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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
第二章 迷宮覚醒の章

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37.悲しみの行方

あらすじ


“私”を殺そうとしたライガスに、死角から襲い掛かるアサシンラットの黒牙。

最後の配下である黒牙を返り討ちにされ、ついに“私”は敵の前で丸裸となった

“私”が殺されようとした瞬間、魔王の残滓が黒牙の身体を借りて、この場に君臨する。

“私”を守るため、怨敵を殺すため、魔王の残滓はライガスに襲い掛かった。

そして魔王の残滓はライガスの隙をつき、必殺の一撃を放つ。

 勇者の気配が消え、勇者に宿っていた力が霧散すると、黒牙に宿った魔王の残滓もその役目を終えたかのように薄れていく。

 だが何故か魔王の残滓は、完全に消え去る前に黒牙の身体を動かしてダンジョン最奥の小部屋から出ていってしまった。何処へ行くのかと思えば、その目的地はこのダンジョン内にあるもう一つの部屋に設置された回復の泉。そこにその身を投げ落とすと、最後に残っていた魔王の残滓も、勇者に宿っていた力の如く霧散して消えてしまった。

 そこで私も思い出す。黒牙は魔王の残滓が宿る以前に、勇者から致命の一撃を喰らっていたということを。

 魔王の残滓が宿っていた時は問題なさそうに思えたが、もしかしたらあれは魔王の残滓の力によって延命されていただけだったのかもしれない。

 だからこそ魔王の残滓は最後に、黒牙の身体を回復の泉に投げ入れたのだろう。あそこならば、致命傷であろうとも死んでいなければ回復してくれる。

 案の定、魔王の残滓が消え、今にも消え入りそうだった黒牙の気配は、回復の泉の中で少しずつその力をはっきりとさせていく。これならば、黒牙がこの後、死ぬことも無いだろう。

 私は放心した状態の中で、何となくそんなことを考えていた。



 ゴブ太の理想とする平穏な営みは、無残にも破壊されてしまった。

 配下であるゴブ太もゴブ子も、様々な知識を教えてくれたゴウグゥも、ゴブ太を慕い集まったあの気のいいゴブリンたちも、もう誰もいない。

 それを理解した時、私の心に深い悲しみが押し寄せてくる。

 しかしそれは、ゴブ太たち配下を、そしてゴブ太の村とそこに暮らすゴブリンたちを失ったことによる悲しみ、では、無い。

 私が感じた悲しみはもっと複雑で、もっと残酷なものだった。


 私は、ゴブ太たちが死んでしまったことを、泣けないでいる。

 それは物理的に目を持たぬから涙を流せない、という理由ではない。そうではないのだ。

 心が涙を流せないでいる。私は、ゴブ太たちの死を悲しめない。というよりも、それに対して大した感情を抱けていないのだ。

 それは心が麻痺しているとか、混乱しているとか、そんな理由じゃない。

 ただ、残念だなと、そう思うだけ。あんなに憧れていたのに。大切な隣人だったのに。

 それよりもずっと、私が生き残れたことが嬉しかった。

 今を生きていることが何よりも嬉しい。

 思えば前生から、私はそのような人間だったように思う。ただこんな劇的な状況が、傍に無かったというだけで。私はずっと、私だけが大切なのだ。


 英雄に憧れた。自分の命を犠牲にしてでも大切な誰かを救おうと動く英雄に。

 でもそれは、私には出来ないと知っていたから。

 そんな危険は冒せない。言ってしまえば、所詮、他人如きの為には。

 私は私が大切だ。私が何よりも大切だ。極論、私以外を私は必要としていない。

 あればいい、いてもいい。でも、無ければ無いで別にいい。

 それは精神的な部分で、強く存在する私の思想の芯のようなものだ。

 肉体がどれだけ生存の為に他者を必要としても、それは肉体だけの話。

 私の精神はずっと、独りを受け入れている。

 それがとても悲しい。

 ごめんよ、ゴブリンたち。こんなものがお前たちの信仰していた神だ。

 私は自分の生存に安堵して、私は自分の心の在り方を悲しんでいる。

 それでいながらも、未だそんな自分の全てを失いたくないのだ。



 私が意識を復帰させたのは、それから数日が過ぎた後だった。どれだけの日数が過ぎたのか、具体的には分からない。ただ私が気が付いた時、黒牙は既に完全に回復していた。

 周囲の情景を『魔力感知』と『気配察知』を使って確認する。『気配察知』には黒牙以外何も引っかからず、『魔力感知』には全壊したゴブ太たちの村が確認出来た。

 多くのゴブリンたちが死んだはずだが、その亡骸は何処にもない。ゴブ太の亡骸も、ゴブ子の亡骸も見つからず、あの勇者の仲間の亡骸も消えている。

 私が意識の内へ沈んでいる間に、森の魔物たちがやってきて食べてしまったのか。

 出来る事なら、吸収してDPに変換しておきたかったのだが仕方ない。この空白は私の弱さが招いたもの。ならばそれも、受け入れる。受け入れて、次に進もう。

 現状を再確認すべく、私は暗闇の中で常に表示されているメニュー項目の中から、ステータスを確認する。

 まずは私のステータスだ。



 名前:――――

 種族:ダンジョンコア

 年齢:15

 カルマ:+5

 ダンジョンLV:1

 DP:305679

 マスター:無し

 ダンジョン名:元ゴブリンの洞窟祠

 スキル:『不老』『精神的苦痛耐性LV9』『空想空間LV7』『信仰LV7』『地脈親和性LV3』『気配察知LV7』『魔力感知LV7』『伝心LV7』『読心LV7』

 称号:【異世界転生者】【□□□□神の加護】【時の呪縛より逃れしモノ】【聖邪の核】【鼠の楽園】【惨劇の跡地】【G級ダンジョン】



 襲撃ゴブリンたちとの戦いがあった二年前から変わっているのは、年齢とDPが多少増えた事と、カルマが少し減ったくらいだったのだが。

 先日のことで、『精神的苦痛耐性』のレベルが9に上がっている。そしてダンジョン名に元という字が追加されていた。

 他には……記憶と照らし合わせてみると、【ゴブリンの神】の称号が消えている。これはゴブリンたちに見限られてしまったからなのか、それとも私を祀っていたゴブリンたちが一匹残らず死に絶えてしまったからなのか。称号が消えてしまった事よりも、その理由が気になってしまう。

 さて次は残った配下のステータスだが。



 名前:黒牙

 種族:アサシンラット ランク:C

 年齢:5

 カルマ:±0

 LV:53/65

 スキル:『夜目LV7』『隠密LV3』『気配察知LV9』『爪牙術LV8』『闇魔法LV2』『魔力感知LV9』『魔力操作LV9』『追尾術LV7』『暗殺術LV8』『病気耐性LV1』『灯耐性LV1』

 称号:【――――の眷属】【影に潜む者】【暗殺者】【大魔王の血統】【勇者殺し】



 黒牙のステータスにあった魔王の残滓が宿っていた時の過剰な変化は、どうやら元に戻っているようだ。しかし、完全に前の状態に戻っているという訳ではない。

 まず、レベルが上がっている。確か最後に見た時は43だったはずだ。それにスキルの中に上位スキルへと変化したらしきものがある。『闇魔法』だ。これも最後に見た時はまだ『影魔法』だった。それに『病気耐性』と『灯耐性』の追加。全体的なスキルのレベルも上がっている。

 そして称号にある【大魔王の血統】と【勇者殺し】。

 あの勇者の態度を見る限り、この二つが人間にばれれば大変なことになりそうだ。



 さあ、ステータスの確認はこれで終わり。

 それにしても、人間側の動向が気になる。あの日から数日は経ったはずだが、あれからまだここにもう一度人間が攻めてきたことはなかったはずだ。さすがに命の危険が迫れば、私も意識の底に沈んだままではいないだろう。強制的に戻ってきたはずだ。

 あれは勇者たちの単独行動だったのか、それとも今も攻め込んでくる準備をしているのか。

 そこに考えが至った瞬間、私はまだ何も終わっていないのだと気付いた。

 勇者は魔王の残滓の力によりなんとか撃退出来た。しかし、あれはもう二度と無い奇跡だ。『魔力感知』で精密に周囲を確認するが、魔王の残滓から感じたあの魔力はもう完全にこの辺りから消え去っている。あれは、魔王が残した最後の力だったのだろう。

 次は無い。だというのに、国という強大な敵が今現在も私の命を狙い、この地へ向けて進軍してきているかもしれないのだ。

 逃げるという選択肢を選べないこの身体にとって、それはいずれ訪れる確実なる死。

 そうだ、これでは私が前生で逃げ続けた寿命の終わりと何ら変わりがない。


 死ぬのは怖い。消えるのは怖い。私は生き続けたい。無くなりたくない。


 ならばどうすればいい?

 逃げることは出来ず、私が前生で持っていたルールも通用しない。

 人間として生きていた時、私を守っていてくれた当たり前のルール。

 殺されたくなければ、自分も相手を殺してはいけない。

 戦いを避け、危険を避け、突出することなく人間の中に埋もれて生きてきた。

 だが果たして、そんなルールは本当にあったのだろうか?


 やつらはこちらの話など聞かず、ただ私の命を狙ってくる。


 ここはもう前生の世界では無く、私はもう人間ではない。

 それでも、この森の中で静かに暮らしていれば、隠れ潜んでいれば放っておいてくれると思っていた。前生で最後に得た教訓から目を逸らしたまま。


 そうだ。やつらが襲ってくるというのなら、戦いこそを唯一の交渉とするのなら、殲滅こそを平和だと宣うのならば、私にはもうルールなどいらない。

 ここでは力こそが全てなのだろう?

 私は私が生きる為に、私として生き続けるために、全ての敵を滅ぼそう。

 平穏な世界ですら通用しなかったルールなど、捨て去って。



 まずは戦力を貯める。私を襲うあらゆる危険から私自身を守れるように。

 それが出来たら、次は敵の排除だ。あの勇者の祖国、勇王国カツラギを滅ぼす。

 勇王国カツラギは勇者を送り込み、私の配下であるゴブ太やゴブ子を、そしてゴブ太の村を破壊し、私を殺そうとした。

 しかし、勇王国カツラギを滅ぼすのは、復讐ではない。

 ゴブ太が、ゴブ子が、村のゴブリンたちが虐殺されても涙を流せない私に、復讐などと言う資格は無いだろうから。

 もし、村のゴブリンに生き残りがいて、尚且つ復讐を望んだのなら、もしかしたら私も手を貸していたかもしれない。けれどあの日以来、ここに生き残りのゴブリンが戻ってきたということは無かった。生き残りがいるという可能性は少ないだろう。

 ならばこれは復讐などでは断じてなく、私が生きる為の、生き残るための足掻きだ。

 薄情な私がゴブ太たちの為に出来ることなんて、彼らの事を忘れないことぐらいだろう。

 ずっと、ずっとあの勇姿を、覚えておくことくらいだ。


 忘れぬように思い出し続けること。私は盲目に甘んじた己への戒めも含め、それを日課に組み込むことにした。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 比較的お約束に沿って安定した面白さの1章から完全に予想がつかない2章にわくわくが止まりませぬ
[良い点] 圧巻です。主人公の心理描写が一見異常でありながら真に迫っていて、人間と敵対する理由づけに説得力を感じました。
[良い点] 良くも悪くもダンジョンコア向きの性格ですな
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