38.これからのこと
あらすじ
“私”は生き残ったが、被害は甚大であった。
“私”は配下が滅ぼされたことよりも、“私”が無事であったことに安堵する。
そして現状の確認をした“私”は、危険がまだ終わっていないことに気が付いた。
ここへ勇者を送り出したであろう人間の国、勇王国。
“私”は“私”が死なないために、生き残るために、決意する。
“私”の敵となりうる人間たちと敵対し、いずれはその大本であろう勇王国を滅ぼすことを。
私が黒牙に意識を向けると、黒牙からイメージが伝わってくる。
ふむふむ。どうやら私が意識の底に沈んでいる間、黒牙は周辺に落ちていたアイテムや魔石を回収してくれていたようだ。よかった。
黒牙の進化したスキル『闇魔法』はかなり便利な魔法らしく、これで生み出した闇は物理的な干渉をも可能とするそうだ。今は少量の物を運ぶので精一杯だが、慣れれば手足のように使えるらしい。
それを使って黒牙は、亡骸が消える前に出来る限りの魔石を回収したという。
消える? そのニュアンスに少し疑問を感じたが、今は一先ず考えない。それよりも回収した魔石とアイテムの確認をしておこう。
黒牙から渡された魔石は、合計で724,651DPとなった。魔石に込められた魔力は殆どがよく知るゴブリンのものだったが、少数だけ他の魔物も混ざっている。ゴブ太の村に魔石の需要は無く、あればすぐにでも私の元へ捧げられていたので、これは元から村にあったものでは無い。黒牙も知らないようなので、恐らくあの勇者のパーティーがここに来る途中で狩った魔物のものなのだろう。
次はアイテムだ。こちらは正真正銘勇者たちが持ち込んだものだ。ゴブリンたちお手製のアイテムとは込められた力や細工の精度が桁違いである。
形状からして剣や杖、盾や鎧、ローブに指輪や首飾りなど。他にもポーションらしき瓶などが複数個見て取れた。
ゴブ太たちが健在であれば、ゴウグゥに『鑑定』させ、ゴブ太やゴブ子、ゴウグゥや村の戦士団などに分け与えたのだが、今も残っている配下は黒牙だけ。黒牙ではこれらを装備することは出来ない。いっそのこと吸収してしまおうか。勇者のことを思い出すと、余計にそれらを跡形も無くDPへと変換してしまいたくなる。しかし、あの勇者たちが持っていた代物だ。扱えるものが現れれば、有用なアイテムとなるかもしれない。
吸収しておけば宝図鑑に登録され、DPでの召喚が可能となる。けれど、これ程のアイテムだと、召喚に掛かるDPはかなりのものになるだろう。アイテムは吸収しても大したDPには変換出来なかったはずだし。
私は悩んだ末、黒牙に命じてダンジョンの最深部、ダンジョンコアの部屋にそれらのアイテムを置いておくよう告げた。
これで一先ずの片付けは終わり。
次はこれからどうするかを考えなくてはいけない。今までのように、まったりとはしていられないのだ。いずれ攻めてくるであろうあの勇者の祖国からの侵略を防ぐために、それ相応の戦力を増やしていかなければいけない。
まず思いつくのはダンジョンの部屋数を増やしていくことだ。それに階層の増加と罠の設置。そして、新たな魔物の召喚。心情的にはまだ新たな配下の召喚はしたくない。でも、そうも言っていられない状況だ。これからは有用な魔物たちをどんどん召喚していくべきだろう。ただし今度は隣人などでは無く、このダンジョンを守るための武器として。
どれをするにしても、必要となるのはDPだ。幸いなことにこの二年で少しずつ貯めたDPがまだ残っている。黒牙の集めた魔石を変換したDPも加えて、現在のDP量は960,330DP。
まずはこれの使い道だ。
ダンジョンの拡張。私は暫く考えた末に、それを第一とした。魔物の数を増やすにしろ、罠の設置をするにしろ、その根底としてあるのはダンジョンである。
それにこの場所は、少し怖い。前は二部屋で満足できていたが、今はもうこれだけの部屋数では不安が勝る。もっともっと、入り口から遠くへ。もっともっと、深い場所へ。
私は早速、メニューからダンジョン拡張を選択し、まずは通路を増やしていく。そして次に部屋を設置する。それを繰り返していく。
ダンジョンということで一直線だけでは無く、侵入者を惑わすように道を幾つも増やして、分かれ道や行き止まりを設置した。
ダンジョン拡張では部屋や通路の削除にもDPが消費される。作っては戻しの作業を無くすために、拡張する部分は予め決めておいたものに沿う。
ちなみにダンジョンの形を考える上で、私の持つスキル『空想空間』がその便利さを発揮した。五感の無い私では、全てをイメージ上で行う必要がある。けれど漠然とイメージの上だけでそれを行うと見落としが出てくるかもしれない。大きな施設を作るのならば、一度図面にするか、もしくは小さな模型でも作って全体像を把握するのが一番だ。
そこで『空想空間』により生み出した空想の部屋の中に、私が考えたダンジョンの構造を小さな模型として生み出したのだ。『空想空間』の中ではその特性上、生み出した物は意識を逸らせば消えてしまうが、全体像の把握という点では非常に優秀である。
お蔭で良い形が作れたと思う。
部屋数は全体で六部屋に増やした。内訳は小部屋が五つ、中部屋が一つ。それらを繋いでいる通路も複雑に伸ばしていく。
小部屋にはそれぞれ罠や魔物を設置して、中部屋は魔物たちの待機用。もうダンジョンの外に、魔物の村を造らせるつもりは無い。全てはダンジョン内で管理していく。
さらに回復の泉は小部屋から中部屋へと移動させる。中部屋はダンジョンコアの近くに繋げて、回復の泉を侵入者に使わせないようにした。通路には行き止まり、ちょっとした迷路、分かれ道を複数設ける。
最後に小部屋への罠設置だ。
まずは毒矢の罠を十個。これは壁や床の二か所に設置するタイプの罠で、片方に設置したスイッチが押されると連動した罠から毒矢が発射される。
次に槍付きの落とし穴を五個。これは床に設置するタイプの罠で、床に偽装した箇所を踏むと蓋が開いて数メートル落下。落下した先には槍が敷き詰められており、侵入者を串刺しにする。
続いて突き出す槍を五個。これも毒矢の罠と同じく二か所に設置するタイプの罠で、片方に設置したスイッチが押されると連動した罠から槍が突き出す。
最後に硫酸の降る天井を一つ。こちらは部屋全体に設置するタイプの大型罠で、侵入者が小部屋の中心まで到達した瞬間、天井から大量の硫酸が降ってくるというものだ。
これらの罠を小部屋へと次々に設置していった。
これでとりあえず、ダンジョン拡張は終わり。
小部屋が一つ、10,000DP。中部屋が一つで100,000DP。あとは通路の設置と回復の泉の移動で100,000DP。後は罠がそれぞれ、毒矢の罠が一つ100DP、槍付きの落とし穴が一つ300DP、突き出す槍が一つ500DP、硫酸の降る天井が一つ3,000DP。
全て合わせて238,000DPの消費。残りは822,330DP。
次は魔物の召喚だ。
ゴブ太、ゴブ子。虐殺された私の配下たち。そして、ゴブ太の治める村のゴブリンたち。忘れてはいない。忘れたりはしない。絶対に忘れはしない。彼らの死を。
それでも召喚は今すぐに行う。
今度は彼らとは違うものたちだ。このダンジョンを守るための武器にして、侵入者を排除するための生きた罠。
私は手始めにゴブリンリーダーを一匹と、ゴブリンソルジャーを四匹召喚する。
名前:――――
種族:ゴブリンリーダー ランク:E
年齢:0
カルマ:±0
LV:1/30
スキル:『繁殖LV1』『指揮LV1』
称号:【――――の配下】
名前:――――
種族:ゴブリンソルジャー ランク:E
年齢:0
カルマ:±0
LV:1/25
スキル:『繁殖LV1』『連携LV1』
称号:【――――の配下】
ゴブリンリーダーの召喚コストは6,000DP、ゴブリンソルジャーの召喚コストは3,000DP。
合計で18,000DPの消費だ。
大体思った通りの魔物が召喚されたが、何故か称号が今まで召喚した魔物たちにあった【――――の眷属】ではなく、【――――の配下】となっているのが気になる。
確か【配下】は外からやってきた魔物であるゴブ太を仲間へ加えた時についた称号だった。それが長く共にあるうちに【眷属】へと変わったのだったか。
親密度的に【眷属】より【配下】の方が下に思える。これが親密度を示しているのかどうかは定かではないが。
試しに命令を出してみたが、問題なく通じる。ならば、今は別にいいか。
続いてこの組み合わせをあと二組召喚していく。称号はやはり【配下】のままだった。
合わせて54,000DPの消費で、残り768,330DP。
召喚した三組のゴブリンたちはダンジョンの外へと派遣した。この三組にはそれぞれに分かれて病魔の森で魔物狩りを行ってもらう。目的はレベルを上げることと、狩りをして魔石を回収し、それを吸収してDPを増やすことだ。
さらに病魔の森の状況を都度確認してもらい、情報面からも人間の襲来に備えていく。
ゴブリンを選んだのは知能の高さと、人型の利便性、そして集団としての纏まりを考えてだ。あとは召喚出来る魔物の種類の中で、豊富なのがゴブリンだけだったというのもある。
だがやはり一番は、そのスキルの方向性だ。
召喚した魔物の初期スキルは種族に影響される。スキルに即した行動を行って各々で習得するという手もあるけれど、最初から得ているならその方が良い。
ゴブリンリーダーのスキルはゴブ太の進化を見ていて何となく察していたし、ゴブリンソルジャーに関しては、以前ゴウグゥから聞いていた。
そうだ。ゴウグゥの事もしっかりと覚えておかないとな。ゴブ太たちと比べれば短い付き合いだったが、何だかんだで色々と話すことは多かった。ああ、思い出してしまうとゴウグゥの持つ『鑑定』が恋しい。そう言えばスキルに関しても、色々と出来ることはある。
私が今持っているスキルは、細々と続けてきた日課を経てもなお、レベルの上昇が確認出来ていない。恐らくこれ以上スキルのレベルを上げるには、今まで以上の時間や労力が必要となるのだろう。けれど、この数年で私は新たなスキルの可能性を知った。
例えば話に出てきたゴウグゥの持っていたスキル『鑑定』。それにゴブ太の持っていたスキル『並列思考』だ。この二つはダンジョンコアという特殊な肉体を持つ私でも覚えられる可能性がある。
『鑑定』に関しては、今までであればわざわざ私自身が習得する必要性を感じなかったのだが、ゴウグゥが死んでしまった以上、もはや私自身での習得は必須だ。あれがあると無いとでは、大きく違う。
『並列思考』に関しては、ゴブ太からスキルを覚えた時の話を聞いて、ずっと試してはいるのだが、まだうまくいっていない。今までは趣味程度で行ってきたことだが、これからは本腰を入れて研究していく。
ダンジョンコアという特殊な種族である以上、私だけで出来る事は少ない。これらのスキルの習得はその数少ない出来る事柄の一つである。探求と日課はこれからもしっかりと続けていこう。
そうこうしている内に、三組のゴブリン部隊が病魔の森の探索から帰還した。称号が【配下】に変わったことで帰ってこない可能性も考えていたのだが、どうやら杞憂に終わったようだ。
三匹のゴブリンリーダーからの報告によると、今のところはまだ森に大した変化は起きていないようである。けれど、ゴブ太という病魔の森を支配していた領主が消えたことで、次第にまた縄張りを奪い合う魔物たちの争いが始まることだろう。
人間の痕跡は勇者パーティーの残したもの以外は見つかっていない。果たして勇者たちは勇王国カツラギにとってどういう立場の者たちだったのだろうか。
先遣隊か、はたまた少数精鋭の実行部隊。
あの強さであれば、独断での探索の可能性もありうるのか? そうであれば、すぐに追撃が来ることは無いかもしれない。いや、甘い考えは捨てた方がいい。あの勇者の言い方からすれば、国を代表して来ていてもおかしくはないだろう。
気を付けておくに越したことはない。
ゴブリンリーダーたちからは、情報だけでなく魔石も受け取った。病魔の森の探索の道中で発見した魔物を倒して得た魔石だ。
ゴブリンリーダーが持ち帰った魔石を吸収することで失ったDPを回収できた。とはいえ、Eランクレベル1の魔物たちが倒せる相手の魔石である。使用したDPから考えれば微々たるものだ。だが今回の探索でゴブリンたちのレベルも少し上昇している。これを続けていけば、いずれはもっと強い魔物を倒して、その魔石を持ち帰ってくれることだろう。
とはいえ、今回はまだ病魔の森が安定していたので三組とも無事に戻ってこれたが、これから森が荒れていけば、格上の魔物に襲われて戻って来られないゴブリンも増えるかもしれない。そうなる前に少しでも、配下を鍛えておく必要がある。
私はさらに三組のゴブリンたちを召喚して、先の三組と交代で病魔の森に向かわせることにした。




