51.冒険者
あらすじ
ついに三人組の侵入者たちは第一階層の最後、守護者の待つ部屋までやってきた。
準備を整えた三人組は部屋へと入っていき、苛烈な戦いが幕を開ける。
守護者は一撃でやられることこそ無かったが、しかし三人組の連携により打ち倒される。
先へ進むかと身構える“私”だったが、そこで貴族フロイグの限界がやってきた。
「この程度のダンジョンに勇者殿がやられるはずもあるまい」
フロイグの言葉に説得され、侵入者たちはそこでダンジョンの調査を終了する。
一難去って、また一難。
王命を受けた騎士たちがダンジョンから去って、数日。新たな侵入者たちがダンジョンへとやってきた。
今度の侵入者たちは【Cランク冒険者】のパーティー、称号に記されたパーティー名は【迷宮への挑戦者】。先日の騎士たちのように、貴族家出身という称号は無いし、騎士団の所属でもない。恐らく、ごく普通の冒険者たちなのだろう。だが、だからといって油断はできない。この冒険者たちのランクが確かならば、第一階層の守護者を突破できる実力は十分に備えている。
それに彼らもまた、先日の騎士たちのように勇王国からこのダンジョンの探索を命令されている可能性もあるだろう。冒険者と勇王国の関係性が定かでない以上、その可能性はしっかりと考えておくべきだ。まあ前回来た騎士たちの会話を思い出す限り、その可能性は限りなく低いように思うけれど。
今回の侵入者たちは、全部で六人。職業はそれぞれ、戦士、斥候、斧士、槍士、神官、魔術師だ。
ところでこの人間のステータス欄に存在する職業って、どういう意味があるのだろう?
何となくそういうものと認識していたけれど、色々な職業と覚えているスキルの構成を知ることで、改めて気になってきた。一応前生の頃のファンタジー知識を元にすれば、幾つかの可能性は推測出来る。ぱっと思いつく所だと、生まれた時から決まっているか、覚えたスキルによって変わっていくか、自分で自由に選ぶことが出来る辺りだろうか。それともそれらが混ざっていたり、或いは全く別の法則がある可能性も否定はできない。
気になるけれど聞いてみるわけにもいかないし、人間側のそう言った事情を調べるのは、やはりダンジョンコアたる私では難しいか。
と、今はそんなことを考えている場合では無かった。侵入者たちのステータスを見るに、彼らは前回来た騎士たちよりも、ダンジョンの探索に慣れているようだ。
シルバスという騎士だけが持っていた『罠感知』や『地形把握』といった探索に関係のあるスキルを、今回の侵入者たちは殆どが覚えており、特に斥候の侵入者が持つそれらのスキルレベルは5にまで達している。シルバスのスキルレベルが2と3でもそれなりに機能していたことを考えると、今回の冒険者たちが第一階層の罠や迷路に引っかかる可能性は前回よりもさらに少ないだろう。
戦闘面でも問題はなさそうだ。なかなかバランスの良いパーティーである。探索の専門職らしき斥候と、前衛の戦士、斧士、槍士に、回復の神官と遠距離の魔術師。いや、遠距離というなら斥候と戦士も『投擲』というスキルを持っている。これもきっと遠距離攻撃に分類されるだろう。
そもそもがこの戦士という職業の冒険者、他と比べて異様にスキルが多い。
斥候の持っている『気配察知』や『忍び足』、『夜目』などの他に、『魔力感知』や『魔力操作』、『生活魔法』や『魔術理論』といった魔法系スキル、『剣術』や『槍術』といった武器系統のスキルに至るまで幅広く覚えている。どれもスキルレベル自体はそれほど高くは無いけれど、幅の広さでは随一だ。その中でも、特にスキルレベルの高いスキルが『指揮』。そのスキルレベルは5。他のスキルレベルと比べると頭一つ高い。まあ戦闘に関係なさそうなスキルも入れると、同じレベルのものもあるにはあるけれど。『交渉』とか。
とにかく手札が多いということは、それだけ幅広く対応可能ということだ。それ以外の者たちにしても、スキルの量こそ普通だが、そのスキルレベルは3から5と決して弱くは無い。一体どのような戦い方をするのか。その辺りにも注意して、彼らを観察する必要があるな。
「クレン、魔物はどうだ?」
「遠くにいるっちゃいるが、こっからじゃわかんねえ」
「――ふぅ。分かった。ならば行くぞ、みんな」
「発見されたばかりのダンジョンとは、ワクワクするのう」
「カノンは私の後ろにいなさい」
「はい、メルシア。皆さま、怪我にご注意ください」
「ガハハ。最後尾は俺に任せとけ!」
彼らはダンジョン入り口付近にある小部屋で、暫くダンジョン内部の様子をうかがっていたが、そんな会話の後に移動を開始した。
侵入者たちの陣形は、斥候のクレンが一番手前で、その次に多くのスキルを持つ戦士のデスタが二番手、そこから魔術師のハルファブル、槍士のメルシア、神官のカノンと続いて、最後尾が斧士のアーガス。当人たちのレベルは大体、30以上40以下。
ダンジョン内での動きはかなり洗練されているようで、無駄なく通路を廻っている。
私が予想した通り、彼らが罠にかかることは無かった。罠の直前で斥候のクレンが悉くそれに気付き、回避や無効化をしていく。一応無効化された罠は、一定時間経てばダンジョン内に漂う魔力によって復活するが、少なくともこの侵入者たちがいる間に復活することは無いだろう。
それに彼らは一度踏み入った通路へ、もう一度足を踏み入れることが無い。恐らく斥候のクレンが持つ『地図作製』のスキルを使用して、ダンジョン内の地図を作成しているせいもあるのだろう。侵入者たちの未踏領域は効率的に塗り潰されていく。
こういった侵入者がいることを考えると、ダンジョンの構成は都度変えていったほうがいいのかもしれない。部屋や通路の移動にはそれなりのDPを消費するが、完全な地図が出回ってしまうよりは良いだろう。ただそれをしたことで、このダンジョンが普通では無いと思われるのは不味い。その辺り、他のダンジョンではどのようになっているのだろう?
ああ。動けぬ身体だと、そう言った情報も集めづらい。ただこちらは、他のダンジョンの位置が分かれば、魔物を派遣して調査してくるということも可能だ。人間の内情を探るよりは遥かにマシと言える。とはいえ、少なくともこの病魔の森の中には他にダンジョンは無いようなので、派遣を行うなら今までにないレベルの大遠征になるだろうけれど。
侵入者たちは順調にダンジョンを進んでいく。この侵入者たちの戦闘方法は、前衛に斧士と槍士がつき、斥候が『投擲』でアイテムを投げつつ牽制し、最後に魔術師が一撃を加えて終わらせるというもの。そんな中で戦士はというと、状況に応じてその動きを変えているようだった。後方からパーティーを『指揮』することもあれば、前衛に混じり剣と盾で戦うこともあり、また斥候と共に中距離からアイテムを投げつける事もある。
どんな相手が来ようとも、安定した布陣で迎え撃つ。相対するのがゴブリンやゴブリンファイターといった明らかに格下の魔物だとしても、この侵入者たちの心にはどうやら油断や慢心などというものは無いらしい。
たまに会話を繰り広げたりもしているが、それで周囲への警戒が薄まることも無い。
「聞いていた通りゴブリンの多いダンジョンだな。まだゴブリン以外の魔物を見ていない」
「邪妖種がダンジョンの生成に関わっておるのかもしれんのう。まあ、魔の領域にあるダンジョンでは、よくある話じゃが」
「ハルファブル、このままゴブリンだけが出続けると思うか?」
「まだ分からん。魔の領域のダンジョンは、周辺の環境から情報を吸い上げて、生成する魔物を変えているとも聞く。特に邪妖種のゴブリンは、何処にでも居るからのう。単なる偶然ということも考えられる。そもそも魔の領域のダンジョンは、まだまだ分からんことが多い。ダンジョンコアの事然り、ダンジョンマスターの事然り、な。じゃからこそ研究のし甲斐があるというものよ」
「ってことはよ、下の階層へ行けば他の魔物が出てくる可能性もあるってことだよな。ガハハ、そりゃ楽しみだ」
「俺は戦闘より宝箱の方が楽しみだな。魔の領域のダンジョンに出る宝箱には、特殊なものが多いっていうし。斥候職の腕が鳴るぜ。デスタはどうだ?」
「俺もどっちかって言えば宝箱の方かな。でも、魔物も悪くない。ダンジョンでは素材があまり手に入らない代わりに、魔石が『解体』しなくても出るから効率がいいし。何より換金がしやすい」
「ガハハ。デスタはやっぱり、金か」
「パーティーの財布を握ってるんだ。それを第一に考えるのは当然だろ。それともアーガス、あんたの食費を少し減らすか? そうすれば財布も楽になって、俺も純粋にダンジョンを楽しめそうなんだが」
「そんなことすりゃ、肝心なところで力が出なくなっちまう。分かった分かった。食い扶持分はしっかりと稼ぐさ」
「そう言えば、メルシアとカノンはダンジョンに何を求めてるんだ?」
「私は槍の修行が出来ればそれで。あとはカノンの行きたいところについていくだけです」
「そっか。なら、どちらかというとアーガスに近いのかな?」
「それは……少々釈然としませんが、間違いでは無いです」
「ガハハ。そりゃ、ちょっとひでえぜ。メルシアちゃん」
「あー、カノンは? 戦闘や宝さがしが目当てって感じでもなさそうだけど」
「金が目当てでも無いだろうな」
「クレンっ」
「ははっ、冗談だよデスタ。で、結局のところその辺どーなのよ?」
「私、ですか? 色々と理由はありますね。教会は魔の領域のダンジョンの破壊を推奨していますし、自身を鍛えるという目的もあります。『神聖魔法』の力は信仰心によって変わりますが、結局魔力が無ければ発動はしません。だから、扱える魔力を増やすためにも、魔物を倒してレベルを上げる必要があります。そう言う意味では、私もアーガス様やメルシアと近いのかもしれません」
「ガハハ。カノンちゃんに言われちまうと、ちっと恥ずかしいな」
「それに、これは神に仕える神官としては恥ずかしい話なのかもしれないのですが、私は幼い頃からダンジョンというものに興味がありまして。単純な好奇心もあるんです。いえ、むしろ理由としてはそちらの方が大きいかもしれません。親友を巻き込んで危険な場所にやってくるには、少し不純な動機なのかもしれませんが」
「ははっ。そんなことは無いさ、カノン。このパーティーに集った者たちは多かれ少なかれ、ダンジョンに好奇心を持っている。それを恥ずかしがることはないさ。まあ不純と言えば不純なのかもしれないが、冒険者なんて多かれ少なかれそんなものさ。むしろ自分の欲望に忠実なのは良い事だと思うよ。だよな、みんな」
「ああ、そりゃそうだ」
「ガハハ、確かにな」
「ワシのダンジョンの研究なぞ、好奇心の塊じゃからのう」
「そうですよ、カノン。私も貴方に巻き込まれたなんて思っていません。貴方とする冒険はとても楽しいですから」
「皆様、メルシア……ありがとうございます!」
なんだか随分と賑やかな一団だ。その言葉の一つ一つからは希望が溢れ、未知への好奇心で満ちている。その姿は私が想像する冒険者のイメージと一致していた。
強敵との戦いを、巨万の富を、未知なる宝を目指して、危険な領域に挑む英雄たちの冒険譚。冒険者としての彼らはとても楽しそうで、私は前生の頃に読んだ本に出てきた主人公たちへの憧れを思い出していた。
私は自分の死を恐れている。死にたくないと、ただそれだけを考えて、そう言う生き方を続けてきた。寿命という当面の天敵から解放された今でも、まだ私の生き方は変わらない。きっとそれは、私が私でいる限り、ずっと変わることは無いのだろう。
だからこそなのか、私は昔から好きなことに命を懸けられる人たちへの憧れがある。
仲間の為に己の命を懸けるゴブ太や、夢の為に己の命を懸けるこの冒険者たちのように。
その生き方へ物語のように引き込まれ、気が付いたら応援している。自分では決してできないと思うからこそ、私は彼らに憧れてしまうのだろう。
ああ、ジレンマだ。私もそのように生きてみたい。でもそれ以上に、それよりも遥かに強く、私の中には死への恐怖がある。この二つはどうしようもなく、相容れない。
まあいいさ。私は既にそれへの対処法を知っている。他者が生み出す物語を楽しめばいいのだ。さしずめ今は、この冒険者たちの物語を楽しもうか。
来たるべき時が、訪れるまでは。
ゴブリンやゴブリンファイターの集団を倒し、各所に仕掛けられた様々な罠を回避して、時には宝箱を見つけてその中身に一喜一憂する。そうして彼らはダンジョンを順調に踏破していき、ついに第一階層の守護者部屋の前までやってきた。事前に『気配察知』でその強さを知り、彼らは部屋の前で準備を整えると、万全の態勢でゴブリンリーダーに戦いを挑む。
個人の戦力で言えば、前回の侵入者の一人であるシルバスの方が強かった。だが、今回やってきた彼らは、集団での戦い方を熟知している。完璧な『連携』でもって、ゴブリンリーダーの戦略を正面から叩き潰し、気が付けばあっさりと完封してしまった。
ゴブリンリーダーには済まないが、今回は完全に冒険者たちの活躍が際立っている。私もつい、冒険者たちの動きに意識を取られてしまった。
でもゴブリンリーダーを無能だとは思わない。たとえ二度の戦いで二度とも敗北したとしても、もう一度この条件の中で選ぶとしたら、私はやはり同じゴブリンリーダーを選ぶだろう。と付け足して、応援できなかったことを己の中で謝罪しておく。
さて、前回の侵入者たちと同じように、ここで帰ってくれるなら私も彼らに手を出す気は無い。むしろ久しぶりに楽しい物語を観察させてもらい、感謝を送りたいほどだ。
でも、そうはならないんだろうね。
「よし。第一階層は問題なさそうだな。まだまだ時間はある。次の階層へ行くぞ」
「ああ。だが、階層が変わると強さも変わる。気を付けねえとな」
「どんな階層か楽しみじゃのう」
「ガハハ。ゴブリンばかりじゃ歯ごたえがねえ。もっと強い魔物はいねえのか」
「皆さん、回復が必要な時は我慢せずに仰ってくださいね。魔力はまだ余っていますので」
「大丈夫ですよ、カノン。貴方はいざという時のために魔力を温存しておいてください」
彼らは第二階層も順調に進んでいく。罠の致死性は上がったが、第二階層にはまだ複製の記録が出来ていない。どれだけ罠の危険度が上がっても、仕掛ける私が素人ではダンジョン探索の玄人である彼らにはあまり意味は無いようだ。その足取りは先ほどよりも早い。
そうして私は第二階層を順調に進む彼らがデッドラインである中部屋に近づいたところで、待機しているゴブリン部隊と黒牙に命令を送る。
短く、端的に。
――侵入者たちを殲滅しろ




