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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
第三章 勇王国進軍の章

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97.迫る死線

あらすじ

魔王レティシアが人間であった頃の祖国、冒険王国エルロンド。

そこは病魔という特殊な力を持つ魔王に滅ぼされた。

領域教会の送り込んだ勇者が魔王を討伐した時にはすでに手遅れ。

冒険王国に生き残ったのは、第二王女レティシアと少数の民のみ。

だが、民たちに励まされたレティシアは王国の復興を望み、領域教会の提案を受け入れて、勇者を伴侶として迎えることを決めた。

王国の名こそ変わってしまったが、復興は順調に進んでいる。

そう思っていたレティシアだったが、ほどなくして勇者たちの策略により、無実の罪を着せられて、王国から追放されてしまった。

死に瀕したレティシアは、そこで神と出会い、力を与えられ、その力を磨くことで、魔王へと至ったという。

話を聞いている内に、私の中で非常に嫌な予感が生まれた。

それは話が進むごとに、少しずつ形を確かにしていく。

勇者の興した国。そして、果たされたレティシアの復讐。


聞きたくないと願いながらも、聞かずにはいられない。

その先を。




「さて、これで我の出自については理解できたことだろう。我の復讐相手に対する知識もな。我は今回、我を追放した勇者に見事、復讐を果たすことが出来た。だが、我が復讐はまだ終わっていない。次の復讐相手は、領域教会。我にあのような提案をしておいて、我の追い出しにも加担したあ奴らは、決して許すことは出来ぬ。たとえ相手が、どれほど強大な力を有していようともな。どれだけ時間が掛かろうとも、また力を貯めて復讐の機会を狙い続ける。そう、思っていたのだがな」


「思わぬところで我は、新たな復讐の相手を見つけることが出来た」


 その視線は確実に、私へ向いていた。


「そもそも何故、冒険王国は滅びることになったのか。それが全ての始まりだったのだ。ならば、我が最も復讐すべき相手は、冒険王国を滅ぼした魔王に対してだろう。それを我がしなかったのは、あの神経質な勇者が既に魔王と繋がる全てを一掃してしまっていたからだ。我は魔鼠だからといって、全てを仇とは思わぬ。そのような考えでは、際限なく復讐の相手が増えてしまうからな。我には新たに築き上げた冒険王国を治めるという義務もあるのだ。延々と個人的な復讐にかまけている訳にもいかぬ」


「しかし、ここにきて我は、あの魔王に連なる存在を見つけた。あの魔鼠の大魔王に連なる存在をな。我に復讐相手として、これほど相応しい相手はおらんだろう?」


 いつの間にか、レティシアの醸し出す雰囲気は大きく変わっている。気が付けば、憎悪と殺意の混じり合ったレティシアのどす黒い魔力が小さな部屋を満たしていた。

 そしてその感情は、認めたくは無いけれど、私に向けれている。

 レティシアは最初から、私を殺す気だったのだ。

 では何故、黒牙を生かし、私にあんな話をしたのか。


「さて、勇者のいた世界ではこういう時、このような言い回しをするらしいな」


「これで、冥土への土産話はもう十分だろう?」


「と。お前がいた世界でも、同じだろうか」


 私の考えを察したかのようなタイミングで、レティシアはそう語る。

 そのイメージに混ざる愉悦が、私は何よりも恐ろしい。

 そこで私は、理解した。

 レティシアは私の心を弄んでいたのだ、と。

 より深く、絶望させるように。

 救いは無いと、自覚させるために。


 死の気配が、より一層近く感じられた。

 私はここで、死ぬのか?


 ――嫌だ、死にたくない


 毀れた気持ちが『伝心』に乗る。


「そうであろうな。だが、お前は我に殺され、ここで死ぬ。おまえから感じる魔力は間違いなく奴が、あの下水鼠が残したものだ。ならばこそ、おまえもまた我が祖国の仇」


 ――私は、関係無い


「そこは我も残念に思うよ。おまえという個には、我も特に怒りも憎しみも感じてはいない。むしろ、好ましく思っているくらいだ。だが、仕方がなかろう。おまえは我が仇に連なる者として、転生してしまったのだから」


 ――貴方の仇は、勇者に倒された大魔王だろう


「ああ、そうだ。我は神経質な勇者とは違い、魔鼠だからといって全てが憎いという訳では無い。だからこそ、我が狙うのはあの下水鼠の大魔王に連なる者だけ。おまえと、この魔鼠だけよ」


 そう言ってレティシアは、左手でぶら下げたままの黒牙を掲げる。


「外の森に放っている魔鼠たちも、おまえが生み出した者だな。だが、奴らからはあの下水鼠との繋がりは感じられなかった。それ故、先にも話した通り、あれらには関与せぬ。指一本すら傷つけぬと約束しよう」


 正当性なんぞありはしない復讐であろうとも、一応レティシアもそれなりのルールを持っているということか。

 だが、そのルールは私を守ってはくれなかった。

 それでは何の意味もない。

 レティシアがこのダンジョンコアの置かれたダンジョンの最深部へやってきた時点で、全ては詰んでいたのだ。


 私が生き延びられる道は、もう何処にも無いのか。

 先ほどから『加速思考』と『並列思考』をフル稼働させて考え続けているが、思考は空回りを続けるばかりで、何一つ生き延びるための道筋を思い浮かべることは出来なかった。



 事ここに至って、『加速思考』と『並列思考』という二つのスキルの弱点が浮き彫りになってくる。


『加速思考』は思考速度を速め、時間のかかる思考も一瞬のうちに終わらせることが出来るスキルだ。だからこそ、今のように時間を掛けられない状況であっても、思考をするための時間を捻出する事が出来る。

 しかしこのスキルを使っている間、私は思考を止めることが出来ない。それはつまり、思考を加速させていると、思考を休ませることが出来ないということだ。

 今のように思考が空回るならば、一度気分を落ち着けたいところだが、それをしてしまえば『加速思考』が解けて、僅かな時間もあっという間に無くなってしまう。


『並列思考』は、分けた思考により、幾つもの別の思考を同時に処理することが出来るスキルだ。これを活用すれば、さらに思考の時間を短縮し、思考の幅を広げることが出来る。

 しかし、思考をどれだけ分けたとしても、そこから生じる感情は全ての思考と繋がったまま。つまり強い感情は、全ての思考に影響を与えてしまうのだ。

 急ごうと思えば思う程、その感情が全ての思考を余計に空回りさせてしまう。


 さらに二つのスキルに共通して言えることだが、どちらも私の思考能力を基礎としている。そのため、私の思考能力以上の結果を生み出すことは出来ない。

『加速思考』でどれだけ思考速度を速めても、それで得られる結果は結局のところ、長い時間を与えられれば私でも考え付ける所まで。どれだけ時間を消費しようとも自分で思いつけない難問に対しては効果が無い。

『並列思考』も同じだ。分けた思考はどれも純然たる私自身であり、どれだけ思考の数を増やしたとしても、私自身が思いつくことの出来ない事は、どの思考も思いつくことが出来ない。

 これらのスキルはあくまで思考の補助スキルであって、思考能力を上げるスキルではないのだ。



『加速思考』も『並列思考』も優秀なスキルではある。

 使い方次第では、遥か先の未来すら予測することが出来るだろう。

 だが、私にはそれが出来ない。

 何故なら私には、それを成すための思考能力が足りていないから。


 私は天才ではない。

 ただの、凡人だ。

 どれだけ優秀なスキルを手に入れても、それを使いこなすことが出来ていない。

 分かっていたことだ。

 全部、全部、分かっていたこと。

 だから私は多くを望む事を諦めた。

 諦めて、ただ生き続ける事だけを願ったのだ。

 だというのに私は、それすら満足に果たせていない。


 足りていなかったのだ。

 努力が、力が、情報が、想いが、願いが。

 私には、足りていなかったのだ。

 一度死んで、その恐れは魂へと刻まれたはずなのに。

 何度も危ない目にあって、この世界の危険度を理解したはずなのに。

 唐突にやってくるそれに対して、私の手札はあまりにも少ない。


 どうして私はこんなにも、愚かなのだろう。


 どうして私はこんなにも、学ばないのだろう。


 どうして私はこんなにも、足りていないのだろう。


 死にたくない。生きたい。

 生き続けたい。ずっと、ずっと、永遠に――。



「時間切れだな。おまえは何も出来ぬまま、ここで我に破壊されるのだ」


 錯乱する私に対して、そう告げたレティシアは、ゆっくりと右手の細剣をダンジョンコアへと突き付ける。


 ――嫌だ、嫌だ、嫌だっ!


「さらばだ」


 たった一言。

 次の瞬間、レティシアは細剣をダンジョンコアに向けて勢いよく振り抜き








「と、行きたいところなのだが、この程度で終わってはつまらぬよな?」


 ダンジョンコアに触れる直前でその剣先を止めた。









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