30.反撃
あらすじ
戦いの中で成長するゴブ太とそれに引っ張られて指揮を上げる集落ゴブリンの戦士たち。
黒牙の手助けもあって、ついに襲撃ゴブリンの強襲を防ぎきることに成功した。
しかし、それによって今まで静観を決め込んでいた三匹の襲撃ゴブリンを率いる者たちが動き出す。
圧倒的な力を持つ彼らは、ゴブ太に仲間となるよう語り掛けた。
だが、仲間を使い捨てにする彼らを嫌いゴブ太はその提案をはねのける。
そして戦いは始まった。数百を超える襲撃ゴブリンを討ち果たした者たちが、彼らにはなすすべもなくやられていく。
男は起死回生の一手として、襲撃ゴブリンたちの亡骸を回収すべく無数のゴブリンを召喚した。
そして集めた襲撃ゴブリンの亡骸をDPへと変換していく。
全ては逼迫した戦況を変えるため、今召喚できる最大戦力であるゴブリンナイトを召喚するために。
名前:――――
種族:ダンジョンコア
年齢:13
カルマ:+9
ダンジョンLV:1
DP:300427
マスター:無し
ダンジョン名:名も無き洞窟
スキル:『不老』『精神的苦痛耐性LV7』『空想空間LV7』『信仰LV7』『地脈親和性LV3』『気配察知LV7』『魔力感知LV7』『伝心LV7』『読心LV7』
称号:【異世界転生者】【□□□□神の加護】【時の呪縛より逃れしモノ】【聖邪の核】【鼠の楽園】【惨劇の跡地】【G級ダンジョン】【ゴブリンの神】
DPは貯まった。
私は即座に300,000DPを消費して、ゴブリンナイトをこの場に召喚する。
〈ダンジョン内にゴブリンナイトLV1を召喚しました〉
名前:――――
種族:ゴブリンナイト ランク:C
年齢:0
カルマ:0
LV:1/55
スキル:『盾術LV1』
称号:【――――の眷属】
思った以上にすっきりとしたステータスだ。感じる力も強いは強いが、ゴブ太や、外で暴れている襲撃ゴブリン二匹には及んでいない。
だが、確実にゴブリンソルジャーやホブゴブリンよりは強い。
産まれたばかりのゴブリンナイトに、亡骸と共に回収した武器と盾も装備させる。
むう、心もとない。だが、このゴブリンナイトに賭けるしかない。
別に一人で巻き返せという訳ではないのだ。向こう側に傾きつつある戦況を、少しでもこちらの有利に向かせることが出来れば、あとはゴブ太が何とかするだろう。
あとはどちらを狙うかだが。
――ゴブリンナイトよ。回収用ゴブリンたちを率いて、敵のゴブリンナイトを倒せ。
回収用ゴブリンたちを二つに分けて、その片方と共に召喚したばかりのゴブリンナイトを戦場へ向かわせる。
未だ沈黙を続ける襲撃ゴブリンの親玉を狙わないのは当然のこととして、魔法使いゴブリンに向かわせないのは魔法使いゴブリンの攻撃が全体に向かうのに対して、ゴブリンナイトの攻撃はあくまで単体への近接攻撃だからだ。勿論、ゲームのように単体攻撃なら必ず一人にしか攻撃が当たらないわけではないだろうが、遠距離で魔法に呑まれるよりはゴブ太の援護に回って、より素早く敵のゴブリンナイトを倒す方が勝利の可能性は高まるだろう。
ゴブリンナイトの『盾術』も、魔法より物理攻撃に相対した方が役に立つ筈。
残った回収用ゴブリンは順次魔法使いゴブリンの方へと向かわせて、他の戦士団のゴブリンの盾とする。同じ命とはいえ、今召喚したばかりの回収用ゴブリンよりは戦士団のゴブリンの方が私の中で優先度は高い。それは戦力的な意味でも、それ以外の意味でも……。
ゴブリンナイトがもう一体加わることにより、ゴブ太も攻撃に回れるようになった。ゴブリンナイトの『盾術』はお世辞にもうまいとは言えないが、そこはゴブ太が敵のゴブリンナイトの攻撃を誘導することによって対処している。
どうやらゴブ太は数十合の打ち合いを経て、襲撃ゴブリンナイトの動きを見切りつつあるようだ。とはいえゴブ太も数々の打ち合いを無傷で切り抜けられたわけで無く、成長の代償をしっかりとその身に刻んでいる。
ゴブ太はここぞという時を狙って、怒涛の攻撃を仕掛けた。一、二、三、四、五。隙間なく打ち込まれる重い打撃が、遂に襲撃ゴブリンナイトの手から盾を弾き飛ばす。
その瞬間、ゴブ太は仲間たちに号令をかけ、全員で一斉に攻撃を仕掛けた。襲撃ゴブリンナイトは幾度かの攻撃を武器で弾いたが、四方八方から襲い来る攻撃にはさすがに成すすべもなく、やがて武器すら失ってただ攻撃から身を守るように身体を丸めるだけとなる。
そして、ゴブ太の強烈な一撃が相手の首をへし折り、襲撃ゴブリンナイトはその意識を永遠に失った。
ゴブ太たちの勝利である。しかし、これで戦いが終わるわけでは無い。ゴブ太は即座に魔法使いゴブリンたちと戦う戦士団のゴブリンの援護に向かう為、走り出した。
一方で魔法使いゴブリンと戦士団のゴブリンたちとの戦いはとても酷い状況だ。
途中から回収用ゴブリンを定期的に送ってはいるが、それでも戦士団のゴブリンたちの被害は甚大である。百近くいた戦士団のゴブリンたちが、今では数匹がやっと立っている程度。魔法使いゴブリンの周囲にはもはや集落の建物は無く、その地形すらまったく違う形となっていると言えば、その被害の大きさが分かろうというもの。
何より魔法使いゴブリンの攻撃は範囲が広いうえに一撃が重く、巻き込まれた者たちはほとんど助からないのだ。さらに範囲攻撃魔法に巻き込まれる可能性が高いため、負傷者の回収もままならない。
戦士団のゴブリンたちから送られてくるイメージによれば、どうやら魔法使いゴブリンは火と土の魔法を使うようだ。爆炎のような火が集落を焼き、波のように襲う土石流が全てを呑み込む。
まさに地獄の光景。混乱の叫びが、苦痛の悲鳴が、死の絶望が、仲間を失った者の慟哭が、私の内に伝わってくる。ああ、苦しい。ああ、痛い。
嫌だ。死にたく、ない。
〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『精神的苦痛耐性』のレベルが7から8へ上がりました〉
スキルレベルの上昇によって痛みは薄まる。けれど、私の心に蓄積されたものは消えていない。戦場より産まれた怨嗟の念は、私の精神をじりじりと削っていく。
襲撃ゴブリンナイトを下したゴブ太たちが魔法使いゴブリンに走り寄る。そして一撃を加えようとするが、その前に魔力の奔流がゴブ太を遠くへ吹き飛ばした。また魔法が使われたのだろう。だが魔法に巻き込まれたゴブ太は、多少の傷を負いつつも無事に見事な着地を決めた。
ゴブ太は周囲の仲間たちに指示を出し、魔法使いゴブリンを包囲しつつ断続的に攻撃を始める。魔法使いゴブリンの魔法は広範囲に影響を及ぼすが、それでもある程度の方向は発動した時に決まってしまうようだ。魔法使いゴブリンの周囲を囲めば、全滅は免れられる。
それに魔法使いゴブリンの放つ魔法と魔法の間には、ある程度の間隔がある。どうやら強力な魔法を放つためには、呪文の詠唱が必要らしい。
ただ魔法を使うゴブリンとはいえ、魔法使いゴブリンにも近接戦の心得もあるらしく、回収用ゴブリンはもとより、戦士団のゴブリン達でもその隙をうまく使えていなかった。
だが今は近接戦の専門であるゴブ太と、新たに召喚したゴブリンナイトがいる。正反対の位置についた二匹が、それぞれに戦士団のゴブリンと回収用ゴブリンを率いて魔法使いゴブリンに攻撃を仕掛けていく。さすがにゴブリンナイトはゴブ太ほど魔法に耐えられるわけでは無いらしく、主な攻撃はゴブ太に任せて、自身は牽制と防御に専念しているようだが。
相変わらず戦士団のゴブリンや回収用ゴブリンは死んでいくが、先ほどまでよりは死んでいく数も減っているように感じる。魔法使いゴブリンがゴブ太とゴブリンナイトを脅威に感じて、そちらを意識して魔法を放っているためだろう。
もし、敵のゴブリンナイトと魔法使いゴブリンが連携して襲ってきていたら、ここまでの隙は生まれなかったはずだ。いや、それ以前に最初の軍勢に混ざってこいつらが攻めてきていたら、そこで終わっていた可能性が高いだろう。
未だ何もせず戦いを観察している襲撃ゴブリンたちの親玉もそうだが、この三匹には協力という意識がまるで感じられない。
個の強さこそが重要。それが襲撃ゴブリンの親玉の、延いては彼らの思想なのだろう。
その考えがゴブ太たちを助け、結果的に彼らの敗北に繋がる。だとしても、逃げることはおろか、戦い抗うことすら出来ない私としては、その考えが少し羨ましくもある。
勿論のこと、転生を果たす時に神から聞かれた質問への答えは、今も変わらぬままではあるのだけれど。
ゴブ太の重い一撃が魔法使いゴブリンの頭部を吹き飛ばし、その一撃で二つの戦いは終わりを告げた。
結局最後まで、襲撃ゴブリンの親玉は動かぬまま、その余裕も消えてはいないようだ。
今のうちに、残った僅かな回収用ゴブリンに命じて、傷付き倒れた戦士団のゴブリンたちを回復の泉に運んでおこう。
「素晴らしい! 予想以上の成果だ。まさか我が配下を二匹とも倒しきるとは」
襲撃ゴブリンの親玉はゴブ太に称賛の言葉を贈ったようだ。自分の配下がやられたというのに、そんなことはどうでもいいと言うように、ゴブ太を褒めちぎっている。
周りには戦士団のゴブリンたちやゴブリンナイトもいるのだが、そちらには意識すら向けていない。
視線も、意識も、称賛の言葉も、ゴブ太だけに向いている。
「あえてもう一度聞こう。そのような雑兵どもを捨て、我が元へ来るがよい。さすれば使えぬ配下どもの代わりに、我がこれより築く覇道を間近で見せてやろうぞ」
答えに期待などしてはいないのだろう。それでも、襲撃ゴブリンの親玉は再度ゴブ太に誘いの言葉を投げかけたようだ。
だが、ゴブ太の返答など最初から決まっている。ゴブ太はそれを示すように、即座に拒絶の意思を相手に返した。
「ならば、もはや問答は終いだ。よもや我が、配下どもと同等などとは思っていまい?
さあ構えるがよい。これより一瞬でも気を抜けば、そこで貴様の命は尽き果てる。
グギャギャ、我が配下どもの命を吸って得た力で、我を楽しませろ。
そして、我が力の糧となれっ!」
対峙する襲撃ゴブリンの親玉とゴブ太。
密度の濃い魔力が二匹の周りで渦を巻き、そこにある力の残滓を周囲に振りまいている。気が付けば、戦いは既に始まっていた。
ゴブ太が渾身の一撃を仕掛け、襲撃ゴブリンの親玉はその一撃を軽く受ける。避けるでも受け流すでもなく、真正面から受け止めて微動だにしない。
襲撃ゴブリンの親玉が受け止めた腕を振るえば、ゴブ太の身体は魔法使いゴブリンの魔法で吹き飛ばされた時以上に大きく弾き飛ばされた。
さらに今度は襲撃ゴブリンの親玉が遠く離れたゴブ太へと武器を振るえば、ゴブ太の身体に無数の傷が出来る。
魔力を感じなかったので魔法じゃない。もしかして、小説やゲームでよくある衝撃波とか、かまいたちと呼ばれる現象だろうか。不覚にもちょっとわくわくしてしまった。
やっぱり魔力と気配で感じるだけでなく、この目で見てみたい――なんて、さすがに言っている場合ではないな。
ゴブ太と襲撃ゴブリンの親玉の力量はやはり雲泥の差だ。襲撃ゴブリンナイトや魔法使いゴブリンたちでさえ、仲間と力を合わせてなんとか倒したというのに。
さらにゴブ太たちは皆、先の戦いの影響で満身創痍。
せめてまず、今戦っているゴブ太や戦士団のゴブリンたちを回復させないと、万に一つの勝機すら掴めない。
だが果たして、ゴブ太たちにそんな余裕があるのだろうか。




