙の急所を完全に捉えることは出来ない。

 最初こそ闇の内からの奇襲に不覚を取る事もあった人間たちだが、暫くそんなことが続けば、あちらも黒牙の奇襲には慣れてくる。

 リッシュバルトたちは増えた数を有効に使い、闇の中から飛び出してくる黒牙に複数で当たることの出来るよう陣形を組み替え、さらに交代で光の領域の境界線を見張ることで、常に闇の中から襲い来る黒牙への対抗策を敷き始めた。

 増援にきた魔導士団の魔術師たちも、黒牙が消えていった闇の中へ、無作為に攻撃魔術を放つなどして牽制を行っている。光の領域の外であれば、黒牙の闇で魔術を防ぐことも出来るので、然程危険ということも無さそうだが、鬱陶しくはあるだろう。治療所の防衛につく騎士の数も増えてきたし、やはりもうこれ以上は治療所で新たな高ランク冒険者の命を狙うのは厳しそうだ。

 黒牙もようやくそれを感じたのか、ついに治療所近くの藪の中から指揮所に向けて、移動を開始した。



 さて、指揮所に現在、詰めているのは三人。

 集めた情報から考えて、勇王国カツラギ騎士団総長デュランダル、同副総長バルガス、そして彼らの護衛としてついている第二騎士団の精鋭騎士と呼ばれていたウェイスの三人だ。

 私の知覚で感じた力を信じるならば、三人ともCランク相当の実力は持っている。

 もう少し細かく分類すると、デュランダルとバルガスがCランクでも上位で、ウェイスがCランクなりたてと言った感じだろうか。

 以前の黒牙であったなら、不意打ちならばともかく、正面からの戦いでは厳しい戦いになっていたであろう相手。だが、今の黒牙の力があれば、たとえ『闇魔法』を封じられた状態であろうとも、十分に勝つ可能性はありそうだ。

 あの三人が、私の感じた強さ通りの実力であるならば。


 私はリッシュバルトにもCランク相当の強さを感じていた。しかし、リッシュバルトの戦いを見るに、どう考えてもBランクの黒牙と単身で何とか戦いになる程度の実力はある。あのまま戦っても、黒牙が負けることは無かったと思うけれど、倒すにはそれなりの時間が掛かったことだろう。

 そもそも黒牙自身が指揮所を五人揃っている状況で襲うのは危険だと判断していたのだ。

 ならば彼らもまた、感じる強さそのままの実力と考えるべきではない。

 二人分の戦力が減ったとはいえ、果たして黒牙に勝算はあるのだろうか。

 それにこちらで戦うにも、あまり時間は掛けられない。時間をかけてしまえば、治療所を守っているリッシュバルトが、指揮所を襲う黒牙に気付き、戻ってくるかもしれないからだ。リッシュバルトたちが戻ってくれば、また黒牙が危険だと判断した状況に戻ってしまう。

 そうなる前に、あの三人をどうにか出来ればよいのだが。

 とはいえ、黒牙が散々治療所を狙って奇襲をかけ続けたことで、リッシュバルトたちは治療所に釘付けの状態だ。

 なるほど。これならもう暫くは、指揮所に戻ってくることは無いだろう。



 目的地付近に辿り着いた黒牙は、闇の内から指揮所を観察していた。

 黒牙が狙っているのは、騎士団総長デュランダル。

 一番相手が油断している初撃で、一番重要な相手を狙うのだ。

 幸いなことに、指揮所は光の領域の外縁とそう離れてはいない。

 たとえ黒牙が光の領域に足を踏み入れた時点で、その存在を騎士たちに察知されたとしても、今の黒牙が最高速で跳び込めば不意を突ける可能性は十分にあるだろう。

 それに彼らは、ガルセコルトを包囲する騎士たちの指揮に集中している。

 それはまあ、当然のことだ。現状、戦況はあちらが押しているとしても、未だに小さな失敗から一気に瓦解する可能性は常にある。彼らが相対するガルセコルトには、それだけの力があるのだ。

 騎士たちの指揮の中核を担う騎士団総長であるデュランダルを倒すことが出来れば、騎士たちの戦力を大きく下げることが出来るだろう。

 防御を担当する騎士たちが戦力を落とせば、ガルセコルトは容易に包囲を突破することが出来るようになる。いや、守りの要たる騎士たちがいなくなるのだ。むしろそのまま攻勢に転じ、彼らを殲滅することすら出来るかもしれない。

 とはいえ、それらは捕らぬ狸の皮算用。

 現実はそんなに甘くない。


 デュランダルを狙った黒牙の一撃は、しかし、デュランダルの下へ届くことは無かった。

 騎士団副総長、バルガスの持つ巨大な盾によって阻まれたのだ。

 今回はリッシュバルトの時とは違い、『身体強化』による助走をつけた全力疾走からの一撃だったというのに、バルガスの身体はビクともしない。まるで、大地に根を張る大樹のような頑強さだ。

 さらに巨大な盾で動きを止められた黒牙を狙い、騎士ウェイスの双剣が黒牙を襲う。即座にその場から跳び退いた黒牙だったが、ウェイスの振るった刃は的確に黒牙の身体を切り裂いていた。

 黒牙の身体に出来た傷は致命傷と言う程ではない。だが、かすり傷で済ませてよいレベルでも無かった。咄嗟の動きだったろうに、それを微塵も感じさせぬ速さと、鋭さ。

 黒牙が大きくその場から退くと、三人は即座に陣形を組む。

 巨大な盾を構えたバルガスが最前に立ち、その後ろへ双剣を構えたウェイスと剣を抜いたデュランダル。

 そうして黒牙と三人は、距離をとってにらみ合う。


 今の一瞬の交差で、彼らが只者ではないということが私にもわかった。彼らの実力は、Bランクの黒牙にも迫るものだ。それに彼らは他の騎士たちと違い、黒牙の命にまで届きうる牙を持っている。

 さすがに個体として黒牙より格上とは思わないし、彼らによって黒牙が一瞬で殺されるとも思わないが、十分に注意して戦うべきだろう。まあそんなこと、黒牙は最初から分かっていたのだろうけれど。


 にらみ合いの状態から、最初に動き出したのは騎士ウェイスだった。

 ウェイスはバルガスの構えた大盾の後ろから飛び出すと、緩急をつけた左右に揺れるような特徴的な動きで黒牙へと近づき、その手に握った双剣を振るう。それは複雑なようでいて、流れる水のように一瞬も止まることなく、それでいてかなりの速度を保っていた。かなり捉えづらい動きのようだ。

 しかし、黒牙はそれを冷静に見極めると、僅かな動作で完璧に二振りの刃を避けて見せた。そうして攻撃を仕掛けてきたウェイスに対して、反撃を試みる。

 ウェイスへ向けて、跳びかかる黒牙。だが、その動きはデュランダルの鋭い攻撃により阻まれた。いつの間にか黒牙に近づいていたデュランダルが、黒牙の行く手に向けて剣を振り下ろしたのだ。寸前でそれに気が付いた黒牙は、ギリギリのところで反転し、デュランダルの一撃を避けた。

 デュランダルの振るった剣は、振り下ろされた状態でぴたりと止まったが、刃の先にあった地面には刃の跡が刻まれている。あれを直接喰らったら、黒牙であってもタダでは済まない。

 黒牙がデュランダルの一撃を避けている間に、ウェイスは体勢を立て直すとバルガスの構えた大盾の後ろへと戻っていた。続いてデュランダルもまた黒牙と対峙したまま、バルガスの背後へ戻っていく。


 正直に言って、かなり厳しい状況なのでは無いだろうか。

 ウェイスが素早い動きで翻弄し、デュランダルが隙をつき鋭い一撃で仕留めてくる。バルガスはまだその場を動かずにいるが、最初の黒牙の一撃を受けて微動だにしていない所を見ると、その防御力はかなりのものだろう。

 数こそ少ないものの、一人一人の強さが他の騎士たちと一線を画している。ここへさらにリッシュバルトともう一人の護衛騎士が揃っていたら、確かに今の黒牙であっても危なかったかもしれない。

 治療所の様子は『並列思考』で分けた副思考により、常に確認している。もし変化があれば、すぐにでも黒牙へ伝えよう。


 私がそんなことを考えている間にも、戦いがまた動き出そうとしていた。

 次に仕掛けたのは、どうやら黒牙のようだ。



 〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『読心』のレベルが7から8へ上がりました〉






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