幕間.ゴブリンの生態観察
幕間その四。
ゴブリンとは、様々なファンタジー作品に登場するスライムと比肩するほどの有名な魔物である。元々その存在を語られていた国では邪悪な妖精の一種であり、子供を喰らう危険な妖精だとか、悪戯好きの醜悪な顔つきの妖精だとか色々と語られていたそうだ。
そこから転じた小説などに登場するゴブリンは、さらに多種多様な描かれ方をしている。
雑魚魔物の代表だったり、女子供を攫う醜悪な魔物だったり、仲間となって強力な力を宿していったり。そのキャラクター性は様々な方向から掘り下げられている。
さて、ではこの世界のゴブリンはどういった存在なのだろうか。
彼らは基本的に陽気で愉快で楽天的な性格である。いつもお祭りのように賑やかで、集落には笑顔が絶えない。ベビーゴブリンたちはたまに悪戯などもするが、大体が笑って許せる範囲というのが、これまでの認識だった。
しかし、襲撃ゴブリンたちの所から新しい住人たちが大量に流入してきて、さらに村を訪れる魔物などの話を総合していくと、どうも世界全体ではもっと違うゴブリン像があるようだ。
例えば陽気なのは変わらないが、ゴブリンの悪戯と言えばかなり過激で命を左右するようなものも多いのだとか。それに加えて基本的にゴブリンたちは清潔にするという習慣が無く、いつも悪臭を放っている印象が強いそうだ。
ただ何よりもゴブリンが敬遠される理由は、集落を襲ったゴブリンロード、ギグガァドグのような者たちが原因のようだ。
ゴブリンたちはあまり強くない。この認識はこの世界でも同様である。ゴブリンは魔物の中でも弱い部類であり、基本的には増えやすいという以外に強みは少ない。
さて、この世界での強さとは、いかに敵を倒しレベルを上げていくかに掛かっている。他にも強さの要素はあれど、レベルを上げ続ければ基本的に強くなれるのだ。
それは才能よりも積み重ねがかなり重要であるということであり、私が元居た世界とは異なる点である。
では、そんな世界で強い者とはどんな要素を持つ者たちだろうか。敵を倒し続けることが強さに直結するのであれば、それは敵を倒すという強い意思を持てる者が強くなるということだ。
これは一つの例ではあるが、残忍な意思を持つ者。他者を傷つけることに喜びを見出し、より強者を求めては殺し合いに耽る。そんな者は放っておいても強くなることだろう。
これはこの世界の一般的なゴブリン像とは、かけ離れた印象である。ゴブリンは度を超えた悪戯好きであり、それに掛かって命を落とす者もいるが、戦いが好きなわけでは無い。
その生活はどちらかと言えば牧歌的であり、むしろ戦いを忌避する傾向にある。そんな者たちが敵を倒すことで強くなれるこの世界で、強さを獲得することは難しいだろう。
それ故に、一般的にゴブリンは弱いとされている。
しかし、多くのゴブリンが産まれるということは、例外が産まれてくる可能性が他より高いということだ。弱さゆえか、ゴブリンは外部からの働きかけが無い限りは、大よそ繁殖を本能として行い続ける。
そしてその結果産まれた例外、あのゴブリンロード、ギグガァドグのような存在が頭角を現して、そのゴブリンたちを支配するのだ。
魔物と呼ばれる者たちは、どれも多少の差はあれ、強い者の庇護下に置かれたがり、またその色に染まっていく。
最初は例外として生まれた残忍なゴブリンが、次第に配下たちに影響を与え、残忍なゴブリンで組織された集落は、やがて周りの魔物まで支配し始める。
そうして産まれたのが襲撃ゴブリンたちの集落のようだ。
ただ、私はギグガァドグに対して残忍という言葉を使ったが、ギグガァドグに悪意があったかと言えば、そういう訳でも無いと思う。
ギグガァドグもまた、ゴブリンだった。自分の好きなことには夢中になり、興味の無い事には関心を抱かない。それは、良くも悪くも陽気で愉快なゴブリンたちの性格と一致する。結局のところ、方向性の違いなのだ。
物造りや集落の発展に関心を持つゴブ太の村のゴブリンたち、他者への悪戯に関心を持つ一般的なゴブリンたち、そして強くなり支配を広めることに関心を持つギグガァドグたち。
彼らには悪意が無く、ただ自分の関心事に一直線なだけ。
さらに彼らは楽しむことに貪欲であり、柔軟な思考で新しい文化を受け入れていく。それはつまり、他者からの影響を受けやすいということでもある。結局のところ、上に立つ者次第で彼らは良くも悪くも変わるのだ。
そう言えば長くゴブリンたちを観察している間に、もう一つ気が付いたことがある。
ゴブリンたちには喜怒哀楽の感情の中で怒、つまり怒りの感情が薄い。怒りの感情が薄く、そして長続きしない。
ゴブ太は昔住んでいた集落を滅ぼされたが、それに対して恐怖したり悲しんだり、はたまたそれを教訓として家族を守りたいと思うことはあっても、怒りから憎悪を抱いたり、復讐を望んだりという話は聞かない。
ただ私に話していないだけという可能性もあるが、他の逃げ出してきたゴブリンたちも同様にそんな話はしない。
ギグガァドグの圧政に支配されてきたゴブリンたちも、今を楽しんでいるが過去に憎悪や怒りを抱く所は見ない。
さらにギグガァドグ。彼もゴブ太に抵抗され、配下となることを断られても、特段怒るようなことは無かった。
確かに小さなことで少し怒るぐらいの事はあるが、それもすぐに収まってしまうのだ。ベビーゴブリンが悪戯をしたときも、大人のゴブリンたちはそれを叱ることはあっても、怒ることは無い。
これもまたゴブリンの特徴の一つであり、またゴブリンの陽気で楽天的な性格を形作る一つの要素なのかもしれない。
まあ色々と思考を広げてみたが結局結論として出てくるのは、私はこの世界のゴブリンという種族が、割と好きだということだ。
これからもあまり深くは関わらず、適度な距離感を持って接していこうとは思うけれど、ゴブリンたちが幸せであることを願うとしよう。
感想とてもうれしく拝見しております。
その都度色々考え過ぎた結果、
当たり障りのない返信になってしまっていますが、
この場を借りて再度感謝を本当にありがとうございます!




