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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
第二章 迷宮覚醒の章

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45.ウルード村同盟

あらすじ


戦闘部隊として分けたゴブリンたちが全員進化を果たした。

戦力は大きく向上したが、時を同じくして人間たちの行動も活発化してくる。

次第に病魔の森の奥深くへ、その探索範囲を広げていく人間たち。

このままでは人間たちがダンジョンを発見するのも時間の問題である。

そこで“私”は探索部隊に命じ、弱く好奇心旺盛な人間をダンジョンへと誘導した。

その目的は、彼らから情報を得ること。

 ステータスや『魔力感知』で見る武器や防具類の形状から考えて、ハルという剣士が彼らにリーダーと呼ばれていた少年で、ラトアという魔術師がハルに決断を迫った強気な少女、ガシューという戦士がやる気満々な少年で、ルーミという神官が怖がっている少女、そしてレクという斥候が無口な少年だと思われる。

 称号を見てもやはり彼らは冒険者だったようだ。感じる大きさから想像していた通り、年齢もかなり若い。パーティーの名前らしき部分を見るに、同じ村の出身者なのだろうか?

 それにしてもこのレベルでよくここまで来られたものだ。魔物たちのように種族としてのランクは分からないが、それでもレベルやスキルを見るにかなり弱い。これだとDランクの戦闘部隊どころか、DランクとEランクの混ざり合った探索部隊でも十分正面から戦えるのではないだろうか。

 しかしそんな彼らでも、スキルの中には私の知らないものが幾つかある。

 その中でも特に『魔術理論』というのはかなり気になるスキルだ。『魔力感知』『魔力操作』を持っている事を考えれば魔力は扱えるようだが、私の知る『火魔法』のような魔法に関するスキルは一つもない。代わりにあるのが『魔術理論』だ。魔物と人間では、魔力の使い方が違うのか?

 いや、でも勇者は確か、『光魔法』を持っていたはず。

 魔物たちが使う魔法は種族に備わる力であり、言ってしまえば才能で扱う力だ。もしかしたらそれは人間でも同じなのかもしれない。そして、魔法の才能を持たない人は代わりに魔術を扱う、とか。ほぼ私の望みが混じった想像でしかないけれど。理論という言葉からは、何かしらの体形的な術理を感じる。

 勇者一行が村に対して使ったのは、もしかして魔法じゃなくて魔術だったり? 私が『鑑定』の特訓で調べている魔法陣もその系統なのだろうか?

 ああ、気になる。もういっそ直接本人たちに聞いてみたい所だが、それをするのはまだ時期尚早だ。


 彼らの話す会話の内容も興味深い。特に気になるのはギルドという所がダンジョンの情報を集めているということと、そこにこのダンジョンの情報がまだ存在していないということ。それにダンジョンには宝が付き物だという話。

 魔王の残滓に関する情報が欠片も出てきていないという点も気になる。勇者は予想していたような言い方をしていたが、あれは何処からきた情報だったのだろう?

 勇者がダンジョンで殺されたという情報が無いのはかなり嬉しい。だが、彼らが知らないだけなのかも。他にもギルドに情報が伝わって無いだけで、国には伝わっている可能性もある。まだまだ油断はできない。

 もう少し自然な会話からの情報を得ておきたい。冒険者の雰囲気を掴んでおきたいのだ。特に冒険者たちの国での立ち位置や情報の確度など。

 だが、このままダンジョンを素通りさせるのはさすがにまずい。だからと言って、鍛え上げたゴブリンたちを送り込めば、すぐに戦闘が終わってしまう。

 そこで私は、例の新たなダンジョンコアの機能を試してみることにした。幸いなことに複製の為の記録する魔物は、かなり仕上がっている。

 とりあえず記録からゴブリンを三体ほど複製する。そして、侵入者の排除を命令。

 さて、複製したゴブリンはどんなステータスに仕上がっているのかな?



 種族:ゴブリン ランク:F

 LV:10

 スキル:『繁殖LV1』『気配察知LV2』『夜目LV2』『体術LV2』『鈍器術LV2』『森歩きLV2』『見切りLV1』『威嚇LV1』

 称号:【ダンジョン:名も無き洞窟所属】【魔力複製体】【複製劣化】



 なるほど? ちなみに元となったゴブリンのステータスはこのような感じである。



 名前:――――

 種族:ゴブリン ランク:F

 年齢:0

 カルマ:±0

 LV:15/15

 スキル:『繁殖LV1』『気配察知LV3』『夜目LV3』『体術LV3』『鈍器術LV3』『森歩きLV3』『見切りLV2』『威嚇LV2』

 称号:【――――の配下】



 大分劣化しているけれど、一応覚えたスキルは残っているようだ。

 複製魔物の方は、かなりステータスの表記がすっきりとしている。名前とか、年齢とか、カルマ辺りのステータスが無い。それに、レベルの上限値も表示されていないようだ。称号の欄も気になる。そして肝心の強さだが、彼らを相手に果たしてどうなるのかな?


「俺、ダンジョンって初めてだ。なんかワクワクするぜ」

「ちょっと! どんなダンジョンかも分からないのよ? もっと緊張感を持ちなさいよ」

「そ、そうですよぅ。あ、危ない魔物がいたら」

「レク、魔物の気配は?」

「……無い」

「そっか。じゃあこのまま周りの警戒を頼むよ」

「……ああ」

「ダンジョンには罠も付き物よ? そちらはどうなの?」

「……それらしいものは、無い」

「そうだ。罠もあるんだっけ。ガシュー、そう言うことだから、前に出過ぎないように。ちょっと慎重に進もう」

「ちっ、わーったよ」


 そんな会話を繰り広げる五人組の下へ、三匹の複製されたゴブリンたちが向かう。

 そして、複製されたゴブリンたちが十メートル付近まで近づいた時だ。


「……魔物だ。通路前方、三匹。多分、ゴブリン」

「皆、戦闘準備っ!」

「おっしゃ! ようやく戦闘だぜ!」

「私はいつでもいいわよ」

「はっ、はいっ。回復は任せて下さいっ」

「……来た」


 五人組はそこでようやく複製されたゴブリンたちの接近に気づいた。慌てて立ち止まり、戦闘態勢へと移行する。気配が強くなり、魔力が高まっていく。とはいえ、これまで私が見てきた者たちと比べればとても儚い力だ。そこに三匹の複製されたゴブリンが接敵する。


「来た! レクの言った通り、ゴブリン三匹だ」

「うっし。早速行くぜ!」


 剣士ハルと戦士ガシューが前に出て、斥候レクの気配が薄れていく。そして魔術師ラトアと神官ルーミの魔力が高まった。

 まずハルとガシューが三匹の複製されたゴブリンを押し留め、時折レクが気配を強めて複製されたゴブリンを攻撃しては、またその気配を薄れさせる。スキルがあるとはいえ、その連携は悪くない。レベルやスキルだけを見るとその力はとても弱く感じるが、実際に戦闘を観察していると戦闘能力とそれらが完全なるイコールでは無いということがよくわかる。

 彼らは私が思うよりは強い。まあ、あくまで思うよりはって程度だけど。

 そんなことを考えていた時だ。ハルとガシューに守られていた二人のうちの一人、ラトアに変化が起きる。

 強いイメージと共にラトアから魔力が吐き出され、それが見覚えのある繊細な形を構築していく。魔法陣だ。勇者の残した武器に付与されていた魔法陣と比べれば簡易な形ではあるけれど、それでも複雑であることに変わりはない。

 ラトアから感じるイメージは鋭く燃える火の矢。


「ファイアアロー」


 ラトアのその言葉に反応して、ハルとガシューがその場を離れる。次の瞬間、ラトアから放たれた矢のような形状の炎を連想する魔力が、複製されたゴブリンの一匹へと突き刺さり、その気配を消した。すかさずハルとガシューが残りの複製されたゴブリンへと襲い掛かる。

 そのまま勢いに乗ったハルとガシューはレクの陽動も手伝って、あっさりと残る二匹の複製されたゴブリンをその手に掛けた。

 レクが周囲に意識を向けた後、彼らは戦闘態勢を解く。

 そして複製されたゴブリンたちが倒された場所に残された魔力の塊を拾い上げた。あれは魔石だ。どうやら複製された魔物は、倒されると魔石を残して消えてしまうらしい。

 その後、他の魔石も拾い集めた五人組は、少し離れた地点で話し合いを始めた。


「楽勝だったな!」

「うん。この程度の魔物なら、もっと深くまでいけそう」


 ハルとガシューは戦闘による興奮をそのままに、ダンジョンの奥へと好奇心を向けている。彼ら程度の実力であれば、ダンジョンの奥深くまで来てくれた方が逆に有難い。このままダンジョンの奥まで進んでくれれば、万が一の為に探索部隊のゴブリンたちを入り口近くへと回して、挟み撃ちにもしやすくなる。

 だがその時、そんな彼らを止める声が上がった。


「私は反対ね」


 声を上げたのはラトアのようだ。


「通常種のゴブリンが出るダンジョンでは、高確率で同系統の上位種が出てくると聞くわ。ゴブリンファイターならまだしも、亜種のホブゴブリンや、魔法を扱うゴブリンシャーマン辺りが出て来たら、今の私たちでは手に余る」

「はっ、何を言いだすかと思ったらよ。せっかくここまで来たんだぜ? ちょっとの無理くらいするべきだろ。それに俺たちが連携すれば、例えゴブリンリーダーが出てきた所で負けはしないさ」

「そうね。でも、さすがに無傷で、という訳にはいかないでしょう? ガシュー、私たちが今、何処にいるのか忘れたの?」

「忘れちゃいないさ。未発見のダンジョンだろ」

「危険な病魔の森の中心にある、ね」

「うっ……で、でもよ、怪我をしたとしてもルーミがいりゃあ……」

「わ、私の魔力だと、何度も回復するのは難しいです。そ、それに大怪我を負ってしまったら、私では……」

「そういうことよ。ただでさえ、未発見のダンジョンはどんな危険が待ち受けているか分からないのよ?」

「でもよー」

「…………俺も、帰った方がいいと、思う」

「レク、お前もかよ。お前の鍵開けスキルを試せなくていいのかよ」

「…………次にまた、来ればいい。宝より、命だ」

「うぅ。くそっ。分かってる。分かってるさ。でもよー」

「冒険者なんだから、冒険をしなくちゃ。だよね、ガシュー。僕もさっきまではそう思ってた。でも、まずは命を失わない事を第一にしろっていうのも、大切な冒険者の心得だよ。本当はガシューだって分かってるよね?」

「……ああ、そうだな。分かってる、分かってるさ。お前がリーダーだ、決めてくれ」

「うん。じゃあ、戻ろう。大丈夫だって、ガシュー。病魔の森を整備するって計画は知ってるだろ? それが順調にいけば、僕らでも余裕をもってここまで来られるようになるはずさ。それに出現する宝箱にもよるだろうけど、第一階層とはいえゴブリンの基本種が出るようなダンジョンなら、そんなに高ランクの冒険者は来ないんじゃないかな? ダンジョンの制覇を目指すような強い冒険者たちは、今のところ病魔の森に潜む高ランクの魔物討伐に駆り出されているし、実入りもそっちのほうが断然いいって聞くよ。なんてったって国が後押ししてるんだから。ならこの手のダンジョンは意外と深くまでは探索されずに残るんじゃないかな? それならこの奥を目指すのは、僕たちが鍛えて実力をつけてからでも遅くはないでしょ」

「ああ。そうだな。そうだよな。俺としたことが、あんまりラッキーが続くもんだから、ちょっと焦っちまってたぜ」

「俺としたことがって、貴方は昔からそうだったでしょう? 戦闘馬鹿のガシュー」

「うっせーよ。この薬草女っ」


 それから暫くの間、ガシューとラトアの二人は罵り合いを続け、他の者たちはそれを遠巻きに眺める。そしてそれが終わると、彼らは来た道を戻り始めた。



 どう、しようかな。

 取れるだけの情報を取った後は、ここで殺してしまおうと思っていたのだけれど、彼らの話を聞いていると、それがあまりいい方法だとは思えなくなってきた。

 彼らの会話からすると、人間たちは病魔の森の整備をしようとしている。森を切り開くのか、それとも森に道でも作るのかは分からないが、それが完成すればここまでの行き来は今よりもさらに容易になるという。ならばここで彼らを殺しても、遅かれ早かれ人間たちはダンジョンにやってくるようになる。それを阻止するというのであれば、病魔の森を整備しているという現場をどうにかするしかないが、私に出来るだろうか?

 病魔の森はダンジョンに隣接しているだけで私の領域という訳ではない。私が好き勝手出来る場所ではないのだ。問題の場所が病魔の森の外縁となれば、尚更に。私に出来るのは精々が、ゴブリン部隊を送って作業の邪魔をするくらいだろう。

 だが、それでうまくいくのは恐らく最初だけだ。いずれは討伐隊が組まれて、ゴブリン部隊は討伐される。そしてまた、整備作業は再開されるのだ。

 それではただ時間を少し稼ぐ代わりに、貴重な戦力を消費するだけになってしまう。時間を稼いだところで、何か対策を立てられる訳でも無い。

 せめて病魔の森に住む強力な魔物たちと手を組めれば、多少なりとも何かが変わるかもしれないのだが、残念ながら私にはその伝手が無いのだ。彼らは何よりも力の強さを重視する。そこへ下手に手を出して、敵対でもされたら最悪だ。ゴブ太が生きていれば説得も出来たのだろうが、今となっては話も聞いてくれないだろう。

 つまりは病魔の森が整備されて人間たちがダンジョンにやってくるのは、もはや確定事項ということだ。


 ならば、ここは彼らを殺してしまうより、利用するべきではないのか。彼らの感想を聞くに、あまり強い魔物や希少な宝が存在しなければ、高ランクの冒険者はやってこない。話から察するに高ランクとは恐らく、強い力を持った冒険者ということだろう。

 あの勇者のように。

 このまま無事に彼らを返せば、彼らはこのダンジョンのことをギルドへそう言う風に報告するはずだ。

 その後どうなるのかは分からないが、少なくとも最初の滑り出しとしては、悪くないように思える。どうせ人間との戦いが避けられないというのであれば、相手に誤情報を持たせる機会は大いに利用するべきだ。

 問題は彼らの情報が、どこまで信用できるのか。彼らが適当な感想を口にしているだけという可能性もあるし、彼らも誤情報を握らされている可能性もある。それにこれはあまり考えたくないが、こちらに気付いていてわざと私に間違った情報を伝えようとしている可能性だって無いとは言えない。

 彼らはここで始末して、次に来るものたちで改めて様子を見るべきか。

 いや、次に来るものたちが彼らと同様に扱いやすい強さかは分からない。冒険者たちは日に日にダンジョンへと近づいているのだ。早晩、冒険者たちは自力でダンジョンを見つけだしてしまう。それまでにまた、今回のようにうまく条件に合った冒険者をダンジョンまで誘導できる保証はない。どうしよう? 私は命を賭ける様なギャンブルはしたくない。

 今ここでこの情報を得られたことは、チャンスと捉えるべきだろう。


 私は悩んだ末に、彼らを無傷で帰すことにした。私の命令で、探索部隊のゴブリンたちが彼らの後をひっそりと追う。私の望む情報を、彼らが確実に街へと届けられるように。

 この選択が吉と出るか凶と出るか、それはその時になってみないと分からない。ただそれでも一つ分かることがあるとすれば、これからしばらく私が、この選択の結果が出ることに恐怖を抱き続けると言うことだけだ。何か早急に、気を紛らわせる方法を考えないと。



 〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『記憶』のレベルが3から4へ上がりました〉



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