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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
第三章 勇王国進軍の章

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75.勇王国カツラギ第二騎士団団長

あらすじ


何とかして私はガルセコルトから撤退の了承を得た。

続いて黒牙も候補の中から襲撃地点を決定する。

魔導士団を狙うには位置的に遠く、指揮官たちのいる指揮所を狙うには敵が強い。

そこで黒牙が決めたのは騎士たちを治療する治療所だった。

私の命令に従って黒牙は光の領域に向かう。

進化して強靭な肉体を得た黒牙は道を塞ぐ騎士たちを吹き飛ばしながら、治療所へ辿り着き、高ランク冒険者の一人を打ち取った。

しかしそんな黒牙の下へ、一人の指揮官が向かう。

勇王国キサラギ第二騎士団団長リッシュバルト。

その斧槍は一直線に黒牙の身体へと振り下ろされた。



 第二騎士団団長リッシュバルトの持つ斧槍は、身の丈程の長さを持っていた。その大きさから考えても明らかに、他の騎士たちが持つ武器より数倍は重そうだ。だというのに、それを振るうリッシュバルトの動きは、他の騎士たちよりも数段は早かった。それに加え、打ち下ろされた斧槍の威力まで鑑みれば、リッシュバルトが他の騎士たちと比べ、一線を画す程の強さを持っていることは明白だ。

 ガルセコルトの相手をする高ランク冒険者たちと比べても、遜色のない見事な動き。

 さらに今回は、あちら側から仕掛けられた正面からの戦闘だ。

 以前までの黒牙であれば、かなり苦戦したかもしれない。

 だが、それは黒牙が進化する前までの話。

 果たして黒牙は、如何なる力を手に入れたのか。



 振るわれた斧槍の一撃を寸前で避けた黒牙は、一瞬でリッシュバルトの真横に回り込み、横っ腹へ体当たりをお見舞いした。

 不意を打った一撃に吹き飛ばされるリッシュバルト。だが、飛ばされながらもリッシュバルトは、周囲の騎士たちに号令を飛ばしていた。攻撃の直後を狙った完全な意識外からの攻撃に思えたのだが、リッシュバルトは寸前の所で気が付き、何とかして受けるダメージを抑えたようだ。

 リッシュバルトの号令を受けて、治療所の護衛を任されていた騎士たちが迅速な動きで黒牙を包囲していく。そうしてあっという間に隙間なく構えられた盾により、抜けることの難しい即席の壁が生み出された。一糸乱れぬその動きは、護衛の騎士たちがリッシュバルトの『指揮』の影響下に収まった証だろう。

 最後に、盾の壁へ唯一の穴が空けられた。その先にいるのは、黒牙に吹き飛ばされた筈のリッシュバルトだ。先ほど、同様に黒牙の体当たりを受けて吹き飛ばされた他の騎士たちとは違い、既にリッシュバルトは起き上がっていた。そして、自身の体調を確かめるように斧槍を数度振ると、黒牙に向けてもう一度詰め寄っていく。



 騎士の盾に囲まれた戦場の中で、黒牙とリッシュバルトが向かい合う。

 如何に進化したことで耐久力が飛躍的に向上した黒牙であっても、未だ魔鼠という小柄な魔物であることに変わりは無いのだ。あの重い斧槍による一撃をまともに受けてしまえば、その傷は致命傷となりかねない。あの一撃を受けることだけは避けたい所だ。

 そもそも今の黒牙の目的は戦うことではない。治療所で治療中の騎士や高ランク冒険者にトドメを刺すことだ。ならばこそ、第二騎士団団長リッシュバルトなんぞという強敵との戦いは極力避けた方が賢明である。

 だが、リッシュバルトを迎え入れた騎士たちの包囲に空いた唯一の出入口は、いつの間にか塞がれてしまっていた。これでは黒牙がこの包囲を抜けて治療中の騎士や冒険者の下へ向かう為には、リッシュバルトを倒すか、盾の壁を打ち破るしかない。

 今の黒牙ならば、騎士たちを盾の上から吹き飛ばして抜け出すことも可能だろうが、加速も無くそれを行えば、そこには必ず一瞬の隙が出来る。リッシュバルトという騎士は、それを見逃すような相手では無いだろう。

 つまりまずは、リッシュバルトを何とかする必要がある。だが、それに時間を掛け過ぎれば、騎士や冒険者たちの治療は進み、戦闘に復帰してしまうかもしれない。

 なればこそ、出来る限り迅速にこの状況を何とかしなければいけないのだ。

 だが、そう簡単にいくのだろうか。

 リッシュバルトは、黒牙との一対一の状況を狙ったらしい。つまりは、それだけ自身の強さに自信があるということだ。


 ――黒牙、いけるか?


 思わず『伝心』で尋ねた私に対して黒牙は、問題無い、という明確なイメージを返してきた。そのイメージには一片の不安もありはしない。

 ならば、問題は無いのだろう。もはや私に出来るのは、黒牙を信じることだけだ。



 まず、動いたのは黒牙だった。

 一直線にリッシュバルトを狙い走り寄った黒牙は、あえてリッシュバルトを素通りし、背後へ回り込んだ所で地面を蹴って方向を反転させると、リッシュバルトを背中から狙う。

 だが、リッシュバルトは黒牙の動きに合わせて振り返ると、構えた盾で黒牙に応戦する。

 そのまま黒牙はリッシュバルトの構えた盾に体当たりを喰らわせるが、リッシュバルトの身体は微動だにしない。

 途中方向を切り替えたことで減速したとはいえ、他の騎士たちは例外なく吹き飛ばしてきた黒牙の体当たりが完全に防がれていた。

 リッシュバルトが盾を振るうと、黒牙の身体が宙に浮く。そこを狙い、リッシュバルトは斧槍を振るう。空中にいた黒牙はその場で器用に身体を捻じって斧槍を躱す。そうして地面に降り立った黒牙は、数歩跳び退いてリッシュバルトとの距離をとった。

 攻撃もさることながら、防御にしても他の騎士たちより優れている。

 この状況、黒牙はどうするつもりなのだろうか。


 私がそうこう考えている間にも、今度はリッシュバルトが黒牙に向けて斧槍を振るった。その攻撃は先ほどまでと比べて少し鋭さが減った代わりに、手数が増している。

 右から左から上から下から斜めから。縦横無尽に繰り出される斧槍による連撃は、一拍の休みすら無く続けられている。

 しかもその連撃は、ただ我武者羅に放たれ続けている訳では無い。リッシュバルトは時に黒牙の隙をつき、時に黒牙を追い込むようにして攻撃を繰り出しているのだ。

 私が『加速思考』をフルに使い、戦いの外側から知覚することで、ようやく気付くことの出来た攻撃の意図を、黒牙は攻防の間に察して、その全てへ冷静に対処していく。

 そうして幾度目かの攻撃を避けた次の瞬間、黒牙の肉体に魔力が駆け巡った。

 黒牙が『身体強化』のスキルを使用したのだ。

 今までとは比べ物にならない速度で放たれた黒牙の身体は、そのままリッシュバルトに強烈な体当たりを喰らわせた。黒牙の異変を察したリッシュバルトは瞬時に盾を構えたが、黒牙の体当たりは今度こそ、盾ごとリッシュバルトの身体を吹き飛ばす。

 さらに黒牙は、そのままリッシュバルトの盾を足場として方向を変え、続けて騎士たちが生み出した盾の壁にも体当たりを繰り出した。『身体強化』の掛かった黒牙の体当たりを喰らい、騎士たちが軽々と吹き飛んでいく。

 盾の壁に穴が出来た。

 リッシュバルトは盾の壁を形成する騎士たちの下まで吹き飛ばされ、未だその場から動けずにいる。

 チャンスだ。

 黒牙は盾の壁に出来た穴を通って、包囲から抜け出した。そうしてまた、治療中の高ランク冒険者たちを狙っていく。



 黒牙は一番近くにいた高ランク冒険者に狙いを定めると、道中にいた治療中の騎士を五人道連れに、高ランク冒険者の首をまた一つ、刈り取った。如何に高ランク冒険者と言えど、重傷で倒れている状態であれば、容易くその命を狩ることが出来るのだ。

 これで残る治療中の高ランク冒険者の数は、あと二人。

 治療中の騎士の数はまだ多く残っているが、人間たちの主力となっているのは高ランク冒険者たちだ。その高ランク冒険者を二人削れたのは大きい。

 何よりもこの成果には、ただ高ランク冒険者を二人殺した以上の意味がある。


 冒険者たちは画一的な力量を持つ騎士たちと違い、一人一人の性能がかなり尖っているようだった。そのためにパーティーでの連携が、騎士たち以上の相乗効果を齎している。

 ただその代償として、一人でもメンバーが欠けると、連携による戦力の向上が無くなって、一気に弱体化するようなのだ。

 治療所には、ガルセコルトの機転なのか、はたまた運が良かったのか、四つの高ランクパーティーから一人ずつ、メンバーが運び込まれている。

 だからこそ、ここで高ランク冒険者を一人削るということは、その高ランク冒険者が所属するパーティーの戦力を恒常的に弱体化することに繋がるのだ。

 このまま残る二人の高ランク冒険者も倒すことが出来れば、人間側の主戦力を大きく削ることが出来るだろう。

 それに集めた情報によれば、高ランク冒険者パーティーはダンジョンの攻略も任されていたはずだ。ならば、ここで彼らの戦力を弱体化させることは、後の戦いの助けにもなる。

 護衛の騎士たちを吹き飛ばし、リッシュバルトの隙をつき、この短時間で黒牙は既に二人の高ランク冒険者にトドメを刺してくれた。

 やはりどんな進化を果たしても、黒牙は頼りになる私の切り札だ。


 一方でガルセコルト側の戦いは、膠着状態に陥り始めている。

 騎士たちの持つ防御力こそ未だ健在ではあるが、肝心な攻撃の主体である高ランク冒険者たちの動きが悪いせいで、ガルセコルトの命を削るのに時間が掛かっているのだ。

 しかし、それも治療中の高ランク冒険者が一人でも戻ってしまったら、息を吹き返したパーティーの連携で、またガルセコルトの不利へ傾いていきかねない。

 だからこそ、完全に禍根を絶つため、一刻も早く黒牙には、残る二人の高ランク冒険者の首も刈り取って貰いたいところなのだが。



 次に狙う高ランク冒険者を探す黒牙の身体が一瞬、ビクリと震えた。

 黒牙の近くで、激しい怒りと深い悲しみの感情が、渦を巻くように噴き出したのだ。渦の発生源にいるのはリッシュバルト。どうやら黒牙を追ってやってきたリッシュバルトが、トドメを刺された騎士たちの姿を目の当たりにして、感情を爆発させたようだ。

 リッシュバルトの感情は咆哮となり、周囲の大気を激しく揺らす。黒牙の震えた原因は、まさにそれだ。

 そうして全ての感情を吐き出したリッシュバルトに残ったのは、凪のような不気味な静けさだった。無気力、という訳では無い。リッシュバルトは素早く騎士たちに指示を出すと、自身はその場にいた半数の騎士を連れて、黒牙の前に立ちはだかる。

 一方で残る騎士たちは、リッシュバルトから伝えられた指示に従って行動を開始した。

 その指示の内容は、治療所で治療を受けていた騎士や高ランク冒険者たちを黒牙から遠ざけるというもの。さらに数人の騎士が治療所を離れ、それぞれの方向に散っていった。こちらは各所へ増援を求めるためだ。

 このまま増援に合流されれば、かなり厄介なことになる。その前に、目的を達成してしまいたいところだが、今のリッシュバルトもまた、一筋縄ではいかなそうだ。


 今度は黒牙も最初から『身体強化』を全開で使ってリッシュバルトへ襲い掛かるが、リッシュバルトは盾をうまく使ってその攻撃を受け流す。そのまま黒牙が続けて攻撃しようとすれば、リッシュバルトの指示を受けた騎士たちが一斉に攻撃してくる。

 そこで他の騎士たちを狙おうとすれば、騎士へ体当たりを喰らわせた瞬間を狙って、リッシュバルトが斧槍で黒牙を狙う。それは明らかに牽制目的の攻撃だったが、あの高威力を無視するわけにもいかない。それを避けている間に、別の騎士が黒牙の空けた穴をふさぐ。

 リッシュバルトの状況に応じた細かな指揮により、騎士たちは攻守をうまく切り替えて黒牙の行動に対処していた。

 そうして彼らが守る先にいるのは、治療中の騎士たちと二人の高ランク冒険者。

 リッシュバルトと騎士たちが作るこの新たな壁を突破することが出来なければ、もう一度高ランク冒険者を狙うことは出来ないだろう。

 どうやらリッシュバルトに、こちらの意図が見抜かれてしまったようだ。

 彼らはもはや黒牙を倒すよりも、治療中の者たちを守ることに主軸を置いている。

 防御を固めた騎士たちの手ごわさは、ガルセコルト側の戦いで学習済みだ。

 そうこうしている間にも、他所から騎士と魔術師が治療所へ増援に向かっていた。


 この辺りが潮時だろうか。

 全ての重傷を負った高ランク冒険者にトドメを刺すことは出来なかったが、二人だけでも消せたのは大きな成果だ。

 それに別の角度から考えてみれば、ガルセコルトに向かう筈だった戦力を、増援という形で治療所へ集めることが出来たとも言える。そう思えば、今の状況も悪くはない。

 回復した高ランク冒険者たちが戦線に復帰すれば、ガルセコルト側の戦いはより厳しくなっていくだろうが、それは彼らが復帰できる状態にまで回復してからの話。

 その前にガルセコルトを逃がすことが出来れば、何の問題も無いのだ。

 あとは黒牙がこの状況を、どう考えているかだが。


 このままここで暫く継戦か、それともすぐにでもこの場から撤退か。


 そこから先は、黒牙自身に判断してもらおう。







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