101.配下の育成
あらすじ
勇王国が戦力の大半を病魔の森へ差し向けたことを知った魔王レティシアは、魔王レティシアは直属の配下である十二貴族を招集し、予てから計画していた勇王国への強襲作戦の決行を宣言する。
勇王国は魔王レティシアとその配下たちによる強襲を受け、神降ろしを行使し、勇王国国王の肉体を借りた勇神が降臨。魔王レティシアと壮絶な戦いが始まった。
しかし、戦いの結末は魔王レティシアの勝利。その後、魔王レティシアは王城の深部にて、勇神の核を発見。その本質がレティシアと同じ魔王であることを確認したのだった。
私がダンジョンコアとしてこの異世界に転生してから、どれだけの時間がたったことだろう。なんて、詩的な表現をしてみたが、『記憶』のスキルが順調に育っている私には、それを思い出す事など容易なことだ。
まだ、外界と繋がる前からスタンピートと鼠の王国の崩壊を経験し、ダンジョンが外界と繋がってからも凶悪なゴブリンロードの襲撃、見習い勇者の襲撃、二度目のスタンピート、Aランク冒険者の襲撃、勇王国の争い。そして、魔王レティシアの襲来、と。
思えば様々な困難の中を、必死に何とか生き延びてきた。ダンジョンコアという逃げる事の出来ない身体で、配下や同盟者といった多くの命を犠牲にしながら。
特に今回は本当に恐ろしかった。魔王レティシアの襲来。その結果、あまりにも強い敵意を間近で受け続けたことで、いつの間にか私は『敵意感知』なんてスキルを習得していた。それも『記憶』を辿ることで、ようやくスキル習得のメッセージが表示されていたことに気が付いたほどである。
そんな絶望を経験しつつも、何とか私は生き延び、そうして今、束の間の平穏がまたやってきたのだけれど、次の魔王襲来の時は刻一刻と近づいている。
百年もの猶予があるとはいえ、無駄に時間を消費するのも馬鹿馬鹿しい。精神的な疲れも暫く休むことで癒えてきたことだし、そろそろ本格的に動き出そうと思う。
それは、私のステータスに記された年齢が一つ動いた日。この世界に転生してから丁度、十七年が過ぎた日の事だった。
私は今まで幾度もの危機を乗り越えてきたが、その度に甚大な被害を受けてきている。それは全てがギリギリの中で生き残る道を選択してきたせいだった。危機に瀕して、必死で強さを求め、それらを使い潰すようにして生き残る。
結果的に私は今も生き続けることが出来ているけれど、一つでも何かを間違えれば、あっさりと死んでいたかもしれない状況は幾度もあった。このままではいつか、私は追い詰められて死を迎えるだろう。この世界は私が前生を送った世界より、遥かに危険な世界なようだから。
だからこそ、今回はまずしっかりと準備をして、現状で目指せる最も盤石な体制を目指そうと思う。幸いなことに、その為に必要な時間もDPも、環境も揃っている。
目指すは何が襲って来ようとも、焦ることなく対処可能な強さを得ること。
私はまず、集めた情報の整理や地脈での新たな情報の収集を『並列思考』のスキルで分けた副思考に割り振ると、主思考で今後の動きについて考え始めた。
ダンジョンコアという特殊な種族に転生した私が強さを求めるならば、やはりDPを稼ぐことは欠かせない。ダンジョンとして成長するにしても、強い戦力を求めるとしても、大量のDPは必須だ。そこでまずはDPを稼ぐ手段を考える必要がある訳だが、現状でDPを稼ぐ手段は、大きく分けて三つ。
一つ目は定期的に地脈から得ること。
二つ目はアイテムや魔物の亡骸等を吸収すること。
三つめはダンジョンで戦う冒険者たちから回収すること。
一つ目の方法は、一日に一度、地脈から流れ込んでくる力をDPに変換する方法だが、これは私の意思とは関係なく行われており、回収できるDPもそう多く無い。ダンジョンの階層を増やしたり、『地脈親和性』というスキルのスキルレベルを上げれば、回収できるDPも増えていくが、即効性が無い為、今の状況には不向きだろう。
それもあって、以前は二つ目の方法であるアイテムや魔物の亡骸等を吸収することで何とかDPを賄っていたが、最近は三つ目の方法を使い、ひっきりなしにやってくる冒険者たちと複製体を戦わせることで増えるDPを当てにしていた。ダンジョンも冒険者たちからDPを回収しやすい形に変え、何だかんだで上手くやって来ていたように思う。
けれど、勇王国が滅んでからは、そんな冒険者たちが全くやってこなくなってしまった。勇王国が滅んだからと言って、人間が滅んだ訳では無いのだから、何れはまた他の国から冒険者たちがやってくるかと思ったのだが、今のところ、そんな様子も無い。
お蔭で冒険者たちに命を狙われる心配は無くなったけれど、冒険者たちを当てにしたDPの回収は出来なくなってしまった。
この状況がこれからもずっと続くようであれば、主力となるDPの回収方法は、またアイテムや魔物の亡骸等を吸収する方式に戻していかなければいけないだろう。
いや、アイテムは吸収しても一律で一DPにしかならないので、本格的に頼るのはもう一つの方だろう。そう、魔物の亡骸を吸収することだ。特に強い力を持つ魔物の亡骸ほど、高いDPに変換することが出来る。
だから、DP回収の為にも病魔の森で強い力を持った魔物を狩ってくる必要があるのだが……しかし、そこに今、ちょっとした問題が発生していた。
こういった作業は今まで、基本的に私の一番の配下にして切り札たるBランクの魔鼠、フィアーナイトラットの黒牙に頼むことが多かったのだけど、今はちょっとそれが出来ない状況にある。
私と共に幾度もの死地を越えてきた黒牙だったが、どうも先日、魔王レティシアにやられて以来、そんな黒牙の様子がおかしいのだ。具体的に何処が、と聞かれると、はっきりと答えることは出来ないのだけれど、何だか妙に話しかけにくい雰囲気を纏っている。
そうしてついに数日前、黒牙は自ら強く申し出てくると修行の為に出掛けて行ってしまった。さすがに病魔の森から出てはいないようだけど、あの様子だと暫くは帰って来そうにない。
私としても黒牙にはこれまで色々と無理を言ってきた手前、初めて黒牙側から強く意志を示してきたことを無下にするということもできなかった。そんなわけで現在、黒牙はダンジョンにいないのだ。
まあ、私の支配領域内にいるのなら、黒牙と繋がる絆を通じて、ダンジョンコアの機能の一つである命令を行使すれば、黒牙を強制的に動かすことは出来るだろう。しかし、現状はそこまで緊急の事態というわけでも無い。黒牙に命令を行使するのは、あくまで最後の手段だ。
一応、私のダンジョンにはまだ他にも魔物がいる。ただ、複製体の魔物たちは配置したダンジョンの階層から出ることは出来ないし、守護者として配置した魔物たちは次の階層へ続く階段のある部屋から出ることすら出来ない。
それらを除外したら残るのは、ゴブリン、ゴブリンシャーマン、ケーブラットといった魔物たち。けれど、彼らでは弱すぎて病魔の森で生き残るだけでも精一杯だろう。
そんなわけで現状、私には自由に動かせる丁度良い強さの手駒がいないのだ。病魔の森での狩りを任すのに、圧倒的な強さが必要というわけでは無いけれど、最低でも病魔の森で生き残れるくらいの強さは必須である。
大体、これからやることが定まってきた。DPを増やすためにもまず、病魔の森を自由に動き回れるくらいの強さを持った魔物を召喚することから始めていこう。
現状、私の所持するDPは、ガルセコルトの亡骸を中の魔石ごと吸収したおかげで、百万DPほど貯まっている。これを使って、魔物を召喚しよう。
さて、魔物の召喚はダンジョンコアが持つ機能の一つである魔物図鑑を使用して行うのだが、今の魔物図鑑は以前と違い、地脈と接続することでダンジョン周辺に生息する魔物が殆ど表示されている。つまり、選択肢は膨大にある訳だ。
そこで召喚する魔物を選ぶ為にまずは、大まかな方針を決定していく。召喚する魔物に何を望み、どのように使うのか。
以前、私は大量のゴブリンソルジャーとゴブリンリーダーを召喚し、五体で一つのグループを組ませて、病魔の森の探索に向かわせていた。あれはあれで、様々な状況に対応できる優秀な魔物たちだったが、今回、私が配下に望むのは数と万能では無い。
今回のことで、私もいい加減に気が付いたのだ。この世界において、最終的に重要となるのは、やはり圧倒的な個の力なのだ、と。
私が今回の召喚で望むのは、切り札たる黒牙と並ぶような、むしろその力を越える程の圧倒的な個の力。それこそが、この世界において重要な戦局を左右する。
黒牙然り、ガルセコルト然り。そして、魔王レティシア然り。
だからこそ、今回は個の力というものを重視しようと思う。目指すは複数で協力して動くのでは無く、単体で病魔の森を自由に歩ける配下。
とはいえ、運用方法を考えると意思疎通に問題があっても困る。それに自由に動けなければ意味が無い。その辺りを含めて考えると、判断基準も自ずと定まってくる。
まず、残りDPから考えても、ランクはCランク辺りが妥当だろうか。
狩場となる病魔の森にいる魔物たちの最高ランクはBランクだが、殆どの魔物はEランクやDランクが精々だ。Cランクの魔物であれば、数少ないBランクの魔物の縄張りに入らない限り、単独でも十分に生き残れる。
次は種族だが、これまでから順当に考えると、ゴブリンの上位種であるゴブリンナイトやゴブリンウィザード辺り。それか、直近で言うと魔狼の上位種であるホーンウルフも順当と言えば順当。ちなみに、新たなご近所さんとなった魔鹿たちの場合だと、ビッグホーンディアーがCランク。ただ、こちらはあまり強い所を想像出来ない。いや、ご近所さんの群れが、魔物にしては戦いを好まない集団だからなのかもしれないけれど。
この辺りが妥当な線だ。
しかし、今回は集団としての強さでは無く、個としての強さを目指す。だから、今までとは違う選択肢を探していくことにする。
他で病魔の森に生息する魔物たちというと、魔蟲系統は以前、召喚してみたが意思疎通しにくい印象だったし、植物系統は自由に動くという部分が難しい個体ばかり。
そうそう、不死系統というのもいたが、あれはあれで少し別のところに問題があるので今はちょっと保留。
勿論、今上げたのは種族全体を大雑把に現した特徴というだけで、個々で確認していけばそんな欠点を克服した個体や、帳消しにするような有用な個体もいるだろう。しかし、今はとりあえず最初の一歩ということで、鉄板な種族を選びたい。
とると、やはり魔獣系統が一番か。
魔物図鑑に記録されたCランクの魔獣系統というと、魔鼠、魔狼、魔鹿、魔熊、魔猪辺りが最初に思い浮かぶ。
それぞれの種族名と召喚に必要とするDPは、魔鼠がアサシンラットで九十万DP。
魔狼がホーンウルフで七十万DP。
魔鹿がビッグホーンディアーで三十万DP。
魔熊がストロングベアで六十万DP。
魔猪がジェットボアで五十万DPとなっている。
ちなみに経験上、DPの消費が多い個体ほど、強い種族であることが多い。ただ、その強さはあくまで私が『気配察知』や『魔力感知』で感じ取れる類いの強さであって、その中でも一長一短は存在するし、個体の特徴や戦う環境、レベル、スキルによっては勝敗がひっくり返る可能性も十分にある。
実際、進化前の黒牙の種族でもあるアサシンラットは、この中で一番の強さを持っているけれど、正面からの戦いだとその本領を十全に発揮できなかった。レベルやスキル、それから私との絆が無ければ、ホーンウルフとの戦いも違った結果になっていたかもしれない。
それを踏まえた上で、この中から選んでいくわけだ。
本当は全部召喚したいところだけど、残りDPからしてそれはさすがに無理。けれど、一体だけだと、その魔物が何かしらの理由があって帰ってこなくなった場合、面倒なことになるから、出来れば複数体は召喚したいところ。
その辺りも含めて、どの魔物が良いか考えてみよう。




