16.もう一度
あらすじ
ダンジョンの封印か解除されたことにより男の世界は様変わりしたが変わらぬこともある。
それは男はずっと続けていた日課の特訓だ。
磨き上げた魔力感知によりダンジョンの外の景色を知覚しながら、男はこれまでの特訓の日々を思い返す。
最初はほとんど何も感じることができなかったが、根気強く特訓を続けることで、
男は魔力というものがどういうものなのかを知っていく。
そして現在、外を知覚できるようになったことで、男は昼夜の感覚を知り、時間の流れを知覚するに至った。
さらにその結果、男は今まで知らなかったスキルの効果や新たな使い方を知ることとなる。
男は人知れず、自己鍛錬を続けていた。
あれから六十六日が過ぎて、DPがついに5000を越えた。
ちなみに、ダンジョンの外へは常に注意を払っているが、今のところ侵入者はおろか魔物や人間、動物すら発見出来てはいない。感知出来る範囲の景色にも変化は無い。
これはここがよほどの僻地なのか、あるいはこの周辺には毒でも垂れ流されているのか。
まあなんにせよ、平和なのはいいことだ。
さて、現在の私のステータスだが。
名前:――――
種族:ダンジョンコア
年齢:10
カルマ:+7
ダンジョンLV:1
DP:5007
マスター:無し
ダンジョン名:名も無き洞窟
スキル:『不老』『精神的苦痛耐性LV7』『空想空間LV6』『信仰LV5』『地脈親和性LV3』『気配察知LV3』『魔力感知LV5』
称号:【異世界転生者】【□□□□神の加護】【時の呪縛より逃れしモノ】【聖邪の核】【鼠の楽園】【惨劇の跡地】【G級ダンジョン】
特訓はこれまで通り続けているが、今のところスキルのレベルに変動は見られない。しかし、実際の使用感的には少しずつ向上が感じられるものもある。
『魔力感知』と『空想空間』の連携は最初よりスムーズにいくようになった。実用性という段階にはまだ当分到達できそうにないが、先を感じさせる成長具合だ。
対して『気配察知』の方はスキルレベル同様にあまり進展はしていない。相変わらず、ダンジョンの外に植物らしき無数の気配を感じるだけだ。
『気配察知』の効率的な特訓には、習得した時のように自らの意思を持ち、動き回る相手が必要なのだろう。
そこでDPも5000を越えたことだし、この機会にもう一度、魔物の召喚を行ってみようと思う。
召喚の対象は、新しく魔物図鑑に増えていたブラックラット。
召喚に必要なDPは1500DP。以前と比べて一日の増加量が上がったとはいえ、かなりのお値段だ。
今回は一匹だけの召喚にする。DPの懐事情もあるが、命令次第で回避出来るとはいえまた増えすぎることに不安があったからだ。それに、今は以前と違って外との繋がりもある。閉ざされた真っ暗な洞窟というわけでは無いので退屈はしないだろう。
まあその辺りは完全に私の想像に過ぎないが。
メニューから魔物図鑑を開く。
ベビーラット 10DP
ケーブラット 100DP
ブラックラット 1500DP
スケルトンラット 300DP
表示されたラット種の中から、一番高値であるブラックラットを選び、召喚を実行する。
〈ダンジョン内にブラックラットLV1を召喚しました〉
メッセージが表示され、『魔力感知』と『気配察知』に新たなる反応が生まれた。そして、懐かしい繋がりが新たなる反応との間に作られる。ブラックラットとの絆だ。
これでマップには青い点が一つ表示されていることだろう。
早速召喚したブラックラットのステータスを確認する。
名前:――――
種族:ブラックラット ランク:E
年齢:0
カルマ:±0
LV:1/25
スキル:『夜目LV1』『隠伏LV1』
称号:【――――の眷属】
ランクはケーブラットより一つ上のEランク。レベル上限は25。後はスキルの構成が少し違う。『夜目』は変わらずにあるが、『早熟』と『繁殖』が無い代わりに『隠伏』というスキルが存在している。
『隠伏』。言葉からして、隠れ伏すようなスキルだろうか?
どうやらケーブラットとブラックラットは、同じラット系と言ってもかなり違うようだ。
『繁殖』が無いということは、ケーブラットのように増えることは無いのだろうか?
まあどちらにしても、今回はもう一匹増やすつもりは無いのだ。
名前は……まだいいか。
それよりも命令を行ってみる。
――私の周りを回れ
絆を通じて、召喚したブラックラットに命令を送る。
さて、この命令の場合、ブラックラットはどう行動するのだろうか?
これはブラックラットが命令を送っている私をどう認識しているかの確認も含んでいる。
『魔力感知』と『気配察知』に意識を集中。さらに私は、念の為にマップを開いての確認もする。
ブラックラットは少し迷うように彷徨いた後、ダンジョンコアの周りを回りだした。
ふむ、なるほど?
ダンジョンの周りを回らないのは、ダンジョン自体を私と認識しなかったのか、それともダンジョンの外に出ることを躊躇ったのか。
この答えに大した意味がある訳では無い。ちょっとした好奇心にすぎないのだから、今はこのまま先へ進もう。
――ダンジョンの外へ出て草を摘んでから、ダンジョンに戻ってこい
命令を伝えるとブラックラットは、ダンジョンの外へ出て行った。
ダンジョンの外へ出ていくことは出来るようだ。
外へ出て行ったブラックラットとの絆は……少し薄れたがまだ繋がっている。
この状態でも命令は届くのだろうか?
――木の枝も一緒に持ってこい
追加の命令を送ってから暫くして、ブラックラットがダンジョンに戻ってきた。
魔物はダンジョンから出て行っても戻ってくる、と。
あとは命令していない状態で出て行くことはあるのか、出て行ったら戻ってくるのかもいずれ確かめたいな。
さて、ブラックラットは何かを持ち帰ってきたようだ。マップには映っていないが、『魔力感知』を使うとブラックラットの近くに小さく別の何かの魔力を感じる。それはダンジョンの外にある魔力と同じものだった。たぶん、草、なんだろう。草だよな? 小さすぎて判別が難しい。ただ、地面の魔力から生える低めの魔力と同じ性質なので、恐らくそうだろう。
他には何もない。ブラックラットも動かない。もしかしたら、飼い猫のように持ってきた草を私へ向けて誇らしげに見せびらかしているのかもしれないが。
とにかく他には何も持ってきてはいない。
木の枝は持ってこなかったようだ。二つ目の命令は届かなかったのか。
――ありがとう、もう自由にしていてくれ
最後に感謝を込めてそう伝えた。
するとブラックラットはダンジョンの一角に歩いていき、そこで立ち止まり動かなくなった。眠っているという訳では無いようだが……何をしているのだろう?
ブラックラットに意識を集中して気が付いた。『気配察知』からブラックラットの気配が消えている。『魔力感知』からも感じる魔力が薄くなっている。
もしやこれはブラックラットのスキル『隠伏』だろうか?
レベル1でも私の『気配察知』では感じられないくらい気配は無くなり、『魔力感知』でもそこにいると分かっていなければ周囲の魔力と同調していて見分けがつかない。これは一度『隠伏』を発動されたら見つけ出すのは難しいだろう。
身体がどんな感じなのかは分からないが、魔力を見る限りはそれほど大きな個体ではなさそうだし、ブラックという名がついているくらいだから、きっと体色は黒なんじゃないか。『隠伏』に加えて夜の闇に紛れたなら発見は困難を極めるだろう。
これだけ隠れるのが上手ならば、ダンジョンの外の偵察を任せられるかもしれない。
ダンジョンの側なら『魔力感知』で何とか分かるが、さらにその外については全く情報がない。たとえ今まで外敵が現れなかったとしても警戒は必要だ。平和な前生の世界でさえ、危険はどこにでも潜んでいたのだから。
今よりも遠くまで情報を探るには、ダンジョン周辺を探索できる手足が必要だ。ブラックラットはまさにその役にうってつけだろう。
ただそのためには、しっかりとした意思の疎通が必要である。こちらからの命令は伝えられても、あちらからの報告が分からなければ偵察の意味がない。
以前、魔力に感情が乗ることはあったが、あれで伝わったのは強く単純な感情だけだった。きっと魔力から伝わる感情は強い単純な感情だけなのだろう。その証拠にブラックラットの魔力からは感情を感じられない。
『魔力感知』のスキルレベルが上がったり扱いが熟達してくればもう少し細かく分かるのかもしれないが、それでも報告へ活用するには不便が多い。
では、どうすればいいのか?
ここで私は異世界系の小説に出てくる定番のスキルを思い浮かべた。ジャンル違いでは超能力にもある思ったことを直接伝えあう能力、テレパシー、もしくは念話と呼ばれる力だ。
これの習得方法は実のところ薄々見当がついている。私は既にこれと似たようなことを行っているのだ。そう、絆を通した命令である。
一方通行ではあるがこれ、念話じゃないのか?
少なくとも行っていることは念話そのものである。ではなぜ、スキルに存在しないのか?
それを考えてみれば、他にもスキルに存在しない能力がある。
当たり前のように使っていたのであまり考えたりはしなかったが、魔物の召喚やマップ、ステータスの閲覧などもスキルではない。そこから考えられる可能性は、それらと同じ様に絆を使った念話もダンジョン機能の一部であるということ。
だとすると、これを使い続けるだけで果たしてスキルは覚えられるのだろうか?
だがこの命令は、絆や称号とも関連性がある。目に見えない“絆“と名付けた繋がり、そして【――――の眷属】の称号。この称号が無いダンジョン内で産まれたラット達には、絆が繋がらず命令は送れなかった。この称号と絆に関連があるのは明白だ。
いずれにせよ、念話の特訓はただ使い続ける以外にも工夫が必要だろう。
ああ、また日課が増えそうだ。
私は増えた無数の可能性に、人知れず心を躍らせていた。
〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『気配察知』のレベルが3から4へ上がりました〉
〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『気配察知』のレベルが4から5へ上がりました〉
〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『伝心LV1』を獲得しました〉
〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『伝心』のレベルが1から2へ上がりました〉
〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『伝心』のレベルが2から3へ上がりました〉




