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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
第二章 迷宮覚醒の章

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64.DPブースト

あらすじ


現状の事態を引き起こした元凶であるダンジョンコアの力。

それを使って“私”は、ダンジョンの外へ“私”が支配する領域を広げるための力を探す。

その途中で、病魔の森全体へ大量に放った魔鼠たちからの報告が届く。

そこで“私”は、未だ人間たちに抗う強力な魔物たちの種族と、その縄張りの場所を知る。

しかし、肝心の人間たちの動向に関する情報が入ってこない。

“私”にはそれが、嵐の前の静けさのように感じた。

 幾つかの作業を並行して行っていたら、念願だった『並列思考』のスキルを習得することが出来た。何となくそんな気はしていたし、無意識のうちにそれを望んでいた気もする。

 こんな時でなければ色々と試したいアイデアがあるのだけれど、今は単なる好奇心に思考を割いている時間は無い。それをするくらいならば、他に考えなければならないことは山ほどあるのだ。ただ一応、軽くどんな事が出来るのかだけは確認してある。

 実際に使った感想としては、器用に思考容量を操っている感じ、だろうか。

 『並列思考』を使用すると、思考速度が多少低下する代わりに、二つの思考を同時進行で行えるようになる。思考の遅さも『加速思考』で補ってやれば、ある程度は平常時に近づけることが出来るようだ。まあ、二つの思考へ同時に『加速思考』を使うのはまだ難しく、片方は思考速度が低下した状態のままなのだけど。

 当分の間は、メインとして思考する方で『加速思考』を使いつつ、裏で『空想空間』での部屋の目印を削る作業を少し低下した思考で続けていく。

 今は少しでも使い続けて、この感覚に慣れておこう。



 ダンジョンコアの持つ力の応用については、もう一つ早急に行っておきたい事があった。それはイグニスとの戦いでも使用した、配下たちを一時的に強化する力について、より詳しく理解しておくことだ。

 本来はダンジョンの拡張に使用するはずのDPを一瞬にして溶かすあの一時的な強化は、燃費的には最悪である。ただ、いざというときの切り札としてはかなり有用だ。ならば予めきちんとその法則を理解しておき、いざという時、迷わず行使できるようにしておきたい。

 そんなわけでまずは今、分かっていることからまとめていこう。あの時の戦いで起こったことを思い出し、力の影響であろう現象を取捨選択していくのだ。と、その前に、毎回一時的な配下の強化などというのも長ったらしいので、この力のことはDPブーストとでも呼ぶこととする。


 このDPブーストに関して今のところ分かっているのは、こんな感じだ。

 DPブーストは、強い絆で繋がっている配下にのみ有効である。

 また、DPブーストを使用する際には時間経過とともに多量のDPを消費していた。正確な時間は不明だが、あの戦闘で消費したDPは全て合わせると100,000DPを上回る。

 そしてDPブーストは、強い絆で繋がっている配下が複数いる場合、その全てを同時に強化することも可能だった。

 さらにDPブーストで強化できる力は、単純な身体能力や魔力だけでなくスキルにまで及ぶ。そして『指揮』を持つ配下がDPブーストにより強化された場合、『指揮』を通してその指揮下にある他の配下たちにまで効果は通る。ただ、その強化効率は少し落ちていたように思う。


 ちなみに正確なDPの消費量が分からないので確実な情報とは言えないが、DPの消費量は常に一定だった訳では無いと思われる。DPブーストを使用している配下の数の増減は勿論の事、より強化したいと願った際にもその消費量は増えていたようだった。

 もしその感覚が正しいとするならば、より多くのDPを予め用意しておいたら、それだけDPブーストでの強化段階を引き上げることが出来るということだ。


 さて、情報の整理を行ったら、次はいよいよ実際にDPブーストを使用しての検証を行っていく。だがそのためにはまず、用意しなければならないものがある。それはDPブーストを使用する先、即ち絆を強化した配下たちだ。

 一応、病魔の森に送った配下たちでもDPブーストを試すことは可能なようだけど、それだと実際にDPブーストの効果を観察することは難しい。これは検証なのだから、出来るならダンジョン内という私の知覚範囲内で行うことが望ましいだろう。

 修行の為にダンジョン付近で戦わせている黒牙が戻ってくるのを待つか、病魔の森の四方へ派遣している名前付きのケーブラットを連れ戻すというのも手だけど。

 丁度、前回の名付けから、一日ほどが経っている。今回は新しく名付けたケーブラットをそのまま使おうと思う。


 配下への名付けに関する検証は、作業の合間合間に行っており、既にどのくらいの頻度で再度名付けられるようになるかは大体分かっている。

 前に名前を付けてから大よそ一日が過ぎた辺りで、また配下へ名前を付けられるようだ。一度に名付けられる数は、やはり四匹まで。

 あと他に気が付いたのは、名付けた配下の称号が【――――の配下】から【――――の眷属】へと変わっていたということだ。ただこれに関しては、ゴブ太の時に名付けた後も暫く【配下】のままだったことから、必ずしも名付ければ【眷属】に変わる訳では無いと思われる。召喚した魔物だからなのか、或いは魔鼠系だったからか。今のところ、その理由は不明だ。いずれ、検証してみたい。


 それはともかく、前回の続きからダンジョンに待機させているケーブラットへ名前を付けていく。ジュウナナ、ジュウハチ、ジュウク、ニジュウ、と。

 この数まで行くと、さすがに名前っぽくは無くなってくる。一応その辺り、気を付けていたんだけどな。まあ、言語がそもそも違うので、それらは私の自己満足でしかない。なので、多少心苦しくとも名前の法則はこのままで。


 さあ、ここからがようやく本番。DPブーストの検証を始める。

 まずは一瞬だけ配下へとDPを流し、DPブーストが発動するかの確認と短時間での停止が可能かを確かめていく。まだこの魔王の力を模倣したDPブーストが成功したのはイグニス戦の一度だけであり、その時のDPブーストの停止はDPがゼロになった結果だ。

 その辺りをしっかりと確認しなければ、安心してDPブーストを使うことは出来ないだろう。もし途中では止まれないような力であれば、使い方はもちろんの事、検証の仕方も考えなければならない。


 このまま検証を行っていくわけだが、幸いなことに今、手元に残るDPはごく少量。残り全てを使うことになったとしても、無駄になるDPはそう多く無い。

 ジュウナナと名付けたケーブラットとの絆を選び、応援の気持ちと共にDPを送る。

 応援? 何に対して応援すればいいのだろう?

 思いつかないので、とりあえず漠然と応援した。

 それでも何とかDPは絆へと注がれていく。ただ、消費するDPの量が前回よりも少ないような気がする。私が抱く気持ちの強さの違いだろうか?

 DPが注がれ始めた事を確認した瞬間、私はすぐに絆へ注ぐDPを止めた。

 止まったは止まったが、すぐには止まれない。止めようとしてからも、少量のDPが余計に流れていったのを感じる。まるで走行中の車が急ブレーキをかけた時のようだ。

 今回は3DPほどが余計に流れていくだけで済んだが、この感覚が正しければDPを注ぎ込む量が増えれば増える程、止めた時に流れていく量は増えていくことだろう。

 気を付けなければ、無駄にDPを消費することになりそうだ。とはいえ、これを使う時というのは本当に切羽詰った状況の時である。この辺りを気にする余裕は、そもそも無いかもしれない。


 DPブーストの発動と任意停止については問題無いことが分かった。

 このまま検証を続けて、DPブーストのDP消費量と強化段階の関係や、DPブーストを使用する配下との距離による効果の違い、DPブーストを同時に使用することの出来る最大数など、細かい部分を調べていく。それ以外にも思いついた事は、どんどん試していこう。


 〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『並列思考』のレベルが1から2へ上がりました〉



 DPブーストについて幾つかの検証を行っている間に、別の作業に進展があった。

 病魔の森に縄張りを持つ強力な魔物たちへ送った使者が帰ってきたのだ。送った三匹の配下たちの内で、戻ってきたのは二匹のみ。唯一戻ってこなかったのは魔蜂たちの縄張りへ送ったFランクの魔物、ワークビー。接触時に倒されたのか、それともそもそも群れの場所へ辿り着けていないのかは不明だが、どちらにせよそれなりに時間が経っているのだ。ここに戻って来る可能性は、もはや無いと考えるべきだろう。

 それに対して、戻ってきたのは魔狼たちの縄張りへ送ったファングウルフと、魔鹿たちの縄張りへ送ったリトルホーンディアー。その中でもさらに色よい返事を貰えたのはリトルホーンディアーのみ。ファングウルフは群れに接触出来たはいいが、交渉は決裂となった。魔狼たち曰く、交渉の席に着きたいならば、まずは力を見せろ、とのこと。

 リトルホーンディアーは群れと接触後、Bランクの魔鹿の一匹、クリスタルホーンディアーと話し合うことが出来たそうだ。そこで聞いてきた話を色々と話してくれた。


 魔鹿の群れは現在、三匹のBランク魔鹿により率いられている。

 主に敵を蹴散らすのがブラッディーホーンディアー、仲間たちを守るのがジャイアントディアー。そして頭を使うのがクリスタルホーンディアーという役割分担で群れを率いているのだという。

 現在の群れの規模は大体、五十頭前後。ゴブリンロードが台頭する以前はこの数倍だったらしいが、ゴブリンロードから逃げる間に群れの数は減っていった。その後、ゴブリンロードが倒された後に少しずつ数を増やしていったが、今度は人間たちの侵攻によりまた数が減り、現在の規模に落ち着いている。

 今はBランクの三匹や戦えるCランクの魔鹿たちが、何とか他の魔鹿たちの盾として群れを守ってはいるけれど、着実にその数は削られていっているそうだ。Bランクの三匹はともかく、それ以外の魔鹿たちが人間たちに滅ぼされるのは時間の問題だろう。


 それもあり、私からの使者との接触を受け入れてくれたそうだ。

 彼らの望みは、群れを安全な定住地に導くこと。

 それを確約することは出来ないが、少なくとも病魔の森の中よりはダンジョン内の方が、戦力的にも、立地的にも、安全なのではないだろうか。

 勇王国と冒険者たちに目をつけられたかもしれないという、事実を除けば。

 とはいえ、わざわざそれを彼らに言う必要は無い。どうせ、人間たちが病魔の森に攻め込んでくるのは常の事。私がわざわざ言わなければ、ここが狙われているなどということも分からぬだろうから。その方向性で、魔鹿の群れたちとは交渉を続けていくことにしよう。


 続いて魔狼の群れに向かわせたファングウルフの報告を聞く。

 病魔の森に住む強力な魔物たちが一筋縄ではいかないことなど、初めから分かっていた。当然ながら断られるというのも想定の内だ。そんなわけで使者として送った配下たちにはあらかじめ、交渉を断られても群れの情報を出来る限り収集して持ち帰るように命令してあった。

 そんなわけでファングウルフは交渉こそ断られはしたが、群れについての情報を少なからず持ち帰っている。群れの主であるBランクの魔狼ガルセコルトの姿は見ていないが、それ以外の魔狼たちや、群れの規模、そして置かれている状況。

 ファングウルフの主観も多少入っているようだが、それを加味したうえで聞いてみようか。


 魔狼の群れの頂点は間違いなく特殊個体の魔狼ガルセコルトだった。けれど、実質的に群れを率いているのは、その下にいるCランクの魔狼らしい。ランクや報告にあった見た目なども加味して、魔物図鑑に記された情報から考えると、こいつだろうか?



 種族:ホーンウルフ ランク:C スキル:『聴覚』『嗅覚』『遠吠え』『身体強化』

 魔獣族魔狼系の上位種ホーンウルフ。額部分から小さな角を生やした魔狼系の魔獣。角は武器としてよりも、魔力を身体全体に行き渡らせる為の触媒としての効果が高く、その魔力による『身体強化』は、洗練されており非常に強力。また知能も高いため、角のある個体に率いられた魔狼の群れは危険度を増すという。



 決して弱くは無いけれど、ガルセコルトと比べたら明らかな格下だ。そんなホーンウルフが強さを基準とする魔狼たちの群れを実質的に率いている。その理由は幾つかあるのだろうが、一番はガルセコルトの性質ゆえだろう。単独での行動を好む性質と、放浪癖。

 強さ的に言えばガルセコルトはこの病魔の森の魔狼たちの頂点だ。だが、だからといって殆ど病魔の森にいなかったガルセコルトに群れを率いられるかといえば、不可能とは言わずとも限りなく難しい。元より単独での行動を好むガルセコルトは、群れを率いるのに向いていないのだろう。ホーンウルフはそれゆえの代役と言った所か。


 現在の群れの数は大体三十匹前後。だが、昔はもっと多く、強い魔狼がいたそうだ。彼らもまた、ゴブリンロードの侵攻によりその数を大きく減らしたのだという。

 ガルセコルトの放浪癖とゴブリンロードの侵攻が重なってしまったが為に、彼らを群れの数を大きく減らしたのである。今や群れを構成する魔狼たちの多くがEランクやFランク。強くてもDランクのダイアウルフで、Cランクのホーンウルフは戦力的にもBランクのガルセコルトに次ぐ実力者なのだとか。しかもファングウルフの報告からして、Cランクのホーンウルフは群れに一匹だけ。確かにCランクはそれなりに強力な魔物といえようが、一匹ではたかが知れている。とてもではないが、人間たちの侵攻を止める力はないだろう。

 ガルセコルトもそれが分かっているのか、危険な人間たちによる侵攻が起きている現状、放浪の旅に出るのは控えているようだ。

 これはなかなかに有益な情報である。とりあえずこれで、ガルセコルトという強力な一手が知らぬ間に病魔の森から居なくなるという可能性が低いと分かった。

 あとは彼らに力を示す術を考えるだけだ。それが一番、難しいのだが。



 〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『並列思考』のレベルが2から3へ上がりました〉


今年最後の更新です

ラストまであと三話

来年もよろしくお願いいたします!

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