25.信仰
掲載順番間違えてました。
内容変わってます。
あらすじ
多くのゴブリンたちが獲物を持ってきてくれたことにより、ついにダンジョンの拡張を行えるほどのDPが貯まった。
早速男はダンジョンに奥へと続く通路と、もう一つ小部屋を作成する。
さらに男は水が貴重という話を聞いて、ゴブリンたちの為に回復の泉という施設を入り口の小部屋に設置した。
それはいつも獲物を持ってきてくれるゴブリンたちへの男なりの感謝の印だった。
何だかおかしなことになっている。
回復の泉を造ってから感謝の証なのか何なのか、集落のゴブリンたちが森の恵みや制作物を今まで以上の頻度で持ってくるようになったのだ。まあそれだけならいいのだが、そんなゴブリンたちの中に、私へ祈りのようなものを捧げる者が現れ出した。
確かに彼らの生活は回復の泉が出来たことで一変した。元々この森で水は貴重なものだったのだ。それがいきなり使い切れぬほどに現れれば、それを成した者へそういう行動に出る者が現れるのも仕方のない事なのかもしれない。
まあその祈りも感謝の仕方の一つなのだろう。私はそう考えたうえで、それを一時の気まぐれと判断してそのまま放置していたのだが……どうやら私はゴブリンたちの順応性の高さを見誤っていたようだ。
その特殊な捧げ物の作法はあっという間に集落内のゴブリンたちへと広がっていき、気が付けば集落の全てのゴブリンが祈りを捧げるようになり、同時にゴブリンたちのスキルには『信仰』が芽生えていた。
私も『信仰』のスキルを持っているから知っている。このスキルは生半可な心持ちでは現れないだろうということを。つまりゴブリンたちがしていた一時の感謝のための祈りは、いつの間にか敬う為の祈りへと置き換わっていたのだ。
そして、三月程が過ぎた頃。
名前:――――
種族:ダンジョンコア
年齢:12
カルマ:+3
ダンジョンLV:1
DP:9011
マスター:無し
ダンジョン名:名も無き洞窟
スキル:『不老』『精神的苦痛耐性LV7』『空想空間LV7』『信仰LV7』『地脈親和性LV3』『気配察知LV7』『魔力感知LV7』『伝心LV7』『読心LV7』
称号:【異世界転生者】【□□□□神の加護】【時の呪縛より逃れしモノ】【聖邪の核】【鼠の楽園】【惨劇の跡地】【G級ダンジョン】【ゴブリンの神】
私に【ゴブリンの神】という称号が追加された!
いや、まあいいんだがね。
ちなみに地味に減っているカルマは、回復の泉をゴブリンたちの為に造った時に-1され、称号が新たに追加された時に-2された。順調に減っているようでなによりだ。このまま元の0に戻ってくれれば、何となくだが安心できる。……あの日、起こった事実は消えないがな。
それにしても【ゴブリンの神】か。なんだかすごいんだか、すごくないんだか分からない称号だ。誰かから崇められるというだけですごい事のような気もするが、それがゴブリンだとどうにも微妙に思えてしまう。
いや、これは違うな。
ゴブリンたちは今では非常に身近な存在であり、大切な私の配下の仲間たちでもある。
彼らは陽気で楽しく、それでいて一匹一匹がこの過酷な森の中で生き残るため、助け合い懸命に毎日を過ごしている。その姿は私が前生で知る人間の姿と何一つ変わらない。いや、むしろこちらの方が善良であるとすら思えてしまうほどだ。
ゴブリンを卑下するこの感情は、前生の記憶が多大な影響を及ぼしている結果だろう。それはつまり、ファンタジーによく出てくるようなゴブリンのイメージだ。
神と呼ばれること自体には少し思うことはあるが、相手がゴブリンたちであることについては、まあ喜んでおけばいいのかな。それは少なくとも集落のゴブリンたちに好感を持たれているという証とも言えるのだから。
ご近所付き合いは良好であるに越したことは無い。ちょっと違うか?
あと、ゴブリンたちのスキルに『信仰』が、そして私の称号に【ゴブリンの神】が追加された辺りで、配下たちにも変化があった。
特に、ゴブ太とゴブ子が顕著である。
名前:黒牙
種族:シャドーラット ランク:D
年齢:2
カルマ:±0
LV:34/45
スキル:『夜目LV7』『隠伏LV7』『気配察知LV7』『爪牙術LV7』『影魔法LV6』『魔力感知LV6』『魔力操作LV6』『追尾術LV5』『暗殺術LV5』
称号:【――――の眷属】【影に潜む者】【暗殺者】
名前:ゴブ太
種族:ゴブリンリーダー ランク:E
年齢:6
カルマ:-5
LV:17/30
スキル:『繁殖LV5』『夜目LV5』『解体LV5』『森歩きLV7』『採取LV5』『鈍器術LV6』『気配察知LV7』『指揮LV5』
称号:【生残者】【――――の眷属】【集落の長】【神の使者】
名前:ゴブ子
種族:ゴブリン ランク:F
年齢:1
カルマ:-7
LV:1/15
スキル:『繁殖LV5』『採取LV7』『森歩きLV7』『料理LV3』『調薬LV3』
称号:【――――の眷属】【集落の母】【神の巫女】
一先ず黒牙の変化から確認していこうか。
黒牙は以前からまた多少レベルが上がった。最近はゴブ太の戦闘も物になってきたらしく、黒牙は遠征中かなりの時間を戦闘に費やしているようだが、レベルの上りは遅々としている。黒牙自身早くレベルを上げて進化をしたいらしく、その行動には少し焦りが生まれているようだ。確かに黒牙のレベルの上がり具合は、最初の頃と比べると格段に上がりづらくなった。それは私の言葉を守って、安全に狩れる魔物だけを狙っているからだろう。それでも、少しずつでもレベルは上がっているのだ。こういう時期には誰もが無理をしがちである。
危険なことはなるべく避けて、そのまま無理のない範囲で数をこなすように。と一応黒牙には改めて念を押している。
無茶をして強敵に挑み、帰らぬ鼠になってしまえば元も子もないのだから。
それに、『暗殺術』のスキルレベルも上がっているし、成長が無いわけでは無いのだ。
是非ともこのまま、精進していってほしい。
危険とは飛び込むものでは無く、襲い来たものに対処するもの。それが私の考えなのだ。
……死んでほしくはないからな。
さて、お次はゴブ太だ。
ゴブ太はレベルも多少上がっているが、特に『鈍器術』のスキルが5を突破して6に至り、『気配察知』は遂に7にまで到達した。『指揮』も5となったし、ゴブリンリーダーという種族名に恥じぬ成長っぷりだ。
だがそれよりなにより、【神の使者】という称号の追加こそが最大の変化だ。ゴブ子にも同じような称号がついているが、ここで言う神は言うまでも無く私の事であろう。
この称号に関係あるのかどうかは不明だが、ゴブ太の称号である【――――の配下】が、黒牙やゴブ子と同じ【――――の眷属】に変化していた。それと共に、私とゴブ太との絆もさらに強まっている。これで黒牙やゴブ子と同じ精度で、通じ合うことが出来るはずだ。
とはいえ、すでに私自身の『伝心』と『読心』のスキルレベルが高いので、そうそう遠くまで行かない限りは意思を円滑に伝え合うことは出来ていたのだが。
伝え合うと言えば、称号のこともあってか最近ゴブ太とゴブ子はゴブリンたちの中で私の代弁者という立場になりつつあるようだ。今までも集落の代表者だったのだが、この立場がプラスされたことにより、さらにゴブ太とゴブ子の集落での地位は高まったらしい。今では神官の真似事のようなことまでしているという話だ。私としては難儀な話だと思うのだが、本人ならぬ本ゴブリンであるゴブ太やゴブ子は張り切っていた。
もしかしたらその内、回復系の魔法とか覚えるかもしれない、と私は密かに二匹へ期待しているのは内緒だ。神官と言えば、回復魔法だろう。
さて、そんな二匹の内の一匹であるゴブ子だが、【神の巫女】という称号の追加の他には、『料理』と『調薬』のスキルレベルも順調に上げていた。
相変わらず頑張り屋のようで、様々な素材を使っての研究を怠っていないようだ。
今のところポーションの名称に変化は無いようだが、回復量は上がっていると評判である。
彼らには是非ともこのまま頑張ってもらいたい。彼らの成長は巡り巡って私のさらなる安全へと繋がるのだから。
称号による変化は他にもあった。
『信仰』を持つゴブリンが私に祈りを捧げる時、たまにDPが増えていることがあるのだ。どうやらゴブリンたちが祈ると微かな力が流れ込んできて、それが私の中で一定量貯まる時、DPが増えているようである。この辺りの仕組みははっきりと分かっているわけでは無いので、事象から推測しているだけなのだが。
これも私の称号【ゴブリンの神】が関係していることは明白だろう。ゴブリンたちの信仰が私の力となっているのだ。その在り方は、確かに神というに相応しい。
それはそれですごい事だと思うが、神と呼ばれ崇められると少し気持ちがもやもやする。
きっと私の力という点において、あまり実情を伴っていないせいだろう。
私の力は限定的で、とても神と呼べるような代物では無い。むしろ動くことすら叶わぬこの身体は、ある意味ゴブリンたちよりも低位なのではないかとさえ思える。
たとえゴブリンたちに祈られても、私には見守ることしか出来ないのだ。
ははっ。とはいえむしろその方が、正しき神と言えなくもないか。
ふむ、おかしいな。いつから私はこんなにゴブリンたちの事を気に掛けるようになったのだろう?
「見守ることしか出来ない」なんて、それ以外にも色々としてやりたいとでも思っているかのようだ。彼らとの関係はあくまで隣人で、別にそんなつもりは無いはずなのに……。
まあ、別にいいか。
ゴブリンたちは勝手に感謝して、勝手に捧げ物をして、勝手に祈っているのだ。
それは私が勝手にゴブリンたちの為にと、回復の泉を設置したのと同じ事である。
私と集落のゴブリンたち。その近いようで遠く、相手の事を考えているようで考えていないこの距離は、私にとってとても心地よい。
これ以上に私が何かをする必要性は無いのだ。
ゴブリンたちが今以上の何かを要求してくるのであれば、考え直さなければならない。しかし現状のようにただ祈るだけで満足しているのであれば、好きにさせておけばよいだろう。
立場には責任が付きまとう。
ふと浮かんだその言葉を私は思考の隅に投げ捨てた。
誰が言った言葉だったか。私の記憶にその人物の事は残っていない。ただ言葉だけが、靴に張り付いたガムのように、気付かぬところに引っ付いていただけ。
それに立場というのであれば、今そこについているのは私というよりゴブ太の方だ。私はただそこにいるだけ、言うなればご神木や要石のようなもの。そんなものに立場も何も無い。祈りたいなら祈ればいいが、そこにあるのはその行為自体が持つ意味だけである。
ゴブリンたちが増え、集落が形を成し始めてから、どうも私の意識は彼らに引っ張られているようだ。
それが悪い事というわけでは無いが、その思考は無意識のうちに私を苦しめることがある。
私は少し、彼らに近づき過ぎた。そう、私は神と同じ。ただ、見つめているだけでいい。
私自らが召喚したゴブ子へのアドバイスくらいならばまだしも、回復の泉を彼らの為に設置したことこそが、私の常からして少し行き過ぎた行為だったのだ。配下であるゴブ太の為だとしても、少し度が過ぎている。そこから派生した信仰は甘んじて受け、少し彼らと距離を置くべきだろう。
まあそもそも、私は基本的に誰かと積極的に会話をしたいというような性格では無いので、深く関わっているゴブリンなんてゴブ太とゴブ子ぐらいであり、他の集落に住むゴブリンたちとは会話すらあまりしたことが無いのだけれど。
うむ。つまりは、いつも通りという訳だな。
なにもおかしなことは無い。どうせすべては他人事だ。
だって、仲良くなり過ぎれば別れの時が辛くなる。だって、近すぎれば何かと気に掛けたくなるのだ。だって、世話を焼くようになれば最後まで面倒を見なければいけない。だって、終わりのない私はいつか必ず苦しむことになる。
だって。だって。だって。だって……。
……どうでもいいか。
暴走しかけていた思考を、私はその言葉で止めた。
これ以上考えすぎれば、私は多くの重りを背負うことになる。
強いモノならばそれもいいだろう。それを糧に、あるいは乗り越えて、成長していく。さながらその姿は、物語に出てくる勇者の如く。強い意志で、勇気をもって前に進む。
でも、私は私を強いとは思っていない。
むしろ、私は人よりも弱いとさえ思っている。
だからこそ、許容量は間違えない。
心が耐えられないなんて事を、起こさないためにも。
私は弱い私を許容して、忘れる私を許容して、考えない私を許容する。
それらすべては、私の弱い心を守るためだから。
私は、弱い。
だから私は、大切にするモノを選ぶのだ。
薄情者と罵られようが、弱虫だと馬鹿にされようが、敗走者だと陰口を叩かれようが。
私はそれでも死にたくないから。
必死に必死に、生き続けたいから。
ああ、今日はどうにもあまりいい考えが浮かばない。
そう言えば最近はずっと、外の事を気に掛け過ぎていた。
こういう時は久しぶりに、何も考えずに過ごすとしようか。
うん、そうしよう。




