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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
聖女邂逅の章

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204/204

エピローグ.博愛の聖女はいつも独り

あらすじ


水晶角の運び役を魔熊ストロングベアの熊江に任せ、私はミクスギガントゴーレムに『伝心』でその事を伝える準備を行う。今度こそ、ミクスギガントゴーレムにイメージを受け取ってもらう為、イメージを単純化し、ミクスギガントゴーレムの意思の大きさに合わせた。さらにDPも使い、命令機能を強化して、可能な限り対策をしておく。

その結果、どうやら『伝心』は伝わったようで、ミクスギガントゴーレムへの水晶角の受け渡しは滞りなく完了する。その後、ミクスギガントゴーレムはミクスゴーレムたちを率いて、ダンジョンから脱出した後、全てのミクスゴーレムたちと合体すると、森の大部分を引き潰しながら、去っていった。

あとに残されたのはダンジョンの入り口正面に広がる荒野のみ。その後始末は相当に大変だろう。


しかし、私にはその前に一つ、決着をつけておかなければならないことがあった。




 魔鹿さんをダンジョンの中に逃がした。きっとこれで、あとはマスターさんが助けてくれる。あんなことを言っていたけれど、マスターさんだって、いざとなればきっと、魔鹿さんを見捨てたりはしないはずだ。

 私は信じてる。だって、お友達だもん。

 きっと、自分の命を懸けて、助けてくれるはずだ。


 魔鹿さんのことはマスターさんに任せて、私はたくさんのゴーレムさんたちと向かい合う。そして、『神聖魔法』を使い、大量の結界を構築して、ゴーレムさんたちに対抗する。

 ついでに、近くで逃げ回っていたマスターさんのお友達も結界の内に避難させておく。これで、マスターさんも安心するだろう。


 大丈夫、私が何もかも守るから。

 きっと今度こそ、守って見せるから。


 私は聖女神リクシルさまの御威光を思い浮かべ、みんなの安全を願い続ける。

 聖女神さまは常々、魔物を悪だと言っていたけれど、ここにいる魔物さんたちは私の大切なお友達なの。いざとなれば、命を懸けて私を守ってくれるような、そんな優しいお友達。その心はきっと、人間と変わらない。

 だから、助けてほしい。


『神聖魔法』は心の魔法。そして、神の奇跡は強い信心から生まれる。

 だから、『神聖魔法』を使う時は、一心に祈り続けるんだ。

 それが私の心を守り、それが守りの力を強くする。

 その時、聖女たる私は何処までも強くなれるのだ。


 そう、そのはずだったのに。

 でも、結界はまた壊され、気が付けば、私の世界は暗転していた。



 暗い闇が広がる。

 その先で私は過去を思い出していた。



 私はいつも独り。

 私の持つ聖女としての守りの力はとても強いものだった。だからこそ、いつだってその力に相応しい場所へと向かう。相応しい、戦場へ。


 そこで私は多くの人たちを守った。守ろうとした。

 でも、いつだってうまくいかない。せっかく守っても、守っても、何処かから必ず零れ落ちていく。

 私の結界の内に居れば、絶対に大丈夫なはずだったのに。みんなが、私の代わりに強敵へと挑んでは死んでいく。私が戦えないばっかりに、大切な私の事を守ると言って。


 何度も何度もそう言うことがあったから、私は次第にそういうものなんだと思うようになっていった。ううん、思い込むようにしたんだ。そうすれば、心をそうそうに切り替えられる。

 だって、仕方がないでしょう?

 大切な人を守るためには、命を懸けなきゃいけないんだから。命は無くなってしまったけれど、守りきったというのなら、それはきっと成功で、それはきっと正解で、それはきっと正しい行いだったのだ。


 だから、私もいつだって、命を守る時は命を懸けていた。多くの人々を守るために、お友達を守るために。全てを振り絞って、力を使った。

 なのに、何故か私は死なず、私の周りの人たちばかりが死んでいく。


 そうしてまた、私は独り、生き残る。



 音が聞こえる。

 巨大な何かが動く音。



 目が覚めると、そこは森の中だった。ただし、周囲の木々は倒れ、地面には大きな穴が空いている。その穴の中心に、私は倒れていた。

 ぼやける頭を振って何とか直前の記憶を思い起こすと、私はあの小さなゴーレムさんに殴られて、思い切り吹き飛ばされてしまったらしい。


 ああ、まただ。私の周りにはまた、誰もいない。みんなまた、死んじゃったのかな。

 違う、変な夢を見たせいで、記憶が混濁してるんだ。

 みんなは結界の中に避難させてある。あの小さなゴーレムさんは結界を破ったけど、他のゴーレムさんは結界を破れないみたいだった。あの小さなゴーレムさんは、綺麗な角の魔鹿さんを狙ってるみたいだったから、きっと大丈夫。


 私はその場に立ち上がる。身体の何処にも痛みは無い。また、聖女神様の守護が働いたんだ。私はそれを確かめると、歩き始めた。

 未だ森に響く音のする方向へ向けて。



 森を抜けて、踏み荒らされた荒野を辿り、私はダンジョンの入り口まで戻ってきた。

 そこには私が助けようとした魔鹿さんの姿がある。でも、私のお友達の姿は何処にもない。


 ――帰ってきたか


 その時、いつものマスターさんの声が何処からか聞こえてきた。心に直接語り掛けてくるような、マスターさん独特の声。前から思っていたことだけど、神託を受ける時に聞く聖女神さまの声と少し似ている。

 周囲を見回すと、マスターさんのお友達の姿を見つけた。

 今回は、あの子かな?


「ねえ、マスターさん。私のお友達は何処?」


 ――全て死んだ

 ――ミクスギガントゴーレムに殺された


「そう、そっか」


 ああ、そうなの。残念なことだけど、きっとみんなは魔鹿さんを守って死んだんだ。なら、これは悲しむ事じゃない。だって、やっぱり魔物さんたちも人間と同じなんだって、誰かを思う優しい心を持ってるんだって、分かったんだから。


「良かった」


 そう呟くと、またマスターさんの声が聞こえてくる。


 ――良かった?

 ――悲しくは無いのか?


「ううん、悲しいよ。大切なお友達が死んじゃったんだから。でも、みんなはお友達を守るために死んだんだ。生きている以上、人も魔物もいつかは死ぬよ。だから、誰かを守って死ぬことが出来たなら、それはきっと幸せなことだよ。そうだ、マスターさんも魔鹿さんを守ってくれたんだよね? ありがとう、マスターさん」


 ――守った?


「ダンジョンに逃がした魔鹿さんが無事だってことは、守ってくれたんでしょ。私は信じてたよ。マスターさんに任せれば、命がけで守ってくれるって。だから私はあの時、ダンジョンに魔鹿さんを逃がしたんだから」


 ――そうか


 それを聞いた瞬間、冷たいものが背筋を伝う。思わず周囲へ障壁を構築してしまったけれど、周りに危険は無い。

 あんなことがあった後だし、敏感になっているのかな?




 そんなことがあってから数日後、なんと私を森まで護衛してくれた聖騎士さまたちが、ここまでやってきてくれた。

 聖騎士さまたちが言うには、大きなゴーレムさんの姿を見て森の異常事態を感じ、決死の覚悟で私を助けに来てくれたみたい。


 聖騎士さまたちにお礼を言って、私は無事を伝える。それから、ここでお友達になった魔物さんたちのことを紹介しようと思ったんだけど、みんな、恥ずかしがっているのか、出てきてくれない。


 仕方がないから、それは後回しにして、私はマスターさんと今後の事をお話しすることにした。

 色々あり過ぎたから、私は一度、帰って聖女神さまに報告した方がいいだろう。

 そう、聖騎士さまたちに説得されたのだ。


 マスターさんのお友達を探してダンジョン内に入ると、そこにゴブリンが一人いた。それはマスターさんのお友達の一人で、私とも特に仲良くしてくれているチメちゃんだ。


 それにしても、チメちゃんも含めて、マスターさんのお友達のゴブリンさんたちは、他で見たゴブリンさんたちとかなり違う。他で見たゴブリンさんたちはもっと、その、汚れていて、怖い顔をしていることが多いのに、マスターさんのお友達のゴブリンさんたちは、綺麗好きで、何処か愛くるしい姿をしている。


 チメちゃんとも言葉は通じないけれど、それでも長く一緒にいるせいか、心は通じ合えていた。いつものようにキャッキャと喜び合う私とチメちゃん。

 暫くそうして居た後に、私はチメちゃんに向けて話しかけた。


「マスターさん。私、一度帰らなくちゃいけなくなっちゃったの」


 ――帰る?


「うん、聖騎士さまたちがね。一度、聖女神リクシルさまへ報告に戻った方がいいって」


 ――我を守ってくれるのではなかったのか?


「それは大丈夫。聖騎士さまたちが残ってくれることになったから。それに、私もしっかり結界を構築しておくよ。結界に加えて聖騎士さまたちがいれば、魔王が襲い掛かってきても、きっと追い返してくれる」


 ――本当に大丈夫なのか?

 ――ミーシェ以外の人間は魔物を嫌っているのだろう?


「大丈夫だよ。ここの魔物さんたちは安全だって伝えてあるから」


 ――だが、人間は恐ろしいものだろう


「人間は怖いものじゃないよ。マスターさんは人間をよく知らないと思うけど、人間はマスターさんが想像しているよりも、ずっと優しいんだから」


 ――そうか、わかった

 ――それでいいのだな?


「? うん、いいよ。それでね、マスターさんの持っている剣の事なんだけど……」


 ――ああ、あの剣も持っていくがよかろう


「え、いいの?」


 ――構わない

 ――今、そちらに届ける故、少し待っていてくれ


 ――そうだ、その間に致命と別れの挨拶を済ませておくといい


「うん、そうだね」


 今度は向かい合うチメちゃん本人に、話しかける。


「チメちゃん、暫くお別れだよ。元気でね」


 そう言って、チメちゃんの身体をぎゅっと抱きしめる。温かなチメちゃんの感触とそれに混じる硬い金具の感触。


 次の瞬間、私はお腹に鋭い熱を感じた。


 視線を下に落とせば、太い太い何かが私の身体に入り込んでいる。気が付けば、チメちゃんの手には刃渡りのある鋭いナイフが握られていて、それは私のお腹に深々と突き刺さっていた。


 かき回される、引き千切られる。


 チメちゃんの身体は、私よりもさらに一回り小さいくらいなのに、その力強さはまるで戦士のそれ。


 いつものチメちゃんとは違う何かがそこにいた。

 笑顔は無く、無機質に動くチメちゃん。

 あの優しいチメちゃんはどこ?


『神聖魔法』による回復が間に合わない。暗転する私の視界。


「え、なんで――」


 血が溢れる口から、そんな言葉が零れ落ちる。




 ――なんで、か


 暗闇の中で声が聞こえた。マスターさんの心に響く声だ。


 ――やはり、我は人間を信用できない


 それは、マスターさんが、人間のことを良く、知らないから


 ――我は人間をよく知っている

 ――なにせ、我自身が魔物に転生する前は、人間だったのだからな


 そうなの?

 それなら、なおさら、人間は味方だよ。

 信じて、ほしい。


 ――無理だ

 ――現にお前の仲間の聖騎士たちは、今も我を殺す方法を話し合っている


 それでも、信じてほしい。きっと、私が説得するから。

 大丈夫、マスターさんの優しさは私が一番よく分かってる。

 だって、マスターさんはあの時、魔鹿さんを命がけで助けてくれたんだから。


 ――命がけで、助けただと?


 声の雰囲気が変わる。


 ――私はそんなことを望んではいなかった

 ――お前が、私にそれを強制したのだろう


 で、でも、お友達なら、助け合うべきでしょう?

 大切な人を、助けるためなら、命を懸けるべきでしょう?


 ――それはお前の価値観だ


 ――別に私は、命を懸けて誰かを助けようとする行為を否定はしないさ

 ――それは確かに尊い行為だろう

 ――それを自ら行う者は、英雄と尊敬されるべき存在だ


 なら。


 ――だが、他の誰かにまで強要するのなら、それはもう全く違うものとなる

 ――他者を死地へと送り出すその行為は、もはやその者への攻撃だ


 ――私だって、命が懸かっていなければ、可能な限りは助けよう

 ――多少の不利益を被ろうが、助けを求められれば救いたいと思うさ

 ――だが、それは私の命が懸かっていなければの話だ


 ――私は英雄では無いし、英雄になる気も無い

 ――その行為を尊ぶし、尊敬もするが、私がそうなりたいとは思わない


 ――私はただ、生きたいだけ

 ――私はただ、死にたくないだけだ


 ――あの時、お前が敵として私を利用したならば、それも致し方ないと割り切っただろう

 ――敵意を持ってそれを行ったなら、それは当然のことだからな


 ――だが、お前は味方として、私を死地に追い込んだ

 ――私に、善意で命を投げ出せとお前は言った

 ――私はそれが許せない


 ――お前の汚らしい価値観を私にまで押し付けるな

 ――この狂人がっ!


 激しい怒りが、どす黒い憎悪が、刺し貫く嫌悪が、その言葉に乗って、私を切り裂いていく。意味は分からず、でも、そこへ渦巻く感情は苦しい程に感じられる。

 私の意識を塗り潰すほどの負の感情の嵐。否応も無く、私の意識はそこで断たれる。



 そして、これより先、ミーシェの意識が戻ることは永遠に無かった。







これで第五章は終了です。


もしかしたら、思いついた時に閑話を投稿するかもしれませんが、一先ず、書きたいところまでは書いたので、また構想がまとまるまで、不滅のダンジョンマスターの更新は暫くお休みさせてもらうことになると思います。


展開を考えている時は、アイデアが出てこず辛い時もありますが、こうやって話を書いている時はとても楽しいです。気が付けば、話数も200話を超えており、なかなかの長編となってきました。

ここまでお付き合いいただきまして、誠にありがとうございます。

感想、評価、誤字修正など、いつも大変感謝しております。

楽しんでくださった方、宜しければ第六章まで気長にお待ちください。


やみあるい



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― 新着の感想 ―
面白かったです。 しかし聖女様はかわいそうで悲しいです。こうなったらアンデッドになって仲間になってくれたらなどと思ってしまいました
ありがとうございます。おもしろかったです。次の章も楽しみにしています。
今回の章も非常に楽しめました! 気長にまた更新を楽しみにしてまってます!
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