幕間.孤高の炎剣イグニス6
イグニスのパーティーは見事、火竜の討伐という偉業を成し遂げた。
しかし、その代償はあまりにも大きい。仲間全ての命。それがイグニスの払った代償だ。
しかも、仲間たちはイグニスを守るために、犠牲となった。その事実は、イグニスの心に致命的な傷を残した。
それから先の事を、イグニスはあまり覚えていない。
イグニスは火竜の討伐を成功させた冒険者として、火竜に怯えていた人たちから深く感謝され、またその功績からAランク冒険者への昇格を果たした。Sランクという特殊な称号を除けば、誰もがうらやむ、冒険者としての最高峰であるAランク冒険者。
かつては、イグニスもそこを目指していた。しかし、仲間を失った今となっては、それも何故目指していたのか分からない。最初の頃に抱いていた思いも、仲間たちと語り合った夢も、何もかもが今はただ苦しみでしかない。
一時は、仲間たちの後を追うことも考えた。幾度も、幾度も。しかし、それは自分を守って死んでいった仲間たちの行いを踏みにじることに他ならない。そう考えなおして、その度に寸前で踏みとどまった。
そうこうしている内に、山から回収された火竜の亡骸を使って作られた武具がイグニスの元へ届けられる。
火竜の長剣、火竜の盾、火竜の軽鎧。
この三つの作成を依頼したのは、イグニスだ。そこにさしたる理由は無い。しいて言えば、冒険者としての本能だろうか。
そうして手にした武具を装備したイグニスは、その他の準備を整えると、あるダンジョンへ向けて旅立った。
名目上は、新しい武具の試し。けれど、少なくともイグニスは、別の事を考えていた。
ただただ、ダンジョンの最深部を目指して、イグニスは進む。どんな強敵が現れようと、どんな危険が待ち受けようと。どれだけ傷付こうが、どれだけ死にかけようが。真っすぐ、最深部だけを目指して。
その意味するところは、遠回りな自害。自ら死ぬわけにはいかない。ならばせめて、冒険者として無謀を犯した結果、死ぬ。それならば、言い訳としては十分だろう。
しかし、それを言い訳とするならば、絶対に生きることを諦めてはいけない。最後の最後まで生き続けることを考えなければ、言い訳も無意味なものとなる。
幸運なことか、不幸なことか。イグニスの無謀な挑戦は、結果的に成功してしまった。
それは、火竜の武具の性能が優秀だった故か。
それとも、火の属性が強いダンジョンと相性が良かった故か。
はたまた、火竜を倒したことでイグニスが、強くなってしまった故か。
きっと全てが、うまく嵌った結果だろう。イグニスは最深部にて、ダンジョンコアを破壊した。そうして手に入ったユニークスキルは、『再生』。それは、自らを生かすためのスキル。そのスキルの効果を知った時、イグニスはそれが仲間たちの意思であるように感じた。
仲間たちが、イグニスに生きろと言っているように感じたのだ。
それからイグニスは、何処のパーティーにも所属することなく、単独での冒険者を続けている。もう、イグニスに自死を望む心は無い。しかし今更、別の誰かとパーティーを組む気にはなれず、されど死んでいった仲間たちとの繋がりである冒険者は続けたい。
そこで、イグニスは一人で受けても無理のない範囲の依頼だけを受けつつ、かつて仲間たちと行ったように、各地を渡り歩きながら冒険者を続けることにした。
何かを目指すわけでも無く、一攫千金を目指すわけでも無い。
程よく冒険を行い、程よくその過程を楽しむ。
仲間たちと出来なかったことを、仲間たちと旅するように。
それが、Aランク冒険者、孤高の炎剣イグニスという冒険者の生き方となった。
閑話休題。
イグニスの片腕は、未だ完治した訳では無い。
勇王国の援助により多少回復は早まったが、その後の苦境を考えれば足し引きでトントンだろう。つまり、イグニスはまだ本調子とは言えない状態なのだ。
しかし、そこは腐ってもAランクの冒険者。勇王国王都の跡地から逃げ出したイグニスは、かなりの月日をかけてしまったが、なんとか他国まで逃れることに成功する。そのままその国で宿を取り、当初の予定通り、腕の再生に取り掛かった。
イグニスに勇王国で起きたことを、何処かへ知らせない。
何故なら、どうせ勇王国の消滅は既にほかのルートから、知れ渡っているハズだから。それにそこで何があったのかも、ある程度の予測は立つだろう。たとえ、あそこから逃げ延びた者が皆無だったとしても。ならば、イグニスが何かをする必要は無い。
面倒事には関わらない。それが、情報を誰にも知らせなかった一番の理由だ。
特定の国に定住することなく、各地を放浪する冒険者たちにとって、何よりも大切なものは己の身だ。それ故に冒険者は、自分の領分を越えた厄介ごとに首を突っ込むことを良しとしない。それが冒険者として長く生きるコツだと、長年の経験で知っているからだ。
つまり、イグニスは至極真っ当な冒険者としての選択をしたのである。
番外編はこれで終了です。
また、執筆速度の向上を目指して、色々と書き方を試行錯誤してみた結果、なんとか投稿できそうな形にまとまったので、前回よりもさらに早いですが、八月一日から毎日二十三時に第四章の投稿を始めます。




