53.第四階層の追加に向けて
あらすじ
希望に満ち溢れた六人組を待ち構えるゴブリン五匹。
侵入者たちが戦いを仕掛けた所で、黒牙の操る闇に隠れたゴブリンたちが襲い掛かった。
さらに部屋の外から残るゴブリンたちも参戦し、戦いは乱戦となる。
侵入者たちの切り札を黒牙が倒したことで、戦いの趨勢は一気にこちらへと傾いた。
殲滅は終わると、“私”は侵入者から得た物の精査していく。
あれから百日が経過して、ついに第四階層に至る条件が整った。
第四階層を追加するための条件は、追加するときに必要とする400,000DPと、第三階層の部屋数を十部屋以上にすること。部屋は通路で繋げなくてはならないので、当然その為にもDPは消費する。全て合わせると大体1,000,000DPは必要な計算だ。
ここまで来るのに、色々なことがあった。その中でも特筆すべきことと言えば、何と言っても第二階層が完成したことだろう。第二階層に記録する魔物と、守護者、そして罠。
その選定には、かなり悩んだ。第一階層と同じような作りにするのか、それとも差別化を考えて、配置するための新たな魔物を探すか。時間はあまりないが、軽々に決めて良い問題でもない。それを考えていた時、ある出来事によって私はその手がかりを得た。
その手がかりを得る切っ掛けとなったのは、不定期に侵入してくる冒険者たちへの対策だ。
ダンジョンの難易度がうまく伝わったのか、それとも病魔の森の開拓が進んだ影響か、あれからやってくる冒険者たちはEランクやDランクが主になった。彼らの話を集めたところによると、どうやらここは、初心者を突破したばかりの冒険者たちが魔の領域のダンジョンを学ぶ為の場所、という認識で冒険者の間に広まりつつあるようだ。
ここは病魔の森の奥にあるとはいえ、勇王国からは一番近い魔の領域のダンジョンであり、確認されている難易度もそれほど高くはない。それに加えて今では病魔の森の開拓が進み、ダンジョン付近にまで比較的安全な道が敷かれてしまった。さらに強い冒険者は基本的に病魔の森の探索に行ってしまい、敵が弱く実入りも少ないこのダンジョンには興味が薄いのだとか。その辺りの事情が作用してそういう認識が広まったようだ。
病魔の森の開拓が進むのは問題だが、ダンジョンの知名度としては何とか私の理想とした立ち位置に立てたのではないだろうか。
ただそうなった時、今度はDPの回収に問題が出てきた。
冒険者たちの強さによってその数字に多少ばらつきがあるとはいえ、Eランクの冒険者たちが一回の戦闘で発生させるDPは、大体10DP。一度の探索で戦闘を行う回数は五回前後なので、集まるのは50DPくらいだ。
Dランクだとそこから一つ桁が上がって、一回の戦闘で100DP程を発生させる。一度の探索で戦闘を行う回数は、十回から十五回で、集まるのは多くても1,500DPくらい。第一階層の守護者と戦えば、そこへさらに500DP程が加算される。
これが一日に二十組、三十組と来るのであれば、それなりの収入にはなるのだが、実際は一日に一組が来るか来ないかといった所だ。
結果、一日のDP収入はガクッと落ちた。だが、これだけであればまだ対処できる。このレベルの侵入者たちだけであれば、複製された魔物や、第一階層の最後に待ち受ける守護者で対処できるので、その間に主力であるゴブリン部隊を狩りに行かせれば良い。
厄介なのは、彼らが不定期にやってくるということと、その中に時折、強い冒険者たちが混ざってダンジョンの攻略を目指して上がってくるということだ。
こいつらへの対処の為に、主力部隊は常にダンジョンで待機させる必要がある。もし、主力がダンジョンから離れている最中に強力な侵入者たちがやってきた場合、デッドラインを突破されてしまう可能性もあるからだ。
一応黒牙は常にダンジョン内で待機しているが、黒牙の本領は影からの暗殺。警戒されている鼠の魔物という件もあり、相手が複数である場合、一匹で挑むのは少し不安がある。
探索部隊のゴブリンたちを偵察に出して、冒険者の動向を監視したりもしているが、それでも突然やってくる侵入者たちへの対応には、どうしても遅れが出てしまう。
そうして困り果てていた時、それを解決した魔物が、ダイアウルフだった。
ダイアウルフ。Dランクの狼系魔物で、以前、試験的に召喚してゴブリン部隊の一つへ配属させた魔物だ。
基本となる『気配察知』に、ダイアウルフ特有のスキル『嗅覚』や『聴覚』を併用した索敵能力は、想像した以上の広範囲を詳細にカバーしてくれる。それに加えて移動速度の高さにより、簡単な伝令役や果てはゴブリンたちの運搬まで行ってくれるのだ。その結果、ダンジョンの近場であれば、少数の主力部隊を狩りに出歩かせることが可能となった。
それでも以前と比べれば、まだDP収入は少ない。だが、少しずつでも確実にDPは貯まりだした。
ただ、ダイアウルフがいくら有能でも、試験用に召喚した一匹だけではさすがにこれ以上の改善は難しい。そこで私は、狼系の魔物を多く召喚する事に決めた。ただDPの関係上、Dランクの魔物を大量に召喚するのは厳しい。そんなわけで実際に召喚したのは、Dランクのダイアウルフでは無く、その一ランク下、Eランクのフォレストウルフとなった。
ダイアウルフよりも身体は一回り小さいが、それでも基本的な体長が子供の背丈程であるゴブリンならば、問題なく運搬できるし、『嗅覚』や『聴覚』のスキルも最初から持っている。十分に役立ってくれるはずだ。
そうして新しく召喚したフォレストウルフたちは、ダイアウルフを頂点とした新たな部隊に組み込み、戦闘部隊のゴブリンたちと共に狩りへと向かって貰った。
これがなかなか、悪くない。
今まではゴブリンたちの補助としていたダイアウルフだったが、フォレストウルフという直属の部下が出来たことで、彼らだけでの狩りが可能となった。その結果、単なる移動と索敵の為の部隊だったダイアウルフの部隊が、様々な魔物を狩ってくるようになったのだ。魔石の回収など細かな作業でゴブリンたちの手助けを必要とするとはいえ、ダイアウルフたちはかなりの戦果を挙げている。
群れとなった彼らは強かった。ゴブリンたちほどの多彩さは無いが、素早さによるかく乱と追い込み、そして『爪牙術』による牙と爪の攻撃は強力で、大抵の相手にうまく対処可能だ。ゴブリンたちも部隊としての強さを持っているが、それとはまた別種の野生の群れとしての強さ。
丁度、第二階層の魔物をどうするか迷っていた事もあり、私はそれを決め手として、狼系の魔物を第二階層へ配置することに決めた。
現状の第二階層だとDランクであるダイアウルフは制限に引っかかるので、守護者として配置するのはフォレストウルフを。そして複製の為に記録する魔物には、狼系Fランクのレッサーウルフとファングウルフを育てた。
ただ、ファングウルフはともかくレッサーウルフはかなり弱い。Fランクの狼系魔物はこの二種類しか確認していないので仕方なく入れているが、同ランクのゴブリンよりもさらに弱いのだ。どうやらレッサーという名のつく魔物は、通常の種族よりも弱くなる傾向があるらしい。その分、魔力供給は最小で良いから、数のかさ増しには向いているけれど。
前々から思っていた事だが、同じランク帯でも強い魔物と弱い魔物の差はかなり広い。逆にランクが一つ違っていても、その差が少ない場合もある。一応、レベル上限を見てみると一つのランクの中で三つぐらいに分けることは出来そうだけど、感覚的にはそれだけでは無いように思う。どうも同じランクの中でも、見えない部分でさらに細分化されているようだ。この辺りもまた時間が出来たら、考察を深めてみたい。
と、それはともかく。当然ながらファングウルフとレッサーウルフはどちらも育てられるだけ育ててある。その結果、複製された魔物がこの二匹だ。
種族:レッサーウルフ ランク:F
LV:5
スキル:『嗅覚LV1』『聴覚LV1』『夜目LV1』『遠吠えLV1』『騎乗LV1』『気配察知LV1』『森歩きLV1』『爪牙術LV1』『連携LV1』『威嚇LV1』
称号:【ダンジョン:病魔の森のダンジョン所属】【魔力複製体】【複製劣化】
種族:ファングウルフ ランク:F
LV:10
スキル:『嗅覚LV3』『聴覚LV3』『夜目LV3』『遠吠えLV3』『騎乗LV1』『気配察知LV2』『森歩きLV2』『爪牙術LV3』『連携LV3』『威嚇LV2』『体術LV2』『見切りLV2』
称号:【ダンジョン:病魔の森のダンジョン所属】【魔力複製体】【複製劣化】
ステータス的な強さとしては、それほど第一階層との違いは無い。むしろこちらの方が少し弱そうにも見える。だが、実際の戦闘を確認してみると、意外にこちらの方が強かった。
恐らくその差は、複製の欠点が影響しているのだろう。
複製された魔物は自我が無いためか、基本的にあまり戦略を駆使したりしない。そのため、素の力の強さが重要となってくるのだ。すると、どちらかと言えば万能であることが強みのゴブリンよりも、力や素早さに特化した狼系の魔物の方がその力を発揮しやすくなる。万能さを活用するには、ある程度の戦略が必要になってくるからだ。
多分、その辺りが結果として現れたのだろう。まあレッサーウルフは、素の力でもゴブリンに負けてしまっているのだけれど。
第一階層と違って、第二階層の記録容量にはまだ若干の余裕があるので、もし他に狼系のFランクの魔物が見つかったら、新たに記録を増やしていこうと思う。守護者設置の条件などもあるから狼系のFランク魔物で、より強い種が現れることを祈るばかりである。
さて次は、守護者として配置したフォレストウルフのステータスだ。
名前:――――
種族:フォレストウルフ ランク:E
年齢:0
カルマ:±0
LV:19/25
スキル:『嗅覚LV5』『聴覚LV4』『夜目LV5』『森歩きLV5』『遠吠えLV3』『騎乗LV3』『気配察知LV4』『爪牙術LV5』『連携LV3』『威嚇LV3』『体術LV3』『見切りLV3』
称号:【――――の配下】【ダンジョン:病魔の森のダンジョン所属】【第二階層守護者】
こちらの個体は第一階層の守護者であるゴブリンリーダーのように防御主体ではなく、どちらかと言えば自分から獲物を仕留めに行く攻撃主体のタイプである。一匹でも問題なく戦える攻撃力があるし、守護者として強化された現状ならば、Dランクのパーティが相手でも十分に相手を殺し切れる。
とはいえ、さすがに一匹は勿体ない。スキル『指揮』こそないものの、『連携』のスキルがあるので、こちらにも一応複製された魔物からファングウルフを四匹配置した。フォレストウルフには、是非ともそれらを有効に活用してもらいたい。
それから第二階層の罠に関しては、こちらも第一階層から変化をつけて、踏むと床や壁から槍が飛び出してくる突き出す槍の罠や、槍付きの落とし穴という殺傷力高めての罠を増やしてある。勿論、宝箱と罠付き宝箱は健在だ。とはいえやはり、殺傷力のありすぎる硫酸の降る天井は上の階層へ。
と、こんな感じで、私のダンジョンの第二階層は第一階層よりも少しだけ殺傷力を高めた形で完成となった。
第二階層についてはここまで。いよいよ、お待ちかね。第四階層を追加にとりかかろう。
とはいっても、今からすることはもはや一つだけ。メニューにあるダンジョン拡張の項目から階層追加を選ぶのみだ。私はその通りに、階層追加を選択する。
ダンジョンが地下に広がっていく。ああ、これは人間であった頃に持っていた肉体とも違う、不思議な感覚。ダンジョンコアとしての感覚が、より私に馴染んでいくのが分かる。これならば『魔力感知』や『気配察知』を使わなくても、ダンジョン内の事であれば少しは分かるかもしれない。五感ともまた違う感覚だけど、これはこれで便利だ。
さて、ステータスはどうなった?
名前:――――
種族:ダンジョンコア
年齢:15
カルマ:+5
ダンジョンLV:4
DP:12474DP
マスター:無し
ダンジョン名:病魔の森のダンジョン
スキル:『不老』『精神的苦痛耐性LV9』『空想空間LV8』『信仰LV7』『地脈親和性LV5』『気配察知LV7』『魔力感知LV8』『伝心LV7』『読心LV7』『記憶LV5』
称号:【異世界転生者】【□□□□神の加護】【時の呪縛より逃れしモノ】【聖邪の核】【鼠の楽園】【惨劇の跡地】【F級ダンジョン】
ダンジョンLVが上がっているということ以外で、目につく変化は無い。DPは第四階層を拡張した事で減ってしまったが、これからまた増えていくだろう。ちなみにダンジョン名は、冒険者が増えだしたころに、いつの間にかこの名前へと変わっていた。どうやら冒険者たちの中ではこのような名前で呼ばれているらしい。それが反映されたようだ。
ダンジョンコアの機能的には、何か増えているだろうか? そう考えた時、ふとその答えが思考に浮かんできた。
……なるほど、これは面白い。
〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『地脈親和性』のレベルが5から6へ上がりました〉
〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『記憶』のレベルが5から6へ上がりました〉




