94.領域教会と冒険者ギルド
ラストスパートってことで、本日から一日一話更新で行きます!
あらすじ
魔王レティシアに再度、勇王国の滅亡を確認した私は、次に領域教会と神という存在について尋ねた
魔王に匹敵する力を持つと言われる神たち。
それはかなりの数が存在しているらしい。そしてその中心にいるのが、神を生み出す存在。領域教会の総主神、聖女神リクシル。その力は魔王レティシアをも越えるという。
もう絶対に人間たちとは関わるまい。私がそんな決意を固めた時だった。レティシアが不穏なことを口にする。
領域教会とダンジョンの関係。
それは私がどうあっても人間と敵対するという、そんな運命を暗示しているようだった。
――領域教会は何故、ダンジョンの破壊を推奨しているのでしょうか?
若干の緊張と共に私が尋ねると、魔王レティシアは言葉へ苦い感情をにじませた。
「さあな、我もはっきりとは知らぬ。表向きはダンジョンが時折起こすスタンピートの危険性や、ダンジョンの魔物を生み出すという力を危険視している故と公言している。だが、それだけが理由という訳では無かろう」
「確かに人間たちにとってダンジョンは危険な場所とされているが、同時に多くの資源を生み出す宝庫という認識もある。冒険者たちや国家としては、むしろそちらの側面の方が重要だろう。これらは神の試練では得られぬ恩恵だからな」
「そもそも、ダンジョンのスタンピート然り、ダンジョンから生み出される魔物然り、昔から冒険者ギルドが管理することである程度の抑制は出来ていた。国家も国内に発生したダンジョンへの対処は、慎重に行っておったしな。それを考えれば、資源の宝庫という価値の方が遥かに高い」
「この問題はかなり深刻なものでな。そのせいでダンジョンを資源の宝庫として管理する冒険者ギルドと領域教会の間では、昔から微妙な関係が続いておる」
――微妙な関係、ですか
「冒険者ギルドはダンジョンの管理を担当するとともに、ダンジョンの恩恵を一番に受け取っているからな。特にそれが人間の領域内にあるダンジョンであれば、得られる恩恵も自然と大きくなっていく。そんな冒険者ギルドにとって、領域教会の主張は受け入れがたいものだ。だが、冒険者ギルドが領域教会を嫌厭するのは、それだけが原因という訳でもない」
「ダンジョンが危険な場所だということは、ダンジョンの管理を任されている冒険者ギルドが一番よく理解している。だからこそ、人間の領域に出現したダンジョンは、冒険者ギルドが責任をもって、しっかりと調査を行う。そうして集まった情報から、冒険者ギルドがそのダンジョンの有用性や危険度を判定するのだ」
「そこでダンジョンがあまりにも危険だと判断された場合、冒険者ギルドがそのダンジョンのある国と交渉して、ダンジョンの破壊に対し、高ランク冒険者向けに報奨金を設定する場合もある。他にも扱いにくいダンジョンであったり、有用な魔物や宝が出ないダンジョンであった場合、冒険者ギルドが自ら出資して、ダンジョンの破壊に報奨金を出すこともあった」
「そうした冒険者ギルドの審査を通過したダンジョンだけが、人間の領域に残ることが出来る。無論、一度審査を通過したダンジョンであっても、冒険者ギルドはそこへ向かう冒険者たちから情報を集め続け、何かしらの異変が起きた場合、すぐにでもダンジョンを封鎖するという徹底ぶりだ」
「だが、そうして冒険者ギルドが管理しているダンジョンに対しても、領域教会はその意見を変えぬ。それは即ち、言外に冒険者ギルドを信用していないと言っているに等しいであろう」
確かに。それでは良好な関係など、到底築けそうに無い。
むしろ、敵対していない事に驚くほどだ。
そんな私の感想を予見してか、レティシアは少し間をおいて続きを語りだした。
「そんな両者が本格的に敵対していないのには、当然理由がある。一応、先の話でも出てきたように冒険者ギルドを守護している偽神が領域教会に所属している為というのもあるが、一番の理由は実際にダンジョンを探索する冒険者たち自身が、必ずしも冒険者ギルドの主張を肯定している訳では無いということだな」
――ちょっと待ってください。貴方の話からすると、ダンジョンというのは冒険者たちにとっても有用な場所ですよね。それでもダンジョンの破壊を望む冒険者がいるのですか?
「冒険者たちにとってダンジョンの破壊、即ちダンジョンコアを壊すという行為には、大きな利点があるのだ」
「その一つは、名声の獲得。ダンジョンの破壊と簡単に言った所で、実際にそれを成すのは非常に難しい。ダンジョンというのは発見された時点で、既にそれなりの脅威として存在しているものだ。故にダンジョンの破壊には強力な魔物たちとの連戦を潜り抜ける実力と、危険な罠が張り巡らされた広大な迷路を突破する技能。時にはダンジョンに仕掛けられた謎を解くための知恵も必要となってくる。だからこそ、冒険者たちにとって、ダンジョンの破壊というのは偉大な名声となるのだ。ダンジョンの危険度によっては、魔の領域で魔王を討つのと肩を並べられる程のな」
「もう一つは、力の獲得。資格を持つ魔物がダンジョンコアを破壊すれば、その魔物は魔王へと進化することが出来る。それと同じように人間たちにも、ダンジョンコアを破壊することで得られるものがあるのだ」
「我もそう多くは知らぬ。しかし、稀に【コア破壊者】という称号を持つ冒険者が、特殊なスキルを所持していたのを見たことがある。ユニークスキルと呼ばれるこのスキルは、一つ一つが非常に強力なものでな。それを得た冒険者は確実にその力を強めることが出来る。自由を尊ぶ冒険者たちにとって、それは非常に魅力的な力だ。それこそ、危険を冒してダンジョンの最深部へ挑むほどにな」
「ちなみに、こうした情報は領域教会が冒険者たちへと積極的に広めておる。その目的は、まあ言わずともわかろう」
――領域教会側がそう言った方法で冒険者たちを焚きつけるのは分かりますが、ダンジョンを残そうとしている冒険者ギルド側が阻止するのではないですか?
「冒険者ギルドにもそう出来ぬ事情があるのだ。冒険者ギルドと冒険者の関係性というのは、なかなかに特殊でな。冒険者ギルドは冒険者の行動に対して、あまり深く口出し出来ない。言えるのは精々が冒険者の行動を補佐するという冒険者ギルドの領分を越えぬ程度の助言くらいだ」
「とはいえ、ダンジョンの件は多くの冒険者たちにとっても他人事とはならぬ。だからこそ、冒険者同士の暗黙の了解として、扱いやすいダンジョンは破壊しないと言うことになっているらしい。他にもダンジョンに関して、冒険者同士には幾つかの暗黙の了解があるという話だ」
「ただ、それでも流れ者の冒険者にはそれを守らぬ輩もあると聞く。とはいえ、冒険者というのは何よりも実力を重んじる者たちだ。そもそもダンジョンの破壊は危険と隣り合わせ。そんな冒険者たちにとって、相応の力と技能があることが必須となるダンジョンの破壊は、たとえ暗黙の了解を破ったとしても、称賛される事の方が多いらしい」
「ふふふ、不思議な話よな」
レティシアは、まるでその矛盾した冒険者の在り方を自慢するかのように話す。
領域教会の事を話す時は随分と嫌悪が滲み出ていたレティシアだが、冒険者の事を話すレティシアは何処か誇らしげだ。魔王にとってはどちらも等しく敵だと思うのだが、レティシアにとっては何か重大な違いがあるのだろう。
それにしても、ここで冒険者たちの思惑が分かったのは大きい。とりあえずレティシアの話通りならば、これからも冒険者が来た時はただ殺意全開で迎え撃つより、多少の利益を与えて帰らせた方が良さそうだ。勿論、破壊を目指す者たち以外は。
これで冒険者に関しては、ある程度の対策が考えられる。
問題は、領域教会の方だ。何か、少しでもその思惑が計れるような情報は無いだろうか。
――他に領域教会の事で何か知っていることはありますか?
「領域教会のこと、か。そうだな。あそこは基本的に聖女神リクシルの下、人間への博愛を旨として掲げておる関係上、色々と手広くやっているぞ。国家間の争いの調停から、貧民の救済、勇者や聖女の認定等々。それに異界からの勇者の召喚も領域教会が仕切っておったな」
「だからなのか、魔物についてはダンジョン以上に嫌っておる。魔物の掃討に長けた専門の騎士団である聖騎士団を組織して、定期的に人間の領域で魔物の一掃作戦を行っているほどだ。出来もせぬことを、随分とご苦労なことよ」
「まあ、我が窮地に追い込まれた際には、手を差し伸べる事さえしてくれなんだがな」
最後の言葉からは、微かにどす黒い感情が漏れていた。
恐らくそれがレティシアの領域教会に対して抱いている嫌悪の理由なのだろう。
「とはいえ、もうそれは昔の話よ。我が魔物へと転化し、魔王となった時点で、奴らとは完全な敵対関係だ。それに奴らが救わなかった故に、我は真なる神に出会い、こうして力を授かることが出来た。そういう意味では感謝すらしている」
「何れ滅ぼす時には、我自らの手で滅ぼしてやろうと思える程度にはな」
恐ろしく禍々しい魔力を放出しながら、レティシアは愉快に嗤っていた。
全然、感謝していない。
むしろ、憎悪が全開だ。
百歩譲ってそれが優しさから来る言葉だとしたら、酷い優しさだろう。
少なくとも私は、その優しさを向けられたくない。
チラリと勇者の話が出てきたことで、私は一つ思い出したことがあった。
それは私の背後、ダンジョンコアの設置された小部屋の片隅で山積みになっている冒険者たちから奪った戦利品の中の一つ。以前、私のダンジョンがまだ祠だった頃に襲ってきた見習い勇者の身につけていた武具の事だ。
――以前、勇者を名乗る人間がこのダンジョンに攻めてきました。その人間は何とか返り討ちにすることが出来たのですが、その人間が手にしていた剣が、その、何か、よく分からないのです。貴方はそれについて、何か知りませんか?
「ふむ、勇者とな。ああ、勇神の血族から新しい候補が出たのか。よくあれを返り討ちに出来たものだ。本来、勇者とは魔王の天敵のはずだが。いや、魔王では無かったからか? それで、剣、と。ふむふむ、少し気になるな」
途中からは独りでブツブツと呟きながら、レティシアは私の背後にある戦利品の山に近づいていく。そうして幾つかの戦利品を脇に退かすと、そこから一本の剣を手に取った。
それは間違いなく、あの見習い勇者が使っていた剣だ。
最初は『魔力感知』で魔法陣を調べるのに使っていた剣だったが、より分かりやすい魔法陣が刻まれた戦利品を得てからは、そちらを中心に調べていて、ずっと放置されていた。どうも強力な剣のようなので、配下に持たせようとしたこともあったのだが。
どうも扱うには厄介な条件があるようで、配下たちに剣を使いこなせるものは一匹もいなかったのだ。
だが、この剣の厄介なところは、それだけではない。
私はダンジョン機能により、ダンジョンへ持ち込まれたアイテムの説明文を知ることが出来るようになってから、改めてその剣を調べてみたのだが、その結果がかなりおかしかったのだ。
文字化けとでも言うのだろうか。意味の分からない言葉がずっと羅列されている説明文を見て、私はその剣の異様さをはっきりと自覚した。神の名以外で、そんなことは今まで無かったことだ。
不気味さを感じた私は、いっそのこと吸収してDPへと変換してしまおうと思ったりもしたのだが、本能とでも呼ぶべき感覚がそれを拒絶しているような気がして、結局はそれも止めてしまった。
だからと言って、ダンジョンの外へ捨ててしまうのも怖い。何故ならこれは、あの見習い勇者が持っていた強い力を秘めた剣だ。もし人間たちに拾われて、条件を満たした人間がそれを手にまたダンジョンへ攻めて来たら。そう考えると、安易に捨てることも出来ない。
その結果、戦利品の山の中へ深く埋められ、ずっと放置されてきたのだが。
どうせだから聞いてみようと思い、こうしてレティシアに相談したのだ。
「…………ふむ。どうやら聞いた通りのようだな」
暫くしてレティシアは手にした剣を元の場所へ戻すと、そのように呟いた。




