エピローグ.魔王の謀
今回のエピローグは三つに分かれています。
本日、一気に投稿しますので、お気をつけください。
エピローグその一。
あらすじ
私は第五階層の追加で取り戻したダンジョンコアの本来の機能の一つ、環境変更を第四階層に使うことを決めた。変更先の環境は森だ。それを行った瞬間、第四階層に森を示す濃密な魔力が溢れ、第四階層はあっという間に柔らかい土と木々や草葉の生い茂る森へと変わった。
さらにその副産物として、第四階層にあった魔力供給路の歪みまで修正されている。
理由も無く予期していたそれが現実になったことで、複雑な感情を抱きつつも私はその結果を歓迎した。しかし、こんな幸運がこれから先もずっと続くはずはない。私はそう思い直すと、気持ちを引き締め直すのだった。
この危険に満ちた世界で、敵に満ちた世界で、私が生き続けるために。
ここは人間たちが魔の領域と称する魔物たちの支配する地。その一角に位置する魔王レティシアの支配領域たる新生エルロンド王国の中枢、魔王城の会議室にて。質実剛健に設えられたそこには現在、魔王レティシアに仕える最古参の配下たち、十二貴族が一堂に会していた。
元は冒険王国にてレティシアに仕える侍女であり、現エルロンド王国宰相メルガノ。
元は冒険王国に仕える兵士にして、現エルロンド王国将軍ロノヴァン。
元は冒険王国の冒険者にして、現エルロンド王国探索者協会長ガルグン。
元は冒険王国の冒険者にして、現エルロンド王国警団長ミーヴェ。
元は冒険王国の木こりにして、現エルロンド王国土木建築協会長ハノウェ。
元は冒険王国の農家にして、現エルロンド王国農耕部門長ハーベス。
元は冒険王国の教師にして、現エルロンド王国教育部門長アグス。
元は冒険王国の狩人にして、現エルロンド王国狩猟協会長トルカン。
元は冒険王国の薬師にして、現エルロンド王国薬師協会長カウ。
元は冒険王国の神官にして、現エルロンド王国大神殿長ムルー。
元は冒険王国で王家に仕える影にして、現エルロンド王国暗部統括ミム。
元は冒険王国で酒場の給仕にして、現エルロンド王国闘技会責任者ヒルダ。
十二貴族たちは、それぞれがそれぞれの領地を経営しながら、同時にこの国で肩書に則った役割も担っている。つまり、現在この部屋には、新生エルロンド王国を代表する者たちが揃っていた。
しかし、各々の振る舞いはその出自の多様さと同様に十人十色。静かに己の席へ座り、目を瞑ってその時を待っている者もいれば、隣り合う者と談笑を行う者、部屋の隅で鍛錬に励む者、机に突っ伏し、居眠りをする者など様々だ。
しかし、そんな混沌とした状況は、会議室の扉が開いた瞬間に静まった。
扉の先にいるのは、ともすれば少女と見紛うような容姿のドレスを纏った女性。ただし、その内に秘めたる力は、ここにいる誰よりも強い。
魔王レティシア。それが、女性の名だった。
レティシアが部屋の中を横切り、自らの席に座ると、それまであちこちに散らばっていた十二貴族たちも足早に己の席へと戻っていく。そんな中でただ一人、メルガノのみが魔王レティシアの隣に立つ。そこが彼女の定位置だからだ。
「待たせたな。では、始めよう。メルガノよ」
魔王レティシアが隣に立つメルガノへと視線を向けると、メルガノはその場で深く一礼し、口を開く。
「畏まりました。それではこれより、定例会議を始めます。まずは冒険王国跡地の防衛任務に就いておられますロノヴァン様、報告をお願いします」
「はっ。それでは、報告させていただきますっ」
メルガノの言葉に促され、十二貴族ロノヴァンがその場に立ちあがる。そうして、ピンッと背筋を伸ばすと、明瞭な声で報告を始めた。
「
冒険王国跡地にて建設途中の砦は、幾度か領域教会の聖騎士共に妨害を受けましたが、先日、無事に建築を完了致しました。その為、現在はハノウェ殿と協議しつつ、街の建設作業に移行しております。同時に住民たちの移住も順次進めておりますが、現在の進行速度ですとレティシア様の広げられた支配領域を安定させ、完全なものとするまではあと三年ほど掛かる見通しです
」
「そうか。すまんな、ロノヴァン。我がもう一度、あちらに向かうことが出来れば、ことはもっと早く済ませられるのだが」
ロノヴァンの報告を受け、悲し気に謝るレティシア。その視線がチラリと、隣へ立つメルガノに向く。すると、それを察してか、メルガノが口を挟む。
「
レティシア様は勇王国攻めの際に長くこの地を離れておられましたから、本拠地の支配領域安定の為にも、暫くの間はこの地に留まって頂かなくては。それに各地へ睨みを利かせるという意味でも、あまりこの地を離れることは危険です。この地を狙っている敵は、何も人間たちだけでは無いのですから
」
「む。わ、分かっている。もう暫くは、この地で待つ」
「それはよろしゅうございました。では、ロノヴァン様、報告の続きをお願いします」
メルガノの忠言に、レティシアは少し不満をにじませつつも、不承不承というように頷く。すると、それで満足したのか、メルガノはロノヴァンに話の続きを促した。
「
はっ。では次に、領域教会の聖騎士たちの動向について報告させて頂きましょう。砦が出来た事で回数こそ減りましたが、領域教会の聖騎士たちは、未だ冒険王国跡地への侵入を繰り返しています。その度に、戦闘も幾度か起きていました。ただ、聖騎士側には今のところ、本格的な戦闘を行う気は無いようで、少し戦うとすぐ逃げていきます。その為、現状で戦闘は小競り合い以上には至っておりません。ですから、こちらもそのように対応しております。尚、聖騎士たちの目的についてですが、以前、レティシア様から頂いた情報を基にカマを掛けてみましたところ、その様子からして例の聖剣を探しているということで、間違いないでしょう。どうやら、領域教会側は冒険王国の跡地に聖剣があると踏んでいるようです
」
「なるほどな。やはり、あちらも位置までは捕捉出来ぬか。今はまだ、あのダンジョンに向かわれても困るからな。ロノヴァンは引き続き、奴らの注意を引き続けてくれ」
「はっ。承知いたしました。私からの報告は以上です」
「報告ありがとうございました」
メルガノの言葉を受けて、ロノヴァンは己の席に座る。
「では次に、最近の探索者たちの状況と新たに見つかったダンジョンの状況について。ガルグン様、報告をお願いします」
「おうよっ」
メルガノの言葉に促され、次は十二貴族ガルグンがその場に立ち上がった。そうしてボリボリと頭を掻きつつ、手元の紙を荒々しい声で読み上げていく。
「
あー。細かい数字は省くが、新たに見つかったダンジョン、病魔の森のダンジョンの探索を始めてから、特に下級探索者たちの成長が著しいな。やっぱ、ダンジョンでの戦闘は一味違うわ。同じような魔物をヤッていても、野生の魔物より何倍も効率がいい。まあ、今まではこの辺りのダンジョンっつーと、暴虐の夢だけだったからな。あそこは第一階層からなかなか歯ごたえがありやがる。とてもじゃねえが、下級探索者たちには薦められねえ。そういう意味じゃ、病魔の森のダンジョンは下級探索者たちの育成に丁度いい強さだぜ。あとはもうちっと近ければ、文句なしだな。っつーわけで、それに関しても探索者協会で色々と考えてるとこだ。本当なら病魔の森の中を開拓して、拠点を作るのが一番効率がいいんだが――それはダメなんだよな?
」
「ああ、病魔の森に直接の手出しはしない。今のところはな」
視線を向けてきたガルグンへ、レティシアが断言する。
「
そんなわけで、今はハノウェと協力して、病魔の森近くへ拠点を作る計画を立ててる最中だ。これがうまくいきゃ、今よりもっと多くの探索者たちの成長が加速するはずだぜ。ああ、拠点の建築計画に関しては、ハノウェに丸投げしてるから、そっちに聞いてくれ。俺に聞かれても、わからんっ!
」
「はあ。病魔の森付近への拠点建設については、計画がまとまり次第、こちらから書類で提出いたします」
満面の笑顔で告げるガルグンを半眼で睨みつつ、ハノウェが捕捉を加えた。
「
っと、それからダンジョンの方だが、それ専用に向かわせた探索者たちからの報告によると、ここ数年で成長の跡がみられるって話だ。前よりも階層が広がって、敵や罠の種類も増えたらしい。それに加えて、あそこのマスターの配下らしき魔物の気配も幾度か確認してる。どうやら、少しずつ手駒を増やしてるようだな。ただ、現在の最深階層は恐らく六階から七階程度だ。あんまり奥まで進み過ぎると、マスターが牙をむくってんで、直に確認したやつはいないが、その手の研究している奴らの話だから、割と確かだと思うぜ。まあ、少なくともダンジョンの形態と難易度から考えて、まだ十階層に到達していないことだけは確実だな
」
「想定しているよりも、少し遅れ気味だな」
「ああ。だから、もうちっと急がせるためにも、これからは少し強めの探索者を送り込んで、危機感を煽って成長を促すつもりだ。今はその送り込む探索者の選別をしてるところだな」
「頼むぞ、ガルグン」
「おうよ。俺からの報告はこれで終わりだ」
「報告ありがとうございました」
メルガノの言葉を受けて、ガルグンも己の席に座る。
すると、それを待ってレティシアがその場に立ち上がった。
「皆よ。宿敵たる勇王国は滅ぼせたが、我らの敵はそれだけではない。我らを裏切り、勇者共の裏で我らから祖国を奪うよう策略を企てた領域教会には、相応の代償を払ってもらわねばならん。だが、それを成すためには、まだ我らには戦力が足りていない。そのためにも、あのダンジョンには限界まで成長して貰う必要がある。探索者全体の力の底上げだけでなく、我の力をもう一段階上に高めるためにもな」
ぐるりとこの会議室に集まる面々に視線を向けたレティシアは、一息置くとそれを口にする。
「全ては領域教会を滅ぼすために」
憎悪の滲むレティシアの言葉を受けて、会議へ参加していた全員がほの暗い憎悪をその瞳に宿した。




