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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
第二章 迷宮覚醒の章

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52.殲滅戦

あらすじ


騎士たちが去ってから数日が経ち、また新たな冒険者たちがやってくる。

六人組の冒険者たちは、騎士たちと違ってダンジョンの探索に慣れているようだった。

戦闘面でもバランスが良く、危なげなくダンジョンを進んでいく。

希望に満ちた冒険者たちの会話に、“私”は前生で好きだった冒険譚を思い出す。

彼らは守護者を突破すると、その先へと進んでいく。

第二階層に敷いたデッドライン。

侵入者たちがそこへ踏み入ったとき、私は配下たちへ殲滅の命令を送る。

「第一階層の広さを考えれば、そろそろこの第二階層も中盤のはずだ。だが、道中で全く魔物の姿を見ないな」

「ああ。罠はあちこちに仕掛けられてるけどな。それも危険度が跳ね上がってる。気付いたか? デスタ。さっきの罠は明らかにこちらの命を奪いに来てたぞ」

「やはりそうなのか、クレン。罠が主な階層なのかもしれないな。前にそういうダンジョンもあると他の冒険者から聞いたことがある」

「そりゃ、ちっとつまらねえな。魔物が出てこないんじゃ、俺も斧も役立たずだぜ」

「アーガスはもう少し、戦闘以外の技能も鍛えるべきではないかしら?」

「ガハハ。メルシアちゃん、そこは適材適所って言ってくれ」

「私の『神聖魔法』では、まだ部位欠損や劇毒の類いは治せません。お薬も一応用意してありますが、皆さま十分お気をつけください」

「ああ、十分気を付けるっと、噂をすれば魔物の気配だ。正確な場所は分からねえが、それなりの数がいるようだぞ」

「お、いよいよお出ましか。ガハハ、腕が鳴るぜ」


 相変わらず、明るく会話をしながらも、彼らは中部屋の中へと入っていく。

 そんな彼らの目の前には、戦闘部隊のゴブリンたちが五匹。


「む、ゴブリンの上位種かの? 魔法を使える奴はおらんようだが、漂う魔力を見るにランクはDといった所じゃな」

「数は五か。他が来る前に倒しておこう。みんな、戦闘態勢を」

「ああ」「おうっ」「いつでも」「はいっ」「よいぞ」


 戦士デスタのかけ声で陣形を整える冒険者たち。滑らかに行われたそれは、これまで安定した戦果を挙げてきた常勝の陣。それに襲い掛かる戦闘部隊のゴブリンたちは、作戦も何もない正面からの突撃だ。これだけならば、今回も冒険者たちの勝利で終わることだろう。

 ただしそれは、ただの囮。

 彼らが交差するその瞬間、黒牙が自身の操る『闇魔法』の一部を解いた。

 唐突に部屋の暗がりから現れる探索部隊のゴブリンたちに、冒険者たちは虚を衝かれる。四方八方から攻撃を加えるゴブリンたちに対して、しかし冒険者たちは即座に陣形を崩して対応してきた。斧士と槍士に加えて、戦士、さらには斥候まで短剣を抜き、前衛に出てゴブリンたちを抑えにかかる。神官が彼らの背後で『神聖魔法』を発動すると、前衛の四人の力が底上げされていく。その間に、魔術師は魔力を操り魔法陣の構築を始めていた。

 だが、こちらの戦力はさらに加算される。中部屋の外に待機していた残る戦闘部隊のゴブリンたちが、駆け足で戦いに参戦したのだ。

 神官までもが手にした杖を使い、増えたゴブリンの攻撃を受け止める。スキルに『杖術』を持っていたので神官も一応戦えるのだろうが、そのスキルレベルは1。所詮は護身術程度だ。事実、乱戦の中でゴブリンの攻撃を何とか受け止められても、その身体はじりじりと押されている。

 だが、まだ魔術師が魔力の操作を止めていない。魔術師はただ一人だけ前衛に加わらず、魔法陣に魔力を集中させ続けている。

 あれは厄介だ。そう思える程に、強い魔力で魔法陣を描いている。

 だが、まだこちらの手は終わっていない。


 ――黒牙、魔術師を狙え


 私が黒牙に命令を送ると、黒牙は闇に身を潜めたまま乱戦の中をするすると移動していき、魔術師に狙いを定めた。

 黒牙の一撃は正しく、一撃必殺。戦場に現れた不自然な闇は、しかし戦いに集中する冒険者たちには気付かれることなく、黒牙はそこから飛び出すと魔術師の喉をその牙で容易く切り裂いた。


「なっ、ハルファ――っ!」


 それに気付いた戦士が叫ぶ。しかし、戦闘部隊のゴブリンの一匹が戦士の隙をつきその身体に痛烈な一撃を与えたことで、その声は中断した。

 そこからは一気に事態が進んだ。切り札だったのであろう魔術師が死んだことで、彼らはジリ貧の状態となり、それが彼らの心を削っていった。

 さらに黒牙の操る闇に乗じて、『不意打ち』のスキルを覚えたゴブリンたちが、闇の中から冒険者たちに奇襲をかける。

 その結果、冒険者たちの殲滅は、程なくして完了した。



 人間を私の意志で殺したのはこれが初めてのことだ。

 最初に現れた勇者たちは、ゴブ太たちと魔王の残滓によって倒された。そこに私の意志は、直接関わってはいない。私はただ、守られていただけである。でも今回は、確実に私の意志で、私の命令で侵入者たちを殺した。私は私の命を守るためとはいえ、人を殺したのだ。

 ここが異世界であるとはいえ、元は同じ人間だったこの私が。

 でも、私の心は驚くほど平静を保っている。その理由はなんだろう?

 ダンジョンという種族となったことで人の心を忘れてしまったのか、或いは元より私がそう言う人間だったのか。そう考えた時、答えはあっさりと出た。

 間違いなく、後者だろう。

 ダンジョンLVが上がる度に、ダンジョンコアとしての本能のようなものが私と混ざり合っていくのは感じているが、それで私の根本が変わったというようなことはない。

 私は変わらず、私のままだ。

 思えば死にたくないとそれだけを願う私は、昔から他人のことに興味が無かった。他人の創る物語や、他人の生きる道筋、他人の抱く感情には興味が向いても、その本人には全く興味が無い。

 そんな私が人間として、人間を殺さずにいられたのは、きっとルールがあったから。殺してはいけないというルールが、私に人殺しを忌避させてきた。きっと当時だって、そのルールが無ければ私はそれに何の忌避感も持たなかっただろう。まあ実際にそれを行っていたかどうかは別として。

 人を殺そうとすれば、人に殺される。私にとって私の命を守るルールは絶対だった。

 しかし、そんな私が人に殺され、この世界に転生して、また人に殺されようとしている。ルールが私を守らぬ以上、私がルールを守る意味は一切無い。

 私は自分の為に生きる。それが、私だ。

 現代を生きた人間としては悲しい事実だが、現状を考えれば悪くはない。これからも、私は私が生き延びるために、私を殺そうとする侵入者たちを躊躇なく殺さねばならぬだろうから。そしていずれは、私の命を脅かし続ける勇王国も……。



 さて、そんな私の暗い決意はともかくとして、侵入者たちの残していったアイテムを精査しよう。と、その前に、侵入者たちの亡骸の処理だ。私は侵入者たちの亡骸を、吸収してDPへと変換する。ついでに侵入者たちの持っていた魔石も。

 このダンジョンから発生した複製体の魔石は、何故かDPとはならず、溶けてダンジョンを巡る魔力へと変わってしまったが、侵入者たちが道中の森の中で手に入れたらしき魔石はきちんとDPへと変換できた。残るは侵入者たちの持っていたアイテムだ。

 この侵入者たちはどんなものを持っていたのかな?


 武器は剣が一本、槍が二本、斧が一つに、杖が二本、それに短剣が二本だ。

 他は胸当てや手甲、脚甲といった防具が四組と、投擲用らしきナイフが数本。

 戦闘中に彼らが時折投げつけていた丸い玉は、どんな効果か分からないので、後でゴブリンたちに試させてみようか。

 あとはポーション類が幾つかと、食料や水筒、布、紙束、本などの雑貨が無数。それにそれらを入れていた袋が六つ。本や紙束は気になるが、視力の無い私ではそれを確認する術がない。魔力を見ても、紙とインクの魔力が混ざり合っていて、細かい文字まではうまく認識できなかった。魔法陣のように魔力によって書かれた模様は細かい部分まで知覚することが出来たんだけど。

 ゴブリンたちに確認させても、読むことは出来ないようだった。一応、黒牙にも試させてみるが、そもそも本という物自体をよくわかっていないようだ。まあ、鼠だからな。

 こんな時、【知者】の称号を持つゴウグゥがいてくれれば、興味を持って色々と調べてくれたりしたのだろうか。そんな考えても詮無きことが、少し頭をよぎった。



 ……続けよう。

 侵入者たちの持っていた武器の中で、魔法陣が施された武器は杖一本だけだが、投擲用の丸い玉と、よくわからない形状の鉄片、それに水筒にも小さな魔法陣が施されているようだ。今までの魔法陣よりも簡素なそれらは、魔法陣初心者な私にとって良い教材となりそうである。

 アイテムについてはこんな所だろうか。魔法陣が施されているアイテムについては、勇者の持っていたアイテムと同様に、ダンジョンコアのある部屋に保管しておく。あとは、本や紙束の類いも同様に保管しておこう。

 それ以外のアイテムは一度吸収して、DPに変換。大したDPにはならないが、一度吸収したアイテムは、DPを使って同じものを複製できるようになる。

 魔法陣が施されていないというだけで、侵入者たちの持っていた武器や防具はそれなりに良質なもののようだ。これらをゴブリン部隊の者たちに装備させれば、戦力をより強化することが出来るだろう。

 その分DPを消費するが、まだ今回と前回の侵入者が発生させたDPが結構ある。

 これは前々から気がついてはいたことではあるが、前回と今回の侵入者たちの動きとDPの変化をよくよく観察することで、DPの発生条件に関してはある程度の結論が出た。

 どうやら侵入者たちがダンジョン内で戦闘を行うと、侵入者の強さに応じてDPが発生するようだ。それがどのような原理で発生しているのかまでは分からなかったが、DPの発生状況と増加する法則が分かっていれば、今はそれでいい。

 要するに強い侵入者にダンジョン内で多く戦わせれば、より多くのDPを発生させることが出来るということだ。

 だが、あまり侵入者が強いのも問題である。侵入者が強すぎると私の命が危ない、というのもあるが、それだけでは無い。今回のようにゴブリン部隊を動員してなんとか出来るような

 レベルであっても、あまりダンジョンにやってきた侵入者が行方不明になりすぎると、あのダンジョンは危険なのではないかと、また勇王国から調査が入る可能性も出てくる。

 とはいえ、そもそも危険な病魔の森の中心にあるダンジョンなので、一度や二度のことであれば、ここに来るまでの危険性も加味されて、再調査が行われる可能性は低いだろう。

 なにせこのダンジョンは、前回やってきたあの騎士たちが、勇王国へ危険ではないと報告しているはずなのだから。強さはともかく貴族や騎士の称号を持つあの騎士たちが王命を受けて報告した事であれば、それなりに信じられているのではないだろうか。

 だがそれも、行方不明者が出続ければ変わってくるだろう。そうなれば、次に送られてくる調査の者には、あれらよりもずっと慎重で、もっと強い者たちが選ばれる可能性が高い。次は途中で引き返すなどということは無く、ゴブリン部隊の者たちを圧倒する可能性すらあるのだ。勇王国がどれほどの戦力を蓄えているかにもよるが、今は目を付けられたくはない。そうならないためにも、ダンジョンの拡張は急務だろう。

 もっとこの世界の冒険者たちの性質や行動原理に詳しくなれば、こちらの要望にあった冒険者を誘うような構造のダンジョンに変えていくことも出来るのだろうが、現状では情報があまりに足りない。ダンジョンにやってくる侵入者たちの強さをこちらで操る術がない以上、ダンジョン側を強化していくしか方法は無いだろう。ダンジョンの階層を増やしていけば、それだけ攻略に時間が掛かるようになるし、ダンジョンLVも上がって各階層に設置できる複製魔物のランクも上昇していく。そうすれば探索途中で引き返す冒険者も増えていくはずだ。こうなってくると、無駄なDPの捻出は出来るだけ抑えておきたい。

 むぅ。少し良い装備が手に入ったからといって、ゴブリン部隊の装備にDPを使うのは時期尚早だろうか? いやでも、冒険者たちとの戦いを見るに、装備の質は重要だ。

 ……まずは、ゴブリン部隊の者たちが新しい装備を欲しがるかどうかを聞いてみるか。



 各ゴブリン部隊の隊長と話して、部隊に所属するゴブリンたちそれぞれに、欲しい武具の聞き取り調査を行った結果、意外と新たな武器を望むゴブリンが少ない事を知った。

 とくに戦闘部隊のゴブリンたちは、既に棍棒での戦闘に慣れてしまっており、他の武器だと勝手が違って戦いにくいそうだ。なので、即座に欲しいのは防具だけ。

 ただサンプルとして渡した武器に興味は示しているようだった。DPに余裕が出来てきたら、ダンジョンに武具を常備しても良いかもしれない。

 対して、探索部隊や総合部隊のゴブリンたちの中には、新たな武具に興味を示す者たちもいた。特に投げナイフや短剣は、ゴブリンスカウトたちに好評だ。それらの武器を取り入れた新たな戦法の可能性が次々と議論されている。


 とりあえず、現状のDPとそれぞれの部隊からの要望を総合して、順次配布していこう。

 それが終わったら、ダンジョンの構想を始める。まずは第二階層に記録する魔物と守護者の選定、第四階層の追加も行っていきたい。

 第二階層もまたゴブリンで済ませるのか、それとも新たな魔物を候補に加えるか。合間に私自身のスキルの特訓もしていかなければ。それと、せっかく魔法陣にまつわる初心者用の教材となりそうなアイテムを手に入れたのだ。そちらもじっくりと調べてみたい。考えることもやることも山積みだ。しかし、うかうかしていれば、また冒険者がやってきてしまうだろう。それも考えつつ、優先順位を決めて行っていかなければ。


 暫くは、随分と忙しくなりそうだ。



 〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『記憶』のレベルが4から5へ上がりました〉




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[良い点] 面白い [気になる点] 面白すぎる [一言] 寝れない
[一言] 今回のようにゴブリン部隊を動員してなんとか出来るような  レベルであっても、あまりダンジョンにやってきた侵入者が行方不明になりすぎると、あのダンジョンは危険なのではないかと、また勇王国から…
[一言] おもしろいですねえ、じわじわ来ます 毎晩の楽しみです 毎日更新頑張ってください
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