41.連続する進化
あらすじ
ダンジョンの階層追加に伴い、“私”は新たなる機能を獲得した。
それは魔物の複製を生み出す機能。“私”は、この機能を活用するための準備を始める。
それから暫く後、ゴブリンたちの部隊に進化を果たしたものが現れた。
その進化者を筆頭にして、ゴブリンたちの部隊には独自の特色が出来つつある。
ゴブ太がいた頃とは違うその多様な変化を、“私”は面白いと感じていた。
ゴブリンリーダーがゴブリンアサルトへと進化を果たした日から、各部隊に所属するゴブリンたちの進化が続いている。
とはいえ、まだすべてのゴブリンが進化を果たしたわけではない。部隊ごとの戦闘回数や各ゴブリンたちの戦闘への貢献度によっては、まだ進化に必要なレベル上限へ到達していない個体もいた。けれど、進化を果たしていないゴブリンたちも全体を通してみれば、少しずつではあるが進化へは近づいている。これは全部隊がきちんと私の命令に従い、役目を果たしてきた結果だろう。
あれから、二十三匹のゴブリンが進化を果たしている。進化したのはいずれもゴブリンソルジャー。
内訳としては、斥候系のゴブリンスカウトが各部隊に一匹ずつで十二匹、突撃兵系のゴブリンアサルトが五匹、弓兵系のゴブリンアーチャーが四匹、盾兵系のゴブリンシールダーが二匹。ステータスはゴブリン一匹一匹によって少しずつ異なっているが、その中でも進化した全てのゴブリンに共通するのは、ランクがDランクであることと、レベル上限が40であること。
さらに各種族の特徴的なスキルに関しては、
ゴブリンスカウトは『気配察知』や『忍び足』などの隠密、探索系スキル。
ゴブリンアサルトは『鈍器術』や『自己回復』などの近接戦闘に関するスキル。
ゴブリンアーチャーは『弓術』や『遠見』などの弓の扱いに関するスキル。
ゴブリンシールダーは『盾術』や『体術』などの盾の扱いに関するスキル。
というようなスキルが、共通して育っている。その他のスキルに関しては、全ゴブリンに共通して、『森歩き』や『夜目』のスキルを覚えており、他にも各部隊の中には必ず一匹『解体』を覚えているゴブリンがいた。他に細かな違いとして、ゴブリンスカウトの何匹かは前に黒牙が持っていた『不意打ち』や、初めて見る『罠設置』なるスキルを持っていたり、ゴブリンアサルトの習得しているスキルが『見切り』か、『盾術』に分かれていたり、という違いもある。
各部隊各ゴブリンたちの細かな戦闘方法の違いによって、この辺りのスキルは変わってくるようだ。
残るゴブリンたちに関しては、三匹のゴブリンリーダーと、七匹のゴブリンソルジャーがレベル上限に近く、進化の兆しが見えている。
だが、それ以外の八匹のゴブリンリーダーと、十八匹のゴブリンソルジャーに関してだけは、戦闘に直接参加していなかったり、最初に進化を果たしたゴブリンアサルトのような無茶な戦い方をして戦死し、新しく召喚したゴブリンと入れ替わっていたりといった理由で、進化にはまだ遠い。
そう、死んでいくゴブリンは意外と多いのだ。特に最近は病魔の森の内部も荒れ始めており、強力な魔物と鉢合わせして帰れぬ身となるゴブリンが多い。森の中ではかつてのゴブ太ですら危険を感じるような魔物の発見報告もあるので、それは仕方のない事だろう。
彼らはゴブ太に敗北した後、ゴブ太の説得を受けてずっと大人しくしていた。けれど、ゴブ太が死んでしまった今、もうその楔は意味をなさない。彼らがこの先どう動くのかは、全く予想が出来ない。敵対者を排除するだけに留めるのか、自らの縄張りを積極的に増やす方向へと進むのか。
予想が出来ないという意味で言えば、人間の動向も気になっている。勇者たちを返り討ちにしてから、もう三十日以上は経ったはずなのに、未だ森の中で勇者たち以外の人間の痕跡は見つかっていない。
何かしらの理由があって森に入ってきていないのだとしたら、その目的が。
既に入ってきているのに見つからないのだとしたら、その技量を。
どちらにしても、警戒していかなければならないだろう。
時間が経つごとに、焦燥感が募っていくのが分かる。私が何もしなくても世界は少しずつ動いており、あらゆるものが意図せぬところで進んでいく。
どうやら寿命から解放されてもなお、私はまだ時というものに縛られているようだ。
そしていつだって、時は私を蝕む。【時の呪縛より逃れしモノ】なんて大層な称号を得たというのに、これでは何の意味もない。どうすれば私は、この苦しみから解放されるのだろうか。と、今はそんなことを考えている場合ではないな。
さて、ゴブリンたちが進化を果たしたことで、ダンジョンが保有する戦力は一気に増加した。それは即ち、以前までは倒せなかったランクの魔物を相手にすることが出来るようになったということであり、同時に持ち帰る魔石のランクが上昇することで、それを変換して得るDPが増加するということでもある。
そんなわけで、帰還出来ないゴブリンの補充により一進一退、ギリギリの収支を繰り返していたDPが、ここにきてようやく増加を始めた。
名前:――――
種族:ダンジョンコア
年齢:15
カルマ:+5
ダンジョンLV:2
DP:134568
マスター:無し
ダンジョン名:名も無き洞窟
スキル:『不老』『精神的苦痛耐性LV9』『空想空間LV7』『信仰LV7』『地脈親和性LV4』『気配察知LV7』『魔力感知LV7』『伝心LV7』『読心LV7』
称号:【異世界転生者】【□□□□神の加護】【時の呪縛より逃れしモノ】【聖邪の核】【鼠の楽園】【惨劇の跡地】【F級ダンジョン】
100,000DPを突破したのは、全ての部隊から最低一匹は進化者が出た後だ。ここ三日の間に一日のDP収入が数千DPから数万DPにまで上がった。このまま順調にいけば、近いうちに消費したDP分も回収できることだろう。
そうしたら、次だ。もう一度、ダンジョンの拡張を行う。
ダンジョン最奥にあるダンジョンコアの部屋が地上から遠ざかる程、私の抱く安心感は増していく。それに新しい階層が出来れば魔力供給率も上がり、より強力な魔物や罠を設置できるようになるだろう。
けれど、果たしてそれだけで良いのだろうか?
各ゴブリン部隊は順調に成長している。このまま育っていけば、いずれはこのダンジョンの主力となるだろう。それにゴブリンたちはそれぞれが多様な方向性へと進化していった。
多様性というのは重要だ。私はこれからどんな相手がやってきても逃げることなく、戦い続けなければならない。そのために様々な手札が切れる状態というのは重要なことだ。そう言う意味では、技能によって進化先を大きく変えるゴブリンたちを配下とした私の選択は、正しかった。
ただ、もっと大きな多様性という観点から今の状況を眺めてみると、まだ手を加えられる可能性が残っている。それはゴブリン以外の魔物を配下に加えるという選択肢だ。
これはゴブリンたちがある程度強く育ってきた今だからこそ、試せる選択でもある。ゴブリンという種族は良くも悪くも万能的だ。それは悪い言い方をすれば器用貧乏ともいえる。
勿論、それでも成長したゴブリンたちは強い。病魔の森に住む他の魔物たちを相手にしても、技術と工夫、そして連携技で相手の弱点を突き、勝利を収め続けている。
だが、逆に言うと素の能力では、森の魔物に負けている点もあるということだ。何事でもある一点に突き抜けた力というのは強力になるものである。
今までは探索と戦闘の両方を行わせるために万能性を重視してきたが、それがある程度軌道に乗り始めてきた今、私も次の段階へ進む時が来たのではないだろうか。
ゴブ太がまだ生きていた頃、ゴブ太を中心とした村の戦士団たちは病魔の森の中に住む好戦的な魔物たちを多く狩っていた。その魔石はゴブリンたちには特に使い道が無かったようで、全て私の元へと捧げられている。
ダンジョンコアの持つ機能の中で、魔物図鑑の一部として存在する魔物の召喚。これは同種族の魔物の魔石を多く取り込むと、その種族を召喚出来る様になる。
つまり今の私は、この病魔の森に住む多種の魔物たちを、ある程度召喚出来るのだ。勿論、相応のDPを支払う必要はあるけれど。
この病魔の森に住む魔物たちは大まかに動物系、植物系、蟲系に分けられる。ちなみに、ゴブリンはこの病魔の森では希少な人型系だ。
現状の私が召喚出来るゴブリン以外の魔物のランクは、Gランクから最高でもDランクと飛びぬけて強い魔物たちではないが、それもゴブリン部隊を引率に付けて鍛え、進化させてしまえば、今よりも強くなる可能性は十分にある。
一応、Cランクの魔物も幾匹かは狩れてはいるのだが、そちらは数が足りておらず召喚出来るまでには至っていない。さらに上、Bランクの魔物になるとさすがに強力すぎて、狩った魔物は一匹だけ。しかしそちらは配下であったゴブ太が同種族に進化したことで、唯一の召喚可能なBランクとなっている。ゴブリン系のBランク、ゴブリンロードだ。
とまあ、少し話は逸れたが、今はゴブリン系以外の魔物についてである。
召喚可能な魔物たちの中で、まず真っ先に召喚候補から除外されるのは、植物系統の魔物たちだ。彼らはその特性上、地面が土であり、太陽光が差し込むような場所でなければ活発に動くことが出来ない。一応、ダンジョンからの魔力供給があるので栄養面の問題は無いと思われるが、彼らの戦闘方法的にも岩肌むき出しのダンジョン内では不利となる。
植物系統の魔物と言えば、木に擬態する魔物トレントや、甘い香りで敵を誘う巨大な花の魔物アルラウネ、丈夫なつたで絡めとった相手をツボ状の葉っぱの内側に満たした消化液で溶かしていく魔物マンイータープラントなど、何れも森の中での戦闘に特化した魔物たちだ。それらが洞窟の中にいきなり現れても、違和感しか生まれない。しいて使えそうな植物系統の魔物を上げるならば、周囲に麻痺毒をまき散らしながら歩く茸の魔物パラライズファンガス辺りだろうか。あれならば、湿った洞窟内で紛れないことも無いかもしれない。
まあそもそも、移動が難しい彼らでは、ゴブリン部隊の引率による魔物狩りでのレベルアップが難しい。現状には合っていないと言わざる負えないだろう。
あと残るは動物系統と虫系統の魔物。
動物系統で気になる魔物と言えばホーンディアーだ。大きく頑強な角を武器とする鹿の魔物である。あとは連携を得意とする森の狼フォレストウルフを統率する大狼の魔物ダイアウルフ、怪力と分厚い毛皮による防御を武器とする血塗れの熊の魔物ブラッディベア、巨体と太い牙により突進で相手を押しつぶす猪の魔物パワーボアも単純な攻撃力としては悪くない。この辺りの魔物は、正に一点特化型の突き抜けた能力を持つ者たちだ。そのため、戦いに加えるというのであれば、他にそれらを生かす作戦を考える頭脳役が必要となるだろう。
ここで一つ。実は魔物の召喚に関して、ずっと考えていることがあった。それは動物系統の中でも最初から魔物図鑑に登録されており、ゴブリンに次いで多くの召喚可能な種族がいる鼠系の魔物の召喚に関してだ。鼠の魔物、特に黒牙と同系のブラックラットやシャドーラットなどは、斥候職として非常に優秀である。小さなその身と、『気配察知』や『隠伏』等を得意とするその習性があれば、森の魔物たちから身を隠しつつ、多くの情報を持ち帰ることが出来るだろう。ただ、黒牙を見た時の勇者の反応が、ずっと気がかりとして私の記憶に残っている。勇者は鼠の魔物を警戒していた。恐らく以前倒された魔王が鼠の魔物だったからなのだろうが、もしこの警戒が勇者だけでなく勇王国全体の共通認識であるならば、それがたとえ低い可能性だったとしても、鼠の魔物が病魔の森の中で人間たちに見つかるという事態は避けたほうが賢明だろう。
まあそうは言っても、最初から病魔の森に生息している鼠の魔物がいたとしたら何の意味も無い警戒なのだけど。一応私の記憶にある限りでは、病魔の森でダンジョンに関係の無い鼠の魔物が見つかったことは一度も無い。ま隠れていて見つからないだけという可能性もあるけれど。でも、どうしても鼠の魔物が必要という訳ではないのなら、使わないでおくに越したことは無いだろう。幸いなことにゴブリンスカウトという、斥候用の種族に進化した個体も出てきたことだし。当分の間、ラット系の魔物は黒牙一匹ということで。
最後は虫系統。気になる魔物と言えば、ビッグスパイダーが上げられる。虫に含めていいのかはともかく、その名の通りの大蜘蛛の魔物だ。粘性のある糸で巣を構築し、巣にかかった魔物に近づいて噛み付き牙から毒を流す。他に強力な毒針で相手を突き刺し死に至らしめる蜂のキラービー、空を飛び毒の鱗粉をまき散らす蝶の魔物ポイズンバタフライなど。
この系統は力があまり強くない分を搦手で補っている感じだ。同じような搦手を得意とする植物系統との違いは、虫系統の方が素早く自在に動ける点である。その分、体力的には植物系統より打たれ弱いようだけど。
ああ、あともう一つ。どの系統に含めるのかは不明だが、スライムもいた。
この世界のスライムは動きは緩慢で核を攻撃されると弱いが、毒液や強酸を噴き出して敵を攻撃する。身体を覆う粘体は物理攻撃に強く、有名なゲームで出てくるような雑魚ではないが、別の有名なゲームで出てくるような強敵でも無いという微妙な位置づけ。
実はちょっとだけ興味がある。ファンタジーの魔物と言えば、まずゴブリンかスライムが上げられるくらい、ある意味有名な魔物だ。正直なところ私の五感が健在であれば、いの一番に召喚していることだろう。それくらいには興味がある。まあ今、使えるかは別の話なのだが。
さあこれで、魔物図鑑の中で目につく魔物は出揃った。
ちなみに今出した魔物たちは、ゴブリンとスライム以外は全てDランクの魔物である。当然のことながら、魔物図鑑には他にも魔物たちの名前が並んでいるけれど、他は大体がEランクやFランク、Gランクの魔物たちだ。
今の保有DP量と戦力であれば、Eランク以下の魔物たちを召喚して進化を待つよりも、もう少しDPを貯めて、Dランクの魔物を召喚した方が効率的だろう。
それで、あとはどの魔物を召喚するかだが。
私が知っている魔物たちの知識は、戦ったゴブリンたちから聞いた敵としての評価と、前生から持ち込んだファンタジー知識によるものだけだ。味方としての力は想像でしかなく、まだまだ未知数な部分が多い。
一先ず、ゴブリンの部隊の特性に合わせて、良さそうな魔物を一匹ずつ召喚して同行させてみるか。そうして各魔物たちの有用性を確かめてみよう。
ゴブリン部隊、全十二部隊の特徴はそれぞれに、戦闘の得意な部隊が四部隊、探索の得意な部隊が五部隊、総合力を意識した部隊が三部隊ある。
私は早速、ゴブリン部隊の特徴から、相性の良さそうな魔物を選ぶ作業に入っていく。
〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『記憶LV1』を獲得しました〉




