55.情報の整理
あらすじ
第四階層追加から再度百日が経ち、“私”はまたこれまでを振り返る。
拡張された守護者の機能に合うよう育成した配下たちのこと。
その過程で配下が得た【闇夜の射手】の称号と『身体強化』のスキルのこと。
それが済むと“私”は、第三階層の整備を止めてまで早めた第五階層の追加に着手した。
第五階層を追加した瞬間、“私”は転生してから初めて意識を失ってしまう。
そうして次に目覚めた時、“私”は“私”の身に起きた変化を知る。
ズレが完全に消えた今だからこそわかる。今までの私は不完全なダンジョンコアであり、ダンジョンコアに本来存在する機能を殆ど使えていなかった。
ダンジョンの成長と共に後から追加されていった機能は、本来ならば元からダンジョンコアに備わっていた機能だ。それがズレの影響で、これまで使えない状態にあった。それ故、成長と共に少しずつ増えていった機能は、むしろ取り戻すという言い方が適切だ。それが今回の成長をもって、完全な状態まで復元されたことで、一気に全ての機能が使えるようになった。
今まで使えなかった部分や、細かい調節が出来なかったようなことまで、自由自在に変更できる。ずっと欠けた状態だったからなのか、初めて感じる感覚だというのに解放感がすごい。私が思う以上にダンジョンコアの力は幅広く、如何にこれまで私の行動が制限されていたかが分かる。この力さえあれば、もっとダンジョンを効率的に創り変えていけるだろう。まあだからといって、力の行使にDPが必要なのは変わらないのだけれど。
本来ならば新たな機能を試しがてら、すぐにでもダンジョンの第三階層を整備し始めたいところだ。だが、それを後に回してでも、先に一つやっておきたいことがある。
それはダンジョンコアとのズレが無くなったことで、私が新たに得た無数の情報を整理し、考察することだ。
この世界に転生してから、私はずっと知識を集めるという事に苦慮してきた。特に私の種族であるダンジョンコアについての情報は、そのほとんどがこれまでの経験と前生のファンタジー知識による仮説が主だ。だが、新たに得た知識により、それらに関する情報が一気に増えた。それほどたくさんの情報が、一体どこからやってきたのか?
その情報の出所は、主に地脈であった。
地脈。
今まで私はそれを、ダンジョンに力を供給する地中にある大きな力の流れとしてしか認識していなかった。その認識は誤りとは言えないが、正確でもない。
ダンジョンコアと地脈の間には、それ以上に強い関係性があるようだ。
その関係の始まりは、ダンジョンコアの誕生にまで遡る。
そもそもダンジョンコアとはどのように生まれるのか。
ダンジョンコアは強力な魔物の魔石や、強い魔力を帯びたアイテムが地脈の影響を受けることで生成される。そこで重要となるのはここで上げた魔石やアイテムはあくまでも器であり、その本質であるダンジョンコアとしての機能は地脈によりもたらされたということだ。器は地脈と繋がることで、機能とダンジョンに関する基礎知識を刻まれて、ダンジョンコアとなる。
ちなみに、私がダンジョンコアの本能と呼んでいたものは、このダンジョンに関する基礎知識というのが大本となっているようで、これもまたズレにより今までうまくアクセス出来ない状態が続いていたのだが、私が完全なダンジョンコアとなったことで自由に閲覧可能となったようだ。
ズレが解消されたことで、私はそんな全ての大本となる地脈にこちらから繋がる手段を得た。
どうやら本来のダンジョンコアは、地脈から力を供給されるだけではなく、ダンジョンコアから地脈へ繋がることで周辺の情報を収集する機能もあったようなのだ。これによりダンジョンコアは周辺に生息する魔物やアイテムの情報を得て、召喚出来る魔物やアイテムの種類を増やしていくらしい。
だから本来であれば、ズレの影響で地脈との接続がうまくいっていなかった私は、周辺から情報を集められず、何も召喚することは出来ないはずだった。そんな私が最初からベビーラットを召喚できたのは、恐らく私の元となった器に残っていた情報によるものだろう。器が魔物の魔石や魔力を帯びたアイテムだと知った時から、私はなんとなく自分の元となった器がなんであるかを察していた。魔王の魔力が渦巻く中心地、魔王の残滓が私を守ってくれたこと、黒牙が新たに得た【大魔王の血統】という称号、そして一番最初に鼠系統の魔物を召喚出来ていたということ。その他にも私が気づいていないだけで、まだ証拠となる情報はたくさんあったのかもしれない。そこまで情報が揃っていれば、さすがに分かる。
私は改めてあの時、勇者から私を守ってくれた魔王の残滓に対して、心の内で礼を言った。恐らく私の親とでも呼ぶべき魔王の、残滓に。
話が少し逸れたが、とにかく私はダンジョンコアの機能を使用して、地脈から情報を引き出せるようになった。
そこでわかったのが、地脈とは高純度で巨大な力の流れであると同時に、世界中からあらゆる情報が集まる場所でもあるという事だ。同時に、今の私ではその情報の全てを引き出すことは出来ないということも分かった。
どうやら地脈から情報を引き出すには、より強く地脈と馴染み、より深く繋がる必要があるらしい。そのために重要となってくるのが、『地脈親和性』のスキルだ。
私の『地脈親和性』のスキルレベルは現在8。ズレが消え去った際に、6から一気にスキルレベルの壁である7を越えて8にまで至った訳だが、それでも未だ地脈全体から見てごく一部の情報しか引き出せていない。恐らく『地脈親和性』のスキルにも、他のスキルと同様にその上位スキルが存在しているとみて良いだろう。そこに至らぬ限り今はまだ、地脈から私の知りたいことを全て知る事は出来ない。
まあそれでも、何も知ることが出来なかった頃よりは大きな前進だ。まだ繋がれぬ地脈の深き場所にあるらしきダンジョンコアの情報も、ダンジョンコアに刻まれたダンジョンに関する基礎知識により補完できるし、以前よりも遥かに信頼できそうな情報が増えた。
新たに得た情報は地脈全体から見ればごく一部とはいえ、それでも膨大な量だ。少なくとも数年で消化しきれる程度の情報量では無かった。色々と興味深い知識も多いけれど、今の私はその全てをじっくり考察していられる程、時間に余裕がある訳では無い。今は私と関係が近く重要と思える点だけを抜き出して、この溢れる好奇心を満たすのはまた後日としよう。
という訳で、まずは一番重要そうなダンジョンコアの基礎知識から漁っていく。
先の情報でダンジョンコアが生成される仕組みについてまでは分かった。ここからはその続き、生成されたダンジョンコアがどのようにしてダンジョンを稼働させるのかについてだ。
私がこの世界でダンジョンコアとしての己を自覚した時、既にダンジョンは構築されていた。それにずっと私のステータスの中で空白のままだったマスターという項目。
ダンジョンコアの基礎知識を知った今、この二つがかなり特殊な状況であることがよくわかった。
本来のダンジョンコアは、それ単体でダンジョンを構築することが出来ない。生成されたダンジョンコアは、所有者を登録し、その所有者に使用されることで初めてダンジョンを構築することが出来るのだ。ここで言う所有者とは即ち、私のステータスにも表記のあるマスターこと、ダンジョンマスターのことである。
ダンジョンマスターも無くダンジョンを構築している時点で、私はこの世界の一般的なダンジョンコアと比べて、かなり異質な存在なのだ。
原因として考えられるのは、私という存在。即ち、異世界からの転生者が意識として宿っているということ。
そもそも一般的なダンジョンコアは、私のように最初から明確な意思を持たない。生成された時に付与される基礎知識によって、ダンジョンマスターに対する補助的な受け答えこそ出来るのだが、意思と呼べるようなものはただそれだけ。ダンジョンコアが単体でダンジョンを構築できないのも、そこが関係している。
ダンジョンコアの基礎知識内には、ダンジョンマスターがダンジョンコアに所有者として登録する方法も記されているようだが、私には必要が無いので省略しておく。
そもそも私にはダンジョンマスターなど必要無いし、ダンジョンマスターに所有されるのは遠慮したい。ただ一つ、ダンジョンコアに生物が触れたら、登録される危険があるということだけは覚えておこう。
私自身がダンジョンマスターとなれれば、なんて突飛な考えも一瞬浮かんだのだけれど、どうもダンジョンコアの性質上、ダンジョンマスターとなるには生身の肉体が必要なようで断念した。
次は、魔王について。こちらは主に地脈からの情報と基礎知識をまとめたものだ。
通常魔物たちは、同種同士でしか群れを作らない。強い魔物は他の魔物たちを集めて群れや集落を作る場合もあるが、それも同系統の魔物のみだ。だが、魔王は違う。魔王へと至った魔物は、全く別種の魔物たちでも配下に加えていく。それは魔王だけが持つある力が関係している。
また魔王とは、魔物たちが進化を繰り返した先。その頂きの一つでもある。そのランクは最低でもAランク。魔王を超える魔王と呼ばれる【大魔王】となるものは、さらに上のSランクに達するという。魔王を目指す魔物たちに共通するのは、他の魔物を支配下におきたいという強い意志だ。とはいえその望みは、己の力を高めるためだったり、独占欲を満たすためだったり、仲間たちを守るためだったりと、その魔物によって様々で、必ずしも魔王と聞いて単純に想像するような横暴な存在だけでは無かったりする。
要約するにそれらの望みを叶えるため必要となるのが他者を支配する力であると結論を出した者が魔王を目指すのだ。そして、その道に踏み込んだ魔物には【王を目指す者】の称号が現れる。
魔王が持つ特殊な力には、領域を支配する力というのがあった。それは魔物たちが己の魔力を環境に馴染ませて、縄張りを生み出す方法とは似て非なる力だ。
領域の支配は魔王が支配下に置いた空間を、魔王とその配下たちにとって生きやすい環境に変える力である。領域内において魔王と魔王の配下たちは、通常以上に力を発揮することが出来るし、時に魔王の配下たちはその領域内において、一時的に魔王より強大な力を借り受けることも出来るそうだ。さらに魔王は支配した領域の特色や広さに応じて、その力を増すことが出来る。他にも魔王は支配した領域に、様々な干渉を行うことが出来るという。
つまり魔王とは、魔物たちの王にして、魔物たちの進化の頂の一つ。そして広大な領域の支配者でもあるのだ。
さて、ここまで魔王に関する情報を整理してきたが、そもそもこれは私と関係のあることなのか? その答えは、基礎知識の中にある。
魔王の持つ力を考察する中で、私はその力が何かに似ていると感じていた。
多様な魔物たちを支配下におく力。配下の力を上昇させ、支配した土地から力を得るといった領域を支配する力。
そう。これは、ダンジョンコアの持つ機能と非常によく似ているのだ。
多様な魔物たちを支配下におくというのは、そのものずばり。領域を支配する力についても、ダンジョンコアの場合はダンジョン内においてのみという限定だが、同じようなことをしている。些細な違いこそあれ、その力の性質はとても近い。これが、何を意味するのか。
それは魔物が、魔王へと進化する条件を紐解くことで分かる。
魔物が魔王へと進化するための条件は、まず魔物としてのランクがBで、レベルが上限に達していること。次に称号【王を目指す者】を所持していること。
ここまでは良い。問題は最後の一つ。
前二つの条件を満たした上で、高難易度のダンジョンを攻略し、ダンジョンコアを破壊、吸収すること。
ダンジョンコアを破壊、吸収することにより、魔物はその身にダンジョンコアの持つ力を受け入れて、魔王となるのだ。
破壊されたダンジョンコアは当然ながら、そこで機能を停止する。
それは、私にとっての死だ。
魔王を目指す魔物は、Bランク以上。それは明らかに、今の私が対抗できる戦力を越えている。幸いなことにこの病魔の森に住まう強力な力を持つ魔物たちは、これまで魔王の力に興味を示さなかった。だが、勇王国と冒険者たちの介入によって混沌と化したこれから先は分からない。病魔の森の魔物が冒険者たちによって討伐されていけば、外から縄張りを求めてやってくる魔物たちも増えるだろう。そうなればその中に、ダンジョンコアを狙う魔王候補が現れてもおかしくはない。
どうやら私の敵は、勇王国や冒険者といった人間たちだけではないようだ。そういった魔物たちもまた、これからは私を狙ってやってくるかもしれない。
ざっと調べて、すぐに重要と思えたのは、この二つ。
ああ、あと一つだけ、気になることがあった。
それは【神】の称号と、人間たちが神と呼ぶ存在について。
この二つの情報は地脈や基礎知識の何処を探しても見つからなかった。それが気になる。
私が私以外の【神】と呼ばれる存在に触れたのは、ステータスに記載された称号と、人間たちの会話の断片、それからあの勇者が攻めてきたときに勇者の力を増幅した祝福の力を感じた時だけだ。
今思えばあれは、ダンジョンコアの持つ力と同系統のものだった気がする。魔王が持つ力と同様に。そこから私が【ゴブリンの神】という称号を比較的簡単に手に入れられたのも、私がダンジョンコアだったからと推測していたのだが。
それならダンジョンコアの基礎知識か、地脈からの情報にそういった情報があるはずだ。それが何処を探しても見つからない。
これがまだ、私の引き出せる範囲では見つけられない情報なのか、それとももっと別の要因があるのか。
この気づきはかなり重要なことのように思える。
あの人間たちに【神】と呼ばれる者たちには、これからも注意を払っていこう。
さて、情報のまとめと考察はこのくらいにしておいて。
そろそろ、ダンジョンの整備と強化を始めようか。




