11.魔物の生態観察
あらすじ
男が魔物を召喚すると、召喚した魔物との繋がりを感じた。
どうやらその繋がりを通して、魔物へ命令を送れそうである。
男はダンジョンマップや魔物のステータス画面を確認しながら、魔物に命令を送りつつ、ダンジョン内を探る。
そうして最後に男は手伝ってくれた魔物の為に、同じ魔物をもう一匹召喚した。
〈スキルの習熟度が一定値に達しました。スキル『信仰』のレベルが1から2へ上がりました〉
初めての魔物召喚から20DP時間が経過した頃。
うろちょろと動き回っていたベビーラットたちが、突然動かなくなってしまった。寝ていると言うわけでもないようで、ステータスを確認してみた所、種族が変化していた。
これがそのステータスだ。
名前:――――
種族:ケーブラット ランク:F
年齢:0
カルマ:±0
LV:1/10
スキル:『早熟』『繁殖LV1』『夜目LV1』
称号:【――――の眷属】
どちらも同じケーブラットという種族に変化している。いや、種族やランクの変化、レベル上限の上昇、スキルの量を見るに、これは進化と呼ぶべきか。
ただオタマジャクシがカエルになっただけのようにも思うが、ここは浪漫を優先して進化としておこう。
さて、気になるところはスキルだな。
『早熟』は私の『不老』やベビーラットの『幼体』のようなレベル表記のないスキルだが、他の二つはレベル表記がある。つまり何か特別なスキルなのだろう。
次は『繁殖』。これはスキルとしてあるべきなのか? これがありなら、歩行とか呼吸とかまで必要になりそうだが。だってこれは生物の本能だろう。
それとも鼠だからか? 多産ですぐ増えるイメージはあるが、関係あるのだろうか?
まあ、いいか。
最後は『夜目』。これは単純に暗いところでもよく見えるスキルだろうな。種族名のケーブ、洞窟のイメージともあっている。
ふむ、こんなものか。
それにしても進化、するのだな。いや、期待はしていたけども。レベルやレベル上限らしきものがあったので、レベル上限に達したら進化なのかと思っていたが、そんな兆候は全く無く進化していた。
そんなものなのか、それともこれは特殊な例なのか。
レベルを上げてみれば何か分かるのだろうが、レベルを上げるって言うと基本戦闘だよな。
ここ敵、いないんだけど。
ラット達が進化してからさらに20DP時間が経った。ここでまた、変化が起きた。
わかりやすいようにステータスの一覧を見てみよう。
ケーブラットLV1
ケーブラットLV1
ベビーラットLV1
ベビーラットLV1
ベビーラットLV1
ベビーラットLV1
ベビーラットLV1
こちらで追加召喚することなく、ベビーラットが増えている。
そう、ケーブラットが子供を産んだのだ。それも一度に五匹!
ステータスは最初の二匹とほぼ変わらず、一つだけ違うところがあるとすれば称号に【――――の眷属】が無いことくらいだろうか。
私の眷属ではないということなのだろう。そのためか、最初の二匹に感じる繋がり、絆がこの五匹には感じられない。そのため、命令も出来ないようだ。
ダンジョンマップで確認したところ、新たに追加されたベビーラットたちは、黄色の点で表示されていた。恐らく召喚したものではない魔物は、部外者の扱いなのだろう。ただ、こちらに攻撃しようという意思などは無いようなので、敵でも味方でもない中立という立場を表しているのかもしれない。
まあ、危険がないのであれば別にいいだろう。
そういえば、ケーブラットの二匹のスキルも少しだけ変化があった。『繁殖』と『夜目』がLV2になっていたのだ。『夜目』はともかく、『繁殖』は一度だけだと思うのだが、意外と早く上がるのだな。
さらに20DP時間が経過。
五匹のベビーラットがケーブラットに進化した。
そして、さらに六匹のベビーラットが追加された。
ついにダンジョン内の魔物の数が十匹を越えた!
全て鼠だが……。
どうやら20DP時間というのが一つの契機となっているようだ。
二十という数字と鼠。ハツカネズミとか思い出すな。あまりよくは知らないが、二十日で成長するのだったか、二十日で子供を産むのだったか。
ここのラット達どちらでも当てはまるので、分からなくなってしまった。
まあ、どうでもいいことなのだが。
そうそう、最初の二匹のステータスを眺めていたら、名前を付けられることを発見した。
元来私は他者の名前を考えるということは苦手なのだが、ラットの子が十匹を越えた祝いと、私が直接命令を出せない彼等を統率してほしいという願いを込めて、この名前を送ろうと思う。
名前:キング
種族:ケーブラット ランク:F
年齢:0
カルマ:±0
LV:1/10
スキル:『早熟』『繁殖LV3』『夜目LV3』
称号:【――――の眷属】
名前:クイーン
種族:ケーブラット ランク:F
年齢:0
カルマ:±0
LV:1/10
スキル:『早熟』『繁殖LV3』『夜目LV3』
称号:【――――の眷属】
ちなみに、雄と雌の違いは分からなかったので、雌雄は適当だ。間違ってたらすまんと謝ろう。
ところで二匹のケーブラットに名前をつけた瞬間、二匹との絆が強くなるのを私は感じた。
名前を付けるという行為はそれなりに重要な意味を持つのかもしれない。
さらに20DP時間経過。
六匹がケーブラットに進化、そして新たに十七匹のベビーラットが産まれたようだ。
ラット達の小さな王国は順調に発展していっているようだ。
なんて考えていたら、キングとクイーンのステータスに新たなスキルと称号が追加されていた。
名前:キング
種族:ケーブラット ランク:F
年齢:0
カルマ:±0
LV:1/10
スキル:『早熟』『繁殖LV3』『夜目LV3』『統治LV1』
称号:【――――の眷属】【鼠の王】
名前:クイーン
種族:ケーブラット ランク:F
年齢:0
カルマ:±0
LV:1/10
スキル:『早熟』『繁殖LV3』『夜目LV3』『統治LV1』
称号:【――――の眷属】【鼠の后】
まさにキングとクイーンといった所だ。
名は体を表すということか、言霊とか。それとも全てのラットの祖であり、一番の年長であることが関係しているのか。
どちらにせよ、これでダンジョン内のラット達に秩序が生じてくれれば大変喜ばしい。
大分大所帯になってきたからな。
暴動でも起きた日には、動けぬどころか知覚すら無い私なぞ、簡単にかじられ壊されてしまいかねない。
勿論ラット達が私を攻撃するのかや、私がそんな簡単に壊れるものなのかなど分からぬ事が多い以上、全ては可能性の話なのだが。
さらに20DP時間経過。
ベビーラット召喚から通算で100DP時間が経過した。
この日、ケーブラットに進化した個体は十七匹。
そして産まれたベビーラットは、三十八匹。
全体の数は六十八匹。数えるだけでも一苦労だった。
前回薄々気がついていたが、どうやら眷属でないケーブラットも子供を産んでいるようだ。
鼠算式という言葉が思考を過った。
ラットなのだから強ち間違いではないだろう。つまり、これからダンジョン内の人口ならぬ鼠口の増加はさらに加速するということだ。
一応キングとクイーンには『繁殖』は行わないように命令を出したが、他はどうしようもない。
キングとクイーンを通じて命令を出せれば一番よいのだが、どうもうまくいっていない。伝え方が複雑すぎるのだろうか。
何にせよ、これからラット達はさらに増えていくのだろう。
と、そんな事を考えていたとき、一つ疑問が浮かんだ。
彼等は何を食べて生きているのだろうか?
食べなくても生きていける可能性はある。ただ、動いている以上何処かからエネルギーは得ているはずだ。最初の頃は地中に住む虫でも食べているのかなと考えていたが、この数になってくると流石に違うだろうと思えてきた。
出入り口もなく、他に生き物もいないここで、彼らはどうやって生きているのか。
それを探る過程で私は、地脈の力がDPへと変換される際に、他へも流れていることに気がついた。
気がつけたのはその可能性に思い至ったのに加え、絆を通じてキングとクイーンへ流れる力が感じられたからだ。
他にも流れていっているようだが、そちらの終着点は定かではない。キングとクイーンのように確認する術がないからだ。
だが、想像はできる。恐らくは他のラット達に流れていっているのだろう。
ラット達はこの力を受け取って生きている。
魔物が生きるために必要な力。はっ、これはもしや魔力では?
私は性懲りもなくそう考えた。
だって魔物というではないか。魔とつくくらいだから、魔力を喰らっていても不思議ではない。
もしそうならば、魔力感知をもう一度試すことが出来る。それに、今は私の周囲に沢山の生き物がいることを知っている。これは以前と違って、気配察知の特訓も出来るのでは?
そうして私の毎日の日課に、その二つの特訓が復活した。
20DP時間経過。召喚より通算120DP時間。
魔力感知と気配察知の結果はまだ出ていない。
前回の失敗を生かして、今度は心へのダメージを抑えるため、あまり気張らずに進めている。
それはともかく。
〈条件を達成したことにより、称号【鼠の楽園】が贈られました〉
新たに称号が追加された。
恐らくこの条件というのはダンジョン内のラット系魔物の数だろうか。いや、数だけだと増え方から見て、ラット系のいるダンジョンにはもれなく称号【鼠の楽園】が追加されそうだ。流石にそれはないと思うので、それ以外にも条件があるのかも知れない。
楽園、か。
今回の経過でケーブラットに進化した個体は三十六匹。産まれたベビーラットに至っては百五匹。ついにベビーラットだけで百の大台を突破した。
ダンジョンマップを覗いてみると夥しい数の黄点がマップ内を蠢いている。
まだ多少空いている部分があるとはいえ、部分部分がかなりの密度となっている。
見えてないからまだいいが、もし見えていたらこれを楽園と呼ぶのは憚られるだろう。
むしろ、地獄ではないか。
しかも、さらに増えることが確定している。
最終的にどうなるのだろうか。
私は言い知れぬ不安を感じていた。




