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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
第四章 迷宮再始動の章

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117.対岸の攻防

あらすじ


そこにあった金属の混じる強固で巨大な壁は、尋常ならざる力で吹き飛ばされ、切り裂かれ、叩き潰されていた。黒牙は壁に空いた穴からその内側へと入っていく。

破壊された町並みに、どこか懐かしいものを感じつつ、私はその痕跡から在りし日の勇者のことを想像し、この地が目的の勇王国王都であると確信を深めていった。

そんな中、黒牙は地面に空いた暗い穴の底へと入っていく。汚水に塗れたそこは、勇王国の下水道であり、また私というダンジョンコアの核となった魔鼠の大魔王の生まれた地でもあった。







 地下に続く水路の隣に作られた細い道を黒牙はゆったりと歩いている。その歩みは慎重というには何処か余裕に満ちており、心なしか先ほどまでと比べ、周囲を観察する時間も長い気がする。何か、気になることでもあるのだろうか? 周囲の景色には特に変わったところは無く、私には同じような水路がずっと続いているだけに思えるのだけれど。

 そう言えば、黒牙は以前、一時的に大魔王の残滓をその身に宿していたことがあった。その時の残滓は力を使い果たしたことで消えてしまったが、大魔王の力の一端は今も黒牙の身に残っている。もしかして、その時に記憶の断片でも受け継いだりしたのだろうか? だとすれば、この場に何かしらの感情を抱いていたとしても不思議ではない。

 まあ、細かな探索の予定は黒牙に一任しているから、何処を探索しようとも黒牙の自由なのだけど。


 そこからも黒牙は地下の水路脇の細い道を暫く歩き続けて、最後に行き着いたのは巨大な部屋だった。部屋の中央では流れ込んできた汚水が渦を巻いている。水底にある何かしらの装置が汚水を吸い込んでいるようだ。汚水といえども、今はそれほど濁っている訳ではない。多分、人が街から消えた影響で、汚れた水が流れてこなくなったのだろう。そのお陰で、水底の装置に描かれた魔法陣が辛うじて見えた。あれは魔道具、だろうか? 排水の為の魔道具? それとも、汚水を浄化しているのか? 私の魔法陣に関する知識では、そこに込められた力までは分からないな。

 黒牙はその部屋を確認するとその場で踵を返し、足早に来た道を戻り始めた。

 結局、何だったんだろう?



 暫くして入ってきた穴から抜け出した黒牙は、唐突に一点へと視線を向けた。

 なんだろうか? 少なくとも私から見て、黒牙の視界には特に変わったところは無い。先ほどまでと同じ、ただ瓦礫と崩れかけた建物が見えるだけだ。

 そうして暫くじっと一点を見つめることに集中していた黒牙は、やがて瓦礫で出来た影を伝うようにして歩き出した。目指す先は、じっと見続けていた方角。どうやらそちらから何かを感じ取ったようだ。そのまま影の中を進み続け、やがて、黒牙の視界が何かを捉えた。

 少し離れて黒牙の視界に映るのは、先ほどまで黒牙が見て回っていた城跡だ。そこで、純白の鎧を着こんだ数人の人間たちが、瓦礫の山を片づけていた。

 冷たい予感がゾワリと過ぎる。まさか、勇王国の生き残りだろうか?

 人数は黒牙の視界に収まっている範囲で、恐らく騎士であろう者たちが六人。あれだけの数が生き残ったのか。それとも、何処か別の国からやってきた者たちなのか。

 以前、ダンジョンへ攻め込んできた騎士たちの鎧と比べてみたが、似ているような、似ていないような。この視界だけでは、いまいちわからない。もう少し近づいてくれれば、もっと何かしら分かったかもしれないのだが。いや、黒牙に与えた任務を考えれば、この距離が妥当か。黒牙が騎士たちに気付かれて、厄介なことになるよりはずっといい。


 ふむ。どうやら騎士たちは、何かを探しているようだ。先ほどからずっと、二人が周囲を警戒している間、残る四人で瓦礫を退かし続けている。場所が場所だけにかなり警戒しているようだが、幸いなことに距離が離れているからか、それとも黒牙がうまく気配を隠しているためか、今のところ騎士たちがこちらに気づいている様子は無い。

 しかし、あの騎士たちはいったい何を探しているのだろう?

 その必死そうな姿が、私に嫌な予感を与えてくる。今のところ、特に思い当たることは無いのだが、胸騒ぎというやつだろうか。まあ、今の私に胸なんて無いのだけれど。



 黒牙は騎士たちから遠く離れた位置で、じっと騎士たちの姿を視界に収め続けている。どうやら黒牙は暫くこの場に腰を据えて、騎士たちの動向を観察することにしたらしい。この距離と黒牙の隠密スキルがあれば、よっぽどのことが無い限り、騎士たちに見つかることは無いだろう。私も騎士たちの動向には興味があったから、この黒牙の判断には称賛を送りたい。

 さすがは黒牙だ。意思疎通の手段が無いこの状況下でも、私の意向を的確に汲んでくれた。そうして黒牙が観察している間にも、騎士たちは交代で瓦礫の撤去を進めている。

 それからどれだけの時間が経った頃だろうか。その場からまったく動くことなく、ずっとその光景を見続けていた黒牙の視界が、ふと、揺れた。騎士たちから大分離れた位置に、何かの気配を感じたらしい。

 そうして黒牙の視界が新たに収めたのは、この地域に似つかわしくない魔物たちの姿。爬虫類を想起させる鱗に覆われた人型の身体、太い尻尾に鋭い爪と鋭利な歯が並ぶ口元。あれはもしかして、リザードマンではないだろうか? リザードマンと言えば、随分前に病魔の森へやってきたリザードマンの行商人がいた。黒牙の視界に映るその姿は、あの時に配下たちから伝え聞いた特徴と一致する。

 リザードマンたちは三体で、それぞれが重厚な鎧を身に纏い、騎士たちのいる場所へと向かっていた。その姿からして、まず間違いなくその辺りをうろつく野生の魔物たちでは無いだろう。確か、以前に出会ったリザードマンは魔王レティシアの治める新生冒険王国エルロンドの住民という話だった。この場所の経緯も考えれば、この三体のリザードマンたちもまた、魔王レティシアと関係があると考えるべきだろう。進む方向から考えて、このリザードマンたちはあの騎士たちを狙っているのだろうか?

 お、騎士たちも近づいてくるリザードマンたちの気配に気が付いたようだ。瓦礫を動かす手を止めて、リザードマンたちのいる方向を警戒している。

 リザードマンたちは騎士たちのいる場所に向けて歩き続け、ついにその距離は互いの視線が重なり合う程に近づき、そうして最初に仕掛けたのは人間の騎士たちだった。

 騎士たちの身体が淡く光る。そうして次の瞬間、人間たちの中から三人の騎士が剣を抜き、盾を構えてリザードマンたちに向けて、襲い掛かった。一方で三体のリザードマンたちは、各々の携えた武器、剣、槍、斧をそれぞれに構え、襲い掛かってくる騎士たちを迎え撃つ。


 どちらが勝つだろう? 私は、どちらに勝ってほしいのだろう?

 一方は所属不明の人間の騎士たち。対するもう一方は魔王レティシアの配下と思しきリザードマンたち。

 どちらにしても、私の敵だ。

 共倒れが理想かな。



 互いの武器が交錯する。人間の騎士たちの武装は全てが画一的だ。盾で防ぎ、剣で斬る。それに対して、リザードマンたちは、斧の近距離、剣の中距離、槍の遠距離と役割分担して戦っていた。なかなかにバランスの良い戦い方だ。ただ、騎士たちだって連携の巧みさなら負けてはいない。騎士たちの連携は、全員が同じような性能を持っているからこそ出来る規格化された戦い方。対するリザードマンたちの戦い方は、それぞれが長所と短所を持ち、補い合って戦っている。雰囲気としては、騎士たちの戦い方はダンジョンに攻めてきた勇王国の騎士たちの戦い方に似ており、リザードマンたちの戦い方は人間の冒険者たちの戦い方に似ている気がした。まあ、どちらも全く同じという訳ではないけれど。

 今のところ、両者は互角のような戦いを繰り広げていた。だとすれば、このままいくと人数の差で人間側が有利だろうか。全員で戦っているリザードマンに対して、人間たちはまだ戦いに参加していない者たちが三人いる。何故、戦いに加わっていないのかは分からないが、あの人間たちが参戦してこれば、戦況は変わっていくかもしれない。

 それぞれの強さは……どうだろう?

 今まで私は魔力や気配、もしくはステータスで強さを測っていたから、視界だけの情報ではいまいちわからない。でもまあ、双方ともに弱いということは無いだろう。その戦いっぷりは素人の私が見ても、十分に強い事を実感できる。ただ、それがどの程度の強さなのかわからないだけで。

 黒牙なら、倒せるかな? 今の黒牙で、あそこにいる者たちを相手にしたら、全てを敵に回しても勝つことは出来るだろうか? もしくは、あのどちらかの勢力だけを相手にしたら、どうだろう? 或いは私の後押しがあれば、DPブーストで強化された黒牙なら、勝てる?

 まあ、勝てるにしても、それを実行するのは悪手だろう。どちらの勢力もあそこにいるだけが戦力の全てとは限らない。もしもあそこに手を出して、後から後からワラワラと敵が湧いてきたら、考えただけで嫌になる。

 なんて。そもそもここからでは黒牙に指示が出せないのだから、そんなことを考えた所で意味など無い。ちょっとやきもきするな、この状況。


 そうこう考えている間に、残っていた人間側の騎士たちが戦いに加勢してきた。これはいよいよ、リザードマン側が厳しくないか?

 人間の騎士には嫌な思い出が多すぎて、なんとなく心象的にリザードマンを応援してしまっている自分がいた。負けそうだというのなら猶更だ。いや、一番良い結末が共倒れという部分は変わっていないんだけどね。

 あっという間に六対三だ。しかも、先ほどから人間側はうまく戦いを操って、リザードマンたちの連携を切り離そうとしている。そのせいで今は一体のリザードマンに対して、常に二人の騎士たちが仕掛けている状態だ。これはリザードマンたちの敗北か。私がそう思った次の瞬間、リザードマンたちの動きが明らかに変わった。


 全てのリザードマンたちは、先ほどまでの動きが何だったのかというくらい速く、力強い動きで騎士たちを圧倒し始めたのだ。騎士たちが追いつけぬほどの速さで動き、二人の騎士たちを容易く凌駕する力で攻撃する。

 あの変わりようは恐らく、身体に魔力を巡らせることで身体能力を強化するスキル『身体強化』を発動したのだろう。今の私にはあの場の魔力を感じることは出来ないが、それでもあの動きの変化は、配下たちが『身体強化』のスキルを発動した際の動きの変化と似ている。ただ、戦い方を見ていると、それだけでは無いようにも思えてきた。同時に何かもっと別のスキルも使っているような気がする。そうでなければ、あそこまで騎士たちを圧倒出来るとは思えない。

 先ほどまでとは段違いの威力により、あっという間に騎士たちへ重傷を負わせていくリザードマンたち。そこで不利を悟った騎士たちは、すぐさま防戦へと動きを変え、そのままその場から撤退していく。どうやら騎士たちも多少は余力を残していたようだ。リザードマンたちの動きを牽制しつつも、迅速にその場から逃げ出していった。素晴らしい手際の良さだ。あれは恐らく、最初から撤退という可能性も考慮に入れていたのだろう。

 結局、人間の騎士たちは多少の深手を負ったようだが、誰一人欠けることなく逃げ延びることに成功したようだ。逃げていく騎士たちの姿は、暫く黒牙の視界に映っていたが、それも程なくして瓦礫の山に紛れて消えた。

 一方でリザードマンたちの方も多少の傷は受けたようだが、それは動くのに支障をきたすほどでは無いようだ。その場でポーションらしき薬を飲み干すと、逃げた騎士たちを追うことなく、そのまま何処かへ歩き去った。


 結局、どちらも生き残ってしまったな。

 まあ、ここで僅かな敵が減ったところで、大した意味は無いのだ。それよりも今は、ここで起こっていた戦いが、私にどんな影響を齎すのかを考えることの方が重要だ。黒牙の視界を通して見た戦いは、恐らくこの地ではよくある小競り合いの一つ。しかし、病魔の森の外の情勢を全く知らない私にとっては、それも重要な情報になりうる。

 私がここで見た光景と、私の『記憶』にある情報。この二つを重ね合わせて、外で何が起きているのかを考えるのだ。



 人間の騎士たちとリザードマンたちの戦いを観戦し終わった黒牙は、双方がその視界から消えると程なくして、そっとその場を後にした。















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