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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
第四章 迷宮再始動の章

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112.病魔の森の外へ

あらすじ


『読心』を使い続けたことで、私は『感覚共有』というスキルを習得し、配下たちの視界を通して念願だった生の視覚情報を得るに至った。私は喜び、森やダンジョン内を次々に見て回る。さらに配下たちの協力の下で、私は『感覚共有』の実験を始めた。その結果、『感覚共有』は一度でも発動させてしまえば、どれだけ距離が離れても視界の共有は持続されることを知る。

そこで私は黒牙を使い、勇王国の跡地を偵察することにした。命令を使い、久方ぶりに呼び戻した黒牙から、私は何処か冷たい印象を受ける。しかし、それ以上の何かがあったという訳でもない。

私はそこに言いようのない何かを感じつつも、これから行ってもらう任務や『感覚共有』のことを説明し、視界を繋げた後、森の外へ黒牙を送り出した。




『感覚共有』により視界を共有した黒牙が、ダンジョンから旅立っていく。

 私は『並列思考』を使い、ダンジョンの運営、配下たちへ指示と報告の確認、地脈からの情報収集、得られた情報の選別と整理などといった複数の作業をそれぞれの副思考で同時並行的に進めながら、主思考にて黒牙の視界を確認し続けている。

 黒牙は現在、病魔の森の中に開かれた道をひた走っている。左右には太い木々と深い藪が生い茂っており、秘境とでも呼ぶべき光景が広がっていた。だが、そんな中で黒牙が今、走っている場所だけは違う。地面はただ土を踏み固めただけという単純なものだが、それでも大自然の中にそこだけ人の手が入った確かな道が通っている。まず間違いなくこれが、勇王国の者たちが開いた道だろう。黒牙の視界で見ているからか、かなり道が広く感じる。

 魔鼠たちによるトレントの種植えは今も定期的に行っているが、あれは病魔の森の入り口から少しずつ行っているので、まだこの辺りには及んでいない。さっさとこの忌々しい道を全て消してしまいたいと思いつつも、現状では少し助かってる。高レベルの『森歩き』スキルを持つ黒牙にとって、鬱蒼とした植物が密集する森の中であっても、平坦な道を走るのとたいして違いは無いのだろうけれど、その視界を共有している私にとっては大分違う。

 スキルを検証する段階で、私は一度、猪丸の視界を借りて、森の中を走ってもらったことがある。その時、猪丸は障害物の多い森の中をものすごい速度で走った。私は揺れ動く視界のあまりの速さに、酔いのようなものを感じてしまったのだ。まあ、人間だった頃のように三半規管がある訳じゃないので、乗り物酔いとかそういう類いの酔いでは無いだろう。恐らく、これは慣れない視界情報の処理が追い付かず、何かしらの不具合が起きてしまったのだと思われる。或いは、人間だった頃の感覚が酔いを再現してしまったのか。

『精神的苦痛耐性』が作用しているのか、我慢できないという程では無いのだが、それでも出来ればあまり揺れ動く視界は見ていたくない。それが、猪丸以上の速度で動く、黒牙の視界であるならば、尚更に。

 それにしても黒牙は本当に速い。私では『加速思考』を常時発動した状態で、ようやく黒牙の視界がどのように移り変わっているのを確認できるほどだ。きっと副思考では、今見えている情景を理解することすらできないだろう。命令を使って、速度を落とすように伝えるべきか? いや、黒牙がこれ程の速度で走っているのは、慣れたこの病魔の森の中だからだ。病魔の森の外に出てしまえば、さすがに常時、この速度で走ることは無いだろう。それに黒牙だって、この任務の意図は理解しているはず。重要な部分では、しっかりと止まってくれるだろう。それに、もしかしたら、私がこの視界に慣れてくる可能性もある。ならば、移動中くらいはこのままでも問題ないか。


 黒牙が病魔の森の道を進む間、幾度か黒牙に襲い掛かってくる魔物たちがいた。恐らく偶発的に遭遇したのか、もしくは道の近くに住処を持つ魔物たちだろう。大抵はDランクの魔物が複数。中にはCランクの魔物もいたように思う。しかし、黒牙はその全てを一瞬で片付けていた。さすがはBランクにまで至った黒牙だ。この森の中で黒牙とまともな戦いになるような魔物は、もはや数匹程だろう。

 それにしても何故、魔物たちは黒牙に挑もうとするのだろうか? 黒牙の体格は確かに他の魔物たちと比べれば小さいが、気配にしろ、魔力にしろ、その強さは魔物なら感じ取ることが出来ると思うのだが。魔物が持つ闘争本能が関係している? ありえなくは無いと思うけど。或いは、黒牙がわざわざ強さを隠して移動しているのか? うーん、視界だけの共有だと、黒牙の気配や魔力を感じ取ることは出来ないので、今の黒牙がどういう状態なのか分からない。襲ってくる魔物の強さも、魔物図鑑との称号で大よそのランクを知ることしか出来ないし、こういう部分はやはり、まだちょっと不便かな。



 黒牙がダンジョンを発ってから半日ほど走り続けた所で、道に少しずつ木の芽が見え始めてきた。魔鼠たちから聞き取った情報によると、あの種は確か十日ほどで芽が出ていたはず。だとすると、トレントの種を植えている魔鼠たちから聞いた進捗から考えて、そろそろ道の中間を越えたのか。さすがはBランクに達した黒牙の速度だ。踏み固められた道を通っているということを抜きにしても、以前ならここまで来るのに三、四日はかかっていたはずだ。

 そこからは進むたびに道へ生えた木の芽が、少しずつ成長していく。木の芽はあっという間に細い枝へと変わり、細い枝は若木へと変わっていった。

 情報としては理解していたが、実際に視覚で確認してみるとまた違った驚きがある。最も成長が遅いというトレントの種ですら、この成長速度だ。最初に植えたエルダートレントは、一体どれほど成長していることだろう?

 ただ、若木となった今でもまだ、トレントとして動き出している様子はない。それとも、黒牙が木々を傷つけないように進んでいるからだろうか? 配下たちの話からして、トレントたちは基本的に、あまり好戦的という訳ではないという話だし。

 やはり、情報として知っていることでも、自分で確認すると新たな発見がある。これからも、どんどん配下たちの視界を借りて、様々な物を視界に納めていくとしよう。


 それからさらに暫く走り続けると、ついに遠方でトレントの成木が見えた。あれは最初の頃に植えたエルダートレントか。他の種はまだ細い枝のような木なのに、その三本だけがすでに貫禄ある立派な木へと成長している。醸し出される貫禄は、まるで数十年の樹齢を持つ木のようだ。まあ尤も、周りに生えている大樹と比べれば、まだまだ年若い木々に思えてしまうけれど。

 黒牙は見えてきた三本の木々を迂回して、病魔の森の外に出た。黒牙には事前に植えられたトレントを倒さないように伝えてある。そんな黒牙が、わざわざその場所を避けたということは、そのトレントたちがすでに、黒牙を襲ってくる可能性があるということだろう。

 黒牙の視界に映っていた三本のトレントは、確かに道の先を覆い隠している。こちらから、森の外が見えないということは、森の外からも道が見えないということだ。つまり、私の目論見は成功していると考えてよいだろう。これで、道を知らない人間が、外から道を発見する可能性は下がったはずだ。

 実際にそれを確認して、私はちょっとだけ、安心した。



 木々の間を抜けると、黒牙の視界が一気に広がる。森を抜けた先にあったのは、広々とした草原だった。ちらほらと木の生えている場所もあるけれど、森の中で見た木々と比べるとその大きさは圧倒的に小さい。森の中の木々が数百年以上の樹齢を感じさせる大樹だとすれば、草原に生えている木は未だ樹齢十数年程度の若木だ。単純な樹齢による違いなのか、それとも森の中が木々の生育に適した環境だったのか、それとも他に何か原因があるのだろうか?

 私が考えていると、黒牙の視界が横へと移動した。そうして丁度、三本のトレントが植わっている辺りの先を映し出す。そこには木々で建てられた廃墟の家々が並んでいた。元は木材で作られた防壁にでも囲まれていたのだろうが、それらは完全に破壊されており、廃墟の家々を外部へと晒している。

 ふむ。聞いていた情報からして、あれが冒険者たちの拠点としていた病魔の森に接するという集落なのだろう。かなり凶悪な力で、破壊されているようだ。この一年ほどで自然に浸食され始めているようだが、その壊れ方から当時は酷い惨状だったであろうことが伺える。きっと、魔王レティシアが病魔の森にやってくる途中で、行き掛けの駄賃として破壊していったのだろう。さもありなん、あの魔王が相手なのだ。ただ通り抜けただけであっても、ああなることは想像に難くない。

 一応、黒牙には事前にあの集落は避けて通るよう伝えていた。万が一、人間が残っていた場合、黒牙の姿を見られるのは避けたかったからだ。ただ、あの廃墟っぷりを見る限り、生き残りはまず、いないだろう。だったら、ちょっとくらい確認しに行っても良かったかもしれない。

 今からでも黒牙に伝える術があればいいんだが、もはや黒牙は私の支配領域から出てしまっており、たとえ命令を使っても私の意思は黒牙に届かないだろう。

 まあ、あれは今回の任務の主目的ではない。どうしても気になるというのであれば、また後日、別の配下を向かわせればよいだろう。どうせ、この辺りはまだ、病魔の森のすぐ近く。危険も少ないはずだ。

 黒牙は数瞬で廃村をその視界から外すと、草原の中を走り出した。一先ずの目的地は、先ほど遠方に小さく見えていた建物だろうか?



 この任務において、私が黒牙に伝えた一番の目的は、勇王国の現状を確認することだ。特に、出来るなら王都を確認してきてもらいたい。しかし、私は勇王国の王都が何処にあるのかも、どういう形の場所なのかも、何一つ分かっていなかった。その為、黒牙にはまずそこを見つけることから始めてもらうことになっている。

 私がこの世界で接してきた限り、魔物というのはランクが上がる程に、賢く成長していく。黒牙は魔鼠とはいえ、Bランクの魔物だ。その賢さは私とさして変わらない。いや、場合によっては私より賢い所さえあるだろう。きっと、頭を使ってこの難題を解決してくれるはずだ。私はそう信じてる。

 それに、私だってただ黒牙に任務を丸投げした訳では無い。そのために必要となるであろう私の記憶にある情報と、私が想像する王都の風景は、予め黒牙へ『伝心』で全て伝えておいた。これらが何処までこの任務の役に立つかは分からない。しかし、これ以上はもう、全て黒牙に任せるしかないだろう。

 あとは黒牙次第だ。


 私は『感覚共有』のスキルにより、黒牙と繋がっている絆から送られてくる視覚情報の処理を、『並列思考』により分けた副思考の一つへと任せ、別の作業へと戻っていった。










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