幕間.孤高の炎剣イグニス4
山に住み着いた火竜とイグニスたちの戦いは壮絶を極めた。
火竜の爪は鎧を容易く切り裂き、火竜の牙は盾を容易く刺し貫く。その鱗はあらゆる魔力に耐性を持ち、また生半可な攻撃は全て弾いた。息吹は全てを焼き溶かし、その余熱がジリジリとイグニスたちの体力を奪う。環境は火竜の味方をし、時間は容赦なくイグニスたちの命を削っていく。
戦力差はあまりにも大きい。その事実へ気が付くのに、イグニスたちはあまりにも遅すぎた。もはや、逃げることも出来はしない。
短期決戦だけが、イグニスたちに残されたか細くも、僅かな生存への道筋だ。
イグニスたちは決意を胸に、火竜へ向けて命を賭けた猛攻を仕掛ける。
それでも火竜に致命傷は与えられない。イグニスたちの攻撃は火竜に大した傷を与えられず、それに対して火竜の攻撃は全てが一撃必殺。そんな絶望的な状況が続く中で、それでも誰一人として諦めたりはしなかった。
そうして死と隣り合わせの戦いは暫く続き、ついに決着の時が訪れる。
閑話休題。
勇王国と魔王の戦いは壮絶を極めた。
王都は既に火の海となっていたが、未だあちこちで勇王国騎士と魔王の配下たちの戦いは繰り広げられている。何処も彼処も安全な場所など一つとしてありはしない。王宮にまで火の手が届くのは時間の問題だろう。
まるで、あの日の火竜が群れとなり、あちこちで暴れ回っているかのようだ。
いつかの死地を思い起こし、イグニスの身体に震えが走る。あの日の恐怖が、絶望が、イグニスの脳裏に思い起こされた。
だが、そんな中でも特に危険な場所があった。あの火竜よりもずっと、恐ろしい力を持った者たちの戦い。もはや、その力はイグニスの想像すら超えている。
それがあるのは、王都上空。魔王レティシアと勇王国国王の戦いだ。
魔王の強さが規格外であることは、分かっていた。だからそれがどれほど狂った力であろうとも、今更そこに驚きはない。何故なら魔王というのは人間にとって、最初からそういう存在なのだから。
だからイグニスは、むしろ勇王国国王の強さに驚いていた。勇王国国王は神々しき魔力を放ち、魔王の攻撃に対応している。
如何に一国を統べる国王とて、人間であることに変わりは無い。
故に通常、その強さは人間の限界を越えないはず。だが今、魔王と相対している勇王国国王の持つ力は、明らかにその範疇を越えていた。
人の身でありながら、人を越えた力を扱う。
そんな存在にイグニスは、少し心当たりがあった。それは噂程度の話であったが、今の状況と照らし合わせると信憑性は高い。
曰く、守護神を持つ国の王だけが使えるという力、神降ろし。
それが事実であるならば、勇王国国王は現在、勇王国の守護神である勇神をその身に降ろし、魔王レティシアと戦っている。
神の力。それならば、イグニスの想像から外れるような力でも、驚きはしない。
闇夜に無数の光が国王から放たれ、魔王の操る形を持った闇を切り裂いていく。
その力は決して、魔王の力に劣っていなかった。むしろ、魔王を圧倒している。
イグニスから見て、その戦場で優勢なのは明らかに勇王国国王であった。
もしかしたら、勝つのか?
そんな国王の姿に、イグニスが一縷の希望を抱いた次の瞬間。
魔王の周囲に六つの異なる属性の魔力が巡りだす。遠くからでも感じられるその魔力の属性は、火、水、土、風、闇、光。
六つの魔力が魔王の周囲を舞い飛び、それぞれがそれぞれの武具を模り、国王の放つ光から魔王の身を守りつつ、国王へと攻撃を仕掛ける。
勇王国王都の上空は今、魔王の操る無数の魔法と勇王国国王の放つ光によって埋め尽くされていた。その規模はもはや、王都一つを軽々と更地に出来るほど。見上げる空は一見して美しいが、あそこに一歩でも踏み込めば、即座にその肉体は消し炭すら残さず、この世から消滅することになるだろう。
それに加えて魔王は、自らも細剣を抜き放ち、国王へと接近していく。どうやら魔王は魔法だけでは無く、直接攻撃でも国王を狙うようだ。
国王も剣を持ち、それに立ち向かうが、明らかに手数が足りていない。一気に勇王国国王が劣勢に立たされた。
本来なら国王を守る役目を持つはずの勇王国の精鋭騎士、近衛騎士たちも魔王の配下たちに邪魔をされ、国王の援護へ向かえずにいる。
その状況が幾多の戦いを乗り越えてきたイグニスに、勝敗の結末を予感させた。
この国は今日、終わる、と。




