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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
第三章 勇王国進軍の章

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71.迫る軍勢

あらすじ


ガルセコルトは個の力で圧倒されたというよりも、中核をなす強者たちを中心とした人間たちの連携に敗れたという。

ならば、中核をなす者たちをどうにかできれば、こちらにもまだ勝機はある。

私はガルセコルトに再度、共闘の話を持ち掛けるのだが、そこで私はこの世界に生きる魔物たちと

異世界からの転生者である私の間にある、底知れぬ思想の違いを思い知ることになった。

この世界は私の想像以上の闘争に満ちていたのだ。

この世界で生き続ける以上、真の安息などというものはありえない。

その事にショックを受けつつも、私は今回だけでもと、ガルセコルトを共闘に誘い続ける。

その結果、ガルセコルトを含む魔狼たちもまた、私たちと共に戦ってくれることとなった。

 私が常時広げている知覚スキルの範囲内に人間が触れる。それは後から後から増えていき、一気に軍勢と呼ぶにふさわしい数となった。私よりも先にその気配を察知していたらしき魔狼たちは、既に一つ所に集まって臨戦態勢をとっている。魔鹿たちもまた、ここへ近づいてくる人間たちの気配を敏感に察知しており、警戒を強めていた。

 恐ろしい程の数の軍団だ。知覚に触れる人間の数は今もなお、増え続けている。後続は知覚の範囲外まで、ずっと連なっているようだ。

 だが、そんな軍団の到来を前にして、何処かほっとしている自分がいた。

 明らかな敵を軍勢を前にして、何故私はそのような心情となっているのか。


 その原因は、ここ数日の間に起こった諍いにある。



 魔鹿と魔狼という二種族の仲があまり良くないのは知っていた。同じ魔物であっても種族が違う為に意思疎通もうまくいかないし、そもそも普段は病魔の森の中で縄張りを争う関係だ。だからこそ、同盟を結んだ当初は、そこに配慮して双方の縄張りの位置を出来る限り離すようにしていた。

 だが、今は人間たちを迎え撃つために、魔狼たちにもダンジョンの側で待機してもらっている。それでも一応、魔鹿たちが縄張りを造った場所からは、ダンジョンを挟んで反対側にいてもらっているとはいえ、両者の距離はそれほど離れていない。

 そのせいで、両者の間に不満が溜まっていたことも知っていた。

 知ってはいたのだ。

 だが、まさかそれがたったの三日で、表面化することになるなんて思わないだろう。

 あちこちで様々な理由から威嚇合戦が始まっている。とはいえ、群れを率いる魔物たちは、さすがに現状を理解しているためか、まだその諍いに参加するような様子はない。まあその分、諍いの仲裁も行わないのだが。

 恐らく彼らが出ていけば、諍いが余計に悪化するということを理解しているためだろう。けれど、そのせいで全ての仲裁の役目は『読心』と『伝心』のスキルを持つ私へと回ってきた。

 大抵は小さな行き違いが原因なので、両者の意志を確認してそれを双方に伝えるだけで済む。だが、中には根深い原因のものもあり、私の説得だけでは対応仕切れない場合もあった。そんな時にはもう、両方の群れを率いる者たちの名前を出して、強引に解決へ持っていくしかない。群れに所属する者たちだけあって、どちらも群れの上位者の名前を出せば静かになった。ただそれは、あくまでもその場しのぎの手段だ。心の奥底では鬱屈とした思いが溜まっており、それがまた新たなる諍いを引き起こす原因となる。

 私の仲裁で未だ決定的な争いには発展していないとはいえ、それは表面上だけの事。もはや一瞬即発の空気がダンジョンの周囲に流れ出していた。

 このままだと、人間の軍団がやってくるのが先か、それとも諍いが発展して群れ同士の大きな争いになるのが先か、なんて恐れ始めていた矢先。

 人間の軍団が私の知覚スキルの範囲内に入ってきたのはそんな時だ。

 仲裁に次ぐ仲裁で精神的に疲労していた私が、思わず心のどこかでほっとしてしまっても、それは無理からぬことであろう。



 と、それはともかくとしても。

 人間の軍団が私にとっての命の危機であることは、変わらない事実だ。一息つくのは、この現状を抜け出すことが出来てからにしよう。

 私は一瞬だけ緩んだ心を引き締め直すと、現状に対処すべく思考を加速させた。


 まずは魔狼や魔鹿たちに『伝心』を送り、彼らがこの状況でどのように動くつもりかといった情報のすり合わせを行う。同時にゴブリンシャーマンたちにも『伝心』を送り、予め決めていた通りに壁の上へと移動してもらった。そしていつでも魔法を放てるよう、体勢を整えさせる。

 さらに私は『読心』のスキルを、人間たちのいる方向へ集中させた。これで人間たちが会話をすれば、その会話を『読心』でイメージとして拾えるはずだ。

 複数の思考を同時に動かすことで、迅速に迎撃態勢へと移行している。『並列思考』がうまく仕事をしていた。ここまでは想定の通り。


 ダンジョンへと向かっていた人間の軍団は、ダンジョンから少し離れた位置で立ち止まり、そこで後列の到着を待ちつつ、仮設の拠点を構築しているようだった。

 恐らくダンジョン付近に集まっている複数のBランク魔物たちの気配を感じ取ったのだろう。と、思ったのだが、『読心』から伝わってくるイメージによれば、そこで立ち止まった理由はそれだけではないらしい。

 どうやら彼らはダンジョンの手前にある壁の情報を正確につかんでいるようだ。ダンジョンから人間が仮の拠点を構築している辺りまでは、木々が邪魔をして視界は通っていないはずなのだが、どうやって壁の存在を知ったのだろう?

 その私の疑問は、ガルセコルトからの情報によりあっさりと解決した。ガルセコルトによると、いつの間にか少数の人間たちがダンジョン付近まで接近していたらしい。恐らく本隊に先行する斥候たちだろう。どうやらその斥候たちがダンジョンを囲む壁の存在を人間の本隊に伝えたようだ。

 そう言えば、以前ゴブ太の村を襲撃してきた見習い勇者一行も、襲撃の直前まで気配も魔力も察知できなかった。恐らくその斥候たちは、あの見習い勇者一行と同程度か、それ以上の隠密系スキルを持っているのだろう。

 まあ今回は、探知に優れたガルセコルトが味方としているし、壁によって出入口は制限されている。

 これからは気を付けなくてはならないが、今は一先ず結果オーライと言うことにしておこう。



 引き続き私は『読心』を使い、仮設拠点に集まりつつある人間たちから情報を収集していく。そうすることで、この人間たちによる軍団の事が少しずつ分かってきた。

 まずは彼らの構成だが、私が想像した通り勇王国の騎士団を中心として、勇王国の魔導士団と複数の冒険者パーティーによって成り立っているようだ。数は騎士団が一番多く、その次に魔導士団、そして最後が冒険者たち。

 その中でも騎士団は主に物資の運搬と防衛を、魔導士団が戦闘時の火力と補助、低ランク冒険者が木々の伐採による道の拡張、そして高ランク冒険者が危険な魔物との戦闘とダンジョンの攻略を受け持っているらしい。

 そんな彼らの目的は、やはりダンジョンの破壊と魔鼠の討伐だった。正確に言えば、発見された強力な力を有する魔鼠の討伐と、その他の魔鼠の捜索、及びその掃討。そして魔鼠が住処としているダンジョンの破壊である。

 ただ、現在その目的は病魔の森に起こったある変化によって、修正が加えられようとしているらしい。その変化というのが、私の行ってきた支配領域の塗り替えだ。


 支配領域とは、ダンジョンコアの力を取り込むことで魔王という強力な存在へと進化を果たした者や、神という謎の存在たちが持つ、自身の支配する領域を構築し、広げていく力のことである。彼らは広げた支配領域に自らの配下や信者たちを住まわせ、その地への支配の力を強めると共に、彼らへ自らの力を貸し与えることで戦力の強化を行っている。

 つい先日、私もその力を扱えるようになった。とはいえ、私は神でも、ましてや魔王でもない。

 私のそれは本来、ダンジョンマスターが限定された機能という形でしか使うことができないダンジョンコアの持つ力の根源を、ダンジョンコアを肉体として持ったことにより内側から無理やり操作することで例外的に扱っている。いわば、バグのようなものだ。

 それ故に、今まで私が使っていたダンジョンコアの持つ機能のように、感覚的にその使い方を理解できたり、マニュアルのような知識が存在するということが殆ど無い。そのため、扱い方は手探りで学んでいる最中だ。それでも、他者の支配領域を塗り替えることくらいは出来る。

 元々病魔の森は、勇王国の神である勇神の支配領域だった。ただ、人間たちは【大魔王】が残した力の残滓の影響で、これまで病魔の森に近づくことが出来なかったらしい。そのせいで勇神の支配領域は上辺だけのものとなり、私でも容易に支配領域を塗り替えることが出来たのだ。

 私の支配領域にはまだ、味方を強化するような力は無い。だが、勇神の力の恩恵が消えただけでも、支配領域を塗り替えた意味はあるだろう。

 これで人間たちに有利だった領域が、対等な状況に戻ったのだから。

 恐らく人間たちがこれまで病魔の森の開拓を行ってきた理由には、勇神の支配領域を盤石なものとするため、というのもあるのだろう。


 人間たちは病魔の森を進軍する途中で、支配領域が塗り替えられているという状況に気が付いたようだ。どうやら支配領域というのは、別の支配領域へ移動する際、感覚的にそれを感じ取ることが出来るらしい。

 なるほど確かに、冒険者たちもダンジョンへと侵入してきた際に、そこがダンジョンであると気が付いていた。ダンジョンの中というのもまた、ダンジョンコアの機能により生み出された限定的な支配領域っぽいので、恐らくそれと似たように感じ取ることが出来るのだろう。


 人間たちにとって支配領域が塗り替えられたということ自体も問題ではあったが、それ以上に問題となっているのは、それが誰の支配領域であるのかだ。

 元々人間たちが魔鼠の討伐にこれ程まで戦力を投入しているのは、魔鼠から新たな魔王が生まれることを危惧していたからだったらしい。それはAランク冒険者イグニスが齎した強力な力を持つ魔鼠の情報によって、一気に真実味を増していった。

 そこに現れた新たな支配領域。支配領域を扱うのは人間たちの常識から神と魔王のみ。立地的に人間側である神の可能性は無いということで、消去法的にこの地を支配しているのは魔王ということになり、斥候たちがダンジョン付近に集まる複数の強力な魔物の気配を察知したことにより、その予想は確信へと変わったようだ。彼らはダンジョン付近に集まる強力な力を持った魔物たちを、魔王の配下だと捉えたらしい。


 まあ実際のところ、魔王なんて存在せず、支配領域を構築したのはダンジョンコアたる私であり、集まっている魔物たちも人間に対抗するため、一時的に手を組んでいる同盟者たちに過ぎないのだけど。

 なかなかに皮肉な話だ。思考の道筋は間違っているのに、最終的な部分は絶妙に間違っていない。

 私は魔王では無いし、魔狼や魔鹿たちは魔王の配下でもないけれど、魔狼と魔鹿たちを結び付けているのは私であるし、私が人間たちと敵対している事は間違っていないのだから。



 暫くすると、主要な人間たちが集まり、作戦会議が始まった。議題は魔王が潜んでいるであろう壁の向こう側をどのように攻めるか。

 このまま人間たちの情報の収集を続けていきたい所だが、同時にこちらもこれからの行動について考えなくてはならない。

 ならば、副思考による『読心』で人間たちの作戦会議を探りつつ、主思考でこれからの行動について考えていこう。



 ダンジョンの外で私に出来ることはあまりない。扱える手札は黒牙と五十体のゴブリンシャーマンのみ。その上、ゴブリンシャーマンたちに関しては、その性質ゆえに壁の上からの集中砲火にしか使えない。彼らの働きは、人間たちが射程内に入ってきた時からが本番だ。黒牙の性能ならば、いつでもどこでも扱うことが可能だけれど、たった一匹の切り札を切るならば、重要なところに使いたい。

 今はまず、他の同盟者たちがどう動くのかを聞いてみよう。


 まずは魔鹿たちの代表として、クリスタルホーンディアーに『伝心』で今後の動きを尋ねてみた。彼らは最初の予定通り、ダンジョンの手前で人間たちを待ち受けるつもりらしい。人間たちが壁の穴を通って内側に侵入して来たら、三匹のBランク魔鹿たちがそれを撃退するそうだ。


 次に魔狼側の事を訪ねるべく、ガルセコルトに『伝心』を送る。

 するとガルセコルトは、単身で人間の軍団へ襲い掛かろうとしていた。他の魔狼たちには、戦力にならぬと告げて壁の内側に残したまま。

 ただしそれは、今すぐでは無い。夜を待った上で、だ。

 どうやらガルセコルトには、前回の敗北を加味したうえで勝算があるらしい。


 ガルセコルトの持つ力の真価は、夜にこそ発揮される。

 私はそれを、魔物図鑑に記されたガルセコルトの情報で知っていた。けれど私が知っているそれは、あくまでも魔物図鑑に記された情報としての強さでしかない。何せ、夜に戦うガルセコルトを、私はまだ知らないのだから。


 前回の敗走時は、昼間に進軍してきた人間たちを襲い、そこで人間たちから予想外の反撃を受けて返り討ちにあったらしい。その敗北の経験からガルセコルトは今回、夜まで待つという選択をしたのだという。

『読心』を通じて、戦意を高揚させたガルセコルトの意志が流れ込んでくる。


「ツギハ、マケヌ」


 表面上は静かでありながら、その心の奥には強い闘争心を宿していた。

 そこには強者の持つ、確かな自信が垣間見える。



 人間の作戦会議から『読心』のスキルで抜き取った情報を調べる限り、あちらの作戦がどのようなものに決まるとしても、それが決行されるのは明日以降になるだろう。

 ここは私も夜を待ち、ガルセコルトの自信に賭けてみようか。


 ガルセコルトの勝利を願いながら。









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