42.自己研鑽
あらすじ
ゴブリンたちの部隊に初の進化者が現れてから、ゴブリンたちの進化が続く。
多様な進化を果たしたゴブリンたちによって、戦力が強化され、DPも貯まってきた。
そこで“私”はこのDPを使い、さらなる戦力の強化を行うことにする。
“私”はさらなる多様性を実現するべく、ゴブリン以外の魔物の召喚を考えた。
召喚出来る魔物は主に病魔の森に住む、動物系統、植物系統、そして虫系統。
その中から“私”は、特色あるゴブリンの部隊に合いそうな魔物を選んでいった。
ゴブ太、ゴブ子、ゴウグゥ、そしてゴブ太の村に住んでいた名も無きゴブリンたち。
死んでいった者たちのステータス、スキル、称号、性格、偉大な勇姿、そして普段の生活。忘れないように記憶に留めておこうと幾度も思い返していたら、いつの間にか新しいスキルを習得していた。『記憶』というスキル。これを習得してから、私の記憶は少しばかり鮮明さが増した。記憶すること、思い出すこと。どうやら『記憶』というスキルは、この二つの作業全般に補正をかけてくれるらしい。
『魔力感知』や『気配察知』、ダンジョンマップや配下との絆。これらのスキルやダンジョンコアの機能は、ダンジョンコアへと転生したことで無くしてしまった私の五感を補強してくれている。それによって私は、この世界と間接的に繋がることが出来るようになった。
とはいえ、未だ私がいるのは暗闇と空想の世界。そんな中で記憶を補強してくれるスキルというのは大変にありがたい。ゴブ太たちとの記憶、そして前生の記憶。私には忘れたくない事が多くある。辛い事でも、悲しい事でも、たとえ嫌なことだって、それが私を構成する大切な一部であるのなら、私は出来るだけそれを忘れるべきではない。
私が私である為に、私がずっと私であり続けるために。
私が消えてしまわぬように……。
思考が下向いている。止めよう。今は意識の底に沈んでいる場合ではない。
新しく召喚した魔物は早速、その特性と相性の良いと思われるゴブリン部隊へと配置させた。その結果を知るためには、もう暫く様子を見守る必要があるだろう。これがうまくいったなら、そろそろダンジョン内にいる複製予定のゴブリンやゴブリンソルジャーたちも、順次レベル上げの為に、ゴブリン部隊へと配置していこうか。
と、それはともかく。
期せずして新しいスキルも手に入れたことだし、そろそろ私自身の強化にも本腰を入れていこうと思う。とはいっても、『鑑定』と『並列思考』のスキルについては、折を見つけてはちょこちょこと、試行錯誤を繰り返していた。今回行うのはその進捗のまとめだ。
ちなみに前提知識として。『鑑定』は【知者】の称号を持っていたゴブリンシャーマンのゴウグゥが持っていたスキルであり、覚えたスキルや手に入れたアイテムの詳細を知るために求めている。一方で『並列思考』はゴブ太がCランクのゴブリンナイトだった頃に激しい戦闘の中で習得したスキルであり、複数の異なる思考を同時に巡らすことが出来るという便利なスキルだ。襲撃者がダンジョンへ侵入してきたとき、私一人で分析、作戦、総指揮など複数の思考を行わなければならないことを考えると、ぜひとも習得しておきたいスキルである。まあこちらは、他にも覚えたい理由があるのだけど。
では改めて、『記憶』のお蔭で前よりも少し鮮明になった過去の記憶を元に、ゴブ太とゴウグゥにスキルの事を聞いた時の記憶を掘り返しつつ、今私が取り組んでいることについて触れていこう。
まずは『鑑定』について。
ゴウグゥが『鑑定』を覚えた時のことについて語っていた事は。
まず、色々なことに興味を持って、好奇心の赴くままに調べ続けること。
次に、物の情報を見極め、そこに含まれるもっと深い部分まで探ること。
最後に、その特性や性質を考察し、隠された詳細にまで思考の幅を広げていくこと。
これらの情報を元に、私が今、行っている特訓は『魔力感知』のスキルを使い、勇者たちの残していったアイテムを調べることだ。
ゴウグゥは五感と『魔力感知』を併用して、あらゆる角度から好奇心の向いたアイテムや魔物をじっくりと調べていたらしいけれど、私には五感が無いので、その分も集中して『魔力感知』に時間を注いでいる。
続いて、勇者たちの残したアイテムを調べている理由だが、それはこのアイテムが一番私の好奇心を刺激したからだ。あの勇者たちの使っていたアイテムだと思うと少し嫌な面もあるけれど、そこを排して調べてみれば、それらはなかなかに興味深いアイテムだった。
『魔力感知』でわかるのはそこに宿る魔力だけなので、普通はその魔力の形から分かる大まかな物質の形と大きさ、魔力から感じる材質の雰囲気、そして魔力の特性から分かるそのアイテムの強度くらいしか分からない。だが、これらのアイテムは普通では無かった。それが勇者たちの残したアイテムに、私が興味を持った理由である。
特に武具関係はそれが顕著だ。そして私はこれらを調べ続けることにより、思わぬ副産物を得ることも出来た。副産物を得ると言っても、それは物質ではない。情報だ。私が非常に興味のある事の一つ、魔法に関する情報。
今では『鑑定』の特訓というよりも、そちらの調査と考察の方が本筋になっていたりと、少し目的とズレてしまってはいる感は否めないけれど、ゴウグゥも『鑑定』を覚えるには好奇心が大切だと言っていた。ゴウグゥから教えられた事に注意しつつ、これからも私はこの特訓に己の好奇心をぶつけていこうと思う。
さて、次は『並列思考』についてだ。
ゴブ太が『並列思考』を覚えた時の状況について語っていた事は。
最初は幾つものことを交互に考えながら我武者羅に戦っていた。
それがある時突然、重なりながらもそれぞれに独立して思考が出来るようになっていた。
ゴウグゥから聞いた情報に比べると、ちょっと主観が強く、情報に抜けがあるように感じる。これは『鑑定』について聞いたゴウグゥが【知者】の称号持ちに相応しく、自身の持つスキルについて独自に色々と調べ、ゴウグゥなりに考察をまとめていたのに対して、ゴブ太の場合は私から言って、スキル習得した時の記憶を辿ってもらい、少しずつ掘り起こしていった為だ。
双方の情報にある質の違いはそのせいである。
とはいえ、ゴブ太の情報もまた事実に即したものだということは変わらない。スキル習得の取っ掛かりとしては悪くないし、私が憶測で考えるよりもずっと為になる。
実際、私は『並列思考』のようなスキルがあるのでは、と考えたことはあったのだ。ただ、そこに確信を持てていなかった。なぜならその情報の基盤となっていたのは、私の前生でのファンタジー知識だったからである。確かにこの世界は、私の良く知るファンタジーな世界に似ていた。でもだからと言って、私の知識が全て通じるなんてことはないだろう。そもそも私の知るファンタジー知識自体、作品によって全く別種の様々な設定を抱えた無数の世界観があったのだから。この世界がどの知識に近いのかなんて、ただでさえ知覚出来る範囲を制限された私には知りようがない。
とまあ、私の愚痴はこのくらいにして。
改めてゴブ太から得た情報を元に、私が行っている特訓について触れていこう。
だがこれは、ゴブ太から情報を得て始めたというよりも、ゴブ太からの情報を得て確信を持ったうえで、今までやっていた特訓を改良したという方が正確だ。
それは、私がこれまでやってきた日課の一つ。『魔力感知』と『気配察知』の二つにより得た情報を過去の記憶と照らし合わせ、そこにあるものを検討した上で、前生の記憶の中からそれに該当する映像を引っ張り出して、『空想空間』によって意識の上に投影するという工程だ。
なぜそんな面倒なことを日課にしていたかといえば、元は視覚の代用に出来ないかと考えていたからである。その時、実はついでに情報を同時に処理できるようなスキルを覚えられれば、なんてちょっと考えたりもしていたのだが、結局その日課で『並列思考』が習得出来ることは無かった。それどころか、この試み自体が途中で頭打ち状態。どうしても知覚からの情報処理、そして映像投影の間に発生する現実との時間差が解消出来なかった。要するに視覚としては致命的な遅延が発生してしまうのだ。
そちらはともかく、ゴブ太から聞いた情報と照らし合わせてみても、この日課が『並列思考』習得への道筋として、そこまで間違っているという訳でもなさそうである。
ならば、足りないのは何か? 方向性が同じだというのなら、あと思いつくのは作業量が足りないということくらいだ。ゴブ太は極限状態で、幾つもの作業を並行して行っていた。
私が極限状態に立つことは色々な意味で出来ないし、したくない。ならばその分、量を増やせばいいのだ。もっと負荷を加え、もっと同時に行う作業量を増やしていく。
まずは今までやってきた作業の範囲を広げる。その分だけ情報量も処理する事も増えていく。さらにそこに映った配下たちのステータスも本人に紐づけして追加で表示する。表示方法は空中に透明なウィンドウを浮かべて、その中に白文字で文字を書いていくという、私にとって馴染み深いメニュー仕様だ。幸いなことに『記憶』のスキルが、多くの配下たちの持つステータスの詳細を覚える手助けをしてくれる。
当然のことながら、同時にそれを全て行う事はまだ出来ない。一つの事に集中するともう一つがおざなりになって、意識の内から消えてしまう。
だが私はそこで止めることなく、全てを交互に繰り返していく。ゴブ太から聞いた話の通りに、重なりながらもそれぞれに独立して思考が出来るようになるまで。
ちなみに『鑑定』と『並列思考』の習得度合いは、『鑑定』が少しリードしている気がする。これはあくまで様々なスキル習得を試した私の感覚での話だが、十段階で『鑑定』が三、『並列思考』が二といった所だろうか。
まあこれまでは他の事にも時間を割いていたので、進み具合に関しては仕方がない。ただこれからは、もっとこちらにも本腰を入れていこうと思う。
私の覚えるスキルはあくまで補助に過ぎないが、必ず必要となる時は来る。
戦闘に絡む『並列思考』はもとより、『鑑定』にしてもそうだ。未知のスキルを持つ敵が現れた場合、『鑑定』があればそのスキルの詳細が分かり、事前に対策が立てられる。少なくともゴウグゥはそういった使い方もしていたようだ。
次の侵入者がいつやってくるかは分からないが、対策は幾つあっても困ることは無いだろう。出来ることは、出来るだけやっておかなければ。
そうそう、『鑑定』の特訓の途中で見つけた副産物のことも忘れてはならない。魔法に関する情報の事だ。では順を追って、これまで勇者の持っていたアイテムを観察する過程でわかったことから触れていこう。
まず、勇者の持っていたアイテムは、大別して二種類に分けられる。
一つは森の木の実や薬草の魔力が合わさったアイテムで、それらが複雑に絡まり合い調和する少し馴染みのある魔力だ。それはゴブ子がよく、『調合』により森の恵みから作っていたポーションに近い魔力。恐らくポーションと類似するもの。もしくはこれが人間たちの作ったポーションなのだろう。
もう一つは、武具の形をなぞる魔力と、それに宿る別の魔力の複合型アイテム。この二つはポーションのように混ざり合うことは無く、重なりつつもそれぞれ別の魔力として存在していた。武具の形をなぞる魔力は、武具そのものを形作る素材の魔力だろう。問題は武具に宿ったもう一つの魔力である。
例えば、勇者が武器として持っていた剣の形をしたアイテムに宿る魔力。強烈な光を連想させるその魔力は、複雑精緻な形を描きながらも密度が濃く、ほんの小さな場所に大きな力が凝縮されていた。
私は多分、この魔力で描かれる幾何学的な模様の名称を知っている。
魔法陣。
ファンタジー小説や漫画、ゲーム等に度々登場するそれは、呪文の詠唱と同じく、魔法を発動する際の触媒として描かれていることが多い。
それで思い出したのが、先日勇者たちがゴブ太の村を襲った時のことだ。勇者たちが現れる直前、これと似た雰囲気の魔力が村の地面と上空に広がっていた。あの直後に起こった現象は、そこに込められた魔力以上の結果を生み出していたように思う。恐らくあれもこれと同じ魔法陣だったのだ。
ゴウグゥの使っていた魔法との差異は、この魔法陣のみ。ならば魔力の少なさとその後の効果の倍増に、この魔法陣が関係している可能性は十分にある。いや、むしろこれ単体で特殊な効果を発揮するという可能性すらあるだろう。例えばこの武具に仕掛けられた魔法陣だったら、武具に特殊な能力を付与するような仕掛けとかだろうか。武器の強度を上げたり、鋭さを増したり? もしくは魔力より感じる属性からして、剣の先から光線でも発射出来たりして?
もしかしたら私が覚えていたファンタジー知識のように、この魔法陣を使えばスキルの無い私でも魔法を使えたりするのだろうか?
それを思いついた時、私の存在しない胸は確かに高鳴っていた。
私が魔法を使えたならば、戦力の増強という点でも意味がある。しかしそれ以上に、私自身が私の意志で魔法を使えるということがとても嬉しい。やはりいちファンタジー好きとしては、是非とも己の力として魔法を使ってみたいのだ。
勇者たちの残したアイテムをこのまま調べていけば、いずれこの魔法陣を私でも使えるようになるかもしれない。それはあくまで取っ掛かりであって、まだ可能性の域すら出ていない絵空事ではあるけれど、探求していく価値のある可能性だ。『鑑定』の途中で偶然発見した情報だったが、『鑑定』の特訓も兼ねてこれからもガッツリと調査を進めていこう。
そんな決意を新たにした数日後、森の見回りから帰ってきたあるゴブリン部隊の報告により、事態は少しずつ動き出すこととなる。
〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『記憶』のレベルが1から2へ上がりました〉




