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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
第三章 勇王国進軍の章

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73.極光牢域

あらすじ


夜の闇を纏うガルセコルトは、私の想像を超える力を有していた。

闇の内から飛び出したガルセコルトは、無数の人間の命を喰らう。

だが、奇襲を受けた人間たちは即座に体制を立て直すと反撃に出た。

一糸乱れぬ指揮による騎士たちの防御と、荒々しい高ランク冒険者たちの攻撃にさらされて、ガルセコルトは防戦一方となる。

しかしそれは、ガルセコルトが切り札を練るための策だった。

次の瞬間、ガルセコルトは咆哮を放つと、切り札たる真闇を解放する。

戦場は、あらゆる感知能力を無効化するガルセコルトの闇に覆われたのだ。

ここから先は、ガルセコルトの独壇場だ。

私がそれを確信した次の瞬間。

闇の内より、全ての闇をかき消すような極光が戦場全体に拡散した。



 その光の魔力は一瞬にして、ガルセコルトの生み出した闇を光に塗り替え、それどころか周囲に満ちていた夜の闇をもかき消して、人間たちの仮設拠点を包み込んだ。

 何とも不可思議な魔力である。

 こことは異なる世界で人間として生きていた頃の経験と照らし合わせ、確実に目が潰れるだろうと思える程の光量を感じるのに、そこには眩しいとか、目が潰れるといった概念が欠片も混じっていないのだ。恐らくあの中では眩い光に満ちていても、ごく普通に視覚を使うことが出来るだろう。

 それは果たしてどんな感覚なのか。ダンジョンコアとして転生したことで視覚を失った私には、想像することしか出来ない。


 それからもう一つ、あれには興味深い点がある。

 それは光の魔力を生み出し、あの場に留め置いている魔術に関することだ。

 そこに私が知覚したのは、恐ろしく巨大で、あまりにも複雑な魔法陣。

 その正体は、数十人の人間たちにより構築された合作の魔法陣だ。恐らくそれを行っているのは勇王国の魔導士団の者たちだろう。一人一人が巨大な魔法陣の一部分を担当することで、あれだけ大きく複雑な魔法陣を精密精緻に形成しているようだ。

 だが、言うは易く行うは難し。

 魔法陣について、そこまで詳しくない私でも分かる。魔法陣を構築する魔力の質や流れ、形状、位置、そこに含まれる意思など、どれか一つでもズレてしまえば、魔力はうまく魔法陣の内を巡らず、あの魔術は発動しないだろう。

 数十人規模でたった一人でも違えることなくそれらを合致させ続けるというのは、騎士団の連携以上の難題だ。まさに奇跡のような共同作業。一体どうやったら、そこまで完璧に揃えられるのだろうか。

 しかも、よくよく情報を精査してみれば、さらにあの魔法陣を発動させることの難しさが分かってくる。どうやらあれを発動させるには、幾つかの特殊なアイテムも必要となってくるらしい。彼らに触媒と呼ばれるそれらは、魔法陣の発動と安定のために必要不可欠であり、おまけにかなり稀少なものもあるようだ。

 そうして出来上がった魔法陣の中を巡る魔力量は、周囲に満ちる夜の闇と同化したガルセコルトにも引けを取らない。

 さらにガルセコルトの真闇が膨大な魔力による力押しという印象だったのに対して、光を生み出す魔法陣、人間たちが極光牢域と呼ぶこの魔術は、隅から隅まで計算され尽くされているという印象だ。

 繊細な魔力が折り重なることで、互いをうまく補強し合い、外から来る魔力に対して頑強な構成となっている。この光の領域はちょっとやそっとでは壊れそうにない。

 少なくともガルセコルトのような力押しの魔力操作では、どれだけ魔力をつぎ込んでもこの光の領域をもう一度塗り替えることは出来ないだろう。


 しかもこの光の領域が及ぼす効果は、ガルセコルトの真闇を払っただけではない。どうやら光の領域の内部では、闇の魔力の維持が非常に難しいようだ。

 その証拠にガルセコルトの周囲から闇と夜の魔力の一切が消失している。

 ガルセコルトが負けじと新たに闇の魔力を放出するが、それも光の領域に触れると一瞬で溶けて消えていく。

 これは明らかに闇を操るガルセコルトを意識した対抗策だ。人間たちは完全にガルセコルトのことを理解した上で、対策を練っている。

 なぜこうも人間たちはガルセコルトに詳しいのか。病魔の森でガルセコルトと交戦した冒険者たちからの情報だろうか。

『読心』により収集し続けている情報によると、やはり冒険者ギルドから情報を聞いていて、事前に対策を用意していたらしい。ただ、それらは病魔の森での交戦から得た情報という訳では無く、元々冒険者ギルドに蓄えられていた情報のようだ。



 冒険者ギルドでは、特殊個体、俗にユニークと称される魔物の情報を随時収集しており、世界中に存在する支部で共有しているらしい。そして特に危険な魔物の討伐には、特別な賞金を懸けているのだとか。言ってしまえば、賞金首だろう。

 ガルセコルトもまた冒険者たちに、夜襲の黒狼という二つ名で呼ばれる賞金首の一匹だったらしい。

 夜の闇から神出鬼没に現れ、人間たちを喰らう広い地域で確認されている危険な魔物、夜襲の黒狼ガルセコルト。普段は病魔の森に居付かず、旅をしているという話は当のガルセコルトから聞いていたが、そのせいで余計に多く情報が出回っており、最初から手の内が全てバレていたようだ。

 二度目の襲撃にガルセコルトが敗北したのには、そういった理由もあったらしい。人間たちはガルセコルトへの対策を固めたうえで、あえて昼間に魔狼たちの縄張りへと踏み込んだのだ。さらに蓄えられた情報から、ガルセコルトがもう一度挑んでくることも想定されており、予めあの魔術を発動するための準備を行っていたらしい。

 それらの作戦は仮設拠点へ来る前から既に決められていたらしく、そのせいで私の『読心』を使った情報収集にも引っかからなかったようだ。

 とはいえ、さすがにこんな早く、しかも全回復した状態で戻ってくるところまでは、人間たちも想定してはいなかったようだけど。

 人間たちの迅速な対応が、想定外の事態を最小限の被害で抑えたのだ。


 だが、ガルセコルトもさすがである。真闇が光に塗り潰されるまでの刹那に、人間たちの主力であろう冒険者を幾人かに重傷を負わせていたのだ。いきなり現れた闇の領域に驚く一瞬と、それが光に塗り替わった事で生まれた一瞬の安堵。

 光の魔力が溢れることで機能し始めた『気配察知』が、七つの気配の薄れる瞬間を捉えた。まだ辛うじて死んではいないようだが、その命は風前の灯だ。

 彼らにはまだ『神聖魔法』やポーションという回復手段があるけれど、それらはダンジョンの施設である回復の泉ほどの即効性は無い。あれほどの傷を癒すには、それなりの時間がかかるだろう。

 五人はそれぞれに違うパーティーの冒険者たちだったらしい。各パーティーの連携は、仲間が減ったことで明らかに精彩を欠いている。あの状況下でガルセコルトがそこまで狙っていたのだとしたら、恐ろしい程の判断力だ。

 けれど、ガルセコルトの攻勢もさすがにそこまでだろう。


 人間側にも負傷者が出ているとはいえ、ガルセコルトは光の領域により弱体化している。それに冒険者たちの連携が弱まったとしても、騎士団の守りは未だ健在だ。後方では傷付いた冒険者たちの回復も行われている。

 絶えず攻められ続ける状況でガルセコルトも思い通りに動けないようだし、このままでは遠からず、窮地に立たされるのは確実だ。


 情報も集まってきたし、黒牙を投入するならば、この辺りが妥当だろう。

 だが、今の状況で私は黒牙にどういう動きを望むべきだろうか。下手に動けば、黒牙もまた窮地に立たされるかもしれない。

 黒牙はBランクへの進化を果たしたことで、以前と比べて色々と変わっていた。以前のままの感覚で命令を行った所で、うまくいくとは限らない。

 一度落ち着く意味も込めて、黒牙のステータスを見直してみよう。


 名前:黒牙

 種族:フィアーナイトラット ランク:B

 年齢:5

 カルマ:±0

 LV:43/80

 スキル:『暗視LV5』『隠密LV7』『気配察知LV10』『気配探査LV1』『爪牙術LV9』『闇魔法LV7』『魔力感知LV10』『魔力制御LV3』『追尾術LV8』『暗殺術LV9』『病気耐性LV1』『灯耐性LV1』『身体強化LV5』『火耐性LV3』

 称号:【――――の眷属】【影に潜む者】【暗殺者】【大魔王の血統】【勇者殺し】【魔蜂殺し】【生残者】


 種族:フィアーナイトラット ランク:B スキル:『暗視』『気配察知』『身体強化』『爪牙術』『魔力感知』『魔力操作』『影魔法』

 魔獣族魔鼠系統の高位種フィアーナイトラット。『身体強化』や『爪牙術』による肉弾戦を得意とするという鼠の王国を守る恐怖を齎す闇夜の騎士。小さな体に似合わぬ強力な力で、正面からの戦闘にも適応した強力な魔鼠。補助として影属性の魔法も使いこなすが、やはりその真価は魔鼠とは思えぬ強靭な肉体と体力、そしてそこから繰り出される強力無比な一撃にある。


 今の黒牙は進化により稀少種では無くなってしまったが、それでもBランクとなった事でその力は確実に以前より上がっている。ただ、隠密行動からの一撃必殺を得意とするアサシンラットから、正面からの削り合いを得意とするフィアーナイトラットに進化したことで、以前ほど隠れ潜むのが得意ではなくなってしまったようだ。

 どうやら、アサシンラットにはステータスに表示されない種族としての特性のようなものが存在したらしい。それでもスキルとしての『暗殺術』は未だ健在であり、不意打ちからの一撃の威力だけを見れば段違いに向上している。


 今の黒牙であれば、隠れ潜ませたままで影からの暗殺を狙うよりも、多少大雑把に戦場へ突っ込ませた方が十分に活躍してくれることだろう。

 黒牙もガルセコルトと同じように闇の属性魔法を使うが、今の黒牙の真骨頂はその身体能力にある。魔鼠の中では大きな方とはいえ、人間や他の魔物たちと比べればその体躯は明らかに小さく、そこに素早い動きが合わされば戦場をかき回すのは容易なことだ。その体躯が頑強で、力強いとなれば尚更に。

 主要な戦力はガルセコルトの対処に追われているし、今の戦場の状況であれば、どんな命令もきっちりと遂行したうえで、無事に帰ってきてくれるだろう。

 あとは私が黒牙に、どのような命令を与えるか。


 戦場は次第に人間側の優勢へと傾き始めているけれど、未だ鍵を握っているのはガルセコルトだ。

 弱体化したとはいえ、ガルセコルトの力が人間たちにとっての脅威であることに変わりない。闇の魔力を封じられているとはいえ、その身体能力だけを見てもガルセコルトはBランクの特殊個体に相応しい実力を有しているからだ。

 この状況でガルセコルトを勘定に入れないというのは勿体ない。

 あの戦場に黒牙を投入するとしたら、ガルセコルトを支援する方向で動くべきだろう。


 光の領域が展開された時点で、あの戦場はガルセコルトにとって非常に不利な場所だ。すぐにでも戦場を変えるべきなのだろうが、人間たちに包囲されてガルセコルトはあの場で戦わざる負えない状況となっている。だが、黒牙の動かし方次第では、ガルセコルトに人間たちの包囲を突破させることが出来るかもしれない。

 黒牙を向かわせる場所の目星は、既に三つまで絞っている。守りの要となっている騎士たちを指揮する指揮官たちがいる場所か、先ほどの一撃で負った重傷を癒している高ランク冒険者たちがいる場所か、或いは光の領域の魔術を展開している魔導士団のいる場所だ。

 当然のことながら、何処も数人の騎士や冒険者たちによって守られてはいるが、そこはBランクへと進化を果たした黒牙の可能性を信じたいところ。

 とはいえ、私自身の判断には不安が残るのも事実。そこで私は、作戦の概要を説明しつつ、自身の力量を鑑みて絞った三つの中から何処を攻めるべきか黒牙自身に選んでもらうことにした。私と違って黒牙は幾つもの実戦を経験している。ただ感じる気配と魔力だけで力の強さを比べる私よりも、黒牙の方がしっかりとその強さを見極めてくれるだろう。


 あと問題があるとすれば、ガルセコルトが私たちの思う通りに動いてくれるかどうか。



 私はこれまで報告を通して知る魔狼たちの群れに対して、戦うことが何よりも好きな戦士の集団、というイメージを抱いていた。逃げることを恥と感じ、首だけになっても敵に食らい付く。言ってしまうと、戦闘狂とでもいうような。

 もし彼らがそんな私のイメージ通りの存在であったのなら、どれだけ逃げ道を造り出しても、不利な状況というだけでガルセコルトは逃げないだろう。


 しかし、実際に魔狼たちと意思疎通をした辺りから、私はイメージと本物とのズレを感じるようになってきていた。彼らは強さに多少の誇りを持ってはいるが、それ以上に仲間を守って戦うことを誇りとしている。

 仲間を守るためならば、命を懸けることも厭わない。それが彼らの根底だ。

 自分たちを生かすために残ったガルセコルトの安否を気遣い、たとえ負けると分かっていても戦場に戻ろうとした魔狼たちや、魔狼を逃がす時間を作るために戦場へ残ったガルセコルトのように。

 確かに戦いを好む傾向にはあるようだけど、いざと言う時には勝利にこだわらず、命の危険を前にして逃げるという選択もしっかりと取れていた。

 一匹で残ったガルセコルトの事を案じながらも、仲間たちの命を守るために逃げることを優先したホーンウルフや、致命傷に近い傷を負いながらもここまで逃げ延びてきたガルセコルトのように。

 どうも私は戦士という生き方に対して、かなりの偏見があったようだ。


 事前の対話でガルセコルトは私の言葉に従う気は一切無いと言っていたが、提案という形でなら私の案も受け入れてくれるかもしれない。

 伝えるイメージに注意しつつ、『伝心』で黒牙に撤退の隙を作らせると告げてみようか。



 〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『気配察知』のレベルが7から8へ上がりました〉





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